Ep.5 オルカの装備
装備は冒険者にとって命と同等である。
オルカが『漆黒の六枚翼』の加入が決定してから2日が経った。
冒険者組合に加入したことを報告する書類を提出し、正式に加入が決定した。それから部屋の用意やギルドの方針説明、オルカは当面家事炊事洗濯をすることで決定して今に至る。
オルカは全員の洗濯をし、物干し竿に干していた。熱烈なファンがたまに下着を盗んでくるらしく、屋上で干している。
「オルカさん。あとでお時間よろしいですか?」
ラシファが後ろから声を掛けて来た。
「あ、はい……。どのようなご用件でしょうか……?」
「それは後ほど。洗濯物が終わったら私のギルドマスター室に来て下さい」
「分かりました……」
・・・・・
洗濯を終え、ギルドマスター室に入ると、机に座るラシファ、その前にアージュナとファンバーファがいた。
オルカはオドオドしながら中へ入る。
「あ、あの。どう言ったご用件でしょうか……?」
「実はオルカさんの服装と武器について何ですが、少々心もとないので新しい物を買ってみてはどうかというお話なんです」
「俺達の受ける討伐クエストは基本B級相当ばかりだからな。安い装備だと一発で致命傷だ」
クエストにもランクが存在し、冒険者はランクに合わせて受注することができる。討伐、護衛、採集など種類も多くあり、ギルドによって全てカバーしていたり専門でおこなっていたりしている。『漆黒の六枚翼』は討伐や護衛をメインとしているのだ。
「そういう訳だからさ。オルカ姉さんの装備と武器を買いに行こうって話になったんだ。お金はこっちが持つから大丈夫だよ!」
ファンバーファが笑顔で補足してくれた。
確かに今ある装備は私服の黒いローブにこっちの冒険者組合から貰ったステッキだけだ。今の装備だとF級相当の魔物の攻撃で破損するだろう。
「分かりました……。お言葉に甘えて」
「決まりですね。親しくしている防具屋さんがあるので、まずはそこから行って下さい。武器屋は杖専門の所がありまずが今からだと速すぎますので」
「俺達が案内するから心配すんな!」
アージュナが微笑みながら案内を買って出てくれる。
「俺も行きますよ! 頼んでた物受け取りに行くんで!」
ファンバーファも笑顔で申し出てくれた。
「わ、分かりました……。準備してきます……」
・・・・・
10分程度で支度を済ませ、ギルドの玄関前で2人と合流する。
「お待たせしました……」
「よし、それじゃあ行こうか」
3人は歩いて街へ向かい、30分程度で防具屋に到着した。だが、
「あ、あの、アージュナさん?」
「何だよオルカ。緊張してんのか?」
「いえ、そうではなくて……。ここって、服屋さんでは……?」
オルカ達の目の前にあるのは派手な装飾がされた服屋さんだった。ショーウィンドウに飾られているのはドレスやスーツばかりだ。
「あー……。初めて見る奴は服屋って思うよな。まあ中入れば分かるって」
アージュナに引っ張られ店内へ入る。中にもドレスやスーツが展示されている。その奥に、防具も陳列されていた。
「『カツァル』、いるか?」
奥から出て来たのは顎髭を少し生やした筋骨隆々の男だった。ワイシャツとスラックスがパツパツで、筋肉がこれでもかと盛り上がっている。
「あら~! アーちゃんじゃないの~! 今日はどうしたのかしら~」
女性よりもクネクネと動き、女性の言葉遣いで話しかけてきた。オルカはギャップのあまり呆気に取られていた。
「相変わらずだなカツァル。実は新しく入ったメンバーの防具一式を作ってもらいたいんだ」
「どれどれ……。あらあ! 女性じゃないの~! スカァフさん以来じゃな~い?」
カツァルはオルカの前に来て全身を隈なく見ていく。
「あ、あの……」
「あらごめんなさい。私はここの店長兼服飾師兼防具師をしているカツァルって言うの~! よろしくね」
挨拶代わりのウィンクをしてオルカと握手する。
「よろしくお願いします……」
「じゃあ早速採寸始めちゃっていいかしら~? 善は急げよ~!」
カツァルはオルカの背中を押して奥の採寸室へ押し込んでいく。
「え、あ、ちょっと……!?」
「終わるまで待ってるから気にしなくていいぞ」
「俺も用があるんで大丈夫っす!」
「そ、そういう事では無いんですううう……!!」
入れられた採寸室は10人位入れそうな広さで、様々な衣装が入ったクローゼットや仕事道具であるメジャーや裁縫道具が置いてある。
カツァルはオルカを振り向かせ、対面する形を取る。
「採寸を始める前にいいかしら?」
「な、何でしょうか……?」
「その格好って好きでしてるのかしら?」
