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Ep.39 決着、そして


反乱の決着、そして



 土煙の中、立っているのは1人だけだった。



 オルカはゆっくりと近付き、その正体を確かめに行く。


 

 そこに立っていたのは、




 ケーナだった。




 アージュナはケーナの足元で倒れていた。


「アージュナさん!!!!!」


 オルカはアージュナに駆け寄る。アージュナの傍で膝を付き、身体を起こす。


 アージュナは目を閉じていたが、呼吸はしている。大した怪我も無く、気絶しているだけのようだった。


 オルカは安堵の溜息をつく。その横で、


「強かった。でも、S級までには、遠すぎる」


 ケーナがボソボソと感想を語る。オルカはケーナからアージュナを守るようにしてアージュナを抱きかかえる。そして、ケーナを睨んだ。


「これ以上は、させません……!」

「………………」


 ケーナは太陽が上がる空を見上げ、全身に浴びる。


 土煙で見えなかったが、ケーナの黄金の鎧には大きな傷があった。×字に付けられたその傷は、アージュナが付けたものだ。


 その傷は徐々に塞がり、元通りになってしまった。


「黄金の鎧が、ある限り、私、無敵」

「そんな……」


 倒しようもない敵を目の前に、オルカは絶望していた。デバフも効くかどうか怪しい存在に、ただただ打ちひしがれていた。


 だが、


「それなら死んだ方がマシだと思える攻撃をすればいいだけさ」


 後ろからバルアルが現れた。ケーナとバルアルは対峙する形を取り、にらみ合う。


「俺の炎は魔力さえあればいくらでも燃える。それがお前の魔力を触媒にするなら尚更燃えるだろうな」

「……だから、バルアル、嫌い」


 ケーナは数歩下がり、明らかに警戒を始める。バルアルは不気味に笑い、


「それにお前、最初から誰も殺さないつもりだっただろう?」

「え?」


 思わず声が出たオルカはケーナの方を見る。


「…………」


 ケーナは気まずそうに視線を逸らした。


 言われてみれば、あれだけの大威力の攻撃を防壁に撃って誰も死んでいない事には不自然さがあった。それがわざと外しているとなれば、納得がいく。


「そういう、事だったんですね……」


 オルカは最初から教えてもらいたかったという気持ちと同時に、アージュナが死ななくて良かったと、本当に安心した。


 アージュナの頭を膝に乗せ、優しく頭を撫でる。


「……お疲れ様でした……」


 労いの言葉をかけ、優しく微笑んだ。


 バルアルはそのオルカの横を通り過ぎ、囲んでいた炎の檻を解放する。檻の向こうではまだ反乱軍が足踏みしていた。


「炎が開けたぞ!」

「何がどうなったんだ……?」


 ざわつく兵士達にバルアルがケーナの横を通り過ぎて近付く。


「さて、ケーナ。お前はどうする?」


 バルアルは振り向かずにケーナに問う。


「………………バルアル、いるなら、戦わない」


 ケーナはそっぽを向くようにして明後日の方向を向いてしまった。


「そうかい。なら遠慮なく」


 直後、バルアルの背中から巨大な炎の翼が展開される。


 炎は黒く、猛々しく燃え上がっている。そして翼は6枚に分かれ、大きく広げられた。


 兵士達は後退りを始めるが、時すでに遅し。バルアルの攻撃が始まる。



 【獄炎(ヘルフレイム)大豪雨(デッドストリーム)



 三千もいる反乱軍目掛け、弧を描くようにして黒炎の豪雨が降り注ぐ。


 

