表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/117

Ep.41 This is


逆転の一手は



 ウシェスが怪人と戦っている時、ジェブとシャーもまた、侵入者達と戦っていた。


 侵入者はどれも黒いローブで身を包み、姿、体型はまるで分からない。侵入者に囲まれたジェブは剣を振るい、シャーは魔法を駆使して戦う。


「はあ!!」


 ジェブは剣で逆袈裟斬りを放つ。しかし、侵入者は悠々と躱し、間合いを取られてしまう。


 他の侵入者が、ジェブの両側を狙って短剣を持って突撃する。ジェブは咄嗟に避け、攻撃を回避する。


「【炎弾(フレイムバレット)】!!」


 シャーは炎の弾の魔法を発射し、侵入者達に攻撃を仕掛ける。だが、


「【水盾(ウォーターシールド)】!!」


 侵入者達の中に魔法使いがおり、シャーの炎の攻撃は容易に防がれてしまう。


 ジェブとシャーは背中合わせになり、背後を取られない態勢を取る。


「何なのですかこいつらは!? 一体どこから……?!」

「おそらくこっちが本命だったのじゃろう。ワシとしたことが抜かったわい」


 今城にいるのは、執事とメイド、最低限の兵士、一部の高官、そして王女達と寝たきりの前王だけだ。現状、かなり手薄な状態だったのだ。


 ジェブは奥歯を強く噛む。


「新体制が発足した翌日に賊に侵入されるとは、不甲斐ない……!!」

「おそらく手引きした者がおる筈じゃ。何とかして見つけ出さねばな」

「その前に目の前の状況をどうにかしないといけませんね」


 2人は武器を構え、侵入者達と対峙する。


(ウシェス様、どうかご無事で……!!)



 ・・・・・・



 城の通路の真ん中で、ウシェスは怪人と対峙していた。


 しかしウシェスの体には、既に短剣が何本も刺さり、血だらけで痛ましい状態だった。剣を怪人に向けてはいるが、まともに振れるか怪しい程だ。


 何度か防御を試みたが、突然現れ、身体に突き刺さる攻撃に、なす術も無かった。


 怪人は嘲笑うかのように、片手で短剣を何度もお手玉している。


「いい加減。いい加減。いい加減。諦めてはどうでしょう?」


 ウシェスはハッと笑い飛ばす。


「私はこの国の女王だ! この程度では引かぬ!!」


 再び炎が舞い上がり、ウシェスの周囲を取り囲む。


(奴が一歩も動かず攻撃している仕組みが分からない今、やれることはただ一つ)


 ウシェスはチャンドラーハースに魔力を込め、炎を更に強める。炎は高さ5mまで上がり、火力を強めていく。


(一撃で倒す! ただそれだけで十分だ!!)


