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Ep.21 月夜に浮かぶ真なる悪夢


夕暮れ後の夜に



 夜。スカァフ達が敵の拠点に攻め入っていた時と同時刻



 オルカは自室のベッドで横になっていた。流石に3種類も一気に作って夕飯も作ったため、疲労が溜まっていた。


(スカァフさんとバルさん、大丈夫かな……?)


 2人の安否を心配しながら身体を休める。


 突然、扉を叩く音が聞こえた。


「オルカ、今いいか?」


 ノックしてきたのはアージュナだった。オルカは慌てて身を起こし、


「は、はい。どうぞ」


 迎え入れる準備を済ませる。アージュナはゆっくりと扉を開けて中に入る。


「夕飯後に悪いな」

「いえ、問題ありません……」


 アージュナはオルカの前に立つ。


「まあその、無理はしていない範囲で作っていたのは知っていたけど、それでもやっぱり大丈夫か気になってな」


 この間の一件で、無理のない範囲で頑張ることを同意してもらったが、やはり心配だった。また根を詰めてやり過ぎてないか気になっていたのだ。


「夕飯まで作ってくれてありがとうな。俺もセティもあんまりできないし、ファンとギルマスは論外だし……」

「気にしないでください……。私は皆に喜んでもらえたらそれでいいので……」

「………………」


 オルカは小さく笑う。アージュナはしゃがんで視線を合わせる。


「……オルカは、どうして他人のためにそこまでできるんだ……?」


 真剣な表情で問う。オルカはいきなりの質問に戸惑った。


「えっと、それは、どういう事でしょうか……?」

「いつも自分のためじゃなくて、誰かのために動いている。自分の事なんか二の次にして行動できるのは何でだろうってさ」


 その眼はどこか寂しそうで、理解できないことを知りたいという意思を感じられた。


「私は、誰かが喜んでくれたら、それが一番だと思っています……。役に立っているという実感があって、私も嬉しいんです……」


 オルカは静かに答える。


 オルカの答えにアージュナは難しい顔をしていた。


「……やっぱりオルカは凄いな。俺にはできないことが出来ちまう……」

「そ、そんなことないですよ……? アージュナさんは私にはできないことを沢山できるじゃないですか……!」

「……そう言って貰えるだけでも嬉しいよ」


 アージュナは立ち上がり、部屋を出ようとする。


「休んでるところ悪かったな。それじゃ」


 一言そう言って部屋から出て行った。


(アージュナさん、一体どうしたんでしょうか……? 何だか辛そうでしたが……)


 一人残ったオルカは疑問を感じるのだった。



 

 一階へ降りて来たアージュナは玄関の方から何か揉める様な声を聞き取った。


 駆け付けると、ファンが無理矢理入ろうとするチュエリーと取っ組み合いになっていた。


「どうしたファン?」

「あ! 兄貴! 聞いて下さいよ! この子、オルカ姉さんにいちゃもん付けに来たんっす!」

「アージュナ様! このチュエリーが貴方を悪女の手からお救いいたします!!」


 チュエリーは今まで一番興奮した状態で突撃して来ていた。


 アージュナは呆れながらファンに加勢する。


「その話は落ち着いたら聞いてあげるよ。今日はもう遅いから帰りなさい」

「いいえ!! あの占い師様のお告げで今日アージュナ様を助けなければいけないとなっているのです!! だから決して諦めません!!」


 また何を言っているんだといった表情でファンが溜息を付く。


「その占い師のお告げかなんか知らないけど、また衛兵のお世話になりたいんっすか?」

「衛兵など恐るるに足らずですわ!!」


 アージュナは力の押し合いを傍から見ながらオルカを連れてこようか迷っていたが、ある事に気付き、真剣な表情に一変する。


「……ファン、結界装置は?」

「え? 作動させっぱなしっすよ?」

「その子が入って来た時、外と中、どっちにいた?」

「……中っす」

「……どうして結界があったのに中に入れた?」


 2人の背中に悪寒が走る。


 結界は物理的に遮ることができる仕様になっている。それなのに中にいるのは普通有り得ない。


 不法侵入した彼女が今の状況下で早々に釈放されるのか。



 そして、目の前にいる彼女は本物なのか?



