Ep.41 This is
逆転の一手は
ウシェスが怪人と戦っている時、ジェブとシャーもまた、侵入者達と戦っていた。
侵入者はどれも黒いローブで身を包み、姿、体型はまるで分からない。侵入者に囲まれたジェブは剣を振るい、シャーは魔法を駆使して戦う。
「はあ!!」
ジェブは剣で逆袈裟斬りを放つ。しかし、侵入者は悠々と躱し、間合いを取られてしまう。
他の侵入者が、ジェブの両側を狙って短剣を持って突撃する。ジェブは咄嗟に避け、攻撃を回避する。
「【炎弾】!!」
シャーは炎の弾の魔法を発射し、侵入者達に攻撃を仕掛ける。だが、
「【水盾】!!」
侵入者達の中に魔法使いがおり、シャーの炎の攻撃は容易に防がれてしまう。
ジェブとシャーは背中合わせになり、背後を取られない態勢を取る。
「何なのですかこいつらは!? 一体どこから……?!」
「おそらくこっちが本命だったのじゃろう。ワシとしたことが抜かったわい」
今城にいるのは、執事とメイド、最低限の兵士、一部の高官、そして王女達と寝たきりの前王だけだ。現状、かなり手薄な状態だったのだ。
ジェブは奥歯を強く噛む。
「新体制が発足した翌日に賊に侵入されるとは、不甲斐ない……!!」
「おそらく手引きした者がおる筈じゃ。何とかして見つけ出さねばな」
「その前に目の前の状況をどうにかしないといけませんね」
2人は武器を構え、侵入者達と対峙する。
(ウシェス様、どうかご無事で……!!)
・・・・・・
城の通路の真ん中で、ウシェスは怪人と対峙していた。
しかしウシェスの体には、既に短剣が何本も刺さり、血だらけで痛ましい状態だった。剣を怪人に向けてはいるが、まともに振れるか怪しい程だ。
何度か防御を試みたが、突然現れ、身体に突き刺さる攻撃に、なす術も無かった。
怪人は嘲笑うかのように、片手で短剣を何度もお手玉している。
「いい加減。いい加減。いい加減。諦めてはどうでしょう?」
ウシェスはハッと笑い飛ばす。
「私はこの国の女王だ! この程度では引かぬ!!」
再び炎が舞い上がり、ウシェスの周囲を取り囲む。
(奴が一歩も動かず攻撃している仕組みが分からない今、やれることはただ一つ)
ウシェスはチャンドラーハースに魔力を込め、炎を更に強める。炎は高さ5mまで上がり、火力を強めていく。
(一撃で倒す! ただそれだけで十分だ!!)
剣を持つ手を後方に下げ、もう片方の手で狙いを定める指標とし、足を前後に開く突きの構えを取り、炎が渦を巻いて怪人に向かって飛んで行き、逃げない様に取り囲んだ。
怪人は動かず、シルクハットのつばをつまんでジッとウシェスを見る。
「一撃で、決めるおつもりですね?」
「逃げなかった事、後悔するといい!!」
ウシェスは足に力を入れ、20m近く離れていた怪人のところまで、一蹴りで近付く。後方に下げていた炎を纏った剣を視認できなくなる速さで突く。
突きは怪人の頭へ向かって放たれ、貫通する威力なのが素人でも分かる一撃が一直線に飛ぶ。
ウシェスもピールポティも決まったと確信した。
しかし、
ウシェスの剣を持つ腕に、あらゆる方向から短剣が突き刺さり、突きを完全に止めていた。剣は怪人の仮面の手前で止まり、届く事は無かった。
「な、に?!!」
ウシェスは何とか剣を抜こうと掴むが、まるで壁に深く刺さった様に抜けない。
炎も直撃しているはずなのに、怪人は決して燃える事は無かった。
怪人は剣先を摘み、顔をウシェスに近付ける。
「残念。残念。残念。私には届きませんでしたね」
「くっ……!!」
怪人はお手玉をしていた短剣をしっかりと持つ。
「では、この世界にサヨナラを」
怪人がウシェスの胸に剣を突き立てようと振り上げる。
「ダメ!!」
そこへピールポティが飛び込み、怪人の短剣を持つ手を掴んで攻撃を阻止する。
「おや。おや。おや。邪魔をしますか」
「もう、誰も死なせません!!」
ピールポティは握る力を強める。獣人特有の力の強さでウシェスが剣を抜く時間を稼ごうと試みる。
「無駄。無駄。無駄。意味なんて、ありませんよ?」
剣先を摘まんでいた手を離し、パチン、と指を鳴らす。
ピールポティの背中に、短剣が刺さった。
ピールポティはあまりの痛みに膝を付いてしまう。
「ピールポティ!!」
ウシェスが声を荒げる。
膝を付き、俯いたピールポティだったが、決して手を離す事は無い。