 黒炎の雨は容赦なく襲い掛かり、次々と燃え始める。燃えると言っても表面が少し焼ける程度だが、全身となれば相当痛いだろう。


 敵側はもう阿鼻叫喚地獄状態だった。


「あっちいいい!!?」

「また燃えたあ?!!」

「鎧が燃えて更にあつうい!!」


 割とコミカルな状況だが、混乱している事には変わりはない。隙を突くには絶好の機会だ。


「よし、ファン、セティ、ルー。行くぞ」

「「「え」」」


 いきなりの命令に3人が凍り付く。まさか蚊帳の外だった自分達に指示が来るとは思ってなかったからだ。


 バルアルは溜息をつく。


「依頼された以上はちゃんと仕事をしないとダメだろう。それともタダ働きするつもりだったのか?」

「いやあ……、この流れだとバルの兄さん一人で片付けちゃうかと思ってたので……」


 ファンが物静かに言い訳する。


「恥ずかしながら自分も」

「私も……」


 セティとルーも同じ考えだった。


 半分呆れていたバルアルだったが、気を取り直して、


「いいから行くぞ。目指すは敵の大将一人だ」


 バルアルは手から広範囲の炎を発射し、道を無理矢理開けさせる。おもむろに走り出し、ドンドン進んでいく。


「付いて来い。このまま一直線だ」


 振り向きざまにケーナに視線を向けた。


「ケーナ、アージュナとオルカを頼む。報酬は後で渡す」

「……分かった」


 それだけ言ってバルアルは火炎放射しながら突き進んでいく。


「あ! 置いてかないで下さい!」


 慌ててファン達は後を追う。置いてかれたオルカはアージュナを介抱しながらケーナに視線を向ける。


「えっと、あの……」


 オルカは何を話せばいいのか分からず、口ごもってしまう。ケーナはオルカの方を見る。


「とりあえず、守って、あげる」

「あ、ありがとうございます……」


 短い会話ができたが、それ以上は無い。目の前で炎に包まれててんやわんやになっている反乱軍を眺めるだけだった。


 それを見て、オルカは一つの話題を思いつく。


「あの、反乱軍からの依頼は、良かったんですか……?」


 ケーナは先に反乱軍の依頼を受けていたはずだ。それを無視して別の依頼を受けて無下にすれば、間違いなく今後の冒険者活動に支障が出るだろう。


 ケーナは遠くにいるバルアルを見る。


「いい。勝てない事、しない、主義」

「はあ……」


 それでいいのかと思ってしまうオルカ。


「それに、今回、個人依頼。だから、責任は、自分だけ」


 個人依頼。つまりギルドや仲介を通さずケーナに直接依頼したという形態だ。この場合なら違約についても他者に迷惑が掛からない。あるとしたら契約した者同士間でのトラブルだ。


 オルカは納得して頷いた。


「わ、分かりました……。不躾な質問失礼しました……」

「……じゃあ、こっちからも、質問」

「は、はい」


 オルカは咄嗟に気を引き締めた。ケーナはアージュナに視線を移す。


「その男と、どんな関係?」

「……関係、ですか……」


 オルカは目を細め、アージュナを優しく見つめる。


「まだ、分かりません。アージュナさんがどう思ってるか、分かりませんから……」

「じゃあ、貴方は、どう、思ってるの?」


 ケーナの直接的な質問に、オルカは微笑みながら、


「私は、アージュナさんと大切な関係になりたいと思っています……。かけがえのない、代わりの無い、そんな関係に」


 ハッキリと答えた。


 ケーナはその表情から、オルカがアージュナにどんな感情を抱いているか察した。


「…………貴方、それは……」


 ケーナが言い切ろうとした時、向こうで爆発音が聞こえた。2人は音のした方を向く。オルカは前に一度聞いたことのある音だ。


「あれは、ルーさんの【魔法砲】……」




 ・・・・・・




 【魔法砲】が発射された先は、バーシュムが乗る戦象だった。


 バルアル達は何の苦も無くバーシュムの下に到着し、戦闘に入っていた。挨拶代わりに一撃お見舞いしたのだ。


 ただの象なので、大した戦闘力は無く、ルーの【魔法砲】を受けて大暴れしていた。手加減したので外傷は無いが、相当痛い。


「PAOOOOOO!!!!!」

「おっと!!」


 ファンやセティは暴れる戦象から距離を取って冷静に対処する。一方、


「うおお?!! 落ち着けこの愚か者!!?」


 象の上に乗っているバーシュムは必死に籠にしがみついていた。高さ3m以上の所から振り落とされれば無事じゃすまないのだから、必死にもなる。


「兵は?! 兵は何をやっている?!!」

「余さず燃えてるところだ。……そろそろ茶番も終わりだ」


 バルアルはファンに目で合図を送る。


 ファンは数歩後退して弓矢を構える。狙いをしっかりと定め、力一杯に放つ。


 放たれた矢は風を切りながら暴れる戦象と籠を繋げる縄を2本射貫いた。


 籠は戦象から離され、戦象が暴れた勢いで一気に地面に落下する。


「ぎゃあああああ!!?」


 籠ごと落ちたバーシュムは絶叫しながら地面に叩き付けられる。籠は木端微塵に砕け、バーシュムは叩き付けられた痛みで悶絶していた。


「う、ぐう……!!」


 バーシュムが立ち上がろうとした時、目の前に剣を突きつけられた。視線を上げると、そこには剣を構えるセティがいた。


「終わりだバーシュム。降伏しろ」


 睨みつけながら剣を近付け、膝を付いているバーシュムに迫る。


 バーシュムは歯ぎしりしながらセティを睨んだ後、


「フッ、ハッハハハハハハ!!!」


 下を向いて突然笑い出した。


「何がおかしい?」


 更に睨みをきかせるセティにバーシュムが顔を上げる。


「かかったな馬鹿め!! ()()()()()!! 本命はすでに王宮の中なんだよ!!」

「何だと!!?」


 セティ以外のバルアル達も驚いていた。バルアルは口に手を当て、


「まずいな。だとすると今頃……」


 

 ・・・・・・



 王宮内



「ああ、そんな……! そんな……!!」


 ピールポティは膝を付いて泣き崩れていた。



 その先には、ヘルウィンの頭であるカボチャが転がっていた。そして少し離れた所に、ヘルウィンの体が倒れていた。



「どうして、どうして貴方が……!!」


 泣きながら睨んだ先には、




「答えなさい!! ハルン!!」




 ヘルウィンの首を刎ねたハルンの姿があった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『悪夢、再び』

お楽しみに。


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