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Ep.46 動乱の果てに


 動乱の後、話し合い、それから



 堕ちた林檎襲撃の翌日



 城では襲撃によって亡くなった執事、メイド、兵士達、そして、前王パナディの葬式が行われた。



 パナディが展望の間に行って放送をしようとした理由について、『最後の言葉を自らの声で国民に伝えようとして、その直前に息を引き取った』ということにして国民に伝えられた。


 これは王家の威信を護る為の嘘であり、決してパナディに対する情けではない。


 反乱軍の一件は、前将軍の息子バーシュムが首謀者として捕らえられ、前将軍のドゥーラヤードンも今回の件で関わっているかどうか調べるために身柄を拘束される予定となった。


 堕ちた林檎の件に関しては、明確な証言がまだ無い為、発表は控えることとなった。



 葬式は大々的に行われ、多くの貴族と国民に見守られながら、パナディの遺体は王族の墓標へ埋められた。


 

 最後まで仕えていた執事、メイド、兵士達も、名前が掘られた石碑が建てられ、丁重に弔われた。



 ・・・・・・



 葬式を終えた翌日



 オルカ達漆黒の六枚翼(ネロ・セラフィム)は、城に呼び出されて報酬の話をすることになった。


 セティとルーは城の仕事を手伝うために欠席、アージュナはまだ目を覚まさず、城で治療を受けている状況のため、バルアル、オルカ、ファンの3人で出席する。


 会議室にはウシェス、セラスベルトゥ、ピールポティ、ジェブ、シャー、その他の大臣達がいた。


 オルカ達は兵士に案内され、ウシェス達と対面する形で着席する。


「先日の働き、大儀であった。心より感謝する」

「ありがたき幸せ」


 ウシェスの言葉にバルアルが代表して答える。オルカとファンも頭を下げた。


「では早速本題だ。反乱軍への件は前に話した通りにするとして、堕ちた林檎の件に関しては何も決めていない。なのでこうして場を設けた」

「我々のために時間を作ってくださり、誠にありがとうございます」


 形式的な進行で、ウシェスとバルアルの会話で話が進む。



 それからは前もって決まっていたかの様に順調に話が進んだ。


 報酬内容は主に金銭だったが、王家公認の施設も使える権利も付けてくれた。バルアルはそれに同意し、合計でとんでもない金額になった。個人では絶対に稼げない大金だ。


 報酬は後日、王家の使いがギルドに納める形でまとまった。



「これで報酬の件は良いな。他に何かあるか?」


 ウシェスは3人に尋ねるが、オルカとファンは王家に対して何か意見するのは恐ろしくてできず、沈黙した。


 代わりにバルアルが口を開く。


「でしたら、もし我々『漆黒の六枚翼』が正規の理由で困った際に、力を貸して頂ければとお願いしたいのですが」


 バルアルはかなりストレートな要求をした。


 これはつまり、国のコネが欲しいと言っているようなものだ。


 バルアルの発言に、オルカとファンは凍り付き、大臣達はざわついた。


「貴様! 図々しいにも程が……!!」

「構わぬ」


 ウシェスは大臣の言葉を遮り、ニッと笑ってみせた。


「良かろう。その時が来たら我が国は全面的に協力しようではないか」

「ありがとうございます」

「ただし、表には出さない密約とする。公表しない方がお互いのためになるからな」

「分かりました」


 ウシェスとバルアルは淡々と進めるが、大臣達は気が気ではない。


「よ、よいのですか女王陛下?! 密約などというリスクは今は負うべきでは……」

「問題無かろう。むしろ彼らと手を結んだ方のメリットの方が大きい」


 ウシェスの自信に満ちた表情は、何も言わずとも伝わる根拠が感じられた。


「そ、そこまでおっしゃるなら……」

「決まりだ! これからもよろしく頼むぞ!」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 こうして『漆黒の六枚翼』は、アストゥム獣国の後ろ盾を手に入れた。



 ・・・・・・



 話し合いは終わり、オルカ達は城を出て、街まで歩いて向かっていた。


「今日まで落ち着く事なんてできなかったからな、今日は街を散策するなり観光するなり、自由にするといい」

「了解っす!」

「あ、あの……」


 オルカは恐る恐るバルアルに手を伸ばす。


「あ、アージュナさん達とは、合流できるんでしょうか……?」


 アージュナは城で治療を受けており、未だに目を覚ましていない。セティもルーもまだ城だ。今回の事件で、城は人員不足で右往左往している状況だ。本職はこの国での仕事なのだから、このままギルドを脱退する可能性もある。オルカが不安になるのも無理は無い。


 バルアルはオルカの方を向く。


「アイツらならアージュナの体調が回復次第ギルドに戻る予定だ。昨日の内に確認済みだ」


 笑みを浮かべてオルカに伝える。その話が初耳だった2人は、驚きの余り開いた口が塞がらなかった。


「そ、そんなことが、決まっていたんですね……」

「それならもっと早く行ってくださいっすよ!」

「悪い悪い。驚かせようと思ってな」


 ケラケラ笑いながら2人をからかう。


「さて、俺はラシファ達への土産を買いに行ってくる。2人は自分の買い物をするといい」


 バルアルは2人に背を向け、手を振りながら街へ入っていった。


 残された2人は、互いに顔を見合わせる。


「オルカ姉さんはどうします?」

「えっと、全然決めてないです……」

「実は俺もっす」


 ファンは笑みを浮かべながら答える。


「じゃあ一緒に回らないっすか? 1人で歩き回るよりは楽しいかと―――」

「おや? オルカさんではありませんか」


 不意に声を掛けてきたのは、ムササビだった。街の方から歩いて近付いて来る。


「もう動いてもよろしいのですか?」

「は、はい。無事に治りました……」

「それは良かった! どうです? 快気祝いに我が商会と提携している料理店で食事でも」

「え、えっと。どうしましょう……?」


 オルカはグイグイ来るムササビに困惑しながら、ファンに意見を求める。


 ファンは少し考えて、ムササビの前に立つ。


「折角ですけど、これから観光しようかと思ってまして、すいません」

「そうでしたか。なら馬車を用意しましょう」


 ムササビが指をパチンと鳴らすと、遠くから馬車がやってきた。4人乗りできる普通の馬車だ。


「これなら安全かつ体力をあまり使わず街を回れますよ。いかがです?」

「う、うーん……」


 ファンは悩み始め、オルカの方を見る。


(オルカ姉さんにあまり負担はかけたくないし、ここは話に乗ってみるか……)


