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Ep.22 襲撃の後始末


 事件の後は



 ギルド襲撃から3日後



 オルカはセティのお見舞いのために街の病院へ来ていた。


 セティの容体は安定していて、1ヶ月もすれば退院できるそうだ。


「ご心配おかけして申し訳ございません」


 セティは深々とオルカに頭を下げる。


「大丈夫ですよ……。むしろ、ありがとうございます。あの時、助けに出て来て下さらなかったら私がどうなっていたか……」

「いえ、結局私はなす術も無くやられていました。お礼を言われる立場ではありません」


 苦い表情でそう答えた。今回の件を重く捉えているのだろう。


「セティさん……」

「っ!!」


 オルカの寂しそうな表情を見たセティは、励ましを無下にしてしまったことに気付いた。


「も、申し訳ない。折角のご好意を……」

「い、いえいえ……」


 気まずい静寂が2人の間に流れる。


「そ、そう言えば! ギルドの皆はどうしてますか?」


 何とか空気を変えようと話題を変える。オルカも察して乗ることにした。


「そうですね……。あれからすぐに憲兵の方々来て下さって、ギルドマスターが倒した人達だけは連行してもらえました……。ただ、保管していた強化薬は、箱ごと取られてしまいました……」

「箱ごと? ですが、あれにはオルカ殿の魔術が幾重にもかけられていたはず……」

「破壊した痕跡は無かったので、解除したのか、そのまま持って行ったのか、詳細は分かりませんが、箱ごと持って行ったのは確実です……」


 試しにラシファ、バルアル、スカァフが全力で運び出そうとしたことがあったが、びくともしなかった。あの箱を待ちだすことができる存在がいると想像しただけでセティに悪寒が走った。


「……それで、皆さんは……?」

「スカァフさんとバルアルさんは拠点を制圧して戻ってきました……。ギルドマスター、アージュナさん、ファンくんも無事です」

「そうでしたか、良かった……」


 セティは安堵し、胸を撫でおろす。


「……ところで、セティさん」

「何でしょう?」


 オルカは口をモゴモゴさせた後、意を決して口を開く。


「アージュナさんは、本当に獣国の王子様なんですか……?」


 セティはオルカの質問に驚きを隠せなかった。オルカから見えない場所で強く拳を握った。


「…………誰からそれを?」

「セバスティアンさんから、お聞きしました……」

「あの人か……」


 セティは軽く頭を抱える。


「できればあまり知られたくなかったのですが……」

「す、すいません……」

「お気になさらず。いずれはバレると思っていましたので」


 小さく溜息を付き、オルカに向き直る。


「確かにアージュナ様はアストゥム獣国の第4王子です。そして私はアージュナ様の護衛として共に活動している騎士です」


 それだけ言って、後は黙ってしまった。


 しばしの沈黙の後、オルカはセティの表情を見て、


「……セティさんの事、アージュナさんの事、色々聞きたいことはありますが、私からは聞きません……」

「オルカ殿……」

「話したくなった時でいいです……。だから、聞きません……」

「……ありがとうございます」


 セティは頭を下げるのだった。



 ・・・・・


 『漆黒の六枚翼』では建物の修理が進んでいた。


 土魔法で壁や天井を修理し、壊れた家具や置物も魔術で元通りに直している。ただ、魔力の消費が激しく時間が掛かるので、1週間は掛かるらしい。費用はギルド持ちだ。


 その様子をファンは見に来ていた。


 『怪人』と対峙した玄関の前で修理するギルドを見上げていた。


(……あの『怪人』、一体何者だったんだ……?)



 ・・・・・



 時は遡り、アージュナがオルカの元へ駆けつけた後、ファンと怪人が一対一で睨み合っていた時だ。


 ファンは一時も目を離さない様向かい合い、手に風魔法を用意していた。


「そう構えずともよろしいですよ? 戦うつもりは微塵も無いのですから」

「ならそのまま憲兵に捕まってもらいたいっすね」


 怪人は溜息をついてシルクハットのつばをつまむ。


「残念ながらそれはできません。リーダーに戻るよう言われてますので」


 再び爆音が響く。今度は何が起きたのか、ファンは気になって仕方なかった。その様子を察知したのか、


「気になるなら向かってみてわ?」

「……それなら問題無い。ギルマスも兄貴も、セティ兄さんだっているんだ。オルカ姉さんだって強い」

「強がりをなさいますねえ」


 そうこうしていると、遠くから憲兵たちが押し寄せてくる音が聞こえた。


「おや。おや。おや。これはいけませんねえ。そろそろお暇させて頂きます」


 怪人の背後に魔法陣が展開され、怪人は魔法陣へと入っていく。


「待て!!」


 ファンは急いで風魔法を放つが、怪人に当たる直前で消滅した。


「何?!!」

「ほ。ほ。ほ。慌てずともまた会えますよ」


 徐々に魔法陣へと入っていく。風魔法を連発するが、直前で消えて一発も当たらない。


「ではファンバーファ・ポアトゥン・スブランカさん。お父上、エーデンファ様によろしく」

「っ!!!」


 怪人は魔法陣へと完全に消えた。


 ファンは呆然としながら怪人がいた場所を眺める。


(どうして、クソ親父のことを知っている……?)



