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Ep.17 強化薬にご注意


強化薬の成功と失敗



 アージュナとオルカが劇場に行った日から数日後



 オルカはラシファに呼び出された。


「組合から正式に要請がありました。オルカさんの作った薬を買い取りたいとの事です」


 ラシファは微笑みながら伝えた。


「正式に、ですか」

「ええ、A級魔術師の魔術薬が直に仕入れられる機会は中々無いからでしょう。ですが、こちらからいくつか条件を提示して最低限の量で済ませましたので、負担はかかりません」

「出来れば相談して頂きたかったです……」

「言いくるめられる可能性がありましたので」


 ラシファの表情を見てオルカは、


(…………ギルドマスターのことだから、私に一番負担にならない条件にしてくれたのかな……? 昇格の時はかなり手を回してくれたし、今回も色々してくれたのかも……)


 心の中で納得して、ラシファと視線を合わせる。


「えっと、どれくらい作ればよろしいでしょうか……?」

「今回は『身体強化薬』を作ってもらいたいとのことです。最高品質でお願いしたいそうです。素材は明日にでも届くみたいですよ」

「分かりました……。届き次第作り始めます」

「よろしくお願いいたします」


 ラシファはオルカに微笑みながら感謝する。



 ・・・・・



 それから数日後


 ギルドに『身体強化薬』に必要な大量の素材が届いた。オルカは早速作業に入り、一つ一つ丁寧に作っていく。ただ、強化薬の作成はかなり難しいため、10個中3個失敗する。A級魔術師であるオルカですら手こずる代物だ。


 オルカはそれを10個中1個失敗する程度まで抑え込んだ。だが、失敗した物は迂闊に体内に入れれば何が起こるか分からない代物になっている。早々に処分したいが、魔術協会によって決められた日にしか捨てられないため、一時保存しなければならない。


 あっという間に納品分100個を作り終え、箱詰めして取りに来る4日後まで厳重に保管しておくことにした。品質管理のため何重にも【一時停止】、うっかり落として破損させない様に【硬化】、誤って簡単に開かない様に【施錠】をかける。これでオルカ以外簡単に開けられない箱の完成である。ついでに【加重】をかけて動かない様に固定する。


