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Ep.55 オルカと盗賊団


オルカは盗賊団で何を見る?



 時は遡り、ジークと盗賊団が取引をする5日前、オルカが攫われた翌日の事だ。



「……ん?」


 オルカは薄暗い部屋で目を覚ました。


(ここは、どこでしょう……?)


 上体を起こし、周囲を見渡そうとする。その時、身体を縄で縛られていることに気付いた。かなり厳重に縛られており、腕と上半身は自由に動かせない状態だ。


 しかし口と足は縛られておらず、走れる状態にある何とも不思議な拘束だった。


(私は、捕まったのでしょうか……? でも、これは……)


 周囲は土を固めて作った天井と壁でできた部屋で、明かりは大きめな蝋燭一つ、机に椅子、オルカが横になっていたベッドもある。扉は無く、部屋の向こうに通路が丸見えになっている構造だ。


 拘束するつもりも閉じ込めるつもりもない状況に、オルカは困惑していた。


 そうしていると、通路からフードを被った人物が入ってきた。


「目が覚めたようだね」


 声からして、女性だというのが分かった。フードの女性は、フードを取り、顔を出した。しかし、


「顔が、見えない……」


 顔を隠す物が無くなったのにも関わらず、顔が見えなかった。


 まるで顔だけに靄がかかっているかのようにハッキリと見えず、顔を見ようとすると邪魔をされる、奇妙な感覚に襲われていた。


 オルカはこの現象に心当たりがあった。


「……認識阻害の魔術、ですか」

「お、流石に分かるみたいだね。A級魔術師にはやっぱりバレちまうか」


 男勝りな口調で喋る女は、部屋にある椅子に思いっ切り腰掛けた。


「かいつまんで説明するが、あんたは人質として捕まえさせてもらった。取引が終わるまではここで大人しくしてもらうぞ」

「は、はあ……」


 オルカは混乱することもなく、冷静に事実を受け止めた上で、気の抜けた返事をした。フードの女はオルカの態度に目を丸くした。


「……驚いたね。普通ならもっとこう、慌てたり焦ったりするもんだと思っていたが……」

「あ、いえ……。ここで慌てたりしても、状況は変わらないなと思ったら、何だか冷静になったと言いますか……」

「……ぷふ」


 オルカの答えに、フードの女はつい笑いがこみ上げてしまった。


「そうかそうか、確かにそうだな。あんた思った以上に肝が据わってるんだな! 流石商会の恋人をやってるだけある!」

「え?」

「ん?」


 オルカとフードの女は互いに顔を見合わせ、しばらく固まっていた。



 ・・・・・・



 オルカはフードの女に連れられ、広い部屋に引っ張られた。


 通路を歩いていて気付いたが、ここは地下に造られた洞窟の巨大住居だ。


 部屋数は百以上に上り、通路は上下左右、カーブや枝分かれが多い天然の要塞のような造りだ。


 かなり入り組んだ造りになっており、道順が分かって無ければ道に迷う可能性が高い。加えて、認識阻害の魔術がそこら中に仕掛けてあるため、魔術の位置も把握していないと出る事は叶わないだろう。


 その洞窟の住居の一部屋に、さっきのフードの女に加え、10人程のフードの人物達が集まっていた。大きなテーブルを囲み、テーブルの上にある蝋燭を中心に身を寄せ合っていた。


 オルカから聞いた話で、自分達の想像していた関係と違う事を知り、人質としての効力が薄いと分かり、緊急の話し合いが始まったのだ。


 オルカは少し離れた場所にある椅子に縄で固定され、大人しく座って様子を見ていた。


 フードの人物の1人が、頭を片手で押さえていた。


「何てことだ……、まさか恋人では無かったとは……」


 他のメンバーも、腕を組んだり、椅子に深く腰掛けたりして頭を悩ませている。


「どうします? 彼女?」

「どうするもこうするも、間違えたから返しますが通じる訳ないだろう」

「ですが、相手が交渉に乗ってくれるかどうか……」

「それに、我々の流儀にも反しますし……」

「このまま進めるか?」


 オルカをどうするかで議論が行われるが、中々結論が出ない。


(これはしばらくかかりそうですね……)


