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Ep.113 魔法と共に廻れ


描くは一つの魔法陣



 地上でラシファ達が大軍勢を率いてハデスに立ち向かっていた頃、オルカ達はハデスの遥か上空、高度10㎞の地点にいた。



 モーフェンはオルカとアージュナを連れ、空中で制止する。


「ここら辺で良いでしょう」


 強風が吹き荒れる中、モーフェンは周囲に結界を張り、空気の薄さと寒さ、風を防ぐ。更に、透明な足場を作り、オルカ達をその上に着地させる。


「オルカ。先程の封印の魔法陣の手順は覚えていますね?」

「は、はい。直径10㎞以上にもなる魔法陣ですので、一から手書きしないといけない、ということですよね……」

「そうです。今のオルカであれば問題無いが、大量の魔力が必要になります。なので、受け取りなさい」


 そう言って手渡したのは、大きな肩掛け鞄だった。


「これは……?」

「中に大量のエリクサーが入っています。魔法陣を描くには十分な量のはずです。遠慮なく使いなさい」

「あ、ありがとうございます……」


 オルカは鞄を受け取り、肩に掛ける。


「魔法陣の形状と描き方はこれに描いてあります。くれぐれも手順を間違えないように」

「はい……!」


 モーフェンは更にハデスを冥界に帰す魔法陣の描き方とその手順書を手渡した。


 手渡したのと同時に、オルカの手にソッと触れる。


「……本来なら私がやるべきなのですが、私の魔力は冥界への接続には適合していない。教皇と同様に最も適合している貴女にしかできないことです。頼みましたよ」


 モーフェンの言葉に、オルカは気合が入る。


 自分にしかできない、自分ができること。それを託されたことが、オルカには嬉しくあり、誇りに感じた。気合を入れるには十分過ぎる言葉だ。


 オルカはモーフェンの手を握り返す。


「はい。任せて下さい……!」


 力強い、精一杯の返答をした。


 モーフェンはそれを聞いて、少しだけ微笑み、


「……逞しくなったものだ」


 小声で、オルカの成長を喜ぶのだった。


 手順書を手渡した後、モーフェンはアージュナに近付く。


「さて、お前の役割だが……」


 急にとげとげしい言い方に変わるが、モーフェンの威圧感がそれを指摘させない。


「この魔法陣を叩き込む『弓』をやってもらう」

「弓?」

「そうだ。この魔法陣が完成しても、ハデスの上から被せてやらなければ意味が無い。その被せる役割をお前がやるのだ」


 モーフェンの言葉に、アージュナは眉をひそめる。


「……俺にそんな力は無いぞ」


 アージュナは後天性魔力欠乏症を患っている。魔力の少ない身で、そんな大掛かりなことができるとは到底思えない。


 それを聞いて、モーフェンは溜息を一つ吐いた。


「お前の症状は知っている。だがそれが今回の鍵を握っている」

「どういうことだ?」


 モーフェンはアージュナの胸を指差す。


「その症状、お前の中に眠っている宝具が原因だ。知らなかったのか?」

「……な、に……?」


 突然の事実に、アージュナは驚きを隠せずにいた。


「俺の中に、宝具だって……?」

「そうだ。その宝具がお前の力となり、足枷となっている。それを開放すれば『弓』として十分に機能する」

「ま、待ってくれ! いつから俺の中に宝具が……?!」

「そこまでは知らん。だが、悪意を持って入れられたとは考えにくい。それほどまでにリスキーだからな」


 アージュナの中に宝具を入れられる人物は限られる。それこそ親しい人物だ。


(だとしたら、母さんが……?)