「だ、れも、死なせません……!!」
痛みで涙を零しそうになるが、意地でも離さまいと力を入れ続ける。
それを見た怪人は、明らかに機嫌の悪い舌打ちをした。
「…………気が変わりました。ピールポティから殺しますか」
もう一度、指を鳴らそうと指を動かす。
「離れろピールポティ!!」
ウシェスはピールポティを助けようと足掻くが、空中で固定された短剣が未だに抜けず、動けないでいた。
ピールポティは死を覚悟しながらも、手を離すつもりは毛頭なかった。
(ごめんなさいお姉様。ここで死ぬ事をお許しください……)
静かに目を閉じ、非力な自分を恨みながら握り続ける。
脳裏に浮かんで来たのは、親しいメイドや執事、アージュナ、セラスベルトゥ、死んだ母、そして、さっき死んだヘルウィンの姿だった。
怪人が指を鳴らすために指に力を入れる。
指が鳴る直前、その手を誰かが、後ろから思いっ切り掴んだ。
怪人はすぐに後ろを向き、誰が掴んだのか確認する。
「は?」
怪人が驚きのあまり、間抜けな声を上げてしまった。
何故なら、そこにいたのは、頭の無いヘルウィンの体だったからだ。
頭が無いにも関わらず、掴む力は指をへし折る位強い。
「な、そんな、ありえない……!?」
「A級魔術師を舐めないで頂きたい」
どこからかヘルウィンの声が響く。怪人が音源を確認しようと視線を別の場所に向けた瞬間、ヘルウィンの拳が怪人の顔面に叩き込まれた。
「ぐげ?!」
怪人は殴られた勢いで吹っ飛び、床を滑って数m先まで転がった。
直後、ウシェスの腕を固定していた不思議な力が解除され、ようやく腕を下ろせた。
「お姉様!!」
ピールポティはウシェスに抱き着き、命が無事であったことに安堵する。ウシェスはピールポティの頭を撫でた。
「ピールポティも無事で何よりだ。だが、無茶は良くないぞ」
「はい……、はい……」
ウシェスは涙を零しそうなピールポティを優しく抱きしめた。
頭の無いヘルウィンは怪人とウシェス達の間に立ち、【収納魔術】でしまっていた杖を取り出す。一本の木から切り出して作ったタイプの杖だ。
「さて、いつまで寝ているつもりですか?」
杖を倒れている怪人に向ける。
怪人はゆっくりと立ち上がり、ヘルウィンと対峙する。
「な、何故、生きているんです……?」
「首を斬られたら死ぬなんて常識、とうの昔に捨てましたからね。不便も便利もある体なんですよ」
ヘルウィンは杖を一回転させる。
「あと、後ろに注意した方がいいですよ」
「っ!?」
怪人が後ろを振り向くと、そこには浮遊しているヘルウィンの頭があった。
口がぎこちない動きで開き、大量の太いツタが飛び出し、怪人に襲い掛かる。
怪人は素早い動きでツタを躱し、躱せそうにないツタは短剣で斬り落とした。
「なるほど、植物ですか」
「その通り。魔法で育てた立派な植物です」
ヘルウィンの猛攻を怪人は跳躍して距離を取る。それでもツタは追尾し、そこら中ツタだらけになる。
「物量はいいですが、それだけでは勝てませんよ?」
「もちろん対策はしています」
怪人が着地した横のツタから蕾が生える。蕾は一気に大きくなり、カボチャへと急成長する。そしてカボチャに口と目の様な穴が開く。
「This is HELLWIN!! HAHAHA!!!」
ケタケタと笑うカボチャの口が更に開き、口の中から炎が見えた。
「ぬう?!!」
怪人はカボチャの下に潜り込み、回避する。
直後、カボチャから巨大な火炎放射が発射される。当たれば消し炭になりかねないレベルだ。
「流石炎緑魔法の使い手。だから真っ先に殺しておきたかった……!!」
悪態をつく怪人の周りは、既にカボチャ達で埋め尽くされていた。
「「「「「This is HELLWIN!!! This is HELLWIN!!! This is HELLWIN!!!」」」」」
ヘルウィンの頭が首から風船の様に膨らんで元通りになる。そして、逃げ場のない怪人をヘルウィンは指を差す。
「Choose. Defeat or Death?」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『反乱の影』
お楽しみに。
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