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Ep.36 反乱軍、新たなS級


 内戦の始まり



「うう、うっく、ひっく……」


 中庭で一人で泣くオルカ。そこへ、


「大丈夫かい?」


 バルアルがやって来た。ハンカチを差し出し、涙を拭くよう促す。


「う、ぐ、うう。ううう……」


 オルカはまだ心が落ち着かず、どうしたらいいか分からないでいた。いい歳なのに、涙を拭う事すらままならない。


 バルアルは、ソッとオルカの背中をさする。


「大丈夫。ある程度泣けば落ち着く。だから、今は泣くだけ泣くといい」


 オルカはバルアルに身を任せ、子供が親に抱き着いて泣きじゃくるようにして泣き続ける。




 しばらくして、オルカは鼻をグズグズさせながら、ようやく話せる状態まで持ち直した。


「あ、ありがとうございました……。なんか、ごめんなさい……」


 バルアルのハンカチで涙と鼻水を拭きながら、お礼を言う。


「いいさ。それよりどうして泣いていたのか聞いてもいいかな? 同じギルドの一員として気になってね」


 オルカは下を向いて、ゆっくりと口を開く。


「さっき、アージュナさんのご友人の話を聞いた時、私は、アージュナさんにとって、その人の代わりなのかなって思ったら、凄く、悲しくなってしまって……」


 オルカは膝を抱えて俯いた。


「そしたら、何が何だか分からなくなって、胸が痛くて、辛くて、泣き出してしまったんです……」


 いつも以上に暗い表情をするオルカにバルアルは顔を覗き込みながら、


「なるほど。……オルカ君は、アージュナにそんな風に思われていたら嫌だと思ったんだね?」

「そう……なのかもしれません……」


 バルアルはフッと笑う。


「考え過ぎだな。アイツはそんな風に思っていない」

「そう、でしょうか……?」

「そうさ。知り合って5年、アイツのことはそれなりに分かっているつもりだ。ハッキリ言えるのは、アージュナという男は過去に囚われていない」

「過去に、囚われていない……?」


 聞きなれない言葉にオルカは疑問を浮かべる。バルアルはそれに答える。


「アイツは昔色々あったが、女性に関しては全て踏ん切りがついている。だからオルカ君を誰かと重ねたりはしない。何より、どんな人間に対しても真剣に向き合ってどう付き合うか決めている。できた奴なんだよ」

