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Ep.48 オルカを探して


 オルカが、消えた



「ん……」


 アージュナが目を覚ますと、目の前に見知った天井が見えた。


 身体を起こして周囲を見渡す。立派なベッドの周りには、1人用の簡素な机、大量の蔵書が並んだ本棚、豪華な鏡台、天井にはシャンデリアがある。間違いなくそこは城にある自分の部屋だ。


 ボンヤリしていると、徐々に意識が鮮明になってくる。同時に、目を覚ます前の記憶も戻って来る。


「……そうだ。反乱軍は!」


 慌てて飛び起き、部屋の大きな扉を開け放つ。


「うわ!?」


 扉の脇にいた兵士が驚いて声を上げた。アージュナは部屋から飛び出し、左右を見てその兵士の両肩を掴み掛かった。


「おい! 反乱軍はどうなった?! 戦いは?!」

「お、落ち着いて下さいアージュナ様!?」


 大声を上げ、兵士を揺さぶるアージュナの後ろから咳払いをする声が聞こえた。


「アージュナ様。その兵士の言う通り、少々落ち着いてみてはいかがでしょうか」


 アージュナは後ろを振り向いて、声の主を見る。そこには、


「セバスティアン!」


 セバスティアンがいた。


 いつものように背筋を伸ばし、しっかりとした姿勢で立っている。


「反乱軍の件に関しては、女王様から説明して下さると言伝を受けております。説明の場を設けますので、少々お待ちください」


 セバスティアンの冷静かつしっかりとした説明を聞いて、アージュナはすっかり落ち着きを取り戻していた。


「……分かった」


 一言そう言って、部屋へ戻って行く。兵士は開放されてその場でへたり込んだ。


 見届けたセバスティアンは、すぐにウシェス達の下へ向かった。



 ・・・・・・



 それから数時間後



 アージュナは健康状態を確認された後、会議室に呼び出され、すぐに駆け付けた。


 会議室に入ると、ウシェス、ピールポティ、セラスベルトゥ、バルアル、ヘルウィンがいた。会議室の中央にある大きなテーブルを囲むようにして座っている。


 ウシェス達は重い空気を漂わせ、神妙な面持ちでアージュナを迎える。


「やっと起きたか! 待ちわびたぞ!」


 ウシェスはいつもの様に大声で話してくる。


「5日も起きなかったから心配だったが、医者が言うには問題無いそうだから良かった!」

「5日? 5日も寝てたのか?」


 自身が5日も寝ていたことに驚いた。本人からしてみれば、たった数時間寝て起きた様な感覚だからだ。


「……寝ている間に何があった?」


 その場にいる全員の表情からして、何かあったのは明らか。アージュナは気になって仕方なかった。


「アージュナが寝ている間に起きた事、私が説明しよう」


 ウシェスは身を乗り出して説明を始める。


 反乱軍は無事鎮圧できたこと、その直後に堕ちた林檎の襲撃を受けたこと、襲撃のせいで多くの命が奪われたこと、パナディが死んだこと、ジェブとシャー、セバスティアンが重傷を負ったこと、死した者達の葬式を済ませたことを説明された。


「そんなことが……」


 アージュナは状況を理解する。だが、それでは今の空気の説明にはならない。何故なら全ての問題はとりあえず解決しているからだ。


「……まだ、何か起きているのか?」

「………………」


 アージュナの質問に、ウシェス達は沈黙する。アージュナは更に問いただす。


「なあ、どうなんだ?」

「それは……」

「え~っと……」


 セラスベルトゥは言い淀み、ピールポティは言葉に悩んでいた。すると、


「俺から話そう」


 バルアルが手を挙げて名乗り出る。


「アージュナ、獣国の問題は一先ず落ち着いた。だがその後に」



「オルカが攫われた」




 ・・・・・・



 ファンは1人、城の応接室で項垂れていた。



 3日前にオルカがいなくなり、今日までラグナ商会と共にミンファス中を探したが、どこにも見当たらなかった。ウシェスにも頼んで、ミンファスから怪しい人物が出て行かなかったか、怪しい所に連れて行かれなかったかを調べてもらったが、見つけることができずに終わった。


 死体も見つからないことから、誘拐されたと断定し、他国にも捜索願を出す事で決まった。



 ファンは頭を抱えて歯を食いしばる。


(俺が、俺が余所見をしていなければ、こんな事には……)