 そんな呑気なことを考えていると、部屋に誰かが入ってきた。


「随分と騒がしいな」



 入ってきたのは、抽象的なデザインのフルフェイスの仮面を被った、緑色のローブを羽織った長身の男だった。


 体格は華奢だが、決して弱そうには見えない風格をしており、ローブの下には大量のナイフや小袋が忍ばせてある。



「団長!!」

「もう戻ったんですか?!」


 メンバー全員が団長と呼ばれた男に近付く。


「てっきりもう数日かかるものだと」

「割とすんなり盗めたんだ。楽勝楽勝」


 マスクの下からでも分かる程喜んでおり、懐から手に一杯の貴金属の山を取り出し見せた。


「これしか無かったってのもあるがな」


 団長は成果を見せびらかしていたが、オルカはそれよりも気になる事があった。


 団長から漂う魔力の流れ、これは【存在隠蔽】という魔術の一種だ。


 【存在隠蔽】はその名の通り、あらゆる者から存在そのものを隠せる高等術式である。これ程の魔術を使いこなせるのは、魔術協会でも1人しかいない。


「……どうして、【存在隠蔽】の術式を……?」


 オルカはつい、その術式の名前を口にしてしまった。


 団長はゆっくりとオルカの方を向き、仮面越しに見つめる。


「ああ、目が覚めたのか。初めましてオルカ・ケルケ、そしてようこそ、『顔の無い盗賊団』のアジトへ」


 深々と頭を下げ、オルカに挨拶した。



 ・・・・・・



 オルカは団長にさっきとは違う部屋だが、間取りは同じ別の部屋に連れて行かれた。



 オルカはベッドに座らされ、団長は向き合うように椅子に座る。


「さて、色々聞きたいだろうけど、まずは現状を理解できているか?」

「は、はい。私はムササビさんの恋人と間違われ、ラグナ商会との身代金のための人質として捕まっている、とだけは……」

「正確に把握できているみたいだな」


 団長は少し腰を浮かせ、椅子を引っ張ってオルカに近付く。


「なら、殺されるっていう想定はしなかったのか?」


 仮面越しに圧をかけて来ているのが分かった。


 相手は犯罪組織、窃盗を繰り返す集団がまともな訳が無い。人質にならないと分かった今、オルカをどうするか予測できたものではない。最悪、殺される可能性だってある。


 それなのに冷静でいられるオルカに疑問を抱いたのだ。


 団長はジッとオルカを見つめ、返答を待つ。そして、オルカはゆっくりと口を開く。


「えっと、何て言いますか、皆さん、心底悪い人達ではありません、よね?」

「…………何だって?」


 オルカの返答に思わず聞き返してしまう。オルカはゆっくりと説明する。


「まずその、この拘束からして、酷い縛り方に抵抗があるなと感じました……。もっと余裕の無いガッチリとした締め方だってできるのにしないのは、何かしたくない理由があるからじゃないかな、と」


 その理由に、団長は少し肩を震わせる。


「……他には?」

「それと、捕まっている間に、縛る以外してないですよね……? 服も乱れてませんし、何かされた痕もないですし……」


 オルカは続けて喋る。


「あとは、これは私の感覚の話なんですが……、顔の無い盗賊団の皆さんを一目見て、全員悪い感じが無いと感じました……。悪い事はしているんですが、ただ悪い事を、悪意を持ってやってる感じじゃないと言いますか……、何か目的があるような……」


 ごにょごにょと口ごもりつつも、自分の感じた理由を伝えた。


 団長は少し呆然としていたが、


「…………くふ」


 何か張り詰めた物が無くなり、噴き出した。そして、


「ハハハハハハハハハハ!!! 噂以上の人だよオルカ! ハハハハハ!!」


 声高らかに笑い出した。


 急に笑い出したことに驚いたオルカは、目を丸くして固まっていた。それをしり目に、団長はしばらく笑っていた。




「フー……、笑った笑った。想像以上の事が起きると笑うんだなあ、俺って」


 仮面の下に手を入れて、笑い過ぎて出た涙を拭う。


「さて、目的があるんじゃないかって言ったな。それを教えてやるよ」

「え、いいんですか?」


 オルカと団長が出会ってほんの数時間、それなのにここまで心を開く様なことをしてくるのは、少しばかり警戒してしまう。


 団長は椅子から立ち上がり、


「いいさ。黙っていても見透かされそうだしな。何より、人の好さを感じたのは、俺も一緒だからな」

「???」


 オルカはよく分からないまま、団長に連れられ移動する。


 下に向かって進み、何度か曲がっていくと、一つの部屋に行き着いた。その部屋だけは扉があり、雰囲気も違った。


「入るぞ」


 団長は一声かけて、部屋の扉を開ける。


 中に入ると、そこは別空間になっていた。


 天井や壁は貴族の部屋の様な造りになっており、インテリアもそれに合わせたデザインにものが置いてある。ベッドはカーテンが付いたキングサイズの立派な物が置いてあり、一番目立っていた。


 ただ、他の物がどれも子供用サイズだという点が、オルカは気になった。


「ここは、一体……?」

「俺達が窃盗団をする理由のある部屋さ」


 そう言って団長は、カーテンのしてあるベッドに近付く。そして、カーテンをゆっくりと開け、オルカに中を見せる。


「っ!! これは……!」


 オルカはベッドに横たわる『それ』に、目を見開いて驚いた。


「団長さん、もしかしてこれは……」

「オルカには分かるか、そうだ」




「【呪術】にかかった、俺の妹だ」




 それは、あまりにも惨い、黒い液体の様に化した、1人の少女の姿だった。








お読みいただきありがとうございました。


次回は『顔を無くしたのは』

お楽しみに。


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