 そう疑問に思った瞬間、ファンとアージュナは地面を蹴って距離を取った。


「誰だ貴様?!!」


 アージュナが叫ぶ。


 チュエリー? はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。


「惜しい。惜しい。惜しい。あとちょっとで全員集められそうだったのですがね」


 男とも女ともつかない声と共に、顔に手を掛けて真の姿を表した。


 さっきまでとまるで違う高い背丈、シルクハットに裾の長いタキシード、手には白い手袋、胸に『堕ちた林檎』の刺繍、不気味な笑みを模った真っ白な仮面を付けたその姿は、


「初めましてお二方、私は『怪人』。以後お見知りおきを」


 礼儀正しい紳士の仕草で礼をする。


 2人は警戒して構える。


(武器を持って来てない上に敵の強さが分からないこの状況、素手の戦闘はかなりマズイ……!)


 ファンの顔に汗が流れる。アージュナも同じ事を考えているのか、表情に余裕が無い。


「おや。おや。おや。そこまで身構えなくて結構ですよ?」


 両手をひけらかして何もしないことをアピールしてくる。仮面のせいかどことなく馬鹿にしているようにも見える。


「……どういうつもりだ?」


 アージュナは冷静に対処する。


「ええ。ええ。ええ。何せ私のお役目は……」




「時間稼ぎ、なのですから」




 次の瞬間、ギルドの建物の一部が爆発した。


「な!? 爆発だと?!」

「あそこは確か、オルカ姉さんの部屋です!!」


 慌てて振り返る2人を余所に怪人はシルクハットのつばをつまむ。


「どうやら作戦成功ですね。早く行ってあげた方がいいですよ?」

「っ……!!」


 この場で怪人を取り押さえたかったが、武器の無い状態で攻撃するのはリスクがある。それに、オルカの安否も心配だ。


「クソ!!」


 アージュナは急いでオルカの元へ駆け出した。


「兄貴!!」

「ファンはそいつを見張ってろ!! お前の魔法なら多少はどうにかできる!!」


 アージュナは煙が上がる建物へ入っていった。ファンはアージュナに言われた通り怪人と対峙する。


「行かないのですか?」

「……俺が行くより最善だ」

「ほ。ほ。ほ。賢明ですね」


 膠着状態でファンと怪人はその場で向き合い続ける。



 ・・・・・



 爆発が起きた直後、オルカ爆音で驚きすぎて天井が吹き飛んだことに反応できていなかった。


「オルカ殿!!?」


 慌てて入って来たのはセティだった。オルカはセティに呼ばれて我に返る。


「あ、え、セティさん??? 一体これは……」


「御機嫌よう。ミス・オルカ」


 直後、上から声を掛けられた。オルカとセティは声のした方向に顔を向ける。


 

 そこにいたのは、目もくらむような美女だった。



 どこに行っても美女と言われても良い顔立ち、紫色の瞳に緑色の淡い口紅を付けた唇、女性にしては背が高く、月の光をバックに煌く銀色でくるぶしまである長髪がなびいている。


 服はどこかミスマッチしている女神の様な布一枚を折った服に黒のローブを羽織っている。


 何より、背中に8枚の翼が生えている。赤、青、緑、茶色、黄色、紫、白、黒とカラフルな色合いをしている。



 子供に微笑みかける様な微笑みで、


「私は『カラー・ゼクロ・パラスペナ』。貴方に会いに来たの」


 優しい口調で話しかけてくる。


 オルカは慌てて立ち上がり、


「は、初めまして……! オルカ・ケルケと言います……」

「あらあら、とても礼儀正しいのね。更に好印象だわ」


 クスクス微笑みながらオルカを褒める。


「あ、ありがとうございます……」


 何だか変わった人だなと思っていると、セティが前に出る。


「オルカ殿! この者はいきなり建物を破壊する危険人物です!! ここは距離を取って……!!」

「あら、ダメよ。淑女の会話に割って入るなんて」


 カラーはソッと手をかざす。



「万死に値します」



 直後、セティが壁に叩き付けられた。


 壁をぶち抜いて柱にぶつかって止まるが、背中から当たった際に嫌な音が全身に響き渡った。


「が、は……!?」


 床に落下し、微塵も動かなくなった。


「セティさん?!!」


 慌てて近寄ろうとするが、カラーが一瞬で間に入りそれを遮る。


「ダメよ。貴方は私とお話するの」

「で、でも、セティさんが……!!」

「当然の罰を受けただけ。貴方が心配する事では無いわ」


 微笑みながら淡々と自分の要求を押し通そうとする姿に恐怖を覚えた。


「さあ、お話しましょう」


 ゆっくりと伸ばしてくる手を避けたいが、恐怖で身体が動かない。


 