 自分がちゃんと傍にいれば誘拐されることは無かった。自身の不甲斐なさにただただ憤慨し、後悔していた。


「ファン」


 声を掛けられ、ファンは顔を上げる。そこにいたのは、セティとルーだった。


「セティ、ルー……」

「アージュナ様が目を覚ました。……今後について話し合いたいから集合するように、とバルアル様が」


 ファンは再び下を向く。


「俺はいい。皆で決めてくれ」

「ファンさん。そんな事言わずに……」

「俺のせいでオルカ姉さんが攫われたんだ!!」


 ファンは大声を上げる。そして、怒りで拳を握りしめる。


「俺が、俺がちゃんと見ていれば誘拐されることは無かったんだ! 俺の責任だ! だから、今後を決める権利なんてない……!」


 今にも泣きそうな声で叫んだ。


 ファン自身、今回の件で強く責任を感じている。そこに至るまでの全ての経緯に後悔し、責任を果たそうと必死になったが実らず、自身の手ではどうにもできない状況に陥ったため、更に自己嫌悪に陥っているのだ。


 頭を抱えるファンにセティとルーは掛ける言葉が見つからず、困り果てていた。


 そこに、


「何一人で抱え込んでんだ、ファン」


 1人の男が現れた。



 それは、アージュナだ。



「アージュナ様?!」

「どうしてここに!?」


 ルーとセティが驚いているのを余所に、アージュナがファンに近付く。そして、ファンの胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせる。


「勝手に自暴自棄になって何もかも投げ出そうとしやがって、それでも『漆黒の六枚翼』の一員か!!」


 アージュナはファンを怒鳴りつけ始めた。


「うじうじ一人で悩んでないで、こういう時こそ力を合わせるべきだろうが! 違うか?!」

「兄貴……」

「自分を責めたくなる気持ちは分かる。だがそれはいつでもできる。今本当にすべきことはなんだ。言ってみろ!!」


 アージュナの言葉に、ファンは考え直す。今本当にすべきことを。


「……オルカ姉さんを、見つけ出す。それが今すべきことだ……!」


 ファンの表情が変わったのを見たアージュナは、フッと笑った。


「分かってるじゃねえか。なら今後の話し合いに行くぞ」

「うっす!!」


 アージュナとファンは前へ進み出す。セティとルーは、立ち直ったファンを見て安堵し、その後を付いていく。



 ・・・・・・



 アージュナ達は空いている部屋を一つ借りて、これからの事について話し合う。


「さて、現状手掛かりがない状況だが、いつまでもここにいても仕方ない。一旦ギルドに戻って各所からの報告を待つ事にしようと考えている」


 バルアルが自分の考えを他のメンバーに伝える。


「俺もそれでいいと思う。獣国は姉さん達が情報を集めてくれるから、それを待つしかないからな」

「ですね。父も動いてくれると言ってました」

「後は時間に身を任せるだけですね」


 アージュナ、セティ、ルーはバルアルの提案に賛成する。


「俺もそれでいいっす」


 ファンも賛成し、行動方針が固まった。バルアルは全員の同意を得れたことを確認し、


「よし、明日にでも帰還するぞ。各自準備を済ませておけ」

「「「「はい!!」」」」


 大きな声で返事をし、各自行動を始めようとする。


「ちょっと待って欲しい」


 バルアル達を呼び止めたのは、部屋の前に立つムササビだった。


「ムササビさん、どうして貴方が……?」


 アージュナの質問に、ムササビは頭を掻きながら、


「大変申し訳ないのだが、どうやらオルカさんが攫われたのは私が原因のようだ」


 申し訳なさそうな表情で、懐から一枚の手紙を出す。それをバルアルに渡す。


「これは?」

「読めば分かります」


 バルアルは手紙の中を開き、中身を確認する、


「……『ラグナ商会 ムササビ殿 

 貴方の大切な女性を誘拐させてもらった。

 返して欲しくば身代金を用意せよ。

 身代金を用意出来次第以下の連絡先に連絡せよ。その後で取引場所等を伝える。

 期限は5日。それまでに連絡がなければ放棄したとして、女を殺害し、首をお送りする。

 良い返事を期待する』」




「『顔の無い盗賊団 より』」






お読みいただきありがとうございました。


次回は『顔の無い盗賊団』

お楽しみに。


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