さっきまでとは違い、真剣な表情でオルカに問いかけてくる。オルカは黒いローブととんがり帽子を確認しながら、
「えっと、そうですね。私、オシャレってあんまり興味なくて……」
「それはいけないわ!!」
大声でオルカをしかる。いきなりしかられたことに驚きオルカは固まってしまう。
「か、カツァルさん……?」
「いい、オルカちゃん。服は体を表すの。服の着方、扱い、色使いでその人の性格、普段の生活が分かってくるわ。それを疎かにしていたら周囲にも迷惑をかけるのよ」
「っ……」
カツァルの言葉がオルカの心に刺さる。
前にいたギルドでは研究に没頭し過ぎてボロボロの格好でうろついていた時期がある。周囲に色々と言われたが、そんな姿でも平気だと自分で勝手に思い込んでいた。それが迷惑になっているだなんて微塵も感じていなかった。
今更ながら、オルカは後悔した。
「すみません、以後気を付けます……」
俯きながら反省の意を示した。カツァルはオルカの肩に手を置いて、
「反省してこれからに活かしてくれるのが、最高の返事よ。言葉だけにしないでね」
「はい……」
カツァルは微笑んで、
「さあ! 気を取り直して採寸を始めましょうか! ついでにお化粧もしちゃいましょう!」
「わ、私に化粧だなんて……!」
「NO!! お化粧は自分を輝かせる武器の一つよ!! そういう所も疎かにしちゃダメよ~!!」
どこに閉まっていたのか、化粧道具を取り出してオルカに迫る。
「ひえええええ!!」
・・・・・
アージュナとファンバーファは待っている間、店の品を見ていた。
「なあ兄貴」
「何だファン」
「どうしてラシファさんは新しいメンバーを入れようって言いだしたんです?」
アージュナは手を止めてファンバーファの方を見る。
「あの人は運命を見ることができるからな。確か【天啓】だっけか」
「たまに夢で言葉を貰うとかいうやつですよね? 何で今回聞こえたんですかね」
「過去に四度予言で各国を救った実績があるし、近い未来オルカが必要になる出来事が起こるってことだろうな」
「マジっすか。まさかオルカ姉さんが世界を救う救世主……?」
「どうだろうな。俺はどっちでもいいけど」
ファンバーファがアージュナをジッと見る。
「な、何だよ」
「もしかして兄貴、オルカ姉さんに惚れたんすか?」
「いや、違うけど」
あっさりとした返しに少し驚く。
「違うんすか?」
「オルカの魔術がスゲーって思ったからスカウトしたんだよ。それだけだ」
笑いながら答えるその姿は、純粋そのものだった。これにはファンバーファも毒気を抜かれた。
「……そっすか」
そこへ、オルカがカツァルと一緒に戻って来た。
「お待たせ~! 防具装備一式は一から作るから2週間はかかるわ~。その代わり~」
オルカを目の前に出し、さっきとはまるで別人になった姿を見せる。
七分袖のワイシャツに胸まで保護した革製のコルセット、茶色のレディースズボンと冒険者用ブーツを履いていた。とんがり帽子はそのままで、黒の短いストールを羽織っている。
前髪で隠れていた瞳が露になり、化粧で肌が綺麗に見える様になっていた。
オルカは恥ずかしそうにモジモジしていたが、男2人は様変わりした彼女に釘付けだった。
「マジっすか。めっちゃ綺麗になってる」
ファンバーファは呆気に取られていたが、アージュナはオルカに近付いて、
「綺麗だぜ、オルカ。こういうのも似合ってるじゃん」
純粋に褒めた。ただ、イケメンの顔面が接近したせいでオルカの顔が赤くなる。
「いえ、そ、そんな事は……」
その様子を見ていたファンバーファは、
(やっぱ好きじゃん……)
心の中で呟いた。
前金を払い、オルカが着ていたローブを入れた袋を手渡された。
「それじゃあ2週間後にまた来てね~!」
「ああ、またな」
「ありがとうございました……!」
「ちょっとちょっと! 俺の注文したアレは?!」
ファンバーファが身を乗り出してカツァルに聞く。
「覚えてるわよ。はいこれ」
そう言って渡したのは蛇の金属細工が施された肩鎧だった。
「これこれ! めっちゃカッコいいから欲しかったんすよ!」
「うふふ、ファンちゃんのそういう所好きよ~」
オルカはその肩鎧を見て、
「それ、『魔術礼装』ですか……? 魔術が込められた装備の……」
「あら、分かっちゃう? でもそこから先は企業秘密よ」
カツァルはウィンクして、返事をするのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『緊急クエスト、ギルドの実力』
お楽しみに。
もし気に入って頂けたなら、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。