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Ep.116 全てを終えて


それからの事



 カラーとハデスとの戦いから数日後



 オルカは魔術協会に呼び出されていた。


 この前の戦いで生み出した魔術について、賢者のグローアとシモンから事情聴取を受けるためだ。


 その事情聴取は1時間に渡って行われた。


「はい。これで事情聴取は終わり。お疲れ様~!」


 グローアはニコニコしながら調書を片付ける。


「これならすぐにでも『賢者候補』になれそうね。これからが楽しみだわ~!」

「全くだ。まさか体質を克服する術を身に着けるとはな」


 『賢者候補』とは、次期賢者として相応しいとされた魔術師にのみ与えられる称号であり、将来を約束されたものでもある。


「あ、ありがとうございます……」


 褒めちぎる2人に、年甲斐もなく照れ臭くなるオルカだった。


 オルカは一度咳ばらいをして、話を切り替える。


「ところで、今回賢者の皆様は出てきませんでしたね……」


 『堕ちた林檎』に対して厳しい姿勢を取っていたにも関わらず、カラーとの決戦の時には出てこなかった。オルカはそれを不思議に思っていたのだ。


 グローアとシモンは顔を見合わせ、


「それなんだけど~……」

「実は、ヨアンナに止められてな」


 ヨアンナの名を口にする。


「教皇猊下が、ですか?」



 ◆◆◆



 ヨアンナは自室で湯浴みをしながら、聖都の光景を眺めていた。



 聖都はカラーの一件で破損した建物が数多くあったが、今は復旧工事が進んでいる。


 その様子を見ながら、ヨアンナは身体を綺麗にする。


「相変わらずの綺麗好きだな」


 そう言って背後から近付くのは、バルアルだった。


「バルアルか。自分の死体を見た気分はどうだった?」

「灰になってたからどうもこうも。それより聞きたいことがある」


 バルアルは真剣な表情でヨアンナに問う。


「今回の騒動、わざとここまで引き延ばしたな?」


 ヨアンナは【星読み】という未来予知が使える。それならば、事前にカラーの動きを予知して、喰いとめることができたはず。そうしなかったのは、わざとしなかったとしか考えられない。バルアルはそう読んだ。


「そこまでしてやりたかったことは、ハデスの完全封印。違うか?」


 バルアルの言葉に、ヨアンナは視線だけ向ける。


「それがこの世の最善だったからだ。多少の犠牲は仕方あるまい」

「100万以上の犠牲者を出したのにか?」

「その程度で済んだのが最善だ。もし今回の事がなければ、この世界は50年後に終わっていた」


 ヨアンナの口ぶりから、ハデスの封印が残り50年で解けていたことになる。そうなれば、止める術はなかっただろう。


「今この時が最高の機会だった。カラーという引き金、ラシファという人脈、そして、オルカという繋がりと存在。これら全てが噛み合った今が好機だったのだ」

「……何故オルカだったんです?」


 適性があったのはヨアンナも同じ。なのに何故オルカにハデス転送の任を任せたのか。そこが分からなかった。


「そうか、其方には言っていなかったな」


 ヨアンナは立ち上がり、近くにあるタオルを手に取る。


「余は魔術が使えぬ。この星の強大な力故にな」

「何……?」


 ヨアンナの言葉に、バルアルは眉をひそめる。ヨアンナは話を続けた。


「魔術という線を描くには、あまりにも力が大き過ぎたのだ。故に、ハデスを冥界へ返す術は、余には無かった」

「それでオルカを……」

「そうだ。オルカはよくやってくれた。あとで褒美の一つ位やらねばな」

「一つどころか十でもいいんじゃないか?」

「それだと恐縮するだろう、あ奴は」

「……それもそうか」


 バルアルはフッと笑った後、ヨアンナに背を向ける。


「これで俺の疑問が解決したので、ここで失礼しますよ。では」


 それだけ言って、バルアルは部屋を後にした。


 ヨアンナはフン、と鼻を鳴らし、普段の格好に着替えるのだった。



 ◆◆◆



「理由までは教えてくれなかったんですね……」

「あの教皇は魔術協会にとって天敵だからな。無視する訳にもいかない」

「そういう訳だから、出てこれなかったの~。ゴメンね~」


 グローアはオルカの頭を撫でながら謝罪する。


「い、いえ、どうにかはなりましたので……」


 半笑いで答えるオルカだった。


「ところで、キヌテ・ハーア連邦の方は大丈夫なのか? 連邦政府が総辞職したとか」

「あ、はい。そうなんです。カラーさんとの繋がりが分かって、凄い騒動になりまして……」



 ◆◆◆



 ファンは一人、ハナバキーの街並みを高台から見ていた。


(まさか親父どころか連邦政府全体が掌握されてるとは……)