「そう、でしたか……」


 それを聞いてオルカは安堵した。だが、不安が拭えない。


「…………でもそれって、誰かを特別に思っていないって事ですよね……?」


 真っ直ぐに誰かと向き合い、公平に評価して、付き合い方を決める。ただ人がよく出来ているのだ。


 そんな人間が相手に好意を抱かせてしまうということはあるだろう。


 本人はその好意が欲しくて言ったわけではない。他意があった訳ではないのだ。


 オルカとの関係も、そういう物の可能性がある。考えるだけで恥ずかしくなってくる。


「………………」


 オルカの言葉に、バルアルは黙る。


「それなのに、私、もっと知りたいだなんて、勝手に悲しくなるだなんて、……気持ち悪いですよね……」


 今までの事は、全部独りよがりだ。


 勝手にそう思って、勝手に不安定になって、傍から見ればとんでもない勘違い女だ。そんな人間が、誰かの特別になろうだなんて、おこがましいにも程がある。


 オルカは更に膝を抱えて小さくなる。また、ふさぎ込もうとした。


 それを阻んだのは、バルアルだった。


 バルアルはオルカの両肩を掴み、無理矢理向き合わせる。


「アージュナの気持ちを確かめないで、勝手に決めつけるのは良くないな。そういうのは本人に聞いて確かめないと」


 バルアルは真っ直ぐオルカを見つめて、真剣な表情で言う。


「ば、バルさん……?」

「いいかいオルカ君。今言っていたことは全て君の妄想だ。現実じゃない。そんな物に囚われていたら、君は自分自身の手で自分の心を殺してしまう」

「……でも、本当だったら……」


 今にも潰れそうな声で反論する。


「その時はまた話し相手になる。そしてその先の話をしよう」


 バルアルはオルカから手を離し、肩に手を乗せる。


「大丈夫。俺だけじゃなく、スカァフやラシファも相談に乗ってくれるさ」


 そう言われて、オルカの心が少し、軽くなった。


「……あ、ありがとうございます……」


 弱々しいが、しっかりと感謝の言葉を伝える。


 オルカは立ち上がり、空を見上げる。


(私が、アージュナさんにどう思って貰いたいのか、ハッキリと伝えないと……。それにはまず……)


 思いを、言葉を、アージュナに伝えるために、今一度、心の整理を始めるのだった。



「………………」


 その様子を、ファンは黙って影から聞いていた。



 ・・・・・・



 翌朝


 

 晩餐会で聞くのは場違いだと思い、日を改めて聞く事にした。


 オルカもどう伝えるかしっかりと整理するために、ある意味好都合だった。


 ホテルで一晩休息を取ったオルカ達は、いつもの装備に着替え、ロビーに集合していた。


「この後王宮関係者迎えに来てくれる予定だ。それまで待つとしよう」


 バルアルはそう説明してロビーのソファに座り、コーヒーを注文して優雅に待機する。


 オルカとファンもソファに座り、待つことにした。


「そういえば、ルーさんとセティさんはどこに……?」

「ルーとセティなら王宮みたいっす。元々王宮勤めだって言ってましたよ」

「いつそんな会話を……」

「昨日ホテルで待っている間に」

「そうでしたか……」


 そんな会話をしていると、昨日城で見た執事の1人がこちらに駆け寄って来た。


「皆さま、お待たせしました。外で馬車をご用意していますので、どうぞこちらに」


 急かされながら馬車に乗せられ、城へ出発する。心なしか、昨日より早く進んでいる気がした。


(何でしょう……? 何かあったのでしょうか……?)



 ・・・・・・



 城に到着し、そのまま中へ通され、会議室に案内された。会議室にはアージュナ、セティ、ルー、ウシェス、セラスベルトゥ、ピールポティ、その他に高位の人物が3人いた。


 バルアルを先頭にオルカ達も礼をして挨拶する。


「おはようございます陛下。本日はどのようなご用件でしょうか」


 バルアルが頭を下げながら質問する。


「うむ。本日早朝、防壁から10㎞先に反乱軍と思われる集団が発見された。数は3000。敵の将は前任の将軍の息子『バーシュム』だと思われる。こちらにも5000の兵がいるが、お前達にも防衛戦に参加してもらいたいのだ」


 ウシェスは一気に概要を話した。防壁とはミンファスに入る前に通った巨大な壁のことだ。バルアルは少し顔を上げて、


「数はともかく、敵将の正体を何故ご存じなのかお聞きしても?」

「その事に関しては将軍、代弁せよ」

「はい、女王陛下」


 そう言って前に出て来たのは、セティよりも高身長で、ガッチリとした体型、オールバックの黒髪、褐色肌で紫色の鋭い眼、鼻の下に髭を生やし、まさに軍人と言った風貌の獣人だった。


 背筋を真っ直ぐ伸ばし、バルアル達に体を向ける。


「国軍元帥大将将軍の『ジェブ・プトレマイオス』だ。敵の大将、つまりリーダーに関しては以前から情報があった。しかし今日に至るまで確証が無かったので手が出せなかったのだ」

「なるほど。説明と言い訳は分かりました。しかし何故、前将軍の息子が反乱を?」


 ジェブは眉間にシワを寄せる。


「前将軍『ドゥーラヤードン』は高齢と腰痛の悪化、持病の再発などがあって退役したのだが、息子のバーシュムが国の謀略で貶められたと言いがかりを付けに来たことがあってな、おそらくそれが理由かと……」


