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Ep.51 王族のしがらみ


それぞれの道が、絡みだす



 飛行龍機に乗り込んだ一行の空気は、何とも言えない雰囲気だった。



 大きなテーブルを囲む形で、『漆黒の六枚翼』の面々の目の前にゴルニア王国の第1王子だと分かったムササビことジーク、つい先日まで敵だったケーナがいるのだから、どう接したらいいのか分からないのだ。


 飛び始めてから1時間位経つが、誰も喋らない状況だった。


 そんな空気に痺れを切らしたのは、バルアルだ。


「……どうしてケーナが?」


 まず一番最初に聞いておきたい質問だった。


 ケーナは反乱軍の戦いの後、軍に捕まっていた。それが何故ここにいるのか。


「ああ、この人が、出してくれた」


 そう言ってケーナはジークを指差した。ジークは腕を組みながら


「彼女は『善意の第三者』だ。国家反逆に関与することを知らされずに参加させられたのがバーシュムの証言で証明された。何より被害者0だったのが大きかった。後は破壊した壁の弁償をするだけだったから、私が立て替えたという訳だ」

「その流れで、ちゃんと、雇われた」


 ケーナはどこか自慢げに答えた。


「なるほど。だからか」


 バルアルはそう言ってソファにもたれかかる。


「ケーナの事は納得した。戦力が多い事には越したことはないからな」

「理解してもらえて何よりだ」

「それで、ゴルニア王国のどこに着陸するんだ? 平地はそれなりにあるのは知っているが」

「そういえば言ってなかったな。ちょっと待ってくれ」


 ジークは懐から地図を取り出し、目の前のテーブルに広げる。広げたのはゴルニア王国の詳細地図だ。


「トーパイ森林地区は国の北側、聖国と隣接した地区になっている。地区の玄関口のコルコスに降りれる平地があるから、そこに降りる予定だ」


 地図を指差しながら飛行ルートも説明する。


「このまま飛んで行けば2時間程度で着く。着き次第商会の支店の者と合流して作戦本部を立てることになっている」

「そこまでは聞いてないな。事前に説明してくれても良かったんじゃないか?」


 アージュナがジークに疑問をぶつける。ジークは難しい顔をする。


「商会の上層部の手前、そう簡単に色々と喋ると反感を買うからな。だから今になって説明するしかなかった。申し訳ない」


 ジークは頭を下げて謝罪する。アージュナはどことなく釈然としていなかったが、


「……分かった。そういうことにしておく」


 とりあえず呑み込んだ。


 会話の流れに乗って、ファンも喋り出す。


「ところで、ゴルニア王国の王子なら国に兵でも何でも出して貰えばいいんじゃないっすか? 万全の態勢で臨むならその方が良い気がするんすけど」

「確かにそうなんだが、少し問題があってな」


 ジークは難しい顔のまま腕を組む。


「王位継承権で、少々弟とごたついていてな。簡単に軍を動かせそうにないんだ」




 ・・・・・・



 

