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Ep.13 研究の始まり、焦熱の興味


研究を始める彼女に興味を示す焦熱の戦士



 新装備を入手してから数日後



 オルカの倉庫研究室は何とか形になった。


 薬を作るための器具一式、様々な素材たち、敷き詰められた魔導書、見事なまでの魔女部屋だ。


 オルカは再び手にした研究室に喜びを隠せなかった。


(これでまた研究ができる。私が役に立てる数少ない事だし、頑張らないと)


 フン、と気合を入れて早速作業に取り掛かる。


(まずはアージュナさんにも教えて上げられる『初級回復薬』から作ってみよう……。材料は……)


 まだ戻って来ていないアージュナのために初級回復薬の作り方をおさらいする。調合、加熱、魔力注入など、手際の良さは衰えてなく、ものの数分で1本作ってみせた。


「…………完成……」


 成功したことに安堵し、ホッとする。


「へえ、上手いじゃないか」


 声がした方を向くと出入口にバルアルがいた。


「バルさん……、何かご用でしょうか……?」

「いや、ただの見学さ。近くで見る機会なんて中々無いからね」


 バルアルは出来たばかりの回復薬を近くで見つめる。


「見事な青色だ。組合に卸すのかい?」

「いえ、そういう予定はないです……。しばらくは作ってなかった魔導具のおさらいや止まっていた研究を再開したいと考えています」

「そうか。ちなみに研究って何を?」

「色々ですね……。成功したのは2つだけですが……」

「なるほど」


 バルアルは椅子に座りオルカを見つめる。


「ついでに相談なんだが、魔力回復薬は作れるかい? 魔法を主戦闘にしているから魔力切れだけは避けたいんだ」

「えっと、どれくらいの回復量が必要ですか……?」


 バルアルは口に手を当て、


「そうだな、最低でも1回で半分は回復したいな。何度も飲み過ぎると体に悪いから」

「なら上級ですね……。それだと素材がちょっと足りないです……」

「素材があればできると?」

「できます」


 オルカはハッキリと断言し、真っ直ぐにバルアルを見つめる。バルアルは目を見て嘘では無いと分かる。


「……ちなみにいくらかかる?」

「えっと、1本分で2000パンサ前後ですね」


 オルカの答えにバルアルは顔を片手で覆う。


(市場価格の5分の1以下、か……。資金繰りに影響が出そうなレベルだ)


 悪い表情が見えない様にして、落ち着いたタイミングで向き直る。


「足りない素材は何かな? 良ければ今度の遠征終わりに採ってきてもいいが」

「えっと、ちょっと待って下さい」


 オルカは立ち上がって棚から魔導書を取り、該当するページを開いてバルアルの前に持ってくる。


「これです。『花無し紫綿花』です。魔力の豊富な『龍脈』の濃い地域にしか生息してないんです……」


 バルアルは魔導書の図解をよく見る。


「……これなら見た事があるな。取り方にもコツがあるようだし、しっかり覚えて採取してこよう」

「あ、ありがとうございます……!」


 オルカは頭を下げてお礼を言う。


「他にはどんな事をするんだ?」

「えっと、他には魔術の開発とかを……」


 バルアルは指を鳴らす。


「いいね。そういうのもっと聞かせてよ」


 ニコっと笑い、話が弾みだす。 



 ・・・・・



 それから数時間



 オルカとバルアルは魔術や魔術薬に関する話で盛り上がった。互いに楽しい時間を過ごし、ずっと笑みをこぼしていた。


 それに終わりを告げたのは、ラシファのノックだった。


「すみませんが、そろそろ晩御飯の用意をお願いできますか?」


 2人はハッとなり立ち上がる。


「す、すいません……! すぐ用意します」

「俺も手伝うよ。俺のせいでもあるから」


 2人は揃って研究室から出る。ラシファは去り際にチラリと部屋の中を覗く。


(青色の薬……、初級回復薬ですか。しかも完成度の高い濃い青。流石と言ったところですね)


 ラシファは微笑んで2人の後を付いて行った。



 ・・・・・



 その日の夕方


 アージュナとセティが遠征から戻って来た。


「ただいま戻りました!」

「只今帰還しました」


 あちこちボロボロだが、五体満足で帰還した。


「おかえりなさい、お二人共」


 一番最初にオルカが出迎えた。


「よおオルカ! 元気そう……」


 アージュナの言葉が止まった。ついでにセティも固まる。


「?」


 不思議そうな顔をするオルカにアージュナは目を逸らしながら、


「あー、えっと、その、随分とまあ……大胆だな」


 オルカの服装はこの前手に入れた装備のポンチョをだけを外してエプロンを上から着た格好だ。なので、正面から見るとスタイル丸わかりの際どい感じに見えなくもない。


 オルカは恥ずかしそうにしながら、


「す、すいません……。無神経でした……」

「いやいやいやいや! そういう訳じゃないんだ! 思ったより綺麗だったから、ちょっと戸惑っただけで!」

「あ、ありがとうございます」


 互いに照れながら顔を見合わせながら微笑んだ。


「この程度で照れるな青二才」


 そう言って上から飛び降りてきたのはスカァフだった。


「その歳にもなって困惑してどうする。美人局に引っ掛けられるぞ?」

「し、仕方ないだろ。前見た時より格段に綺麗になってるんだから……」

「そういうのは平然と対応してみせろ」


 スカァフは不甲斐ない奴と呆れながらその場を後にした。変な空気になったがセティが一度咳ばらいをして、


「ギルドマスターに報告に行きましょう。今回の遠征は伝える事が多いです」

「そうだな。じゃあオルカ、また後で」

「はい」


 

