Ep.43 黒幕の狙い
真の狙いは
侵入者達は城内をうろつき、制圧を図っていた。
まだ制圧ができていない箇所もあるが、概ね予定通り事が進んでいるため、慌ててはいない。
数人が集まり、現状の確認を行う。
「そっちはどうだ?」
「こっちは片付いた。だが王女には逃げられたらしい」
「どうも城のあちこちに隠し通路があるみたいだ。そこから逃げたんだろう」
「王家しか知らない隠し通路か、厄介だな」
「他に制圧できていないのは?」
「高官達がいるエリアと住居エリアだ。しかも、女王も王女達も捕まえれていないらしい」
「あの方はどうした?」
「宮廷魔術師にやられた。半身に大火傷を負って撤退したと」
「……計画に支障は?」
「今の所無いそうだ。しかし妨害される危険性は高い」
「ならば計画を急ごう。失敗はできない」
全員が頷き、行動に移そうとした時だった。侵入者の1人が慌てて駆け寄って来た。
「ほ、報告します!! 『漆黒の六枚翼』が城に戻って来たとのことです!!」
「何だと?!!」
・・・・・・
魔法の絨毯に乗ったまま城内へ突入し、セラスベルトゥの案内してもらいながら、目的の場所へ向かって飛んでいた。
途中侵入者達と鉢合わせになったが、ファンの正確な弓矢とオルカの【一時停止】で次々行動不能にしていく。ルーも【魔法砲】で転倒させるなどして加勢する。
「一体どこからこれだけの侵入者が?!」
ファンが驚くのも無理は無い。ここまで倒した侵入者の数は30人近く。城内あちこちにいるとなればこの数倍の人数がいることになる。
「誰かが手引きしたんだろう。心当たりあります?」
バルアルの問いにセラスベルトゥは案内しながら
「情けないことに、思い当たる人物はいません。何せこの数年でそういう輩は全員城から追放しましたから……」
「その厳正なふるいから逃れた嘘つきがいたということになりますね」
バルアルは魔法の絨毯を操作しながら、燃料切れにならないように魔力を絨毯に注ぎ続ける。
「次を右に!」
「了解」
セラスベルトゥの指示に従い、廊下を猛スピードで曲がる。
「一体どこへ向かっているのですか……?」
オルカは何かを焦っているセラスベルトゥから何も聞けていないので、侵入者と応戦しながら質問する。
「説明している時間がありません! 一刻も早く向かわなくては……!!」
セラスベルトゥはまだ何も教えてくれないが、的確に指示を出してスムーズに進み続ける。
階段を上がり、複雑な廊下を何度も曲がり、途中侵入者を退けながら先へ先へと飛ばし続ける。そして、
「ここの廊下を直進して左側にある7番目の扉が目的の場所です!!」
「了解」
バルアルのテクニックでセラスベルトゥの指定した部屋まで駆け抜け、扉の前で急停止する。侵入者の追ってくる影が見えたため、バルアルは機転を利かせて、絨毯に乗ったまま突入を図る。
「セティ! 扉をブチ破れ!」
「はい!!」
バルアルの指示でセティは絨毯から飛び蹴りを放ち、扉を無理矢理開け放つ。それと同時に中へ入り、絨毯を着地する。
セラスベルトゥは絨毯から駆け下り、部屋の中を急いで見渡す。
部屋は巨大な寝室で大きなベッドしか無く、誰もいない。ガランとした状態だった。
「遅かったか……!!」
セラスベルトゥは悔しそうに奥歯を噛みしめ、頭を抱えた。オルカ達はセラスベルトゥに近付く。
「あ、あの、そろそろ教えて頂けませんか……? ここが、何の部屋なのか……」
オルカが恐る恐る質問する。セラスベルトゥはオルカの方を見て、一度溜息をつく。
「……ここは、前王パナディが眠っている部屋です」
「え、でも誰もいないですよ?」
ファンはいつもの言葉遣いを封印しながら喋る。その隣にいるバルアルは少し考え、すぐに察しが付いた。
「なるほど、そのパナディ様が連れ去られたわけだ」
「そうです。賊の狙いは最初からパナディでした。そしてパナディを利用しようとしているのです」
「どういう事です?」
セティの質問にセラスベルトゥは眉間にシワを寄せながら
「隠し部屋にいた時に聞いたのです。奴らは―――」
『前王を復活させ、この国を元に戻す』
『そして、この国を堕ちた林檎の意のままに』
「意識の無いパナディを利用して、堕ちた林檎はこの国を乗っ取るつもりなのです!!」
