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Ep.12 槍聖とやっとできた新装備


新装備と槍聖と



 オルカの装備の受取日がやって来た。



 前金は払っているので後は取りに行くだけなのだが、何故かスカァフが付いて来ている。


 オルカは恐る恐る振り返る。


「あの、どうして付いて来ているのでしょうか……?」

「暇だからじゃ。別に迷惑をかけてないのだから良かろうて」


 堂々とした態度で等間隔で付いて来る。


(うう、気になって仕方ない……)


 心の中で弱音を吐きながらカツァルの店に到着する。扉を開けた時に鳴るベルでカツァルがオルカ達に気付いた。


「あら~! いらっしゃい! 装備はもう出来てるわよ」


 前と変わらぬ動きでオルカに近付く。


「今から試着してもらって微調整だけど、いいかしら~?」

「受け取りだけでは……?」

「やっぱりお客様には良い物を着て貰いたいから、徹底的にやりたいのよ~。特にオルカちゃんにはね」


 ウィンクしてオルカの背中を押して試着室へ連れ込む。


「スカァフさんはちょっと待っててね~」

「勝手に付いてきただけじゃ。勝手に待っておるわ」


 スカァフはカウンターに寄りかかり、オルカ達が出て来るのを待つことにした。


(しかしゴルニア王国からの冒険者か……。何かあるかと思ったが、杞憂だったようじゃな)



 ・・・・・



 しばらくして、オルカが新しい装備を着て試着室から出て来た。部屋の扉を開いた音でスカァフが気付く。


「着替え終わったか。どれ、どんな……」



 スカァフが振り向くと、そこにはさっきまでとスタイルが明らかに違うオルカがいた。


 

 さっきまで着ていた服装とは違い、スタイルのラインが分かるタイプの服装だ。


 明らかに豊満な胸が分かり易いピッタリと貼り付く様な薄く黒いタートルニット、片腕だけで包み込めてしまえる程細い腰が分かる紫のコルセット、肩幅より大きな腰が強調されたスリットの入った赤いプリーツスカート、肩と首、脇が隠れるように革製で襟付きの短いポンチョをしている。