 ・・・・・



 その日の晩、久し振りにギルドメンバー全員で食べる夕餉となった。


 皆会話と食事を楽しそうに進める。


「いやあ、俺も最初はビックリしたっすよ! こんなにセクシーだったんすから!」

「意外と耐性あるなファン。もう少しリアクションしたかと……」

「リアクション出来ない位裏で鼻血出しておったろうが。嘘をつくでないわ」

「ちょ!? 姉さん言わないでくださいよ!!」

「ところでセティ、今回の遠征はどうだったのかな?」

「いい経験になりました。その反面、装備の改良も必要なのも見えてきました」

「なら遠征休暇のついでに装備屋に行くといいでしょう。オルカさんの装備を作ってもらったばかりですが、彼なら引き受けてくれます」

「ところでオルカ。研究ってもう始めた?」

「は、はい……。初級回復薬ならお教えできるかと……」

「よっしゃ! じゃあ明日から頼むわ!」

「よ、よろしくお願いいたします」

「初級回復薬以外にも作れるんだよね? どこまで作れるんだい?」


 何気なく、サラリと出たバルアルの質問にオルカは、


「えっと、エリクサーまでなら」


 全員が沈黙して動きが止まる答えを返した。


「…………オルカ殿。今何と?」


 恐る恐るセティが確認する。


「え、えっと、エリクサーです。それ以上はちょっと……」


 スカァフは眉間をつまんだ。


「……前までお主がいたギルドはよく離脱を許したな」

「全くだ」


 珍しく意見の合うスカァフとバルアルを見て、何かおかしい事を言った雰囲気を察した。


「す、すいません! 偉そうにエリクサーが作れるなんて……」

「いえ、問題はそこではありません」


 ラシファが冷静に微笑みながら訂正する。


「いいですかオルカさん。エリクサーは大抵の病気、瀕死の大怪我、魔力の大幅回復ができる冒険者以外の方にも大変助かる万能の薬です。それを作れるのは魔術協会のA級魔術師資格が必要です。つまりオルカさんは……」


 ラシファの質問にオルカは小さくなりながら、


「えっと、一応A級魔術師資格、持ってます……。冒険者の間ではあまり評判が良くないのと、役に立たないので言ってませんでした……。ごめんなさい……」


 オルカとファンとアージュナ以外の全員が鳩に豆鉄砲を食ったような表情になっていた。



 それもその筈、A級魔術師資格は冒険者とは畑違いだが、あらゆる魔術を利用する分野において何でもできることを示す四国同盟共通の国家資格だ。毎年の合格率は1%にも満たず、0の年の方が多い。


 つまりオルカは環境と素材さえあれば軍事や医療で必要な魔術薬を好きなように作れるし、魔導具や魔術礼装も作れるとんでもない人材なのだ。


 冒険者の間で評判が良くないのは、そもそも理屈っぽい魔術師と反りが合わず、階級が上がれば上がる程見下してくる傲慢な魔術師連中がいるからだ。


 

 だから4人は呆れるくらい驚いているのだ。


「そ、それだけの資格があるなら何故冒険者に……?」


 セティが我に返って再び質問する。


「それは、その、ちょっと、病気で……」


 ラシファは何かを察し、一回だけ拍手する。


「この話はここまでにしましょう。今は温かいご飯を食べるのが最優先事項です」


 微笑みながら視線をスカァフやバルアルに向ける。


「そうじゃな。少々喋り過ぎたようじゃ」

「俺も反省だ。今後は気を付けよう」


 そう言って食事に戻り、会話が終了した。


「(兄貴、俺サッパリ話に付いてけなかったんすけど)」

「(奇遇だな、俺もだ)」


 よく分からないまま、会話が続く事は無く夕餉が終わった。



 ・・・・・



 深夜 ギルドマスター室



「なるほど、それを貴方は知っていたのですね」


 ラシファは魔導通信機で会話をしていた。


『もう少し早く連絡が来ると思っていたわ』


 相手は冒険者組合長ウィシュットだった。


『それほど彼女が奥手だったようね』

「そんな所です。まさかA級魔術師資格保有者だったとは……」

『貴方が驚いた顔、見て見たかったわ』

「ご冗談を」


 互いに微笑みながら会話をする。


『……それで、聞きたいことは何かしら?』


 ウィシュットが真面目な口調に切り替わる。ラシファもまた、真剣な表情になった。


「彼女がどうしてここへやって来たのか、それを教えて欲しいのです」

『珍しいわね。実力と人間性が良ければ素性を探らない貴方が』

「【天啓】に導かれし女性に興味が湧いたまでです。貴方が教えてくれれば楽なのですが」


 ウィシュットはしばらく黙り、


『……いいでしょう。ただし詳細は貴方が調べなさい。それなら教えて上げる』

「ありがとうございます」



 ラシファはオルカがどうしてここへやってきたのかの経緯を知った。


 それと同時に、彼女をどうするか、一つの方針が固まったのだった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『鎧の騎士と黒の王子と薬作り』

お楽しみに。


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