 溜め息をつきたい様子からして、かなり手を焼いたように見えた。それを見たバルアルは、


「そして昨日の王女誕生に反発して反乱軍を率いてここまで来た、と。……事前にどうにかできなかったのですか?」

「この国の貴族達は一枚岩ではないのだ。古いしきたりに縛られた愚かな連中が特にな」


 悪態をついたのは、シマウマの獣人で、腰が曲がった年老いた男性だ。


「自己紹介がまだじゃったな。ワシは宰相の『シャー』じゃ」


 視線をバルアル達に向けて自己紹介する。


「さっきの話の続きじゃが、あそこまで大規模な反乱軍が編成できたのは、バーシュムに同調、あるいは後押しした貴族がいたからじゃ。下手に手を出せば色々と妨害工作されるから後手になってしまったんじゃ」


 色々と聞いたバルアルは少し考え、


「ご説明ありがとうございます。説明を聞いて納得がいきましたので、防衛戦の件、喜んでお受けします」

「そうか。ならば早速で悪いが防壁へ向かってくれ。他にもラグナ商会が手を貸すとの話がついている。合流次第作戦や役割を話し合ってくれ」

「その前に、報酬の金額を決めておきたいのですが」


 バルアルは物怖じせず要求した。しかしここで決めておかないと、後から報酬交渉でいざこざが起きる可能性がある。それが例え相手が王族であってもやり方を変えない。


 ウシェスはフッと笑い、


「そうだな。ならば防衛に成功した場合の報酬は1人100万、追加で敵を倒した数に応じて上乗せしよう」


 この国の100万は他の国でも同等、同価値である。しかもC級冒険者の年収より高い金額だ。更に上乗せになるならとんでもない金額になる。


 バルアルは条件に納得し、


「ありがとうございます。では細かい部分を詰めさせて下さい」


 とりあえず快諾した。後ろにいるオルカとファンからしてみれば、一歩間違えれば処刑されかねない状況だったので冷や汗が大量に出ていた。


 バルアルの要求にウシェスも承諾する。


「良かろう。『テファヌット』、すぐに書類を用意せよ」

「かしこまりました」


 テファヌットと呼ばれた獣人の女性は急いで書類を取りに向かう。


「すぐに済む。アージュナ達も準備を」

「あ、アージュナさんも出るんですか……?」


 オルカが不意に質問してしまった。


「戦力は多いに越したことはないからな。本当は私も出たいところだが……」

「「絶対に止めて下さい」」

「とまあ将軍と宰相に止められておるのだ。仕方なし」


 ウシェスは残念そうに言っているが、将軍と宰相はあまりの無鉄砲さに呆れかえっていた。



 そこへ、1人の兵士が会議室に飛び込んできた。


「し、失礼します!! 緊急事態につきご無礼をお許しください!!」


 あまりの慌てようからして、相当な事が起きたのだろう。ウシェスは鋭い眼差しで兵士を見る。


「何があった?」



「は! 敵の遠距離攻撃により、防壁に甚大な損傷!! 負傷者多数とのことです!!」



 会議室全体に緊張が走る。さっきまで余裕のあった雰囲気は消し飛び、重圧と緊迫した空気が充満する。


「……原因はなんだ?」


 ウシェスは動揺せずに聞く。ここでリーダーが取り乱してはいけない。取り乱せば士気に影響する。


 兵士は震える体で、


「い、一名の、冒険者の、魔法攻撃です。凄まじい威力の、熱線で防壁が、吹き飛んだと……」


 その話を聞いて、バルアルの表情が曇る。


「……その冒険者、槍使いか?」

「は、はい。後、黄金の甲冑と耳輪を付けていたとの報告もあります」


 バルアルは特徴を聞いた直後、頭を抱えた。


「最悪だ……。よりにもよってアイツか……」

「だ、誰なんですか……?」


 オルカの質問に、バルアルは頭を抱えながら答える。


「……S級冒険者、『陽の神宝』ケーナ。ソロで多人数を殲滅する、対軍のスペシャリストだ」








お読みいただきありがとうございました。


次回は『ケーナVSアージュナ』

お楽しみに。


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