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Ep.3 漆黒の六枚翼の冒険者達


ギルド『漆黒の六枚翼』へ



 冒険者アピールコンテストの翌日 朝



 アージュナに舞台上でスカウトされてからはもうてんやわんやだった。


 アージュナの単独スカウトにズルいと言う抗議が発生したため急遽『オルカ・ケルケスカウト権争奪大会』となり様々な勝負が行われた。(その裏で他のコンテスト参加冒険者全員スカウトされた)


 結果はアージュナの一人勝ち。正式に『漆黒の六枚翼(ネロ・セラフィム)』へスカウトされる運びとなった。ただ、書類の手続き等は夜遅くになっていたので後日に持ち越しとなった。


 

 オルカは冒険者組合の経営する宿屋で無料で一泊させてもらった。


 支度を済ませ朝食を頂きお礼を言って宿屋を出た。向かう先はギルド『漆黒の六枚翼』だ。


「おう、オルカ。待ってたぜ」


 宿屋の前でアージュナが待っていた。オルカは別に約束してもいないのにアージュナがいることに驚いた。


「ど、どうしてここに……?」

「ギルドマスターに迎えに行くよう言われてな、それじゃあ街を案内しながら連れてってやるよ」


 上から目線で喋りかけて来る。オルカにはちょっと苦手なタイプだった。


 街のお店や施設を教えてもらいながらギルドへと歩いて向かう。その途中、


「きゃー! アージュナ様ー!!」

「おはよう」

「よおアージュナ! いい魚が手に入ったんだが買うかい?!」

「後で買いに行くぜ」

「おはようございます! アージュナさん!」

「おうお前ら! 今日もキビキビ働けよ」


 沢山の人から声を掛けられていた。アージュナは笑顔で答え、手を振っていた。この街で人気者なのが分かる。


(凄いなあ、アージュナさん。私なんかとは大違いだ……)


 オルカは心の中で自分を卑下してしまう。気分が暗くなり猫背が更にひどくなる。


「オルカ、どうした? 人酔いでもしたか?」


 その様子を見たアージュナが心配そうに声を掛けて来た。不意にカッコいい顔が自分の顔の至近距離まで来ていた。


「いっひい!? な、何でも無いです……!」

「そうか? じゃあ急ごうぜ。まだギルドまで距離あるからさ」


 鋭い目つきに似合わない笑顔をオルカに見せ、オルカの手を引っ張った。


「え?! ちょ、ちょっと!?」

「逸れさせるわけにはいかないからな。こっちだ」


 無邪気な笑顔でオルカを引っ張りながら『漆黒の六枚翼』まで走り始めた。



 ・・・・・



 それから30分程移動し、一つの建物の前に到着した。


 街の住宅街近くにあるそれはこじんまりとした劇場の様な建物だった。石造りの2階建て、屋根は黄色をしている。玄関に『漆黒の六枚翼』と書かれた立て看板が置かれている。


 アージュナは玄関の扉を開け放ち、中に入る。


「ただいま戻りました!」


 中はエントランスホールを中心に各フロアに繋がる間取りになっている。声が聞こえたのか、2階から人が出て来た。


「お帰りなさい兄貴!」



 元気よく返事をしたのは小麦色の肌でウォーターメロンピンクのミディアムウルフヘアーをした快活な青年だった。


 可愛らしさを残しながら男らしさがある顔立ち、身長は170㎝程度、締まった体型で、見た目からして緑を基調とした『狩人』の格好をしている。



「よお『ファン』。起きてたか」

「兄貴こそ早くにどこ行ってたんですか? もしかして女?」

「半分正解。昨日のコンテストでスカウトした、だけどな」


 アージュナはオルカの手を引いて建物の中に招き入れる。


「あ、ど、どうも。オルカと申します……」

「う、うっす」


 ちょっと暗めな挨拶に見た目の相乗効果で警戒された。


「お帰りなさいませ、アージュナ様」



 奥から出て来たのはプレートアーマーを装備した長身の獣人だ。


 ビジネスショートの黒髪、褐色肌で紫色の研ぎ澄まされた瞳、いかにも真面目そうでスッキリとした顔立ち、肩幅の広い筋肉質な体付きをしている。鎧には金細工が施されており、少し豪華に見える。



