表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/117

Ep.34 獣国王女革命


日は落ち、新たなる幕開けが始まる。



 オルカの施術は2時間で終了し、全員がクタクタになって出て来た。


 想像以上に魔力回路の修復に神経を使い、施術されている方も体力を消耗していた。


 施術は無事に成功したため、オルカの体は全快した。さっきまで動けなかったのが嘘のように動ける。


「な、何とか治りましたね……」

「疲れたよ全く……」

「いやあ、しんどかったですねえ……」


 3人は外へ出て新鮮な空気を吸う。熱いがとても澄んだ空気だ。


「乾燥地帯なのに、空気が美味しいですね……」


 オルカが感想を言うと、ヘルウィンがズイッと顔を近付ける。


「そうでしょうそうでしょう。私の研究成果の一つですから、存分に堪能して下さい」


 得意げに自慢するヘルウィンにちょっと引いたオルカだったが、それと同時に汗が出て来た。


「あれ……? 何か、汗が……」


 全身が熱風に晒され、ドンドン体温が上昇し、尋常ではない量の汗が噴き出す。ハルンはオルカの体調の変化に気付き、【異空間収納】から水の入った袋を手渡す。


「今まで涼しい所にいたからな。急に暑くなって身体が順応しようとしているんだろう。平均気温が異様に高いから水分補給はこまめにな」

「あ、ありがとうございます……」


 すぐに水を飲むが、あっという間に汗でビショビショになってしまった服はどうしようもない。そこへ、王宮のメイドがやってくる。


「失礼します。オルカ様、お着換えの準備ができております」

「着替え、ですか……?」

「はい。ウシェス王女が必要になると仰っておりましたので」


 オルカの服装は冒険者用の服装で、通気性は良くない。それを見越してウシェスはオルカの着替えを用意していたのだ。


 オルカは好意を無下にできる性格ではないので、


「わ、分かりました……。よろしくお願いします……」


 着替えるためにメイドに連れられて行った。


 残された2人は、互いに顔を見合わせ、


「我々はお暇しますか」

「仕事は終わりましたし、そうしましょう」


 ハルンとヘルウィンは王宮を後にした。



 ・・・・・・



 夕方


 

 先にホテルへ移動したバルアル、ファン、ルーはオルカ達の到着をロビーで待っていた。


 ホテルはオアシスがある中庭を中心に作られた一階建てのレンガ造りで、天井は5mと高く造られている。装飾も綺麗で、ガードマンが配置されて安全面もしっかりしている。サービスも充実しており、従業員も丁寧に対応してくれて、とても快適だ。


 バルアルがロビーでグラスに入った飲み物を飲んでくつろいでいると、隣にいるファンが話しかける。


「兄貴たち、まだ来ないっすね」

「お前達だけでも街に出ても良かったんだぞ? 合流するだけなら俺一人でもいいからな」

「そういう訳にはいかないっすよ。俺だけ街に遊びに行っても楽しくないっすから」

「……それでいいならいいが」


 バルアルは再び飲み物を飲む。


「お、お待たせしました……」


 バルアルの後ろからオルカの声が聞こえた。


「やあ、無事に治療が終わったみたいだね。具合はいいのか……」


 振り返ったバルアルの動きが止まる。


「? どうしたんすか……」


 ファンも釣られてオルカの方を見て、ファンも動きが止まる。



 オルカの服装が、奇抜なドレスになっていたのだ。


 紫色のオフショルダーで袖なし、上半身はお尻上部ギリギリまでボディコンのピッタリとしたフォルム、下半身は歩くのに邪魔にならない長さの丈で調節されたスリットの入ったドレスだ。


 歩きやすい厚底ヒールの靴を履いており、いつものとんがり帽子は後方にいるメイドが持っていた。


 オルカ自身滅茶苦茶恥ずかしい表情をして前を隠そうとしていたが、スカァフの一撃のせいで猫背ができない体にされたため、胸を張った状態で歩くしかできない。


 

