表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/117

Ep.38 太陽の槍、無敵の剣


太陽はどちらを選ぶ



 太陽が真上に登ろうとしていた時、槍と剣がぶつかり合った。



 ケーナとアージュナの武器が燕ぜり合いをし、火花が散る。


 ケーナの素早い突きの連撃がアージュナを襲うが、アージュナは獣人特有の感覚の鋭さで連撃を躱していく。反撃でアージュナが双剣で絶え間なく、舞踊の様に華麗な斬撃を繰り出していく。


 しかし相手はS級冒険者。そう簡単に攻撃を受けてくれる訳は無く、全ての攻撃を紙一重、最小限の動きで躱してしまう。


 まだ戦い始めて数分だが、互いに一歩も譲らない。止まらない猛攻の応酬は見る者を引き付ける魅力すら感じさせる程だった。


 その戦いをオルカ達は凝視していた。


「互いに、一歩も引きませんね……」

「そうっすね……」


 オルカとファンは息を吞む戦いを真剣に見ていた。


(アージュナさん……)


 相手は圧倒的に強いS級冒険者、それに果敢に立ち向かう姿は逞しくもあるが、同時に恐ろしくもあった。


 もし致命的な一撃を受けたら、重傷を負ったらと不安で仕方なかった。オルカはただ戦いの行く末を見届けることしか出来ない現状に歯噛みしながら、どうか無事で終わることを心の中で願わずにはいられなかった。


 その隣にいるファンは別の感情で戦いを見ていた。


(あれだけのリーチ差がありながら、迷わず、躊躇わず攻撃できるなんて、……やっぱり兄貴はスゲエや……)


 同じギルドの冒険者の先輩として尊敬の念を持ち、カッコいい存在としてアージュナに憧れた。


 その背中に追い付くために突き進んできたが、目の前の激戦を見て、自分には決定的に足りないモノに気付いてしまった。それはファンには絶対に手に入らないモノだった。


(…………兄貴と俺じゃ、次元が違うなあ……)


 心の中で自分に落胆しながらも、目の前の戦いを凝視し続ける。


 少しでも、アージュナに近付くために。



 

 ケーナとアージュナの猛攻が一度止まる。


 互いに大量の汗を流し、息切れを起こしながら態勢を立て直す。


 乾燥地帯の日照りがある日中は気温が上がり、尋常じゃない暑さになる。両者にはこの暑さで肉体に想像以上の負荷がかかっている。それを少しでも和らげるために一旦距離を取ったのだ。


「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ……」


 アージュナは息を上げ、久し振りに感じる暑さに体力を容赦なく取られていく。故郷とは言え、この暑さでの戦闘は未だに慣れない。


「ふー……、ふー……」


 それはケーナも同じで、少女の体にあれだけの激しい戦闘は厳しいものがある。いくら概念礼装で強化されているとは言え、暑さまではどうにならないのだ。


 互いに睨み合い、もう一度武器を構える。


「…………どうして魔法を使わない?」


 アージュナが静かに問う。


 先程の攻撃を撃てば、いくら素早いアージュナでも直撃は免れない。それなのにケーナはそれをしようとしない。疑問に思わないのも無理は無い話だ。


 ケーナは少し呼吸を整えてから、


「あれは、あくまで、大きい物、大勢、用。1人だけには、使わない」


 ケーナはあくまで大群、巨大な物のみにしかヴィナッシュ・シャクティ使わないという自分ルールを決めていた。虐殺をしたい訳ではなく、適切な場所と場合で使いたい思っているのだ。


 アージュナはその答えに少し安心したのと同時に、相手が本気を出していないことに少し憤りを感じた。


(なめられている訳じゃない。ただ、その程度だと思われているってだけだ)


 さっきの言葉は、裏を返せば、『目の前の自分はは大きい障害ではないと思っている』という事になる。


 今まで積んできた経験がまだ足りていないと否定されたような、そんな感覚に襲われる。


 自惚れているわけでも驕っているわけでもないが、確かに積んできたモノを、圧倒的な才能に真っ向から潰された感覚だ。


 アージュナは悔しさで奥歯を噛みしめ、剣を更に強く握る。


(それなら、無理にでもその高みに行くまでだ!!)