「ギルドマスターがお待ちです。お客様と共に来るようにと」

「了解。それじゃあ行こうぜ」

「は、はい」


 オルカはアージュナの後ろを付いていく。フルプレートの獣人はオルカを目だけで追う。オルカも視線に気づいていたが、そのまま無視した。


 建物の奥へ進み、2階へ上がって大きな扉の前に立つ。アージュナは扉をノックする。


「アージュナです。お客様をお連れしました」

「入りなさい」


 澄んで引き締まる様な美声で返事が来た。


「失礼します」


 アージュナは扉を開けて中に入る。中にいる人物に一礼してすぐに脇に移動した。オルカは必然的に声の主と正面で向き合う形になった。



 そこにいたのはまるで絵画から出て来たような美しい白髪の男性だった。


 ストレートショートヘアで優しい銀色の瞳、整った大人の顔立ち、白い肌がそれら全てを際立たせる。年齢は30代くらいで、華奢な身体にあった服装は司教や戦士を思わせるデザインをしている。



 白髪の男は微笑みながら話し出す。


「君が昨日アージュナにスカウトされた魔術師かな?」

「は、はい! オルカ・ケルケと申します! よろしくお願いいたします!!」


 深々と頭を下げて挨拶をする。


「私の名は『ラシファ・ヴェヌス・エフロディート』。このギルドのギルドマスターです。早速で申し訳ないが、貴方の実力を今一度確認させてもらいたい。よろしいかな?」


「分かりました……!」


 ラシファはおもむろに立ち上がり、


「付いて来て下さい。相応しい場所に案内しましょう」


 オルカとアージュナは後を付いて行く。


 ギルドの一階に降りて中庭に出た。100人は収容できそうな広さで、訓練用の藁人形や木製の武器などが置いてある。


 そんな中庭の中央で2人の男女が戦闘をしていた。



 男の方は黒色のショートウルフヘアの長身の男。


 深い青色の怪しい目だが凛々しい顔つきをしている。黒いシャツに黒いズボンを着ており、手甲と脛当て、鉄靴を付けていた。年齢は40代に見える。



 女の方は濃い紫色と藍色が混ざったロングヘアーが特徴的な美女だ。


 腰まで長さがある髪をなびかせ、スリムな身体のラインがハッキリと分かる軽装だ。年齢は大分大人だとしか分からない。



 男は両手から黒い炎を出し、女は棘の生えた緑色一色の槍を残像が出来る速さで振るう。男は槍による攻撃をまるで来る順番が分かっているかのように躱し続ける。女もまた男が出す炎を見ずに躱していき、決着が付く気配がしない。