 そんな刺激が強すぎるオルカの格好を見たファンはたまらず鼻を押さえた。バルアルは口元を押さえていた。


「ど、どうしたんだその格好……? まるで今からパーティーに行くみたいじゃないか」


 バルアルは口元を押さえながら質問する。多分笑っている。


「わ、私にも分かりません……。着替えが、これしか用意されていなかったみたいで……」


 今にも泣きそうな表情で答えるオルカ。ルーがオルカに近寄り、


「とっても素敵ですよ!」


 一言褒めてくれた。


「あ、ありがとうございます……」


 微妙な空気になったが、バルアルが気を取り直してソファから立ち上がる。


「それじゃあ時間も無いし、適当に街の観光名所でも回るか」

「えっと、アージュナさんは……?」


 オルカはまだ来ていないアージュナのことを気にする。


「あいつは……、晩餐会の時に合流だろうから、待っていても仕方ないさ」

「そ、そうですか……」


 オルカは折角皆で回れると思っていただけに、少し残念な気持ちになった。


 バルアルは従業員にグラスを返し、鼻を押さえるファンを立たせる。


「そら、急ぐぞ。この街の景色は綺麗なんだ。暗くなったら見えなくなる」

「う、うっす……」

「お供します!!」


 ファンとルーはそれぞれ返事をしてバルアルに付いていく。オルカもその後を追った。



 夕焼けで輝き始める街を歩いて進み、街全体を見渡せる高台へ向かう。


 街はこの時間になると、帰宅する人でごった返す。バルアルは先頭に立って、存在しているだけで威嚇しているかのような威圧感を出して進んでくれるおかげで、絡まれることはなかった。