堕ちた林檎の名を聞き、オルカ達は戦慄する。バルアルも苦い顔をして頭を抑える。
「よりにもよって、あいつらが関わっているのか……。これはとんだ厄ネタだな」
「奴らめ! 我が祖国にまで手を出すとは!!」
セティは以前に受けた仕打ちを思い出し、怒りに震えている。
「ど、どうするっすか?」
ファンは慌てながら全員に尋ねる。
「とにかくどこへ行ったか探すぞ。まだ城内に残っているはずだ」
「しかし、城はかなり広いですよ。関係者の私でも一回りだけで2時間はかかってしまいます」
ルーの言う事なのだから、素人が探しても探しきれる可能性は低い。ましてや、移動していたら尚更見つからないだろう。
「くっそお! こんな時スカァフ姉さんがいればすぐなのに!!」
ファンが頭を抱えて悩んでいると、扉の外から侵入者達が入って来た。手には魔法用の杖を持っている。
「死ねい!!」
魔法が放たれる寸前の状態で向けられ、セティとルーはセラスベルトゥを庇い、ファン、オルカ、バルアルが反撃しようと動く。
撃つ前に撃たれると思っていたバルアル達だったが、侵入者達は魔法を放つあと数秒の所で動きが止まり、そのままゆっくりと倒れた。
バルアル達はまだ撃つ直前だったため、発動していない。何が何だか分からないオルカ達は、顔を見合わせる。
そんなバルアル達の前に、扉から一人の影が現れた。それは
「セバスティアン!?」
執事のセバスティアンだった。侵入者達を倒したのは、彼だったのだ。
セバスティアンは全身に傷を負い、あちこち出血を起こしていた。息も絶え絶えで、今にも倒れそうだった。だが、セバスティアンは姿勢をしっかりと整え、オルカ達に近付く。
「セラスベルトゥ様、バルアル様及びご一行の皆様、ルー、セティ、ご無事でしたか」
「それよりもセバスティアン!! その怪我はどうしたんだ!!?」
セバスティアンは眼鏡の位置を片手で治す。
「ご心配なく。どれも掠り傷でございます。大したことはありません」
「しかしだな……」
セラスベルトゥの心配そうな表情に、セバスティアンは笑みを浮かべる。
「ご安心を。私はファリア王家に代々仕えて来た執事ですから」
その笑みには、絶対に大丈夫だという自信があった。
「セバスティアン……」
セラスベルトゥは、その笑みを見て、セバスティアンの言葉を信じることにした。
「……分かった。ですが、これ以上の無理は許しません。いいですね?」
「かしこまりました。セラスベルトゥ様」
セバスティアンは一礼した後、オルカ達の方を向く。
「パナディ様をお探しになるそうですね。でしたら、ここから上階にある『展望の間』へ連れ去られているのを先程見ました」
「本当ですか……!?」
「はい。1人で追うには周囲にいる侵入者達の数が多かったため、致し方なくここまで降りてきました。ですが、皆さまなら、それも突破できるかと」
バルアルはセバスティアンの話を聞いて不敵な笑みを浮かべる。
「決まりだ。その展望の間へ急ぐぞ。何をしようとしているのかハッキリしないが、今ならまだ追いつけるかもしれない」
魔法の絨毯の上に乗り、その後をオルカ達が乗る。
「私も乗せて下さい! 案内します!」
そして、セラスベルトゥも乗る。残るはセバスティアンだけだ。
「貴方はどうする?」
「私は隠し通路を使って安全な場所まで避難します。皆様はお気になさらず行ってください」
「……分かった」
セバスティアンを置いて、魔法の絨毯は浮遊を始める。セラスベルトゥはセバスティアンの方を見る。
「どうか無事で、セバスティアン」
「セラスベルトゥ様も、お気を付けて」
魔法の絨毯はオルカ達を乗せて部屋から飛び去った。セバスティアンはそれを見送り、飛んで行く音が聴こえなくなるまでしっかりとした姿勢で立ち続ける。
セバスティアンは目を細め、
「あとは、お任せ、します……」
そう言い残して、倒れてしまった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『展望の間にて』
お楽しみに。
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