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Ep.2 新天地、そして運命の出会い


新天地に到着し、新たな出会いを得る。



 テルイアから8日ほどで無事にハナバキーへ到着した。


 途中馬車を変えながら進み続け、道中盗賊や魔物に襲われる事無く順調な旅だった。


 オルカは馬車代を払い、ハナバキーの街へ繰り出した。



 ハナバキーは様々な国の民が集まり、色とりどりで様式も違う建物が多数存在している。主に石造りの建物だが、壮観な劇場、荘厳な教会、巨大な庁舎などどれも見ごたえのある建物ばかりだ。


 街の中は人と活気で溢れ、とても賑やかで明るい。人族以外にも獣人、エルフ、リザードマン、ドワーフなどが行き来し多国籍な国だと実感させられる。



 オルカは熱い日差しで汗をかきながらキャリーバッグを引きながら目的のギルドへ到着する。


「ここがハナバキーの冒険者組合、でかい……」


 『冒険者組合』と書かれた看板の建物は前にいたギルドよりも大きい建物だった。要塞に転用できそうな程しっかりした石造りの建物で、おそらく5階建てだろう。


 建物の前で呆然と立ち尽くしていると、正面の門にいる警備の人に目を付けられた。慌てて我に返りそそくさと建物へ入る。


 中に入ると、広いエントランスホールが出迎えてくれた。オルカはとりあえず総合案内と書かれたカウンターへ向かう。


「あ、あの、すいません」

「こんにちは! 本日はどういったご用件でしょうか?」


 受付嬢が明るく対応してくれる。


「知人から、ここを紹介されまして……。ウィシュットさんはいらっしゃいますか……?」

「ウィシュット組合長ですか? 少々お待ちください」


 受付嬢は魔導通話で連絡を取る。すぐに繋がり受け答えを始めた。


「お疲れ様です。今知人の紹介でウィシュット組合長にお会いしたいと訪問された方がお見えになってまして……、はい……少々お待ちください」


 魔道通話を離してオルカに話しかける。


「知人様のお名前よろしいでしょうか?」

「サトナーさんです。紹介状もあります……」


 再び魔導通話に耳を当てた。


「サトナー様だそうです。紹介状もあるとの事ですが…………分かりました。すぐに準備します。失礼いたします」


 魔導通話を切り、オルカに向き合う。


「お待たせしました。ウィシュット組合長が直接お会いになりますので、会議室にご案内します」

(ウィシュット組合長って、一番偉い人なのかな……? サトナーさんって何者……?)


 色々疑問を浮かべながら、会議室へ案内された。



 ・・・・・



 10人位入れる会議室に1人で待たされ、1時間しないうちに1人の女性が入って来た。


 赤いスーツを着た初老の女性だが、身体つきは明らかに一般の初老とは違う。スーツの下からでも分かる程筋肉が盛り上がり、各部位の隆起が判別できそうだった。ボリュームのあるロングヘアをかき上げてオルカと対面する。


