Ep.4 幕間『三騎士』
三人の騎士、運命の分かれ道
オルカが解雇されて一週間
『黄金の暁』の上位冒険者達が遠征から戻って来た。
彼らはギルドや街の人達から『三騎士』と呼ばれる腕の立つ冒険者だ。
その一人『ウェイガー・モルガース』がアイシーンの所へ報告のためギルドマスター室にいた。
「以上が今回の報告になります」
「ご苦労。しばらくは休んで身体を万全な状態まで回復させて欲しい。後処理はこちらに任せてくれ」
「ありがとうございます」
一礼して部屋を出ようとした時、扉が思いっ切り開け放たれた。
勢い良く入って来たのはウェイガーの弟で『三騎士』の『メイドリッド・モルガース』だ。その表情は鬼気迫るものだった。
「どういう事だアイシーン!!! 何でギルドメンバーが3分の1も解雇されている!!?」
「何だと?」
ウェイガーはアイシーンを見る。アイシーンは、
「その話か。残念だが彼らはギルドに多大な損害をもたらした。その代償を払ってもらったまでだ」
冷めた表情で平然と口にした。その態度が気に喰わなかったメイドリッドは近付いて机を思いっ切り叩いた。
「ふざけんな!! 相性の悪いクエスト押し付けたのお前だろうが! ましてやオルカに変態貴族の接待やらせやがって!!」
声を荒げるメイドリッドに対してアイシーンは冷静に対処する。
「メイドリッド。俺もこう見えてA級冒険者だったし、貴族との繋がりもあってその方たちのこともよく知っている。そういう言われをされるような方じゃないと俺が保証する」
「なら周辺住民が嘘ついてるってか?」
「あれは敵対している貴族が流しているデマだ。彼は至って紳士だよ。そんなデマに流されているようではこれから先やっていけないぞ?」
確かにアイシーンはA級冒険者として数々の実績を上げて来た。貴族との付き合いもありパイプもある。だから先代はまだ若いアイシーンにギルドマスターの座を譲ったのだ。
呆れるアイシーンにメイドリッドは更に怒りがこみ上げる。胸倉を掴もうと手を伸ばしたが、ウェイガーがそれを止める。
「離せよ兄貴!!」
「落ち着けメイドリッド。ここから先は俺が話をする」
「でも……!!」
「メイドリッド」
ウェイガーは厳しく言い、メイドリッドを黙らせる。メイドリッドは舌打ちをして部屋を出て行った。
「ありがとう、ウェイガー。下手したら殺されていたところだよ」
「……私も貴方に聞きたいことができた」
ウェイガーはアイシーンに背を向けたまま質問する。
「何かな?」
「オルカは、彼女はどうした?」
「ああ、彼女か」
「クビにしたよ。彼女もまた失態を犯したからね」
「…………そうか」
ウェイガーはそのまま部屋を出て行く。
「出動命令がでるまで休暇でいいんでしたね?」
「ああ、首都からでなければいいぞ」
「分かりました。失礼します」
ウェイガーは部屋を出て廊下を歩く。
「ウェイガー、報告は」
目の前に『三騎士』の『ギャラヘッド・トロワ』が話しかけてきたが、途中で言葉を止めた。
ウェイガーの表情が明らかに怒りを露にしていたからだ。
「何があった?」
「オルカが、解雇された」
「どういう事だ?」
「それに関して詳しく調べる必要がある。力を貸してくれ」
「もちろんだ」
2人はすぐに行動に移る。
この日の出来事が、ギルドの命運を分けることになる。
・・・・・
「何だよ兄貴の奴……! あんな理不尽許すって言うのかよ……!!」
メイドリッドはズカズカと歩きギルドの寮に戻って来ていた。
「あー、イライラする! ……ん?」
寮の裏手で何か燃やしている煙が見えた。煙が上がっている位置は火の手が上がる筈の無い場所だった。
「おいおいおい、こんな時に火事かよ!!?」
慌てて煙が上がっている場所へ急ぐ。ものの数秒で駆け付け、
「おい! 何してやがる?!!」
大声で止めにかかる。
そこにいたのはギルド所属歴3年の冒険者数人が何かを火にくべていた。メイドリッドの声で全員が動きを止めた。
「め、メイドリッド様?! 何故ここに……!?」
「んなことより何やってんだお前ら!? ここは焼却場じゃねえぞ!!」
メイドリッドが怒鳴りながら近付くと、燃やしていた物の正体が分かった。
燃えていたのは、解雇された仲間達の私物だった。
「…………何燃やしてる」
「あ、いえ、不要な物を焼却処分するようにと……」
ブチン、と、メイドリッドの中で何かが切れた。
「これの、どこが、不要な物だあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
怒りの咆哮と共に雷撃が周囲に放たれる。
冒険者数人は雷撃で吹き飛ばされ、寮の一部が大破した。それどころか周辺の建物も破壊していく。
咆哮を終えた時には、周囲にいた冒険者は重傷を負い倒れていた。
我に返ったメイドリッドは慌てて【水魔法】で火を消した。火の粉を払い、無事な物が無いか探し始める。
「嘘だ、こんなの嘘だ……!!」
先代から仕えていた老剣士の愛読書、粗暴だったが面倒見の良かった戦士の日記、5年の付き合いがあった荷物持ちの衣服、寮の食事を作ってくれた弓兵のコック帽、そして、
「どうして、どうしてこんな……!!」
オルカの研究論文にいつも帰って来てくれた時に用意してくれたクッキーの木型も燃えていた。ほとんど燃えてしまいかろうじて形が分かる程度だった。
メイドリッドがギルドに入ったのは今から15年前、6歳の時。両親が不慮の事故で亡くなったからだ。
当時17歳だったオルカが読み書きや計算の勉強を教えてくれた。お菓子のクッキーも焼いてくれた。反抗期真っ盛りの時だっていつも傍にいてくれた。お酒が飲めるようになってからは毎回相手になってくれた。いつも暗くて変わった人だったが、第二の母親だった。
その所持品が、無残にも燃やされてしまった。
怒らずに、涙せずにはいられなかった。
「う、ううう。ううううううう…………!!!!!」
焦げた木型を握りしめ、声を殺して泣いた。
燃やすよう指示したクソ野郎をぶちのめすと心に誓いながら。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『オルカの装備』
お楽しみに。
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