Ep.28 オルカの本気、その代償
オルカの本気は、代償を伴う。
サイクロプスの一撃が入り、粉塵が上がる。
アージュナは急いで駆け寄った。
「その足を避けろデカブツ!!」
怒りの一撃をサイクロプスに叩き込む。だが、剣は弾かれびくともしなかった。
「くっそ……!! オルカ……!!」
アージュナが歯噛みしていると、踏み込んでいるサイクロプスの足の横からボコッと穴が空いた。
穴から出てきたのは、土だらけになったオルカだった。
「オルカ?! 無事だったのか!!?」
「こ、この間返してもらった魔導具『どこでもモグラ』がいなかったら死んでました……」
オルカの横に出てきたのは、無機物なモグラだった。このモグラがあればどこでもどんなものでも掘れる優れ物だ。
地面から出てきたオルカに気付いたのはサイクロプスも一緒だった。もう一度踏もうと大きく足を上げる。
「させません!!」
大声を上げたのはルーだ。
背中の上に魔法陣が垂直に出現し、狙いを定める。
「充填完了! 【魔法砲】、発射!!」
魔法陣から青い光線が発射された。光線はまっすぐサイクロプスの顔面へ直撃し、大きくよろけさせた。
「ナイスだルー!!」
「次撃てるまで10分程かかります!! それまで時間稼ぎを!!」
「精霊獣勝手が悪いな!!」
「相手が悪いと言ってください!!」
ルーに続いて後衛のメンバーが攻撃を入れていく。サイクロプスがそれに気が向いているうちに少年を連れて一先ず安全な位置まで移動させる。
「ここまで来れば大丈夫です……」
「ど、どうして俺なんか……」
オルカに悪態をついて嫌われていてもおかしくなかった。なのにオルカは助けてくれたのだ。
「か、体が勝手に動いてました……。それだけです……」
「……すまねえ、ありがとう……」
少年は頭を下げて謝罪と礼をした。オルカは微笑み、少年の頭を撫でて戦場へ戻っていく。
(サイクロプスの体格差減衰、対魔力で直接のデバフはほぼ通じていない。なら、アレを試すしかない……!)
オルカは杖とモグラを【収納】にしまい、別の杖を取り出す。この前戻ってきた杖『ケリオーン』だ。
「お待たせしました……!」
「もう大丈夫なのか?!」
斧を持った獣人が大声で心配する。
「はい、ご迷惑お掛けしました……。でも、大丈夫です……!」
オルカは杖を構え、サイクロプスに狙いを定める。
「行きます……!」
確かにデバフは対象の強さによってまるで役に立たない時がある。
そのせいで今まで評価を低く見られ、魔術協会でも眉唾物だった。
しかし、オルカがA級魔術師になる際に提出する論文でデバフの新たな使い道を提示したことにより、評価が一変した。
オルカは対象を『個体』ではなく、『周囲』にしたのだ。
「【過重領域】!!!!!」
オルカの魔術により、サイクロプスの足が地面にめり込んだ。
サイクロプス自体にかけても弾かれるなら、サイクロプスの周囲の状態、環境にかけるという発想の転換だ。座標、消費魔力などデメリットも多いが、100%掛けられるという絶対的なメリットがある。
サイクロプスは何が起こったのか理解できず混乱していた。
体を動かそうと指を動かそうとしても曲がらず、腕を上げようとしてもいつもより遥かに重く、遅くなっている。足を上げたくても膝が上がらず、ドンドン地面に沈んでいく。まるで全身に重りを付けられているような状態だった。
アージュナ達も何が起こったのか分からなかった。
「な、何が起きているんだ?」
「さっきまでデバフは効いてなかったはずだが……?」
アージュナはここが好機だと判断し、
「とにかく攻撃を続けろ!! この機を逃すな!!」
アージュナの掛け声に反応して、攻撃を再開する。
「動けないなら一点集中で足を落とすぞ!! 奴の軸足である左を落とす!!」
「任せろ!!」
斧を持った獣人が斧を大きく構え、
「どっせいいい!!」
足首狙って薙ぎ払った。
あまりにも硬く、何とか切り込みが入った程度だ。そこへ片手剣の男とリザードマンの冒険者が突っ込む。
「そこだ!!」
斧で傷付けた場所に連続で斬り付け、リザードマンの冒険者の槍の攻撃も合わさり、とうとう出血した。サイクロプスは悲鳴を上げた。
「こいつで、どうだあ!!」
アージュナの双剣の突きが放たれ、出血した部位に刺さる。こじ開ける様にして剣で引き裂き、サイクロプスの腱を寸断した。
サイクロプスは立つ事ができなくなり、後ろへと倒れていく。倒れた衝撃で山が揺れ、周囲に煙を起こした。
仰向けになっても上手く動けないサイクロプスは無理に起きようとするが、身体が重くて起き上がれない。
「ルー! 首だ!」
「分かっております!!」