「これでよし……。後は失敗したのをどこに保管するか……」


 一人考えていると、


「お疲れっす、オルカ姉さん!」


 ファンが研究室に入ってきた。


「あ、ファン君。どうしましたか……?」

「ここ数日ずっと作業してたみたいっすから、ちょっと様子見に」

「ありがとうございます。でもこの通り大丈夫ですので……」


 むん、と、元気だと証明するポーズを取る。ファンは微笑みながら、


「何すかそれ、ちょっと面白いっす」


 互いに微笑み合い、場の空気が和んだ。


「ところで、その薬が完成品ですか? 色とりどりですけど……」


 本来『身体強化薬』の色は赤だけなのだが、失敗した物は紫だったり茶色だったり、赤とは離れた色をしている。


「これは、失敗した強化薬です……。どんな効果が出るか分かりませんので、破棄しようかと……」

「そっか、何だかもったいない気がするけどなあ」


 そう言いながらファンは失敗した物の一つを手に取る。


「……試しに飲んでいい?」

「話聞いてましたか……?」


 珍しくちょっと怒るオルカに気が引け、流石のファンもたじろぐ。


「じょ、冗談っすよ」

「……ならいいです。本当に飲んじゃ駄目ですよ……?」

「はいはい」


 ファンは薬を元の位置に戻した。


「そろそろ昼だし、一緒にどう?」

「いいですね……。何か作りますか?」

「いや、俺が作るよ。特製サンドイッチを作ってあげる!」

「ありがとうございます」


 そう言いながら2人は研究室を後にする。



 2人が去ったのを確認し、ギルドに侵入する人物が現れた。


 そして、研究室に入り込んだのだった。



 ・・・・・



 オルカとファンが一緒にサンドイッチを食べるために食堂に入った時、侵入者を知らせる警報が鳴り響いた。


 初めて聞く音にオルカは驚いてしまった。


「な、何ですか……?!」

「侵入者ですよ! よりにもよってスカァフ姉さんがいない時に……!!」


 慌ててギルド内を確認しに行くが、怪しい人影は見当たらない。


「もう逃げられた?! 警報鳴ったら結界が発動しているはずなのに……!?」

「結界は作動してます……。おそらく結界透過の魔術礼装を使ったのかもしれません……」


 その時、2階にいたラシファが降りて来た。


「侵入者は?」

「見つかりません!」

「参りましたね……。この結界装置、高性能のはずなのですが」

「どうしますか?」


 ラシファは考えて、


「……何が盗まれたのか確認しましょう。私は治安局に連絡を入れます。その間に2人は確認を」

「「了解!」」


 2人は全ての部屋を隈なく探すが、特に荒らされた様子は無い。確認し終えた2人はラシファと合流する。


「何か分かりましたか?」

「いえ、特には……」

「俺の方も何も」


 ラシファは再び考え、


「……ギルドの倉庫は見ましたか?」

「え? でも倉庫には何も入れてませんよ? 食料や武器は全部地下ですし」


 ファンの言う通り、食糧庫と武器庫はギルドの建物の中からでしか入れない地下にある。しかも生体認証のため他所の人間が侵入しようとすれば必ずバレる。建物の周りにある倉庫はダミーでしかない。


 一つを除いては


「……あ!! オルカ姉さんの研究室!!」

「!!!!!」


 3人は急いでオルカの研究室へ向かう。


 研究室に入ると、テーブルの上に置いてあった失敗した強化薬だけ無くなっていた。厳重に保管してあった強化薬は取られていなかった。


 とりあえず本命は無事だったことにオルカは安堵した。


「良かった……。組合に卸す方は無事でした」

「結界が発動して相当慌ててたのでしょう。施錠の緩かった失敗した強化薬だけ持って行くとは……」

「でも失敗した方だけで良かったじゃないっすか」


 オルカは安堵の表情からみるみるうちに青ざめる。


「だ、だめです……! 失敗作だからこそどんな効果が出るか分からないんです……! す、すぐに回収しないと……!」


 慌てて飛び出そうとするが、ラシファに止められる。


「落ち着いて下さい。今治安局の方々が来てくれますし、知り合いのギルドにも連絡しましたのですぐにでも捕まりますよ」

「そ、そうなんですか……?」

「はい。だから大丈夫です」


 ラシファは微笑んでオルカを安心させる。オルカも落ち着いたのか、慌てた様子がなくなる。


「わ、分かりました……」


 ラシファはとりあえず落ち着いてくれたことに安心してフウ、と溜息を漏らす。


(しかし、何故強化薬が作られている事が知られていたのでしょう……? ……これは少々調べた方が良さそうですね)



 ・・・・・



 ハナバキー 路地裏



 首都ハナバキーと言えど、治安がとてもいい訳では無い。犯罪率は0では無いし、暗がりで窃盗を行う者がいるのも事実だ。そして、路地裏で違法な取引をしているのは珍しくも無い。


 マントで全身をくるんだ男は誰も通らない路地裏で一人待ち合わせをしていた。


 しばらくすると、小綺麗な男達が現れた。1人は初老でスーツを着た男、後2人は大柄でいかつい顔つきをしたボディーガードの様な男達だ。


「例の物は?」

「……先に金だ」


 初老の男は舌打ちして【収納】から札束の入った鞄を見せる。おそらく数千万はあるだろう。一瞬見せた後すぐにしまう。


「見せたぞ。そっちも見せろ」

「ほらよ」


 マントの男は懐から木箱を見せる。中には10個の薬が瓶詰されて入っていた。


「こんなの手に入れてどうするんだ? 素人の俺でも失敗作だって分かるぞ」

「お前は知らなくていいことだ。さっさと交換するぞ」

「……分かったよ」


 互いに物を渡し、再び中を見て確認する。すり替わっていないか確認し終え、懐にしまう。


「これで今回の仕事は終わりだ。また何かあればこちらから連絡する」

「そっちの連絡先を知らないんだが」

「知らなくていいことだ」


 初老の男性は鼻息を鳴らしてその場を後にした。


 一人に残されたマントの男もその場から去ることにした。


(さて、どうなることやら……)


 マントの下で不敵な笑みを浮かべて、姿を消した。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『失敗作の使い道、焦熱の全力』

お楽しみに。


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