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Ep.30 獣国へ


新たな舞台へ



 アージュナに連絡が来て2日後



 本当にアストゥム獣国からの迎えが来た。


 獣国の国旗紋章が入った大型の馬車が5台、馬車一台につき4名の騎士の護衛、それぞれのための使用人が2名ずつ、医師に料理人など、至れり尽くせりとはまさにこの事だろう。


 昨日中に全員に報告していたのでとりあえずの準備は出来ていたが、ここまで大掛かりとは思ってもみなかった。


 病院の前に止まっているため、かなり目立っており、アージュナは眉をひそめていた。


「まさかここまでとは……」


 その隣でファンが豪華な馬車に感動していた。


「凄いっすね……!! こんな馬車初めて見るっすよ!!」

「そりゃどうも……」


 呆れながら答えていると、病院からセティとオルカが【浮遊魔法】で浮いた状態で運び出されていた。シャボン玉の様な【結界魔術】で保護されているためシャボン玉の中で浮いているように見える。


 オルカは目新しい魔法と魔術に目を輝かせていた。


「これは、凄いですね……。魔道具でここまでできるのは中々無いですよ……?」


 オルカ達を搬送しているのは魔導具を持った魔術師だ。ステッキの様な魔導具一つで2人を浮かせているのだ。


「この結界は、必要な外気だけを取り入れて中にある汚れた空気を吐き出すことができる仕組みになっているんですね……。しかも、ロングボウや中級攻撃魔法に対する防御術式も施されている……。それだけではなく、少量の魔力量で運用できるよう回路にも工夫がされています……。他にも……」


 興奮のあまり独り言が炸裂していた。


 搬送している魔術師はちょっと引いていたが、アージュナとファンは、


「久し振りに見たな」

「楽しそうで何よりっす」


 微笑んみながら眺めていた。


「皆さん集まってますね」


 ラシファがバルアルとスカァフを連れて現れた。


「「ギルドマスター」」

「『漆黒の六枚翼』全員で獣国に向かいたいのですが、私とスカァフは所用があって付いていくことはできません。なので、バルアル、アージュナ、ファンバーファ、セティ、オルカのメンバーで向かってください。王室からのご招待なので、くれぐれも失礼のないように」

「「了解!!」」


 アージュナとファンはしっかりと返事をし、気を引き締めていることを確認出来たラシファは微笑んでいた。


 少し離れた場所にいたオルカは、


(王族のお誘いより大事な用事って、何でしょう……?)


 と疑問に感じながら馬車に乗せられていた。



 ・・・・・・



 ラシファとスカァフに見送られ、ハナバキーを出発した。


 街から南へと進み、森を抜け、平地を進み続ける。道中はセティとオルカの容態を診る医師がこまめに確認しに来てくれたり、魔獣が出て来た時には騎士が迅速に対処した。食事も料理人が腕を奮って豪華な物を用意してくれた。


 馬車の中は一国の最高級品なだけあって、豪華であり快適、多機能で充実していた。



 そしてハナバキーから出発して3日、ようやく国境付近までやって来た。


 怪我人を乗せているため慎重に進んでいるせいでもあるが、単純に距離もあるのでこれだけの日数がかかった。


 連邦と獣国の国境付近は険しい山道が続き、馬車一台分の幅の曲がりくねった道を進まなければならない。ここも慎重に進み、十分に警戒して進む。


 オルカは馬車の窓から外を見ていた。


(獣国に来るのは久し振りだなあ……。前に来たのは依頼で、5年位前だったかな……)


 ぼんやり眺めていると、


「どうかされましたか? オルカ様」


 付き人であるメイドで獣人の女性が話しかけてきた。


「あ、いえ……。外の風景を見てただけです……」

「左様でしたか」


 メイドはすぐに黙ってしまった。何だか気まずい空気が流れる。


(うう……。この人、話が続かないというか、付き人として忠実というか、とにかく空気が固いなあ……)


 黙っていてもたまに声を掛けてくるので、この気まずい空気が継続している。


(まあ、目を閉じていればソッとしておいてくれるからいいんだけど……)