 バルアル達がゴルニア王国に向かい始めた頃


 宿泊施設の一室で、ラシファはとある人物と魔導通信機で連絡を取っていた。


「そうですか、移動を始めましたか」

『こっちもそちらに向かっているが、着くのは明日になりそうだ。もうしばらく耐えて欲しい』


 通信機からは、年老いた男性の声が聞こえる。


『しかし、私が目を離した隙にこんな事になっていたとは……、面目ない』

「貴方は何も悪くありません。気にしなくてもよろしいかと」

『そう言ってもらえるとありがたいが、どうしても気にしてしまうよ』

「その話はこの一件が終わってから話しましょう」

『それもそうだな。……ああ、そうだ。伝手からの情報だが、第2王子が動くみたいだぞ』


 ラシファは僅かに眉をひそめる。


「……今のタイミングで、ですか」

『痺れを切らしたのだろう。早く決着したいのが目に見えてきた』

「それは好都合。一網打尽にできるチャンスですよ」

『そう言える辺り、お主も中々の大物だ』

「ありがとうございます」

『そろそろ時間だ。切るぞ』

「はい。お待ちしております」


 魔導通信機が切れ、ラシファも受話器を置いた。


「誰と話しておったんじゃ?」


 ラシファの後ろから声が聞こえた。振り向くと、そこには部屋の壁にもたれかかっているスカァフがいた。


「無断で入るのは遠慮していただきたいのですが」

「お主が通話しておったから声をかけるのを遠慮したんじゃ」

「そうですか……」


 ラシファは微笑みながらスカァフと向かい合う。


「切り札の一枚が明日に届きます。もう一つはまだ時間が掛かりそうです」

「そうか。……ワシも手を貸せればいいのじゃが、如何せん関係が悪くてのお……」


 スカァフは視線を落としながら申し訳なさそうにしていた。ラシファは顎に手を添えながら


「事情は知っています。無理に動かなくても大丈夫ですよ」


 何も問題は無いと安心させる。


「……そうか」


 スカァフは短く答える。


「ただ、今後は会議に参加しない方がいいかもしれません」


 そんなスカァフにラシファは真顔で進言する。スカァフは驚いて顔を上げる。


「何故じゃ?」


 驚いてはいるが、冷静に聞く。


「……会議に第2王子が参加するそうです」

「っ!!!」


 第2王子という単語が出て来た瞬間、スカァフの表情が一気に険しくなる。


「……なるほどのお、あのクズが……。確かに参加しない方がいいかもしれんのお……」


 スカァフは拳を強く握り、掌に血管が浮き出ていた。


 ラシファは既にスカァフが冷静でない事を悟る。


「賢明な判断です。何せ貴方と第2王子とは因縁がありますから」

「……弟を嬲り殺しにしたことは今でも忘れておらん」


 強い憤りを漏らしながら、何とか暴力で出ない様抑えるので精一杯だった。一歩間違えれば、相手を殺しかねない程に。


 ラシファは窓の外を見る。外にはゴルニア王国の王城が見える。


(彼が王族であるが故にうやむやにされた事件ですが、おかげでスカァフ自身も罪に問われることはなかった。その分遺恨は残ったようですが……)


 言葉には出さないが、スカァフの心中を察する。


(いずれ果たさせるつもりではありますが、今ではない。だから今は耐えてもらう他ないか……)


 ラシファは目の前にある問題、懲罰会議の方を解決することを優先する。まずそちらを解決しなければ、できることもできなくなる。それだけは避けたい。


(『あの人』との依頼もありますから、もうひと踏ん張りしましょうか)


 そして、これがある人物の依頼と絡んでいるのだった。


 


 ・・・・・・




「王位継承権、ですか」


 飛行龍機の中で、セティがジークの王位継承権という言葉に反応する。


「確か、ゴルニア王国の国王は未だ現役だと聞いています。まだ王位継承権の話が出るには早い気がしますが……」

「そのはずなんだが、最近になって弟が王位を継承すると言い始めてな、それに同調した貴族連中もいて、ちょっとした騒ぎになっているんだ。私が国外活動をしているうちに準備を進めていたせいで余計にこじれてな」

「どうしてですか?」


 ルーの何気ない質問にもジークは答える。


「私が国外で人脈を広げている隙に、弟は国内にコネを作っていたんだ。そのコネを利用して、私を王位継承から引きずり落とそうとしているわけさ」

「どうしてそんな事を……」

「真意は分からない。だがそのせいで各所に支障が出ているのは事実。早々に何とかしたいと思っている」


 ジークの真剣な表情に、どこか悔しさと悲しさが見えた。それだけ弟の件が効いているのだろう。


 


 会話をしている間に、目的地のコルコスが見えて来た。


『皆さま、もうすぐ目的地です。着陸しますので、衝撃に備えて下さい』


 飛行龍機の騎手の声が聞こえ、ゆっくりと降下が始まった。


 

 とにかく、今はオルカの救出を最優先に動く。



 一つの目的に集中し、各々気を引き締めるのだった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『幕間:『第二の崩壊』』

お楽しみに。


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