 手が届く寸前で、一筋の光がオルカとカラーの間を通過した。



 光は床に直撃すると、床を焦がして消滅した。


 オルカは光が飛んで来た方向を向く。そこには6枚の翼を展開しているラシファの姿があった。


「ギルドマスター……!」

「あらあら、貴方には3人お相手させてたはずなのだけれど……」

「足止めにはなりました。ですが倒すには役不足が過ぎます」


 ラシファはゆっくりと降下する。


「まさか生きているとは思ってもいませんでしたよ、カラー」

「ミスター・ラシファもご機嫌麗しく」


 微笑んではいるが、魔力のぶつかり合いで風景が歪んでいた。


「ぎ、ギルドマスター、あの人は一体……?」


 ラシファは一瞬言い淀んだ。そして、


「……処刑されたはずの『堕ちた林檎』のリーダーです」


 驚愕の真実を口にした。


 名前は非公表だったため知られていなかったが、斬首の後火葬されたと報道はされていた。


「処刑されたのは私もこの目で見届けています。なのに何故、生きているでしょうね?」

「私の悲願が成就されるまでは絶対に死にません。ただそれだけです」


 カラーは近付くラシファから距離を取る為、空中に浮遊した。その傍に全身を黒いフードで隠した『堕ちた林檎』の一員が現れる。


「目的の物を回収しました」

「ご苦労様です」


 睨んでくるラシファを見て、カラーは背後に魔法陣を展開する。


「ミスター・ラシファがいらっしゃるとちゃんとお話できませんから、また今度お会いした時にゆっくりお話ししましょう。ミス・オルカ」


 凍り付きそうな微笑みをしながら、魔法陣へと消えて行った。傍にいた一員も後を追うように魔法陣へと入っていき、姿を完全に消した。


 魔力の圧が消え、緊張が解けたオルカはその場でへたり込んでしまった。


(こ、怖かった……。一体何なんですか、あの人……?!)

「大丈夫ですか?!!」


 直後、アージュナが入り込んできた。


「何か途轍もない魔力に当てられて身動きができませんでしたけど、一体何が……?!」


 周囲を見渡すと、倒れているセティを見つけた。


「セティ!!?」


 慌てて駆け寄り、セティの身体を起こす。セティの呼吸は浅く、反応も無い。


「しっかりしろセティ!!」


 オルカはハッとなり、急いでエリクサーを探す。滅茶苦茶になった部屋から探すのは至難の業だろう。


(どこ? どこにあるの……?!)

「手伝います」


 ラシファも加わり懸命に探すが、5分経っても見つからない。


「どうしよう、セティさんが、セティさんが……!」


 今にも泣きそうな状態で探し続けるオルカ。アージュナも声掛けを続け、ラシファも捜索を続ける。


 コポ、と何かが途切れる音がセティから聞こえた。もうダメだと思った。


「お困りですな、マドモアゼル」


 そこへ、一人の老人が現れた。


「貴方は、劇場で会った…………」

「お話は後で。今はセティを助ける事が最優先です」


 そう言って老人はスーツの前を開く。そこには医療用の道具がびっしりと入っていた。


「【回復手術】」


 老人は魔術を発動し、医療用の道具を宙に浮かせながらセティを高速で治していく。


 軽装だったため、服一枚を切るだけで素肌が見えた。体中重度の傷だらけで出血も酷い。そこにメスを入れ、骨折した部位の接合、断面が酷い傷の修復、切れた血管の接合などをものの数分で完了させてしまう。最後に傷を縫い合わせ、止血して終了した。


 セティの呼吸が安定し、表情と血色も良くなった。老人は一息漏らし、


「これで問題ありません。しばらくは絶対安静ですが」

「よ、良かった……」


 オルカは胸を撫でおろし、安堵の息をついた。ラシファとアージュナも同じ様に安堵している。


 老人はアージュナの前に移動した。


「さて、アージュナ様。セティはしばらく療養が必要です。新しい護衛を派遣させて頂きます」


 アージュナは不満げに、


「……好きにしろ」


 オルカは老人とアージュナを交互に見る。


「あ、あの、お二人はどういう関係で……?」

「おお、これは失礼いたしました。私、『セバスティアン』と申します」


 セバスティアンは深々と頭を下げ、



「アストゥム獣国第4王子アージェナ・ヌウト・ファリア様の護衛の1人でございます」



 セバスティアンの言葉の中に、耳を疑う単語が混じっていたことに、オルカは呆然としていた。


「獣国の、王子……???」








お読みいただきありがとうございました。


次回は『襲撃の後始末』

お楽しみに。


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