 もう一人の付き人もメイドの獣人女性で、こっちはこっちで懐中時計を握りしめて時間を計測して決められた時間にのみ動き出して忠実にこなすタイプだ。なので迷惑はしていない。


 魔術師も隣にいるが、話す気配はまるで無い。


 なので、気が休まるのは馬の休憩時間のみだ。その時にはアージュナ達と話せるので、この思い空気から解放される。


 後2時間もすれば休憩に入るので、それまでの我慢だと心の中で言い聞かせる。




 その直後、馬の鳴き声と共に馬車が急停止した。


 振動でいくらか揺れたが、大した問題では無かった。咄嗟に目の前にいたメイドが真顔で倒れないように寄りかかって来たのには驚いたが。


「大丈夫ですか?」


 表情を崩さず聞いてくるので少々不気味だった。


「は、はい。大丈夫です……」


 懐中時計を持っているメイドが御者の方の小窓を開ける。


「何があったのですか?」

「そ、それが、目の前の馬車がいきなり止まりまして……」

「原因は?」

「ただいま伝達待ちです」

「分かり次第報告を」


 メイドは小窓を閉めて懐中時計を確認する。


「申し訳ありませんオルカ様、緊急事態のため30分程度予定が遅延します」

「は、はい……」


 キビキビ言うメイドに圧倒されながら何とか答える。




 しばらくして、騎士が馬車の扉をノックする。


「失礼します。前方で商会の馬車の車輪が破損し立往生していたため急停止しておりましたが、こちらの予備の車輪を取り付けて再発進できるようになったため、移動を再開致します。長らくお待たせして申し訳ありません」

「よく分かりました。先頭の紹介の馬車には早々に進む様にお伝えください」

「は!」


 騎士は敬礼して配置に戻って行った。


(良かった……。ここで立ち往生は嫌ですから……)


 昔ここで『ソイルワイバーン』に襲われたのを思い出しながら、少しばかり眠りにつくことにした。



 ・・・・・・



 2時間ほどで中間ポイントに到達し、休憩に入った。



 そこは山の斜面に横穴を開けて作られた大きな休憩所だ。馬車を20台入れられる程広く、崩落防止のための支保が設置されている。


 穴の中にはオルカ達を乗せていた馬車隊と、さっき言っていた商会の馬車隊だけだった。


 オルカは浮遊されながらロッキングチェアに座らせてもらった。


「あ、ありがとうございます……」


 魔術師は一礼して持ち場へ戻って行く。


「オルカ」


 そこへアージュナが近付いてきた。


「体は大丈夫か?」

「はい……。まだあちこち痛いですけど……、このくらいなら我慢できます」


 アージュナは複雑な表情で、


「……無理はするなよ?」

「? はい……」



 オルカは何故アージュナがあんな表情をしているのかよく分からないまま、アージュナは去ってしまった。

(何だったのでしょうか……?)


 疑問を残しながら見ていると、


「失礼、そこの女性の方」


 突然声を掛けられた。


 声を掛けてきたのは、爽やかで優しい顔つき、黒髪で瑠璃色の眼、少し残っている無精ひげ、少し焼けた小麦色の肌、ガタイの良い身体をしており、おそらく30代くらいの伊達男だ。服装も商会の人だけあって少し豪華だ。


 男は申し訳なさそうな顔をしながら、


「先程はこちらのせいで足止めさせてしまい大変失礼いたしました。そのお詫びに参りました」


 頭を下げて謝罪した。


「は、はい……」


 オルカは彼の誠意に応えるように答えた。そして商人の男は立ち上がり、


「申し遅れました。私はこの『ラグナ商会』の商会長をしている『ムササビ』と言う者です。以後よろしくお願いします」


 ムササビはニカッと笑いながら自己紹介した。


 この出会いが、獣国で起きる事件の引き金になるのだった。







 



お読みいただきありがとうございました。


次回は『商人『ムササビ』』

お楽しみに。


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