「貴方がサトナーから紹介された子?」


 声に独特の重みがあり、貫禄があった。


「は、はい! オルカ・ケルケと申します!」


 オルカは緊張して背筋が伸びる。


「緊張しなくていいわ。私はウィシュット、ここで組合長をしているわ。よろしく」


 微笑みながら優しく語り掛け、緊張をほぐす。オルカも少し緊張がほぐれる。


「さて、早速だけど紹介状を見せてもらっても?」

「はい、どうぞ」


 オルカはサトナーに貰った紹介状の入った封筒を渡す。ウィシュットは封筒を開いて中身を確認する。一通り目を通し、封筒にしまう。


「どうやら本物みたいね。あなたの事情もよく分かったわ」

「はい……」


 ウィシュットは身を乗り出してオルカと距離を詰める。


「大変だったわね。でも安心して、私も貴方の味方になるわ」


 ウィシュットはニコリと微笑んだ。


「どうして、そんなに親切にしてくれるんですか……?」

「そうね。理由は3つ。1つ目はサトナーの紹介だから、2つ目は不当な仕打ちを受ける女性の味方だから、そして3つ目は私が貴方を知っているから」

「え、私を、ですか?」


 意外な理由が出て来てオルカは目を丸くした。そこまで有名な冒険者でも魔術師でも無いと自負している。過去にどこかで会ったのか、思い出す事はできない。


「貴方を知っている理由は追々教えてあげるわ。まずは色々と登録をしないといけないわね」


 ウィシュットは立ち上がって手を鳴らす。手が鳴ったのと同時に職員の男性が書類やペンを持って入って来た。


「ここにある書類の必須事項をよく読んでサインの記入をお願い。向こうとあまり内容は変わってないけど、決まりだから」

「分かりました……」


 オルカは書類とペンを受け取って書類を読み始める。オルカは読み進めながら目の前にいるウィシュットに質問する。


「あの、サトナーさんとはどういった関係でしょうか……?」

「サトナーと? あの人とは一度職場が同じだったの。何度も窮地を救ってくれた、信頼できるいい人よ」

「そうだったんですか……」

「だからもしサトナーの名を語った偽物だったら鉄拳制裁を下していたところよ」


 ウィシュットの拳にピキピキと血管が浮き上がる。


 隠しきれない殺意に少し引いたオルカだった。



 ・・・・・



 1時間かからず記入を終え、職員に提出する。思った以上に労力を使い少し疲れが溜まる。


「お疲れ様。ここでの冒険者と魔術師の登録はこれで完了よ。他の処理も任せて頂戴」

「ありがとうございます……」


 オルカは背もたれに寄り掛かり、背筋を落ち着かせる。


「ところで、貴方どのギルドに入るか決めてらっしゃるの?」

「いえ、全然決まってません……」

「なら丁度いいイベントがあるわ。明日だけど飛び入りで参加しない?」

「イベント、ですか……?」

「ええ、今の貴方にピッタリなイベントよ」



 ・・・・・


 

 翌日


 街中 特設会場


「さあやって参りました! 『冒険者アピールコンテスト』!! 今回はどんな冒険者が現れるのか!!!」


 やたらハイテンションな女性が司会を務めている『冒険者アピールコンテスト』とは、その名の通り冒険者がギルドに採用してもらうためのイベントである。冒険者組合主催で様々な冒険者が参加している。観客の殆どはスカウト目的の冒険者ギルド関係者だ。


 オルカは飛び入りで参加したため、万全な状態ではなかった。アピールの順番も一番最後のトリのため余計に緊張している。


「うう……、緊張する……」


 ウィシュットから貰ったC級の魔術用ステッキを握りしめ、順番を待つ。


 緊張を紛らわすために舞台袖から他の冒険者の様子を見る。ある者は力自慢を披露し、ある者は得意な技を披露する。


 それをつまらなそうに見る獣人の男がいた。


 黒いボサボサのショートヘア、褐色の肌に鋭い金色の瞳、同性から見ても魅力を感じる整った顔立ち、細身で引き締まった肉体と長身をしている。年齢は20代。黒い革製のジャケット風の軽鎧を羽織り、中には鎖帷子のシャツを着込み、伸縮性に長けた黒っぽいジーパンを履いている。ジーパンのお尻から獣人特有の尻尾が出ていた。


(どいつもこいつも大した事ねえな……。今回もハズレか)


 内心舌打ちしながら欠伸をしてただ眺める事に専念した。


 そうこうしているうちにオルカの順番が来た。


「それでは最後の冒険者となります。ゴルニア王国C級冒険者であり、魔術師のオルカ・ケルケさんです! どうぞ!!」


 意を決して舞台に上がると、拍手が起こった。会場には観客が大勢集まっており、オルカに注目する。


「オ、オルカ・ケルケです……! よろしくお願いします……!」


 緊張しながらもお辞儀をして挨拶する。


「はい! ご丁寧にありがとうございます! 早速ですが、オルカさんの特技を教えて下さい!!」

「わ、私の特技は、『デバフ』です……!」


 その発表に観客の反応はまちまちだった。興味がある者もいれば全く無関心な者もいる。何とも微妙な空気だ。



 そもそもデバフとは、『対象を弱体化、阻害する能力』の総称である。


 一度かかれば相手は行動が制限されて味方の助けになるが、強力な相手になると抵抗力があるためデバフにかかりにくかったり、効かない時もある。もう一つの問題として、デバフ持ち自体の戦闘力が弱い事が多い為、仲間の強さに依存してしまう。その為デバフを得意とする者を起用するのは多くも少なくもないのだ。



 微妙な空気を切り替えるため、司会者は気を取り直して、


「となると、デバフをかける相手が必要ですね! コンテスト用ゴーレムをお願いします!!」


 大きな足音を立てて登場したのは全長5m程の岩の人型ゴーレム10体だった。おでこには数字が1から10まで書かれている。


 先に出ていた冒険者達も技を披露する相手としてこのゴーレムが登場していた。おでこの数字は強さを表し、10段階まである。最大の10はA級冒険者がやっと倒せる程の強さだと説明していた。