 手に持っている新聞には、見出しに『連邦政府総辞職 テロ組織『堕ちた林檎』との関係』と書かれていた。


 連邦政府はカラーと関係を築き、国民を危機にさらしていたことが明らかになった。それに国民は大激怒。政府は総辞職に追い込まれたのだ。


 その情報のリーク元が、ファンの父親であるエーデンファの部下からだった。それも、エーデンファの遺言でリークしたという。


(クソ親父は、最後の最後まで、この国の政治家として動いていたわけか……)


 大嫌いだった父親だったが、キヌテ・ハーア連邦のために動いていたのは、確かな事実だ。


「……その熱意を、家族にも向けろよな……」


 一言ぼやいた後、空を眺めるファンだった。



 ◆◆◆



「とりあえず、新しい人達が入って事なきを得たそうです……」

「そうか。オルカが住む国が不安定では良くないからな、……いっそ手を入れるか?」

「そ、それはちょっと……」


 オルカが軽く止めに入ったところで、グローアはオルカの背中に寄りかかる。


「それはそうと、オルカちゃん、彼氏くんとは上手く行ってるの?」

「ほへ?!!」


 突然の質問に慌てるオルカ。


「ううううう上手く行ってまふよ」


 顔を真っ赤にして答えるが、呂律が回っていない。


「あら~、そんなに慌てちゃって、可愛いな~」


 グローアは再びオルカを抱きしめ、頬ずりする。


「確か、アージュナだったか。どうなんだ、アイツは?」


 シモンは顎に手を当てながら質問する。


 オルカは顔を赤くしながら、


「アージュナさんは、いい人ですよ……。とっても……」


 静かに、優しく答える。



 ◆◆◆



 アージュナは一人、カツァルの店に来ていた。着ていた装備のメンテナンスのためだ。


「どうだ?」

「かなり傷んじゃってるわね~。ハッキリ言って、全部作り直した方が速いわよ?」

「やっぱりか……」


 ケーナとの戦いから、ぶっ続けで様々な強敵と戦って来た。その間にろくにメンテナンスもしていなかったので、もしかしたらと勘づいていたのだ。


「それじゃあ全部買い替えるか。頼めるか?」

「もちろんよ! 一週間貰えれば、完璧に仕立ててあげる!」


 カツァルはノリノリで注文を受け付ける。


 アージュナはその様子を見ながら、


「……なあ、一つ聞いていいか?」


 カツァルに質問する。


「何かしら?」

「オルカの傷、どうして黙ってたんだ?」

 以前オルカの装備を作る際に、採寸を行っていたはず。その時に背中の傷に気付かない訳がない。アージュナはそれが気になっていた。


 もし言ってくれれば、オルカへの相談をもっと早くできていたかもしれない。そう思っていた。


 カツァルはフウ、と溜息をついた。


「そんなの決まってるじゃない。乙女の秘密は、むやみやたらに暴かないものよ。そんな事されたら、アーちゃんだって嫌でしょう?」


 そう言われたアージュナは、


「……確かにそうだな、失言だった」


 素直に反省する。


 自身の暗い過去を、誰にでも言おうとは思わない。親しい間柄でも、遠慮してしまう位だ。


「あとでオルカに謝らないとな……」

「その方がいいわよ。こういう事って、意外と後から響いて来るから」


 カツァルはアージュナに向かってウィンクする。アージュナはそれを華麗に避ける。


「もう、いけず」

「悪いな、俺にはもう大切な人がいるんだ」


 アージュナは微笑んで、オルカの事を自慢げに話すのだった。



 ◆◆◆



「……それで、アージュナさんは私とデートをしてくれまして……」


 オルカがアージュナの話を1時間程した辺りで、グローア自作の時計から鳩が飛び出す。


「あ、もうこんな時間……」

「そろそろ帰るのか? ならば、送っていくぞ?」


 シモンがオルカに提案するが、オルカは首を横に振る。


