表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/117

Ep.33 本格治療と過去の清算


治療、そして、アージュナの過去と清算



 ヘルウィンと再会したオルカ


 その様子を交互に見るアージュナがいた。


「知り合い?」


 アージュナが気になって質問する。


「あ、えっと、魔術協会に所属している魔術師のヘルウィンさんです……」


 紹介されたヘルウィンは頭を下げて挨拶する。


「初めましてアージュナ殿下。私は宮廷魔術師を任されております、ヘルウィン・O・ランタンと申します。どうかお見知りおきを」

「あ、ああ。よろしく」


 ヘルウィンの丁寧な挨拶に戸惑いながら、アージュナも挨拶をした。


「…………そろそろいいですか?」


 奥からハルンが顔を出す。気だるそうにしながら前に出て来る。


「同じく宮廷魔術師のハルン・ステインです。よろしくお願いいたします」


 2人は深々と頭を下げてアージュナに挨拶した。


 そうしていると、隣にいたウシェスが、


「うむ! 挨拶はそれくらいで良かろう! 早速で悪いが、オルカ殿とセティを治してやってくれ!」


 大きな声でハルンに頼む。


「分かりました。じゃあ失礼しますよ」


 ハルンはまずセティに近付く。


「待て、私はもう治りかけている。先にオルカ殿を……」

「緊急でもない限りは時間のかからない方を優先する主義ですので。さっさと終わりますからちょっと黙ってて下さいね」


 そう言ってハルンは空中に魔法陣を展開し、セティに向ける。魔法陣がセティの身体を包むように通過し、全身を魔力で包み込んだ。


 ハルンの治癒魔術の特徴は、従来の内側から魔力を通して自然治癒を利用した治療法ではなく、外から魔力を浸透させ、細胞レベルで手術していく治療法だということだ。


 肌から魔力が染み込み、治療が必要な部位に到達すると施術を開始する。セティの場合怪我なので、細胞を縫合し、塞いでいく。肉体、神経にそれを何度も繰り返し、まるで針の穴に糸をすんなり入れていくかのように一つ一つ丁寧に施術を進めていく。そんな緻密な作業をたった数分で終わらせてみせた。


 ハルンはフウッと息を吐いた。


「完了です。もう動いてもいいですよ」


 そう言われてセティが動くと、何の問題も無く動けるようになっていた。痛みや違和感は無く、怪我をする前と同じ様に動ける状態だ。


 セティは問題が無いか動作確認をし、問題無いことを確信した。


「…………問題ありません。ありがとうございますハルン殿」


 セティは一礼して礼を言った。ハルンは手をヒラヒラさせながら、


「どういたしまして。じゃあ次はオルカさん」


 オルカの方を向いて近付く。オルカの全身をしばらく眺める。


「聞いていた状態よりは少し良いみたいですが、まだまだ全快には程遠いですね。別室で治療したいのですがよろしいでしょうか?」


 ウシェスの方を向いて質問すると、ウシェスは頷いて、


「うむ! 必要ならば仕方あるまい! しっかり治すように!」

「仰せのままに」


 話を聞いた魔術師がオルカを移動させるために移動しようと立ち上がる。そこへヘルウィンが立ちふさがる。


「おっと、ここからは私が。長い期間ありがとうございました」


 ヘルウィンは魔術師からオルカの移動役を引き継いだ。


 オルカはハルン、ヘルウィンと共に部屋を後にしようとする。


「オルカ!」


 アージュナが声を掛けて引き留めた。


「後で迎えに行く。治療、頑張るんだぞ」


 優しく応援し、オルカに微笑みかけた。


「……ありがとう、ございます……」


 オルカもニコッと微笑み、ハルン達に連れて行かれるのだった。


 扉が閉まり、見送ったアージュナにピールポティが近付く。


「なるほど~。彼女を気に掛けている理由、理解しましたあ」


 ニコニコと微笑みながら喋るピールポティにアージュナは鋭い視線を向ける。


「どういう意味でしょうか?」

「ここでは話せません。2人ッきりの時にでも、この話をしましょう」


 どこか影を感じる物言いで呟き、すぐに離れて行った。そのままバルアル達の方に向かい、改めて挨拶していた。


 そこに、ドアをノックする音が聞こえた。


「ウシェス王女様! よろしいでしょうか?」


 後から聞こえたのは、入室許可を貰う兵士の声だ。


「入れ」


 ウシェスはさっきまでの男勝りな雰囲気が切り替わり、王女として凛々しい振る舞いになった。兵士が扉を開けて入り、敬礼をする。


「会議の時間が迫っておりますので、お知らせに参りました」

「そうか」


 ウシェスはアージュナ達の方を向く。


「申し訳ないが、私はこれから会議に出なければならない。ここでずっと待っているのも退屈であろう。なので、客人方は我々が用意したホテルへ移動してもらう。後から我らも向かう故、晩餐の時にまた会おう」


