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Ep.114 それでも


心は折れない



 ハデスはゆっくりと動き出し、上を向き始める。



 まるで自分の上に何が出来ているのかを察知したかのように、空を仰ぎ見ようとしている。


 ラシファはこの状況が危険だと考えた。


(もしオルカさんの魔法陣に気付いたなら、何をしてくるのか分からない。もし危害を加えようとするなら、止められる保証が無い……!)


 すぐに全体にその事を伝えようと通信機を手にした時、通信機に通信が入る。


『こちらスカァフ! ハデスが動き始めた! 作戦を前倒しにして、もう取り付くか!?』


 本来の作戦であれば、前方からラシファ達と集結した軍勢で魔法攻撃、後方からスカァフ達が背中を攻撃するという挟撃作戦だった。


 そうすれば前と後ろに気を取られ、上に意識を向かないようにできると踏んでいた。


 しかし、ハデスは全く意に介していないどころか、想定よりも早く動き出してしまった。こうなれば作戦はほぼ無意味になる。


 ラシファはすぐに作戦を切り替える。


「スカァフ達S級組は前倒しで後方から攻撃を。十二騎士の皆さんもスカァフ達に続いて下さい。前方組は引き続き魔法攻撃を継続。八天騎士、枢機卿は攻撃する高度を上げて、視線をこちらへ向けましょう」

『了解した』『了解』『分かった』『心得た』



 各々から返事が届き、一斉に行動に移る。



 飛行龍機に乗ったスカァフ、ケーナ、ホルケラス、十二騎士の面々は、ハデスより少し高い場所から飛び降りる。


 飛び移る高さはまだ100m以上あるが、着地直前で【浮遊魔法】を使って落下の威力を緩和させる予定だ。


 強烈な風を受けながら、ハデスの背中に向けて落下していく。


(これだけデカいと着地に失敗する方が難しいのお)


 スカァフはそんなことを考えていたが、同時に、嫌な予感もしていた。


(あの巨体が動くとなれば、一挙手一投足が危険になる。十分に警戒せねばな)


 ハデスの動きを注視しながら、背中に向かって落下していくのだった。



 前方から攻撃する軍勢も、その攻撃頻度を上げていく。


 陣形を組み直し、一度に発射される攻撃量を増やしたのだ。そのおかげで、ハデスの腹全体に攻撃が当たる様になった。


 飛行龍機による旋回からの爆撃も継続されているが、こちらは風によって狙いがばらけ、同じ箇所にあたる確率が低い。しかし、全体的に命中はしている。


 それを上空から見ていたラシファは、ハデスの正面まで高度を上げ終えた。


「全員、一斉攻撃!!」


 ラシファの命令により、八天騎士と枢機卿が攻撃を再開する。


「カラーとの戦いでは封じ手が多く、満足に戦えなかったが、今は全力で戦える!! 八天騎士! 合体魔法陣形!!」


 赤の八天騎士の指示を受け、八天騎士達が空中に円陣を作る。


 天に剣を掲げ、魔力を一カ所に集中する。そして、一つの光となり、プリズムの球体のように光り輝く。


「喰らえ!! 【八天魔法・栄光の閃光】!!!」


 集まった光はハデスに向かって放射され、破壊する光線となってハデスに襲い掛かる。


 その範囲は直径数百mにも及び、ハデスの肩を焼いていく。これにはハデスも少しだけ反応した。


「魔力消費がとてつもない分、威力も十分!! その腕、焼き切ってくれる!!」


 それに負けじと、枢機卿達も集まる。


「教皇猊下の命により、この作戦に参加した以上、結果を出さねばなるまい。全員、全力を持って掛かるぞ!!」


 ラファエルの言葉に、枢機卿達は静かに頷いて答える。


 空中に三角の陣形を組み、その中央に魔力を充填していく。


「行くぞ!! 【トライアングル・フォース】!!」


 充填した魔力を一気に解き放ち、八天騎士とは反対側の腕に攻撃を斉射する。


 これもまたハデスには有効だったのか、少しだけ怯んだ様子を見せた。


「このまま追い込みます!」


 ラシファはハデスの正面に移動し、魔術を起動する。


「【聖天紋(セイクリッドコード)神聖(ホーリー)極大剣(ギガントシュリアット)】!!」


 200mもある光の大剣を出現させ、ハデスの頭部に叩き付ける。


 完全に動きが止まった訳ではないが、動きが鈍くなったのが分かった。顔を上げる動きが、更にゆっくりになる。


(出てきている部分が上半身だけで本当に良かった。下半身が魔法陣から出て来ていたら、頭部への攻撃は到底叶わなかったでしょう)



 不幸中の幸いか、ハデスの下半身は魔法陣に埋まっている。


 これは怪人が真似できなかった残りの5%の影響であり、転移の座標がずれたせいだ。


 冥界と現世という広大な範囲で、見たことの無いハデスを正確に転移させるのは至難の業。それを完全に成すために、座標として相性の良い魔力核を持つ教皇かオルカが必要だった。


 その魔力核が少し違ったせいで、ハデスは現世に半分しか出てこれなかった訳だ。


 

 ラシファがそんな事を知る由も無いが、この好機を逃さない手はない。


 大剣を無理矢理叩き付け、否が応でも意識をこちらに移そうと試みる。


(オルカさんの邪魔は、させません!)