 どれも魔女風にデザインされているが、冒険者として動きやすい丈に設定してある。



 スカァフが目を見開いている後ろでカツァルがオルカの肩に手を置く。


「凄いでしょ~?! 猫背で分かりづらかったけど、オルカちゃんとんでもないスタイルをしてるの~! 前のコルセットで隠してて罪悪感凄かったわ~!」

「は、恥ずかしいです……!!」


 オルカは顔を赤くして隠そうとする。


 スカァフはカウンターを乗り越え、オルカに後ろを向くよう指示する。


「……?」


 オルカは言われるがままスカァフに背中を向ける。スカァフはオルカの丸い背中に中指の第二関節を立てた拳を当てる。


「ふん」


 グッと背中にめり込ませ、無理矢理背筋を刺激する。


「んぎゃ?!?!」


 短い叫びと共にオルカの背中がピンと伸びる。今までにないくらい真っ直ぐな姿勢になる。オルカ自身には痛みが残る。


「な、な、何を……」

「これで背中は伸びたであろう。ちゃんと胸を張れ」


 スカァフはオルカの肩を叩きカウンターから出る。


「それだけ立派な身体があるなら全面に出さんか! 誇りであるぞ!」


 堂々と胸を張ってオルカに言い放つ。オルカはオドオドしながら、


「で、でも、こんな体自慢しても疎まれる気が……」

「勝手に疎ませておけ! 正当な評価ができない輩なぞゴブリンにでも食わせてしまえ!」

「ええ……」


 オルカを圧倒しながらスカァフは熱弁する。


「天から授かった肉体はお主の誇りである! 武器である! 持ち腐れるなぞ言語道断!! 故に! 全面に出して自慢し続けよ!!」


 スカァフの発言にオルカは呆気に取られていたが、自身を持つことを許された様な気がした。


「……わ、分かりました。頑張ってみます」

「言ったな? ならば今から街に出るぞ。お披露目じゃ」


 突然の提案に、オルカは一瞬思考が止まった。


「は、え……?」

「ぼやぼやするでない。行くぞ」


 オルカを引きずりながら店を出て行く。


「またのお越しをお待ちしております~」


 カツァルは手を振ってオルカ達を見送るのだった。



 ・・・・・



 2人がハナバキーの街を歩いていると、沢山の人の視線を感じた。


 スカァフの美しい姿と、オルカの魅惑の姿はどんな人間よりも目立っていた。スカァフは堂々としているが、オルカは帽子で顔を隠していた。


「何をしておる。顔も出さんか」


 目にも止まらぬ速さでオルカの帽子を奪い、素顔を無理矢理見えるようにする。


「か、返して下さい……!」

「これはお主のためでもありギルドのためじゃ」


 スカァフは奪い返そうとするオルカを軽くいなしながら会話を続ける。


「ギルドのため……?」

「そうじゃ。いくら強いメンバーで固めようと、弱腰のメンバーが1人いれば連鎖して舐められる。そんなことワシが許さん」


 確かにそうだと心の中で思いながら、自信の無い自分に嫌気が差した。


「……すいません」

「謝るなら行動で示せ。虚勢でもよいから胸を張ってワシと並んで歩いてみせろ」

「は、はい……!」


 オルカはビシッと胸を張ってスカァフと並んで歩く。


「よし、それでいい。ワシがいない所でも出来るようにするんじゃぞ」

「はい!」


 グイっと更に胸を張ると、ユサユサと胸が揺れた。スカァフには無い大きな胸が思いっ切り飛び出す。


「………………」


 スカァフは自分の胸とオルカの胸を交互に見る。


(40にもなって羨ましいと思うあたり、ワシもまだ女と言う訳か)


 フッと笑いながら歩を進める。そこに、


「ちょっと貴方!!」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと、チュエリーがいた。


「この前はよくもやってくれましたわね! おかげで恥をかきましたわ!!」

「え、えっと……」


 オルカがオロオロしているところに凄い剣幕で畳みかける。


「いいから謝りなさい!! 今ここで!!」

「す、すいません……」

「謝罪は土下座で行うものですわ!! さっさとなさい!!」

「う、ううう……!」


 無茶苦茶な要求に困惑していると、間にスカァフが割り込んできた。


「何よ貴方!? この女庇う気?!」

「下着」


 スカァフがボソッと言った言葉にチュエリーが固まる。


「どうする? 衛兵呼んであの日の詳細とストーカーの被害届を出してやろうか?」

「え、あ、それは」


 チュエリーがたじろいでいるところにスカァフが追い込む。


「図に乗るなよガキ。貴様のような変な虫、すぐにでも駆除してもいいのだぞ?」


 迫るスカァフに恐れをなして、チュエリーは口を噤んでしまった。


「おい! 何をしている!」

「またお前か!」


 騒ぎを聞きつけた衛兵が駆け付ける。チュエリーは慌ててその場から逃げ出した。


「お、覚えてなさい!!」

「待ちなさい!!」


 衛兵に追いかけられ、人ごみに消えてしまった。スカァフは溜息をついてオルカを叱ろうと振り向く。


 そこで見たのは、自分の腕を折らんばかりに掴み震えるオルカの姿だった。顔色も明らかに悪く、今にも倒れそうな程弱っている。


 あまりの変化にスカァフも驚きを隠せなかった。


「おい、しっかりしろ」

「す、すいません。私、怒鳴られて、強く迫られると、委縮して……」


 呼吸も荒くなり、それを押さえようと更に掴む力を強めている。


「っ……」


 スカァフはオルカをそっと抱き寄せる。


「大丈夫じゃ。もう、大丈夫」


 しばらくして、オルカの震えが落ち着いた。静かに離れオルカは頭を下げる。


「あ、ありがとうございます……」

「よい、今日はもう帰るぞ」


 スカァフはオルカの手を引っ張る。


「あ、あの」

「体調を悪くした者を放っておくほど薄情では無いわ」


 2人は街を歩き、ギルドへ帰る。


(……弟の、精神の病とよく似ておった。一度医者に診てもらったほうがいいかもしれん……)


 その時のスカァフの表情は、過去を悔やむ様な苦いものだった。







お読みいただきありがとうございました。


次回は『研究の始まり、焦熱の興味』

お楽しみに。


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