 それだけ言い残してウシェス達三王女は部屋を出て行くのだった。


 残されたアージュナ、セティ、ファン、バルアルは、近くにいたセバスティアンに話しかけられた。


「すぐにでもホテルへご案内できますが、いかがいたしましょうか?」

「オルカの治療にはどれくらいかかる?」


 バルアルがセバスティアンに質問する。


「少々お待ちください」


 すぐに通信機器を使って連絡を取り、オルカの治療が終わる時間を確認する。しばらくして、通信が終了した。


「お待たせしました。およそ2時間かかるそうです」

「そうか……。なら、ホテルに移動がてら街でも散策しようか」

「いいですね!」


 ファンは初めて来る街だったので、是非見てみたかっため乗り気だった。


「私も一緒です! 護衛はお任せ下さい!」


 今まで空気だったルーが尻尾を振って元気にアピールする。


「じゃあ俺も……」


 アージュナも行こうとした時、


「アージュナ様、セラスベルトゥ様がお話したい事があるそうです」


 メイドに呼び止められた。


「…………分かった。すぐ行く」

「お供致します」


 アージュナとセティはメイドに案内されて行った。


 見送ったバルアルは立ち上がり、


「それじゃあ早速ホテルに案内してもらおうかな?」

「かしこまりました」


 セバスティアン、ファン、ルーと共にホテルへ移動を開始した。



 ・・・・・・



 オルカは城の奥へ連れて行かれ、『治療室』と書かれた部屋に入った。


 部屋は治療に使う薬や医療道具が置いてあり、物々しい雰囲気があった。部屋の中央には、大きな手術台があった。オルカはそこに寝かせられる。


「あ、あの、私はこれからどうなるのでしょうか……?」


 オルカが不安そうに質問する。オルカはデバフや薬に関しては詳しいが、それ以外の事はあまり詳しくはない。なので何をされるかサッパリ見当が付かないのだ。


 ハルンは寝かせたオルカを見ながら、


「何故自分の所に連れてこられたのか不思議な位重傷なんですよ。普通なら魔術師を諦めています。……どういう神経構造してるんですか貴方……」


 片手で頭を抱えて、カルテを確認していた。オルカは苦笑いするしかなかった。


(そういえば、スカァフさんが専門の方を知っているって言ってましたけど、あの話はどうなったんでしょうか……?)


 そんな事を考えている内に、ヘルウィンが魔法で植物を生成し、果物を山ほど作っていた。


「な、何をしてるんですか……?」


 オルカが恐る恐る聞く。


「これですか? 今回の治療ではオルカ女史に体力的に相当負担をかけますので、常時栄養補給できる準備をしているのです」

「え」


 ヘルウィンの説明に不穏な物を感じた。


「仕方ないでしょう。魔力回路を治すってあまり例が無いんです。ですから、どうしても負担の大きい古典的な方法を少し応用しただけのやり方しかできないんです」

「そ、そんなあ……」


 ハルンの説明にオルカは肩を落とした。


「さあさあ、時間も無いのでとっとと終わらせますよ」

「ひえええええ……」


 気が抜けそうなオルカの声が、治療室に木霊するのだった。



 ・・・・・・



 城の上層、正確には何階か分からない部屋にアージュナは案内されていた。


 防衛の都合上、こういった複雑な構造にして、半分隠し部屋の様な場所がいくつもある。アージュナがまだいた時には無かったので、新たに増改築をした部屋なのだとアージュナは思った。