 ファンはムササビと向き合う。


「じゃあ、お願いします」

「では早速回りましょう。さあ乗って」


 ムササビの用意した馬車に2人は乗り込み、ミンファス観光が始まった。



 ミンファスには一通りの商業施設、行政機関、娯楽施設が揃っている。


 他にも国の南にある海岸から取れる魚類が並ぶ生鮮市場や、国内の鉱山から取れる宝石が大量に並ぶ貴金属市場も大規模に展開され、多くの人で賑わっていた。


 オルカは宝石市場に目を輝かせていた。


「凄い……! あんなに宝石が……! しかもあんなに安く……!!」


 ムササビはその様子を興味深く見ていた。


「オルカさんは宝石がお好きなのですね」


 ムササビの言葉にハッとなり、オルカは恥ずかしそうに縮こまる。


「あ、その、年甲斐もなくはしゃいでしまってすいません……」

「いいんですよ。好きな物を見て興奮するのは誰にだってありますから」


 2人の零れた笑みで、空気が和んだ。その様子をファンは少しつまらなそうに見ていた。


「……でも意外っす。宝石が好きって初めて聞いたっすよ」

「いえ、その、魔術の研究で結構消費するので……」

「あ、はい」


 いつものオルカだと思ったファンだった。


 ムササビは一旦馬車を止めさせる。


「それでしたらここで欲しい宝石を買ってしまいましょう。お金の方はありますか?」

「えーと。俺は大丈夫っス」

「私も大丈夫です……」

「ではいざ買い物と行きましょう!!」


 ムササビに背中を押され、2人は宝石を買いに市場を歩いて行く。


 市場は巨大な広場に各自テントを張って開いている簡易店舗が沢山並んでいる状態だ。販売方法も売っている宝石の種類もそれぞれ違う。生鮮市場より人は少ないが、それでも賑わっている。


 オルカはまるで子供の様に楽しみながら宝石を見ていく。


「この宝石、高くて中々数が揃えられなかったんです……。これならいつもの3倍買えます……」

「そうなのですか。他にも魔術で使う宝石が?」


 興味津々のムササビは、オルカの隣につきながら質問する。


「はい。これは雷系が通りやすいのですが、逆に水系が通りにくい性質があるんです。そっちは水系が通りやすいのですが、火系が通りにくい性質でして……」


 ムササビはオルカの話を真面目に聞いていた。専門的な内容のため、ファンは話に追い付けなくなっていた。


 仕方ないので、ファンは別の店を覗くことにした。そこは加工された宝石が並ぶ店だ。


 指輪やネックレス、小物などが展示されており、どれも綺麗に作られている。


 ファンは一通り見て、宝石をあしらった花柄のブローチに目が止まった。


(……これとかオルカ姉さんに似合いそう)


 ブローチをまじまじと見つめ、やはり合うと確信する。


「すいません。このブローチ下さい」


 目の前にいる店長に購入をしようと声を掛ける。


「あいよ。3万な」

「たっか?!」

「職人価格だ。金が足りないなら諦めな」


 ファンは諦めようかと思ったが、ここは粘ることを選んだ。


「もうちょっと安くできない?」


 ファンは人生初めての値引き交渉を始めるのだった。



 ・・・・・・



 一方、オルカとムササビは話をしながら宝石店を巡っていた。


「こっちの宝石は綺麗ですけど、あまり魔力伝達が良くなく……」

「なるほど、ためになります」


 オルカの講義を受けながら歩いていると、ムササビに1人の男が近付く。


「すみませんムササビ様、少々お話が……」

「ああ、分かった。すみませんオルカさん、少し離れます」

「あ、はい……」


 ムササビはオルカから離れ、部下数人と話しを始めた。


 オルカはその間にも宝石を見続ける。その途中、


「ちょいとそこのお姉さん」


 この国の伝統衣装を身に纏った女性が声を掛けてきた。女性は店舗内に入っており、見た限り獣人の様だ。


「良ければこの宝石見て行かない? いいのがあるよ」


 そう言って見せてきたのは、宝箱一杯に入った宝石の詰め合わせだった。


 オルカは恐る恐る近付き、宝箱の中を詳しく見る。中は色とりどりの宝石で埋め尽くされ、ちゃんと美しみせるカットまでされている。ただ、粒はどれも少し小さい。


「何だか、明らかに小さい気が……」


 詳しく見るため、更に顔を近付けた。



 次の瞬間、宝箱の中から腕が飛び出した。



 オルカはあまりにも突然な事態に反応できず、腕に身体を捕まれ、そのまま宝箱の中に引きずりこまれてしまった。


 女性はオルカを宝箱に閉じ込め、大きさを1mから30㎝まで縮小してみせた。そして、宝箱を回収し、その場から消えた。




 これが、ムササビと知り合ったせいで起きた『オルカ誘拐事件』である。








お読みいただきありがとうございました。


次回は『幕間『それぞれの陰で』』

お楽しみに。


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