「この中から自信を持って掛けられるゴーレムを選んで下さい! 選んだら戦闘が開始されます!」


 オルカはゴーレムを全て見渡し、


「素材は石材、魔力核は反射反応からして胸部中央約20㎝、可動域は人型と相違無し、魔力回路の浸透率は60%、だから稼働時間は通常で2時間程度、過剰稼働で30分、強度は…………」


 ブツブツと独り呟き始め、ステッキを貧乏ゆすりの様に往復させて動かす。その風体と俯きながらやっているため余計に怖い。


「あ、あの、オルカさん?」


 心配になった司会者が声を掛けると、オルカはゆっくり顔を上げる。


「全部行けます。まとめてやらせて下さい」


 とんでもない発言に司会者と観客全員が声を出して驚き、ざわつき始めた。


「ぜ、全部ですか?! え、でも、流石に10はちょっと……」

「いいわ、やらせてあげなさい」


 そう言って舞台袖から出て来たのはウィシュットだった。


「く、組合長!?」

「彼女なら問題無いわ。やってあげて」


 ウィシュットの自信に満ちた目とオルカの確信のある目に負けて司会者は、


「……分かりました! どうなっても知りませんよ!」


 若干やけ気味に手を挙げ、


「アピールタイム、スタート!!!」


 振り下ろして開始の宣言をした。


 宣言と同時にゴーレムが動き出し、オルカに一斉に近付く。距離は後10mも無い。オルカはステッキをゴーレム達に向ける。


「【多重目標確認(マルチロックセット)】、【魔術陣多重展開(サークルオープン)】」


 オルカから魔力が溢れ出し、数十もの魔術陣が展開される。魔力力場の影響で眩い光の粒子と共に強風が吹き荒れる。大きく息を吸い、吐く。そして、目を見開いた。



「【30連(サァティタイムズ)】【遅延(スロウ)】!!!」



 オルカの魔術が炸裂し、ゴーレム達にデバフが掛かる。


 勢い良く進んでいたゴーレム達の動きが急激に遅くなり、時間経過と共に殆ど動かなくなる。よく見ると動いているのだが、よく観察しないと分からないレベルだ。


「さ、30回連続発動?! いくら多くても10回が限界って聞きますけど……?!!」



 【連続(コンティニュー)発動(アクティベート)】はその名の通り同じ魔術を連続して発動する術式なのだが、これは同じ物を寸分違わずイメージし手を使わず描くという作業になる。


 この一連の作業を目の前の距離計算、対象の動作予測、魔力の調整などをしながら行わなければならない。それがどれだけ難しいか容易に想像できるだろう。


 そしてデバフ系の魔術は他の魔術よりも難易度が高い術式な上に魔力をかなり消費する仕様になっており、一回の効果量も対象の抵抗力によって左右されてしまう。


 そのため【連続発動】で確実にデバフを与え、行動を阻害する。それが彼女のやり方だ。


 そのやり方を確実に成功させているオルカは優秀であることが分かる。



「あれが彼女の真の実力。C級冒険者の仮面を付けたとんでもない魔術師よ」


 ウィシュットは彼女の実力を発揮する姿を見て、本物であることを確信し微笑んでいた。


 デバフに成功し、オルカは緊張が解けその場で前のめりになってしまった。ゴーレム達と接触するまで後2mだったのだから無理は無い。


「せ、成功しました……」


 オルカはニヘリと柔らかな笑みで喜んだ。


 それと同時に観客席から盛大な拍手が起こった。歓声と共に立ち上がり、オルカを賞賛する。


「やったわね」


 ウィシュットがオルカに近寄り、倒れそうなオルカを支える。


「あ、ありがとうございます……」


 ヘロヘロになりながらお礼を言った。


 歓声と共に勧誘の声が上がる。


「オルカさん! 是非うちのギルドに!!」

「我々のギルドは貴方を歓迎しますよ!」

「私のギルドなら優遇いたします!!」

「えっと、あの、その……」


 熱烈な勧誘にオルカはタジタジになっていた。


「待ちな!!」


 歓声を遮る程の大声が会場に響き渡る。そして大勢の観客の上を跳躍して舞台の上に着地する影が現れた。


 その影はさっきまで退屈そうにしていた黒い獣人の青年だった。


「俺はアージュナ。ギルド『漆黒の六枚翼(ネロ・セラフィム)』のA級冒険者だ!!」


 堂々と自己紹介をし、オルカに手を差し伸べた。


「お前、魔術師として一流じゃねえか! 俺のパーティーに入りな!!」


 自信満々で何とも偉そうな発言にオルカは呆気に取られた。


 しかし、その純粋に欲しいと思っている瞳に悪い感情を抱かなかった。



 これがオルカとアージュナの出会いだった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『漆黒の六枚翼の冒険者達』

お楽しみに。


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