 その部屋にセラスベルトゥとピールポティがいた。執事はセラスベルトゥの視線で指示を受け取り、部屋を出た。3人だけになり、


「…………今まですまなかった」


 最初に口をセラスベルトゥだった。本当に申し訳なさそうな表情で謝罪を口にしたのだ。


「立場上、表立ってお前を庇ってやることが出来なかった。辛い思いをさせて、本当に申し訳なかった」


 セラスベルトゥとピールポティは深々と頭を下げる。


 アージュナは奥歯で歯ぎしりをして、


「今更遅いんだよ!! そんなことされても、母さんとウルパはもう帰って来ない!!」


 2人を怒鳴りつけた。両手を血が出んばかりに握り、怒りを露にしていた。セラスベルトゥとピールポティは頭を上げるが、顔は下を向いたままだった。


「……お前の母、カンティ様を病死させ、幼馴染であったウルパを誤って死なせた父の蛮行は私達も許していない。しかし、その責任は私達にもある」

「ええ、男の子が生まれなかったせいで、父であるパナディ王は当時メイドだった貴方の母と無理矢理子を設けた。そして、貴方が生まれた」



 アージュナとウシェス達と違う名、『ヌウト』と『アサラス』は、異母だから違うのだ。



 当時の王妃とは女の子しか生まれず、跡継ぎとして不十分だった。パナディ王はその事に頭を悩ませていたそんな時、メイドだったアージュナの母『カンティ』に手を出し、アージュナが誕生した。


 その不貞を隠すためにパナディ王はカンティを無実の罪で王宮から追放した。カンティとアージュナは極貧生活を余儀なくされ、辛い毎日を過ごしていた。


 カンティはアージュナが7歳の時に病に倒れ、そのまま亡くなった。


 アージュナの存在を知った王妃は、王を説得してアージュナを第4王子として向かい入れ、英才教育を施すことに。しかし、教育係だった将軍や教師達はアージュナのことを良く思わず、酷い虐めを裏で行った。


 それでもくじけなかったのは、王妃と専属護衛のセティがいたからだ。慰め、励ましてアージュナの精神を支えた。たまに王女達とも交流があったが、上層部が良く思わず、数回しか会えなかった。


 アージュナが13の時、事件が起こった。


 アージュナが7歳までいた街で反乱軍が占拠したという情報が入り、軍が派遣された。しかしその情報はデマであり、城にいた上層部がついた嘘だったのだ。狙いはいつまでも挫けないアージュナへの嫌がらせ、軍の必要性のアピールのためだ。


 王は上層部の話を鵜吞みにし、街ごと殲滅した。


 アージュナは城を抜けだし、街へ駆けつけた時には、瓦礫の山だった。その時に7歳まで幼馴染として仲が良かった『ウルパ』も死亡した。


 その時王は、アージュナに謝ることは無く、無理矢理正当化して揉み消したのだ。


 アージュナは獣国に嫌気が差し、その後王妃が急死したのを機に、15の時に王宮を出たのだった。




 それから6年、今更頭を下げられても遅いと言っても仕方がない程、時間が経過していた。


 

「今更謝っても遅いとは思う。しかし、王族の一員として、どうか謝らせて欲しい。本当に申し訳なかった」


 再び2人は頭を下げた。


 しかし、アージュナの心の中にある憎悪は、そう簡単に消える物では無い。


「アンタ達から謝罪されたって何も変わらない。例えあのクソ野郎から謝られても納得しないがな」


 傍にいたセティも同じ感情だった。あれだけの事をしておいて、他の人が謝っても何も解決にはならないし、遺恨は消えない。不敬だと分かっていても睨まずにはいられなかった。


 この感情をさっきまで表に出さなかったのは、『漆黒の六枚翼』の皆や無関係の人達がいたし、そもそも無関係だった王女達に恨みつらみをぶつけるのは筋違いだからだ。


 しかし、この話題を出されれば話は別。決して許す事はできない。


 アージュナは2人に背を向けて、


「話がそれだけなら、俺はもう帰るぜ」

「お待ちなさいアージュナ。本題はここからです」


 セラスベルトゥは立ち去ろうとするアージュナ達を引き留めた。アージュナ達は振り返る。


「……どういう事だ?」

「さっきウシェス姉様が仰っていただろう。原因は全て排除したと」

「そんな事を言ってましたね……」



「お前を虐めていた将軍と教師、そして上層部をこの6年をかけて王宮から全員追放したのだ。我が父、パナディ王も事実上の引退にまで追い込んだ」


 

 セラスベルトゥから衝撃の内容が飛び出した。もし本当ならば、事実上のクーデターである。


 アージュナはどこかそうではないかと思っていた。


 王ではなく王女達が出迎え、王宮の中で将軍や上層部と誰とも会わなかったし、王の仕事を第1王女が行っていた。普通に考えれば有り得ない事だったのだ。


「ほ、本当にそんな事が……?!」


 驚きのあまりセティには冷や汗が出ていた。


「もちろん本当だとも。だがまだ終わってはいない」


 セラスベルトゥとピールポティは不敵に笑う。



「アージュナが戻って来た今、我らが王権を獲得する」







お読みいただきありがとうございました。


次回は『獣国王女革命』

お楽しみに。


もし気に入って頂けたなら、広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価、感想、レビュー、ブックマーク登録をよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