 ・・・・・



(俺とクソ親父の事は冒険者の間でも知られていない。なのに何故知っていたんだ……)


 怪人の言葉が数日経った今でも忘れられない。


(…………裏の人間なら知っててもおかしくないか……。嫌になるぜ)


 ファンは舌打ちして小石を蹴る。


(今日ギルマス、そのクソ親父に会いに行ってるんだから余計に嫌になっちまうよ……)


 大きな溜息をついて、仮の住まいである街内のホテルへ帰って行った。



 ・・・・・



 ハナバキー 連邦政府庁



 庁内の一部屋で、ラシファ、バルアル、スカァフは連邦政府の防衛大臣に呼び出されていた。


「君達がいながらこの様な失態、どう責任を取るつもりかね?」


 強気な姿勢で言ってくるのは、『エーデンファ・ポアトゥン・スブランカ』だ。この国の防衛大臣であり、ファンの父親である。


 今回ラシファ達を呼び出したのは、犯罪組織『堕ちた林檎』を取り逃したことに関して事情を聴くためだ。


 ラシファは微笑みながら、


「お言葉ですが大臣。カラーの生存は我々にとっても想定外でした。斬首の後、火葬した彼女が生きているなどと誰が予想できますでしょうか?」

「一度倒せた敵ならばもう一度倒せるだろう」

「あの時は聖騎士団の総力を結集して倒せたのです。状況が違い過ぎます」

「……そのカラーという犯罪者の件についてはよく分かった。だが、エリクサーを紛失するのは良くない。その上連邦政府に無許可で作成しているではないか」

「エリクサーは彼女の部屋で厳重に保管していました。ですが強力な魔法攻撃は想定されていません。あと、連邦政府ではなく魔術協会の許可のみで問題ありませんが?」


 ああ言えばこう言う、不毛な議論は既に1時間行われていた。


 何故ここまでするかというと、エーデンファが冒険者を嫌っているからだ。冒険者は身分の低い頭の悪い連中がやる汚い仕事だと言い切る差別的な理由だ。


 キリが無いと判断したのか、エーデンファは舌打ちして話を切る。


「もういい。今回の件の処分は追って伝える。下がり給え」

「今回の報告結果ですね。承りました。では」


 ラシファは微笑んで部屋を出て、その後を2人が付いて行く。


 3人が出て扉が完全に閉まったのを見届けたエーデンファは拳を強く握った。


(あの冒険者落ちの崩れ騎士が、減らず口を叩きおる……!)


 歯ぎしりをしながら次の手を考える。あの冒険者達を潰す手立てを。


(あの愚息もどうにかせねばな。最悪死んでも構わんか)


 通信機を手に取り、ある人物と連絡を取るのだった。



 ・・・・・



 ラシファ達は政府庁を出て、仮の住まいのホテルへと帰るところだった。


「どう思う?」


 バルアルは2人に質問する。


「黒じゃろ。あのジジイが糸を引いていない訳がない」

「同意見です。知り合いに警戒させてますから、怪しい動きがあったらすぐに動いてくれます」

「流石ラシファだ。行動が早い」

「それほどでも」


 ラシファの微笑みが一転して、真剣な表情になる。


「また彼らが攻めてくるとも分かりません。拠点を変えて行動しましょう」

「「了解」」


 

 ・・・・・



 一方アージュナは、セバスティアンとカフェで落ち合っていた。先日言っていた護衛の件だ。


「…………それで、こいつが護衛なのか?」


 アージュナはすごく嫌そうな顔で新しい護衛を見る。


「そう睨まないで下さい。彼は優秀な護衛です。来たるべき時に必ずお役に立つでしょう」

「いやでも、こいつは……」


 もう一度護衛を見る。


「大丈夫です! 絶対お役に立ちます!!」

「…………でも、お前……」



「どう見ても、ただの犬じゃん」



 アージュナの新しい護衛は、真っ白でフワフワな大型犬だった。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『幕間『三騎士の出立、新たなる仲間』』

お楽しみに。


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