 高台までそこまで時間はかからず、あっという間に到着した。


 そこは元々民族戦争が多かった時代に建てられたピラミッド型の建造物で、高さは王宮の城よりも低いが、他の建物よりは大きい。この街で2番目に高い存在だ。


 高台の頂上まで馬車があるので、それに乗って螺旋式で上がっていく。道路がしっかりしているおかげで高速で進み、30分程度で到着した。


 高台には観光で来た人がちらほらいるだけで、他には転落防止用の柵があるだけだった。


 しかし、そこから見渡す街の光景は大変素晴らしい物だった。


 夕焼けで真っ赤に染まる街はとても幻想的で、街を囲む高い壁も輝いていた。さっきまでいた城も燃えるような赤に染まり、最初に見た時とはまた違った趣があった。



 オルカはその光景に感動しながら柵に寄りかかって眺める。


「綺麗……」


 風に吹かれ、髪をなびかせながら感想を零した。


「オルカは前にも来たことが?」


 バルアルが隣にやって来て話しかける。


「はい……。前に依頼で来たことがありまして、その時は忙しくて全然観光なんてできませんでした……」


 寂しそうな表情をして、城の方を振り向く。


「アージュナさんは、あそこからこの街を見ていたのでしょうか……?」

「かもな。まあ、あまり回数は無いかもしれないが」

「? それは一体…………」


 バルアルの発言の意味を聞く前に、ファンが割り込んでくる。


「姉さんの服装、めっちゃ映えてるっす! 素敵っすよ」


 ファンはさっきまで目を逸らしていたが、今はもう慣れたのか、真っ直ぐ見ている。


「あ、ありがとうございます……」


 オルカは少しびっくりしたが、素直にお礼を言った。直後、ファンはバルアルに耳を引っ張られた。


「空気を読むべきじゃないか、ファン君? 今のは間が悪すぎるというものだ」

「イデデデデデ!!? すいませんすいません!!」


 ルーも呆れて溜息をつく。


「ダメダメですね」

「やかましい!!」


 目の前で繰り広げられるやり取りに、オルカは思わず笑ってしまった。


 そこへ、


「やあ、オルカさん」


 近付いてくる男が1人。それは、


「ムササビさん……。こんにちは」


 ムササビだった。服装がさっきまでの物と違い、少々派手な装飾をしたタキシードジャケットを着ている。


 ムササビはオルカ達に速足で近付く。


「皆さんお揃い、という訳ではありませんね。アージュナ様はどちらに?」

「えっと、それは……」


 アージュナの存在があまり認知されていないので、オルカは何と説明したらいいか迷っていると、


「それはアンタが一番よく分かってるんじゃないか?」


 バルアルが割って入る。ムササビは笑みを浮かべて、


「……その様子だと、私の事を知ってらっしゃるようで」

「まあな。こちらも色々とパイプがあるので」


 2人の間にただならぬ空気が流れる。


 オルカはどうすればいいのか分からず、オロオロするしかなかった。


「そ、そう言えばムササビさんはどうしてこっちに?!」


 それを見かねたファンが、慌てて割って入る。バルアルは大人しく下がり、ムササビも切り替えることにした。


「そうでした。実は私も晩餐会に呼ばれておりまして、皆さんと一緒に向かおうかと思ったのです」


 にこやかに説明するムササビ。それに対し、


「それはいいですが、どうしてここに我々がいると?」


 ルーが最もな質問をする。


「偶然です。私もここの景色を見たくて来たんです。そしたら皆さんをお見かけしたもので」


 笑顔で言い切るムササビにルーは少し疑念を抱きながらも、納得することにした。


「……そうですか。そろそろお時間になりますし、一度降りましょう」


 ルーがそう言うと、太陽が壁の向こうに沈み、完全に見えなくなった。もうすぐ夜になる。


「そうだな。一緒に行く提案には乗るとしよう」


 バルアルの返答に、ムササビが笑みを浮かべる。


「馬車を待たせていますので、どうぞこちらへ」



 ・・・・・・



 オルカ達はムササビの用意した馬車に乗って、晩餐会の会場である離宮へと向かう。馬車は2台で、オルカ・バルアル・メイド、ファン・ルー・ムササビの分担で乗っている。


 離宮も大層立派な建物で、王宮に見劣りしない外装をしている。


 離宮には他にも身分の高そうな獣人達が集まっていた。おかげで離宮の前には豪華な馬車でごった返している。


「な、何でしょうか。この人数は……?」

「なに、すぐに分かるさ」


 バルアルがソワソワするオルカを宥める。


 

 ようやく離宮に入った時には、沢山の貴族が集まり、凄く豪華な空間に仕上がっていた。煌びやかで、気品がある空気にオルカは今にも倒れそうだった。


(うう、この空気、苦手です……)


 ふらつくオルカをバルアルが咄嗟に支えた。出遅れたファンは少しだけ機嫌を悪くする。


 バルアルはオルカの肩を掴み、ゆっくり立たせる。


「大丈夫さ。俺がいる」


 心強い一言に押され、しっかりと背筋を伸ばし、前へ進む。


 多少目立って視線を集めているが、そこは我慢して進み続ける。そして、門を通り、案内役の従者の前まで辿り着く。従者は一礼して、


「『漆黒の六枚翼』の皆様、ようこそ離宮へ。テーブルへご案内します」


 顔を見て誰なのかを判別し、スムーズに案内を進める。ムササビとはここで分かれる事になる。


 案内された場所は、大勢が入れる巨大な空間の大広間で、奥にはステージもある。中には円状テーブルと複数の椅子がセットになっていくつも配置されている。


 オルカ達のテーブルは、少し後方であまり目立たない位置だった。全員席に着き、他の来賓が着席するまで待つ。


「(何か、物々しい雰囲気っすね)」

「(そうですね……)」


 ファンとオルカは小声で話し、普通ではない慣れない状況に少し動揺していた。一方でバルアルは平然としていた。



 暫くして、テーブルの席が全て埋まり、全員が集まったのが確認された。


 大広間の奥にあるステージにスポットライトが集まり、そこへウシェスが姿を現した。その後ろにはセラスベルトゥとピールポティ、礼服を来たアージュナの姿があった。


 ウシェスが手で合図をすると、魔導通信機のマイクと台がウシェスの前に設置された。マイクの確認をし、ウシェスが一歩前に出る。


『諸君、多忙のところ、我が晩餐会に集まってくれたことに感謝する』


 挨拶が始まり、全員がウシェスに注目する。声はマイクが拾い、会場全体に声が響き渡る。


『本来なら、我が父パナディ王が挨拶するところなのだが、残念な事に、病に倒れ会話もろくにできない状態にある』


 淡々と、されど力強く発言する姿には、目を奪われるものがあった。これが王の威厳なのだろう。


『回復の見込みのない今、我々王族は話し合いの末、ある一つの結論に至った』


 ここで、王女達の空気が変わった。オルカにも分かるくらいハッキリとしたものだ。


 ウシェスは少し溜め、



『現時刻を持って、我、ウシェス・アサラス・ファリアがアストゥム獣国の王となることを、ここに宣言する!!』



 集まった者達が一斉にざわつき始める。


 獣国の歴史の中で、女性が王になった例は一度もない。前例のない発表に全員が驚きを隠せなかったのだ。


 ウシェスは手を挙げ、


『静粛に!』


 一喝して場のざわめきを静かにさせる。


『皆が驚くのも無理は無い。しかし安心せよ。我の手腕を持ってして、この国の更なる発展と絶対的な安泰を約束しよう!!』


 両手を天に掲げ、


『これは革命である!! 新時代の王として! 新たなる獣国の未来を築いてみせよう!!』


 声高らかに宣誓するのだった。



 この声は獣国全土、四国同盟の主要機関にリアルタイムで届けられた。



 新たな獣国の始まりであり、反乱の始まりにもなるのだった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『女王生誕と反乱因子』

お楽しみに。


もし気に入って頂けたなら、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