 眼を見開き、魔力を解放する。光を纏うようにして魔力が全身を覆っていく。


 それを見たケーナは眉をひそめる。


「そんな、少ない魔力で、どうする、つもり?」


 ケーナの言葉とアージュナの魔力を見て誰より驚いたのは、オルカだった。


「アージュナさん、あれで全開なんですか……?」


 魔力を扱う魔術師だからこそ分かる。アージュナの魔力量は同年代の平均の6分の1にも満たっていない。明らかに少な過ぎるのだ。


 バルアルは目を細くしながら、


「ああ、オルカ君には言ってなかったかな? アージュナは『後天性魔力欠乏症』、成長過程で魔力保有量が少なくなる障害を持っているんだ」


 オルカにとっては衝撃の事実だった。


 魔力は生命維持にも使われているエネルギーの一種だ。それが足りなくなるということは、一歩間違えれば死んでしまうという事になる。


 魔力を使い過ぎて死亡する例は今でも存在する。つまり、アージュナも下手をすれば


 

 死



「アージュナさん!!!!!」


 オルカは今までに無い程の大声を上げる。


 アージュナは後ろにいるオルカに視線だけを向け、少しだけ微笑んだ。視線をケーナに戻し、


「……行くぞ!!」


 魔力の開放で獣人の身体能力は底上げされ、全身に力が漲っている。


「宝剣、開放!! 『アプラジート』!!!」


 双剣にも魔力が流れ込み、魔力に答えるように剣が青く燃え始める。


 まるで太陽の様に眩しく燃え、真上の太陽よりも輝いていた。


 ケーナはあまりの眩しさに顔を隠してしまう。


(何だ、この、光? とても、危ない……!!?)


 あまりにも熱い日差しを浴びているにも関わらず、背筋が冷たくなる。それほどまでにあの双剣が危険だと感覚が訴えているのだ。


 剣の危険性を感じ取り、ケーナも魔力を解放する。か細い全身の筋肉が張り詰め、光沢を放ち始める。魔力が全身を潤沢に巡っている状態だ。


「……いいよ、相手、してあげる」


 ケーナは十数m後退し、アージュナから距離を取る。そして、大きく振りかざして槍を投げる態勢に入る。


「そっちは、一度しか、無理、でしょ?」

「……流石に分かるか」


 アージュナの少な過ぎる魔力では一回振るのが限界だ。それは本人もよく分かっている。


 アージュナは双剣を構え、駆け出す態勢に入る。


 互いに魔力を練り、最高のタイミングを計る。


 


 一方で、オルカは飛び出そうとしてバルアルに止められていた。


「どうして、どうして止めるんですか……!! アージュナさんが、死んでしまうかもしれないのに……!!」


「だからだよ、オルカ君。だから君を止めている」


 バルアルは真剣な表情でオルカを睨む。


「死を覚悟してアイツは決闘に出た。その覚悟を乗せた一撃を繰り出そうとしているのに邪魔をするなんて、アイツの思いを踏みにじるつもりかい?」

「でも、死んでしまったら元も子も……!」


 バルアルはニッと笑う。


「安心しろ。アージュナは死なない」




 アージュナとケーナの魔力が最大まで練り上げられる。


 そして、ほぼ同じタイミングで踏み込み、ぶつかり合うようにして一撃を放つ。


 


 『ヴィナッシュ・シャクティ』!!!!!


 『王の(トラヴィック)一閃(・ラミセーヌ)』!!!!!



 

 ケーナの熱線とアージュナの蒼炎がぶつかる。


 ぶつかり合いは衝撃となり、爆音、爆発となって、辺り一帯に大量の熱と爆風を撒き散らした。


 同時に、土煙が上がり、全員の視界を遮った。


 何もかも吹き飛ばすかのような爆風が後から襲い掛かり、軍では倒れる者、転ぶ者などが続出する。


 

 オルカは一瞬目を離した爆心地に視線を戻す。


 土煙の中、立っているのは、



 1人だけだ。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『決着、そして』

お楽しみに。


 もし気に入って頂けたなら、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