 アージュナはいつ入れられたのか考えるが、モーフェンはそれを許さない。


「考えている時間は無い。今から宝具を摘出する」

「そ、それって大丈夫なのか? 生命的に……」

「問題無い。元賢者を舐めるな」


 モーフェンはアージュナを睨みつつ、魔法陣を展開する。


「オルカ、こっちは5分で終わらせます。そちらは任せましたよ」

「はい!」


 オルカはエリクサーを一本一気飲みし、魔力を回復させる。そして、何度か深呼吸する。


「…………行きます!!」


 カラーとの戦いで見せた魔力回路の生成を行い、自身の周囲に魔力の小宇宙を展開した。


 そこから流星の様な細い魔力の線を幾つも生み出し、宙に拡散させる。


(まずは魔法陣の外形を作る。そのためには)


 魔力の線を8方向へ、遠くに発射し、魔法陣の円の形状を描き始める。


 発射したのと同時に、綺麗な円を描くため、オルカ自身が回転する。その回転は軸が通った綺麗な回転で、ブレの無い、まるでバレリーナの様な美しさだった。


(次に、第二外形を生成。第一外形と第二外形の間にルーンを書き上げて、重複呪文を生成する)


 回転に合わせ、手を大きく動かし、魔力の線で新たな文字を描いていく。その動きは正確無比であり、ドンドン描き上げてしまう。


(より強固なものにするため、ルーン文字呪文を重ね書き。回転を加えて魔力循環を発生。より強い魔力の放出を実現させる)


 動きは加速度的に多くなり、オーケストラの指揮を全方位でやっているかのような腕の動きをみせる。


(次は、冥界と現世を繋ぐ魔法陣を連結生成。加えて、接続の際に起こる冥界の瘴気の漏洩を抑える防止魔法陣を生成。更に……)


 頭の中で手順を思い出しながら、回転しながら手を動かし、魔法陣の生成を行い続ける。


 それを見ていたアージュナは、その動きの美しさに見惚れていた。


「凄い……。あれがオルカ本来のポテンシャルか……?」

「本来あの位できて当然だ。今まで出来なかっただけの話だ」


 モーフェンはさも当然のように語る。


「私が自慢できる話ではないが、オルカなら技術的にあれくらい可能だ。私の弟子だからな」


 どこか後ろめたさを感じる表情だったが、その言葉には確かな自信があった。


 それを感じ取ったアージュナは、それだけでオルカにどれだけ信頼を置いているかを理解する。


「……そうか」


 一言返して、モーフェンに身をゆだねる。


 オルカは魔法陣を描きながら、エリクサーで魔力を補充する。動きを止めず、回転を緩めながら、片手でエリクサーを飲んでいく。


(30分も続けてまだ1割も描けてない……。急がないと)



 ◆◆◆



 地上ではラシファ達がハデスに一斉攻撃を仕掛けていた。



 魔導バリスタの一斉射撃に飛行龍機からの爆撃、軍隊による魔法攻撃による激しい攻撃が絶え間なく続いている。


 ファンとセティは魔導バリスタの射手として参加し、的確にハデスの身体に当てていた。


「これ本当に効いてるんっすかね!?」

「やらないよりはマシだ!!」


 大声で喋りながら、攻撃を継続する。


 一方で、ラシファと八天騎士、枢機卿達は空中を飛んで魔法攻撃を仕掛けていた。


 翼を広げ、滞空しながらありったけの魔法攻撃を連射し、少しでもダメージになるよう出来るだけ同じ個所に当て続ける。


(やはりこれだけ巨大ですと、効いてるのかどうか分かりませんね)


 これだけ攻撃しても、ハデスはピクリとも反応しない。山の如く不動で、微塵も動く気配が無いのだ。


(何だか、不穏ですね)


 そんな事を考えていると、通信機に連絡が入る。


『こちらスカァフ。もう少しでハデスの背後に回る』

「了解しました。翼には十分に気を付けて下さい」

『分かっておる』


 スカァフとの連絡が切れた後、ラシファは再び攻撃へ戻る。


(スカァフ達S級組が飛行龍機に乗って背後に回っていますが、どこまで通用するか……。それに、教皇猊下は一人で何か用意しているようですが、一体何を……?)


 色々な事に考えを巡らせていた時だった。


 ハデスの顔が、ゆっくりと上に向けられていく。


 ゆっくりとだが、確実に上に向いている。


「まさか、気付かれた……!?」


 ラシファの驚きを余所に、ハデスはついに動き出す。





お読みいただきありがとうございました。


次回は『それでも』

お楽しみに


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