 オルカの魔法陣作成を邪魔させまいと、皆一丸となって意識を向けさせようと攻撃を続ける。


 

 その願いは、最悪な形で叶う事になる。



 ハデスは大きく口を開け、周囲の空気を吸い上げる。


 轟音を上げながら吸い上げた後、一瞬、呼吸が止まる。


 そして、



「GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 山脈を揺らす程の絶叫が放たれ、その爆音は衝撃波となり、周囲にいたラシファ達、各国の軍勢、スカァフ達にダメージを与える。


 雲に到達するほどの巨体から放たれた音と衝撃の直撃を受けた人間が、無事で済むはずがない。


 一般兵や飛行龍機は吹き飛ばされ、背後にいたスカァフ達は全身に衝撃を受け、近くにいたラシファ達はその威力をモロに受けてしまった。


 あまりの衝撃に、ラシファ達全員が気絶してしまう。


 気絶の際に【飛行魔法】が効力を失い、そのまま落下する。このまま落下して地面に接触すれば、絶命は免れない。


 このままいけば、全滅する。



 【新緑大海】



 そう思われた時、ハデスの周囲全体に勢いよく森が生え始める。


 森は吹き飛ばされた兵士達を受け止めた後、天に向かって伸び続け、落ちてくるラシファ達を次々に受け止めた。


 おかげで全員吹き飛ばしや落下による死亡者は0で済んだ。


 この森を発生させたのは一人の魔術師、その名は、


「よくやったヘルウィン」


 ヘルウィンである。


 その補助を行ったのは、教皇ヨアンナだ。


 ヨアンナはこうなる事を予知して、ヘルウィンに魔力を提供し、事態に備えていたのだ。


「これで戦力が減る事は回避できた。あとは余の【完全回復魔法】で治してやるとしよう」


 ヨアンナは手を上に向けて、森を通じて【完全回復魔法】を発動する。


 森を通じたおかげで、正確に全員を回復させることができた。


「とは言え、何人立ち上がれるかは、数が知れているがな」


 


 最初に立ち上がったのは、ファンとセティだった。


「大丈夫っすか、セティ……?」

「ええ、何とか……」


 回復したとは言え、その痛みはまだ体内に残っている。まるで体内に直接音を叩き込まれたような感覚だ。


 周囲にいる兵士達は、唸るだけで立ち上がる気力が無い。それほどまでにハデスに恐怖してしまったのだ。


 それでも2人は立ち上がった。


「このままじゃ、オルカ姉さんも、兄貴も、危ないっすからね。俺達が、頑張らないと……」

「ええ、アージュナ様の傍にいずとも、その身を護ることになるのであれば、倒れる訳にはいきません」


 オルカとアージュナのため、再びハデスに立ち向かう。



 次に立ち上がったのは、スカァフ、ウェイガー、メイドリッドだ。


 スカァフは槍を構え直し、どうやって取り付こうかと考えていた。


「さて、どうしたものか」


 その後ろに、ウェイガーとメイドリッドが近付く。


「……お主らか。その装備だと犬死するぞ」

「そうだとしても、ここで倒れる訳にはいきません」

「ああ、オルカ姉ちゃんが危なくなるなら、寝てるわけにはいかねえよ」


 そう言って剣を握り直し、ハデスへ向き直る。


 それに続くように、ケーナ、ホルケラス、他の十二騎士達も立ち上がった。


「諦めの悪い者達ばかりだな……」

「一応、知り合い、だから」

「俺も、彼女には謝らなければならないことがある。それまでは死ねん」

「オルカっちが頑張ってるなら、あーしも頑張らないと!」

「そうですね! 頑張りましょう!!」

「元気でよろしい。それじゃあお姉さんも死ぬ気で頑張っちゃう!」

「三倍の更に三倍、頑張りましょうか」


 スカァフは少し微笑み、ハデスに向き直る。


「では、行くとしようか!」



 最後に起きたのは、ラシファだった。


「……これは、失態ですね」


 ゆっくりと起き上がり、ハデスを見上げる。


「まさか叫び声で気絶させられるとは……、気を引き締め直さなければ」


 ラシファに続いて、八天騎士、枢機卿達も起き上がる。


「皆さんご無事で?」

「ああ。教皇猊下のおかげで命拾いしたわい」


 ラファエルは頭を振りながら答える。まだ衝撃の影響が少し残っているためだ。


「痛手を負ったが、こちらに意識を向けさせることには成功したかの?」

「ええ、結果的には。問題はここからどうするかです」


 ハデスは上を見る事を止め、下を向いている。ラシファ達の存在が煩わしいと感じたのだろう。


 ラシファは再び翼を広げ、飛ぶ準備に入る。


「作戦も無しに行くのか?」


 ラファエルが尋ねると、ラシファは微笑みながら答えた。


「こちらに意識を向いている今が好機です。オルカさんのためにも、精一杯の時間稼ぎをしなくては」


 そう言って、ラシファはハデスに向かって飛び立った。


「……ここまで来たら、それしかあるまいか」


 ラファエルもまた、翼を広げ、ラシファの後を追う。


 他の枢機卿、八天騎士達も翼を広げ、ハデスへ向かって飛び立った。



 世界を終わらせないために、再び戦士たちは立ち上がる。





お読みいただきありがとうございました。


次回は『この手に愛を』

お楽しみに


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