「その前に、会っておきたい人がいるんです……。この前、目を覚ましたんですよね……?」




 オルカは魔術協会の中を移動し、目的の部屋に到着する。


 扉をノックすると、


「はい、どうぞ」


 中から女の子の声が聞こえた。


 中に入ると、そこで待っていたのは、『顔の無い盗賊団』団長クストルの妹、パルクスだ。


 パルクスはギルドに保護された後、オルカの伝手で魔術協会に引き渡された。ここなら誰にも襲われる心配は無い。


 パルクスは深々と頭を下げて、


「ようこそオルカさん」


 綺麗に挨拶する。


 オルカはニコリと笑う。


「こんにちは、パルクスさん……。お会いできて嬉しいです……」

「こちらこそ、お会いできて光栄です」


 互いに笑顔で挨拶し、和やかな雰囲気が漂う。


 オルカは部屋の中に入り、テーブルの席に着く。パルクスは紅茶を入れて、オルカをもてなした。


「お元気そうで何よりです……」


 オルカは元気に動くパルクスに、安心感を覚える。ついこの前まで寝た切りだった彼女が、こうして動けているのが嬉しく思った。


「ありがとうございます。ですが、いつまでも寝ている訳にはいきませんので」


 パルクスの表情は明るかったが、どこか影を感じる。その理由は、オルカが一番よく知っている。


「…………お兄さんのこと、心よりお悔やみ申し上げます」


 兄であるクストルの死。それは妹であるパルクスにとって、多大なショックだっただろう。


 パルクスは俯きながら、


「オルカさんは、兄の最後を、看取ったんですよね……?」


 オルカに尋ねる。


「はい……」

「兄は、何と?」


 パルクスの問いに、オルカは答える。


「妹を頼む、と。パルクスさんの身を案じていました……」


 それを聞いたパルクスは、手を強く握った。


「…………そうでしたか、兄は、最後まで……」


 涙ぐみながら、クストルのことを思うパルクスだった。


 


 パルクスはしばらく黙った後、オルカに向き直る。


「……兄のした事は、聞いています。色々とご迷惑をお掛けしたみたいで……」

「いえ! そんなことは……!」


 オルカは強めに否定する。それでもパルクスの表情は晴れない。


「色々な犯罪に手を染めてしまったのは、私のせいです。私が呪いに掛からなければ、皆さんに多大なご迷惑をお掛けすることはなかったのに……」


 それでもパルクスは、自分にも責任の一端があると、強く落ち込んでいた。


 しかし、オルカはそれを否定する。


「そんなこと、ありません」

「オルカさん……?」

「パルクスさんは何も悪くありません。本当に悪いのは、パルクスさんに呪いをかけた人物です。だから、あまり自分を責めないでください……」


 オルカはパルクスが悪くない事を伝え、励ました。


「……ありがとうございます、オルカさん」


 パルクスは少しだけ微笑みながら答える。


「ですが、兄のやった事は許されません。償いになるかは分かりませんが、謝罪をして回りながら、慈善事業をしていきたいと思っています」


 その言葉に強い意思があり、揺るがないものを感じた。


「……分かりました。でも、無理だけはしないで下さいね」

「はい……!」


 

 ◆◆◆



 オルカはパルクスとのお茶を終えた後、ハナバキーのギルドに戻って来た。



 戻って来てすぐ、扉をノックされる。


「はい、どうぞ」

「失礼します」


 そう言って入って来たのは、ラシファだった。


「ギルドマスター、どうしたんですか……?」

「ギルド宛てに招待状が来たので、そのご連絡を」

「招待状、ですか……?」

「はい」



「祝勝会を兼ねた、舞踏会のです」





お読みいただきありがとうございました。


次回は最終回『喪女は黒豹王子と踊る』

お楽しみに


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