 剣を持つ手を後方に下げ、もう片方の手で狙いを定める指標とし、足を前後に開く突きの構えを取り、炎が渦を巻いて怪人に向かって飛んで行き、逃げない様に取り囲んだ。


 怪人は動かず、シルクハットのつばをつまんでジッとウシェスを見る。


「一撃で、決めるおつもりですね?」

「逃げなかった事、後悔するといい!!」


 ウシェスは足に力を入れ、20m近く離れていた怪人のところまで、一蹴りで近付く。後方に下げていた炎を纏った剣を視認できなくなる速さで突く。


 突きは怪人の頭へ向かって放たれ、貫通する威力なのが素人でも分かる一撃が一直線に飛ぶ。


 ウシェスもピールポティも決まったと確信した。


 しかし、



 ウシェスの剣を持つ腕に、あらゆる方向から短剣が突き刺さり、突きを完全に止めていた。剣は怪人の仮面の手前で止まり、届く事は無かった。



「な、に?!!」


 ウシェスは何とか剣を抜こうと掴むが、まるで壁に深く刺さった様に抜けない。


 炎も直撃しているはずなのに、怪人は決して燃える事は無かった。


 怪人は剣先を摘み、顔をウシェスに近付ける。


「残念。残念。残念。私には届きませんでしたね」

「くっ……!!」


 怪人はお手玉をしていた短剣をしっかりと持つ。


「では、この世界にサヨナラを」


 怪人がウシェスの胸に剣を突き立てようと振り上げる。


「ダメ!!」


 そこへピールポティが飛び込み、怪人の短剣を持つ手を掴んで攻撃を阻止する。


「おや。おや。おや。邪魔をしますか」

「もう、誰も死なせません!!」


 ピールポティは握る力を強める。獣人特有の力の強さでウシェスが剣を抜く時間を稼ごうと試みる。


「無駄。無駄。無駄。意味なんて、ありませんよ?」


 剣先を摘まんでいた手を離し、パチン、と指を鳴らす。


 ピールポティの背中に、短剣が刺さった。


 ピールポティはあまりの痛みに膝を付いてしまう。


「ピールポティ!!」


 ウシェスが声を荒げる。


 膝を付き、俯いたピールポティだったが、決して手を離す事は無い。


「だ、れも、死なせません……!!」


 痛みで涙を零しそうになるが、意地でも離さまいと力を入れ続ける。


 それを見た怪人は、明らかに機嫌の悪い舌打ちをした。


「…………気が変わりました。ピールポティから殺しますか」


 もう一度、指を鳴らそうと指を動かす。


「離れろピールポティ!!」


 ウシェスはピールポティを助けようと足掻くが、空中で固定された短剣が未だに抜けず、動けないでいた。


 ピールポティは死を覚悟しながらも、手を離すつもりは毛頭なかった。


(ごめんなさいお姉様。ここで死ぬ事をお許しください……)


 静かに目を閉じ、非力な自分を恨みながら握り続ける。


 脳裏に浮かんで来たのは、親しいメイドや執事、アージュナ、セラスベルトゥ、死んだ母、そして、さっき死んだヘルウィンの姿だった。


 怪人が指を鳴らすために指に力を入れる。



 指が鳴る直前、その手を誰かが、後ろから思いっ切り掴んだ。



 怪人はすぐに後ろを向き、誰が掴んだのか確認する。


「は?」 


 怪人が驚きのあまり、間抜けな声を上げてしまった。


 何故なら、そこにいたのは、頭の無いヘルウィンの体だったからだ。


 頭が無いにも関わらず、掴む力は指をへし折る位強い。


「な、そんな、ありえない……!?」

「A級魔術師を舐めないで頂きたい」


 どこからかヘルウィンの声が響く。怪人が音源を確認しようと視線を別の場所に向けた瞬間、ヘルウィンの拳が怪人の顔面に叩き込まれた。


「ぐげ?!」


 怪人は殴られた勢いで吹っ飛び、床を滑って数m先まで転がった。


 直後、ウシェスの腕を固定していた不思議な力が解除され、ようやく腕を下ろせた。


「お姉様!!」


 ピールポティはウシェスに抱き着き、命が無事であったことに安堵する。ウシェスはピールポティの頭を撫でた。


「ピールポティも無事で何よりだ。だが、無茶は良くないぞ」

「はい……、はい……」


 ウシェスは涙を零しそうなピールポティを優しく抱きしめた。


 頭の無いヘルウィンは怪人とウシェス達の間に立ち、【収納魔術】でしまっていた杖を取り出す。一本の木から切り出して作ったタイプの杖だ。


「さて、いつまで寝ているつもりですか?」


 杖を倒れている怪人に向ける。


 怪人はゆっくりと立ち上がり、ヘルウィンと対峙する。


「な、何故、生きているんです……?」

「首を斬られたら死ぬなんて常識、とうの昔に捨てましたからね。不便も便利もある体なんですよ」


 ヘルウィンは杖を一回転させる。


「あと、後ろに注意した方がいいですよ」

「っ!?」


 怪人が後ろを振り向くと、そこには浮遊しているヘルウィンの頭があった。


 口がぎこちない動きで開き、大量の太いツタが飛び出し、怪人に襲い掛かる。


 怪人は素早い動きでツタを躱し、躱せそうにないツタは短剣で斬り落とした。


「なるほど、植物ですか」

「その通り。魔法で育てた立派な植物です」


 ヘルウィンの猛攻を怪人は跳躍して距離を取る。それでもツタは追尾し、そこら中ツタだらけになる。


「物量はいいですが、それだけでは勝てませんよ?」

「もちろん対策はしています」


 怪人が着地した横のツタから蕾が生える。蕾は一気に大きくなり、カボチャへと急成長する。そしてカボチャに口と目の様な穴が開く。


「This is HELLWIN!! HAHAHA!!!」


 ケタケタと笑うカボチャの口が更に開き、口の中から炎が見えた。


「ぬう?!!」


 怪人はカボチャの下に潜り込み、回避する。


 直後、カボチャから巨大な火炎放射が発射される。当たれば消し炭になりかねないレベルだ。


「流石炎緑魔法の使い手。だから真っ先に殺しておきたかった……!!」


 悪態をつく怪人の周りは、既にカボチャ達で埋め尽くされていた。


「「「「「This is HELLWIN!!! This is HELLWIN!!! This is HELLWIN!!!」」」」」


 ヘルウィンの頭が首から風船の様に膨らんで元通りになる。そして、逃げ場のない怪人をヘルウィンは指を差す。


Choose(選べ). Defeat(敗北) or() Death(死か)?」






お読みいただきありがとうございました。


次回は『反乱の影』

お楽しみに。


 もし気に入って頂けたなら、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