ルーはアージュナの背中を借りて跳躍した。胸の上に着地すると、魔法陣を再び展開し、首に狙いを定める。
「これならさっきの10分の1で十分です!! 【魔法砲】! 至近距離集束発射!!」
さっきよりも細く、圧縮した光線が放たれる。
サイクロプスの喉を貫き、首を貫通してみせた。
サイクロプスは吐血し、苦しみだすが暴れる事も叶わない。
そこへ、アージュナが大きく跳躍し、怪我の場所目掛けて双剣を突き立てる。
「これで! 終いだ!!」
双剣は足の時と同じ様に貫き、一気に切り裂いた。
大量の出血が起こり、サイクロプスは白目を向いてアージュナ達を捕らえようとしていた両腕はゆっくりと地面に落ちた。
全員が身構え、再び動き出さないか警戒する。
数分経っても、サイクロプスは微塵も動かない。よって、
「サイクロプス、討伐完了!!」
アージュナが勝利宣言をし、右腕を天に突きあげた。
共に戦った冒険者達は勝利に歓喜し、声を上げて喜びを分かち合っていた。少し離れた所で待機していた少年と少女は、何も出来なかった悔しさを噛みしめていたが、事態が解決したことにとりあえず安堵した。
遠くからラシファ、バルアル、スカァフがその様子を見届けていた。
「思ったより早く決着したか」
「だが、まだまだ未熟じゃな。これくらい数秒で倒してからでないとS級には程遠いは」
「まあ倒せただけ良かったじゃないですか。死者も出てませんし」
「2人共及第点っていうか辛辣だな……」
3人が談笑している後ろには、ラシファとバルアルの魔法によって瞬殺されたサイクロプス1体と、スカァフが一瞬で首を落としたサイクロプス1体が転がっていた。
傍にいたファンは未だに呆然としていた。
(あれがS級……。目指す高みはどこまでも遠いなあ……)
心の中で溜息をつきながら、サイクロプスの死体処理を行っていた。
喜びの中にいるアージュナにルーが話しかける。
「お疲れ様です。アージュナ様」
「ああ、ありがとうルー。オルカもお疲れ様…………?」
オルカの方を見ると、オルカは杖を立てたまま両膝をつき、俯いていた。
アージュナは駆け足で近寄る。
「どうしたオルカ? 魔力の使い過ぎで疲れたか……?」
身体に触れた瞬間、ドサリ、とオルカはその場で倒れてしまった。
顔面蒼白で息切れを起こし、顔と首にはさっきまで無かった痣が現れており、明らかに異常なのが分かった。
「はっ、はっ、はっ…………」
「しっかりしろオルカ!!? 一体どうしたんだ!!?」
アージュナの声を聞いて、他の冒険者達も集まる。
「オルカさん、どうしたんですか?」
「分からない。とにかくエリクサーだ!」
アージュナは手元にあるエリクサーをオルカに飲ませようとする。
「飲ませるな馬鹿者!!」
それを咄嗟にスカァフが止めに入った。
「な、何をするんだ?!」
「見て分からんか!! これは『魔力回路破裂』だ!!」
魔力回路破裂
魔力と魔力回路は、言い換えれば心臓と血管だ。心臓が大きく動けても、血管のどこかが脆くなり破れれば死に至る可能性がある。それと同じ事が魔力回路で発生する。魔力回路も血管の様に破裂することがあり、大量に破裂すれば体に影響が出て、最悪命の危険がある。
これは魔力量と魔力回路の成長が両立できていない場合に起きる事が多い。
「エリクサーは万能薬じゃが魔力回路を使って治す物! それを破裂した状態の魔力回路に流せばどうなるか想像できるじゃろう!!」
「じゃあどうすればいいんだよ!!」
スカァフに感情をぶつける。一刻も早く助けたいのに出来ない状況にある。これがどれだけ辛い状況なのか分からないスカァフではない。
「…………ワシの知り合いに専門医がいる。そこまで急ぐぞ」
「分かった!!」
「魔法の絨毯を使いましょう。アージュナ、オルカを乗せて下さい。スカァフも付き添いを。ここは私達が処理しますので」
「「了解!!」」
ラシファの魔法の絨毯の上に慎重にオルカを乗せて、アージュナ達も乗り込む。乗り込むと同時に浮上し、街まで飛び始めた。
「う、う…………」
オルカは苦しそうな表情で身体を震わせる。アージュナはオルカの手を掴み、
「大丈夫、大丈夫だからなオルカ……!!」
ソッと抱き寄せて震えを抑えようとする。
(あー、じゅな、さん……?)
オルカは朦朧とした意識でアージュナを見る。
「もう、誰も死なせない……。俺の大切な人を、もう二度と、奪わせるもんか……!!」
その言葉を最後に、オルカは気を失う。
(もう二度とって、どういう、事……?)
お読みいただきありがとうございました。
次回は『背負ったモノは』
お楽しみに。
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