 ラシファは手をパン、と一回だけ叩くと、2人の動きがピタリと止まった。ニコリとラシファが微笑みながら2人に近付く。


「準備体操中申し訳ない。アージュナがスカウトした冒険者の実力を皆に見て貰い評価して欲しいのです」


「アージュナが? ……ああ、ラシファが頼んでいた件か」


 渋く、ダンディな声で男が喋る。


「何じゃ、小僧が選んで来たのか。強いんじゃろうな?」


 独特な言い回しだが綺麗な声で女が毒づく。アージュナはその言葉に少々頭に来た。


「おい『スカァフ』! 俺の目利きが信用できないってか?!」

「たかだか22の小僧の判断なぞあてに出来ん。はなから期待しておらんわ」

「何だとババア!!?」


 アージュナが食って掛かろうとした瞬間、スカァフが消えた。


 消えたと思った時には、アージュナの懐に入りこみ、槍を喉に突き付けていた。


「もう一度行ってみろガキ。その首風穴開けてやるぞ?」

「ッッッ……!!」


 アージュナは汗を流し、沈黙した。



「【5連(ファイブタイムズ)】【一時停止(ポーズ)】!」



 スカァフが止まった隙を突いて、オルカがスカァフにデバフをかけた。


「む……、動けん……?」


 力ずくで動こうとしても逆に肉体が締まり動けない。力を抜いても抜けきれず、アージュナに槍を突き立てた状態で動けない。


「何をした貴様?」


 スカァフがオルカを睨みつける。一瞬怯んだが、


「えっと、仲間内で傷つけ合うのは良くないと思ったので、止めさせて頂きました……」


 オドオドしながらスカァフに理由を説明した。説明を聞いて笑ったのは、スカァフと戦っていた男だった。


「ククク……。想像以上にお人好しだな、君」

「え、そうでしょうか……?」

「見ず知らずの人達の喧嘩に割って入る時点で相当さ。人格、実力共に素晴らしいよ」


 男はオルカに手を差し出し、握手を求めて来た。


「俺は『バルアル・アブルメリン・ガーティア・プルトン』。気軽にバルさんとでも呼んでくれ」

「バルさん……。よろしくお願いします」


 握手をしていると、


「おい、とっとと解除せんか」


 動けないスカァフが睨みながら訴えてくる。槍の先端が喉元に付いているためアージュナも動けずにいた。


「あ、すいません……! 今解除しますので、力を抜いて下さい……」


 オルカが手をかざし、二言呪文を唱えるとスカァフの【一時停止】が解除された。


 槍をゆっくりと首から離し、身体の動きを確認する。


「ふむ、問題無さそうじゃな」


 その隣でアージュナはへたり込んでしまった。


「くっそお、今回は見切れると思ったのに……!」

「甘いわ小僧。そんな簡単に『S級冒険者』を乗り越えられてたまるか」

「え、S級……!!?」


 オルカは驚いて数歩下がってしまった。


 

 冒険者は強さによってランク付けされており、見習いのFから唯一無二の実力を持つSまで存在する。


 そのS級は四国同盟冒険者人口2000万の内50名程度しかいない。


 個々によって情報の公開非公開がされているため、全員を把握できることはできないが、あの動きからして本物だろう。


 

「何じゃ、このギルドのことを何も知らんのか?」

「す、すいません。一昨日この国に来たばかりですので……」

「積極的に宣伝してなかったしな。他国の冒険者なら知らないのも無理は無いさ」


 バルアルがオルカをフォローしていると、ギルド内で会った6人全員が集合していた。


「それじゃあ改めて自己紹介を。私は『漆黒の六枚翼』のギルドマスター、ラシファ。現役のS級冒険者です」

「副長のバルアルだ。俺もS級冒険者だ。冒険者証明書あるけど、見るかい?」

「何でS級の人が3人も一つのギルドに……?!」


 驚きでツッコミを入れてしまう。


「それは諸事情というものです」


 ラシファが微笑みながら返した。


「はいはーい! 次は俺でーす!」


 さっき会った快活な少年が前に出て来る。


「俺は『ファンバーファ』! B級だ! ジョブは『ハンター』! よろしくな!」


 そして最後の1人、鎧の男が軽くお辞儀をする。


「『セティ・プトレマイオス』と申します。同じくB級。以後お見知りおきを」


 礼儀正しく挨拶をし、一歩下がった。


 アージュナはラシファの隣に立ち、6人全員がオルカと向き合う形を取った。


「それじゃあオルカ。俺達のギルドに入ってくれるか?」


 アージュナが期待の眼差しでオルカに問いかける。


 オルカはその眼差しの思いを無下に出来そうに無いと思い、結論を出す事にした。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします……!!」


 頭を下げて返答した。


 6人は笑顔でオルカを向かい入れ、ギルドに新しい風が吹いたのだった。




 そしてこれが、彼らの運命を加速させる出会いでもあった。






読んでいただきありがとうございました。


次回は『幕間 三騎士』

お楽しみに。


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