Ep.47 幕間『それぞれの陰で』
それぞれの向かう先は
堕ちた林檎 本拠点
堕ちた林檎の拠点は各地にあるが、本拠点はとある場所に隠されている。
本拠点は大昔の地下遺跡を改造した場所で、壁や床は石積みで造られており、年季が入ってあちこち風化している。天井からは染み出した水滴が落ちてきて、水溜りができている始末だ。
そんな本拠点にユラマガンド、サルト、そしてウルパの3人が戻っていた。
明かりが点々と点いてる長い廊下を歩いて行くと、広い空間へと行き着く。そこは円状で、中央に向かって階段がある場所だった。中央には水を溜める場所があり、直径5mもある大きな池の様な形をしていた。
その中央に、カラーがいた。
カラーは水場の縁に座り、手で水を掬ったり戻したりを繰り返していた。
ユラマガンド達はカラーの前まで降り、片膝を付いて首を垂れる。
「ただいま戻りました」
ユラマガンドの言葉で、カラーはユラマガンド達の存在にようやく気付いた。
「あら。早い帰還ですね」
純粋に微笑みながら、ユラマガンドに尋ねる。
「……申し訳ございません。アストゥム獣国の侵略作戦は、失敗に終わりました」
ユラマガンドは重々しく口を開き、失敗を報告した。
カラーは頬に手を付け、首を傾げる。
「その計画、7年もかけてなかったかしら?」
責めるような口調ではなく、優しく語り掛ける様に質問する。
「はい……」
「本当にダメだったのですか?」
「はい……」
「そう……」
ユラマガンドは言い訳をせず、ただただ一言返事をするしかなかった。非は完全にこちら側にあるからだ。
カラーは反対方向に首を傾げる。
「それはついでに出来たら良い、という程度の作戦ですから、そこまで気にしないわ」
ニコニコと微笑みながらユラマガンド達を許した。ユラマガンドは顔を上げて
「では、本命の作戦は……」
「怪人が成し遂げてくれたわ。あの宝物庫、時空間魔法すら受け付けないから、王族が開けた時を狙うしかないですから」
そう言って懐から取り出したのは、大きな赤い宝石だった。
宝石は水晶の様に丸く加工され、赤色は中心に向かう程黒くなっている。宝石の下に転がらない様に台座が付けられており、獅子を模った黒い金属製だ。
カラーは宝石を片手で傾けながら眺める。
「『大罪の眼』。これが本来の目的です」
嬉しそうに眺め、自身の横に置く。
「獣国が手に入ればもっと良かったのですが、失敗した物は仕方ありません。次回、頑張ってください」
「はい。分かりました」
ユラマガンド達は一礼して、その場を後にした。
カラーへの謁見を済ませた3人は各自解散となり、ウルパは1人で廊下を歩いていた。
「……くそ!!」
壁を拳で叩き、険しい表情で悔しさを滲ませていた。
「あと少し、あと少しだったんだ……!!」
今回の計画は順調に進んでいた。しかし、『漆黒の六枚翼』と宮廷魔術師に計画を台無しにされてしまった。あともう少しで復讐を遂げられはずだったのに。
「クソ!! クソ!! クソ!! クソ!! クソ!!!」
何度も汚い言葉を吐き、壁を拳で叩き、怒りをぶつけ続ける。
数十回叩いたところで、叩いていた面から出血した。そのおかげか、頭に上っていた血が下がり、少しずつ冷静になっていく。
怒りをぶつけ続け、息切れを起こしていたが、徐々に呼吸を正常に戻す。そして、深呼吸を数度して平静を取り戻した。
(……カラー様の計画が上手く行けば、私の目的も達成される。少し、少しだけ成就するのが伸びただけ、そう切り替える)
考え方を変え、冷静さを取り戻す。
(何も全て終わった訳じゃない。まだ機会がある。私はまだ終わっていない……!)
ウルパは次の計画のために、歩を再び進めるのだった。
・・・・・・
アストゥム獣国 王城
ヘルウィンは城内にある自分の書斎で調査をしていた。
王家が所有する大量の蔵書と記録、自身が保有する資料などを大きい机一杯に広げながら調べていく。
そして、知りたかった情報にようやく行き着いた。
「……やはり、怪人の正体は……」
その時、扉をノックする音が聴こえた。
「失礼いたします。ヘルウィン殿、ピールポティ様がお呼びです」
扉越しに兵士が用件を伝える。ヘルウィンは栞を挟み、席を立って扉を開ける。
「正装は必要かな?」
「いえ、私用とのことで、正装は必要無いと仰せつかっております」
ヘルウィンはワイシャツ姿で部屋を出る。
「案内してくれ」
「ハッ!!」
兵士はヘルウィンの前に出て案内を始める。
ヘルウィンは歩きながら考え事をしていた。
(ウルパという女、アージュナ様が見ていないから確定とは言い難いが、ウシェス様とセラスベルトゥ様が嘘や見間違いをする可能性は低い。だとすれば、彼女は本物でほぼ間違いない)
そして、ウルパに関する経歴と記録を思い出す。
(ならば何故、死んだはずの彼女が目の前に現れたのか。仮説ではあるが、ほぼ間違いなく『アレ』の可能性が高い)
結論の一歩手前まできているが、1人で結論を出すには心もとない。
(……後でオルカ女史に意見を聞いてみますか)
一旦保留にし、後でオルカにも意見を聞く事にした。
(それに、怪人についても話しておかなくてはいけませんからね……)
ヘルウィンはこの時、オルカが誘拐された事を知らない。
・・・・・・
ゴルニア王国 首都 テルイア
ラシファとスカァフはテルイアにある『ゴルニア王国冒険者組合』に来て、オルカ達が獣国へ向かった日から数えて数日が経った。
会議室前で待たされる2人は、長椅子に並んで座っていた。
「……いつまでこんな不毛な議論を続けるつもりかのお……」
スカァフは溜息交じりで愚痴を零した。
「仕方ありません。これも高ランクギルドの宿命です」
ラシファはそんなスカァフを宥めた。スカァフはラシファを睨み
「言いがかりも甚だしい上に面倒な連中を巻き込みおって、何を考えておるんじゃアイツら」
「しかしこれもまた因果なのでしょう。私はちょっと面白く感じてきましたよ」
「ワシはつまらんの一言に尽きる」
他愛もない会話をしていると、会議室から職員が出て来る。
「お待たせしました。どうぞお入りください」
「待たせ過ぎじゃ」
スカァフは文句を言って立ち上がり、会議室の扉の前に立つ。ラシファも立ち上がり、スカァフと並んで扉の前に立つ。
「さて、今日も頑張りましょう」
「一体何日続くんじゃ、これ……」
会議室の扉が開かれ、2人は中に入る。
中にはゴルニア王国の重鎮、組合長、貴族、大手ギルドのマスターが席に着いて待ち構えていた。奥にいる議長が起立した。
「これより、『漆黒の六枚翼』への懲罰会議を再開する!!」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『オルカを探して』
お楽しみに。
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