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Ep.27 幕間:第一の崩壊


始まりの崩壊



 遡る事、ウェイガー達が出て行ってから7日後の時だ。



 アイシーンはギルドの資金繰りに頭を抱えていた。


 先月と比べて出費が5倍以上になっていたのだ。


(薬品や備品、怪我の治療費にその他諸々の出費が増えたか……。代わりの人材を入れ替えたとは言え、ここまで経費がかさむとはな。来月は元を取り返せるよう調整しないと……)


 そこへ、慌てて秘書のトゥピィスが駆け込んでくる。この男は解雇した


「た、大変です!! 魔術協会が攻め込んできました!!」

「何?」


 アイシーンは急いで1階に降りると、魔術協会の魔術師達が大勢詰めかけていた。全員紫色のローブを着ており、顔は黒く視認できない。


「何の用だ? 連絡も無くこんな大所帯で来るとは、失礼じゃないか?」

「貴方がここの責任者、アイシーンか?」


 先頭に立っていた魔術師が問いかける。


「……そうだが」

「なら話が早い。ただいまより魔術協会による差し押さえを行う! 回収が終わるまで誰一人勝手な行動をするな! 国の許可も得ている!」


 国の魔術判が押された正式な書状を目の前に突きだした。


 集まっていた黄金の暁の冒険者達は動揺し始める。いきなりのことでアイシーンも驚きを隠せなかった。


「ま、待て!? どういう事だ?!! 差し押さえだと?!!」

「そうだ。お前達は許可がないと不法所持になるものを隠し持っている。それを押さえさせてもらう」

「そんな物は無い!! 言い掛かりは止めてもらおうか!!」


 強気に出るアイシーンを他所に、大勢いた魔術師達が一斉に捜索を開始する。


 ギルド中の建物を魔術を使って物を除けたり、引き出しを全て開け、書類や本を全て引っ張り出して隅から隅まで探し尽くす。


 アイシーンも所持品を探られ、何も無いことを明らかにされて放置された。ホルケラスも同様に探りを入れられた。


(クソ!! 何なんだ一体……?! 騒ぎが大きくなると悪評が立って今後が不利になる……。何も無かったら逆に搾り取ってくれる……!!)


 心の中で悪態をついていると、寮の方に行っていた魔術師が指揮を取っている魔術師の所へ戻って来た。


「発見しました!! こちらです!!」


 そう言って透明な箱に入っていたのは、生きた殺戮植物『マンドラゴラ』だ。地面から引き抜いた時に叫びだし、その叫びで心臓が止まり、最悪死ぬ事がある危険な植物だ。冒険者達の間でも決して近寄らないよう注意喚起されている。


 そのマンドラゴラが寮の方から出て来たのだ。


 アイシーンは見覚えのない代物に驚愕していた。


「な、何でそんな物が……!?」

「他にも発見しました!!」


 別の魔術師が猛毒を持つ『バジリスクの牙』を持ってくる。


「見つけた特殊素材は全てこちらに集めろ!! 一つも見逃すな!!」


 次々と特殊素材が運び出され、ギルドの広いエントランスやギルド前の道路に広げたシートの上に置いて状態確認が行われる。手際よく行われ、100近くあった特殊素材の状態確認はあっという間に終わる。


「これで全部か?」

「はい。倉庫の中を全て出して調べましたので、これで全部です」


 アイシーンは倉庫という言葉に反応する。


(寮の、倉庫だと? あそこは確かマドゥアに処分するよう言ったはずだが……?)


 思考を巡らし、最近の出来事全てを思い出す。そして、点と点を繋ぎ合わせ、一つの結論が出た。


(しまった……!! そういう事か……!!)


 それに気付いても時すでに遅し、後の祭り、覆らない結果となって目の前に広がっている。


(マドゥアは解雇した連中の私物を部下の冒険者に処分するよう命令していた。だが、メイドリッドの一件で全員動けなくなり、作業が止まっていた。その結果、あの陰気女が置いて行った危険な特殊素材が未確認で放置されていたのか……! 何たる不覚……!!)


 心の中で悪態をついていると、正面からマドゥアのパーティーが戻って来た。


「何なのこの騒ぎは? 衛兵を呼ぶわよ!!」


 強気で出たマドゥアだったが、数秒で30人ほどの魔術師に囲まれてしまった。


「な、なによ?」

「……装備している魔術礼装、それは個人登録されている物だ。回収させてもらう」


 魔術師達は杖を取り出した。


「ちょ、何を……!! きゃあああああ!!???」


 魔術師達はお得意の魔術でマドゥアの装備を引っぺがし、あっという間に回収を完了してしまった。装備を取られたマドゥアは大きな布で簀巻きにされて転がされた。


「何なのよあんた達?!! こんな事していいと思ってるの!!?」

「法律に則って行っている。何の問題は無い」


 マドゥアから回収したオルカの杖とローブ、アクセサリーの魔術礼装を全て確認する。


 それから1時間もしないうちに目的の物を全て確認したのか、【無限収納】に入れていく。


「これで差し押さえは全て完了した。協力感謝する」

「……一ついいか?」


 ホルケラスが魔術師に質問する。


「何だ?」

「どうして差し押さえが発生した? 納得のいく説明が欲しい」

「その事か。7日程前に研究室の変更届が出されてな、その際にこちらで不当に解雇して不当に所持品を奪ったことが調査で判明した。そのため転売や隠蔽される前に差し押さえに入ったのだ」


 ホルケラスの表情が少し険しくなる。ゆっくりとアイシーンの方を見て、


「どういう事だ? そんな話は聞いていないぞ?」


 アイシーンはホルケラスの圧に不快を感じていることを察し、


「で、出鱈目だ!! そんなことはしていない!!」


 ホルケラスは再び魔術師達の方を見る。


「どうなんだ?」

「悪いが我々が重点を置いているのは魔術関係の物だけだ。それ以外は知らない」

「……そうか」


 ホルケラスはこれ以上はアイシーン本人に聞くしかないと判断し、話を切り上げた。


「では最後にこれを」


 魔術師は懐から別の書状をアイシーンに渡した。


「何だこれは?」

「不法所持に対する罰金刑です。本日から7日以内に納めるように」


 そこにはとんでもない金額が書かれた罰金の催促状だった。今月のギルド予算を大きく上回り、大赤字必死だった。


「ふ、ふざけるなああああああああああ!!!!!」


 アイシーンは怒りのあまり催促状を床に叩き付ける。


「何故、何故あの女一人のせいでこんな事になる!! デバフしか能の無い役立たずの癖にいいいいい!!!!!」

「役立たず……?」

「そうだ!! デバフは魔力抵抗、体格差減衰、対魔力、弱体無効の前では意味を為さない役立たず魔術だというのは誰でも知っている事だ!! 雑魚にしか効かないゴミみたいな魔術だとな!!」


 怒り任せに吠えるアイシーンを見て、魔術師は大きく溜息をついた。


「だから冒険者風情なのだ。戦闘力でしか物事を見ないからこうやって損ばかりする」

「何だと……!?」

「彼女を見くびるな。賢者に限りなく近い近代魔術師だとも知らないで、無能と罵るなぞ無知にも程がある」


 悪態をついて吐き捨て、魔術師達はギルドから出て行った。


 アイシーンは立ち尽くしたまま、下唇を悔しさで噛んだ。


(何なのだ……。何なのだ一体……!!!)


 言葉にならない怒りで拳を握り、ただただ負の思いを募らせるだけだった。








お読みいただきありがとうございました。


次回は『オルカの本気、その代償』

お楽しみに。


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