Ep.111 諦めない
絶対に
カラー達が消えた後、オルカ達はハデスを見上げていた。
あまりにも巨大過ぎるその存在に圧倒され、途方に暮れていた。
オルカは肩を落としながら、
「すみません、私が出しゃばったばっかりに……」
自分を責める。
「そんなことはありません。オルカさんはよくやってくれました」
ラシファはすぐにオルカをフォローし、肩を摩った。
「カラーが一枚も二枚も上手だったのです。これはそれを見抜けなかった私の失態です。オルカさんには、何の責任もありませんよ」
「ラシファさん……」
オルカはラシファ達の顔を見る。
「そうだオルカ。オルカが責められることなんて何も無い。だから気を落とすな」
「そうっすよ! オルカ姉さんがいなかったら全滅してたかもしれないっす!」
アージュナとファンもオルカを励ます。その後ろで、セティとルーも頷いていた。
「皆さん……」
オルカは皆に励まされ、
「ありがとうございます……」
何とか持ち直す。
オルカが持ち直したところで、一同は今一度ハデスを見上げる。
「とりあえず、あのハデスをどうするかですね」
ハデスは巨大な翼を広げているだけで、それ以上動く気配が無い。
「こちらに出て来た割には、動こうとしませんね。何故でしょう?」
ラシファは顎を触りながら考える。
「それなら倒すチャンスじゃないっすか? 一斉攻撃で急所を攻撃すれば何とか……」
「難しいだろうな。サイクロプスならまだしも、この距離であの大きさだから、ざっと7㎞。山よりもでかい。首を斬ろうにも何百mあるのか分かったものじゃない」
「攻撃を入れられた時点で動く可能性は十分にあります。そうなれば致命傷を与えることはかなり困難になるかと」
ファンの意見にアージュナとセティが苦言を呈する。
「むう……。じゃあ、どうするっすか?」
ファンは意見を求めるが、アージュナとセティは黙り込んでしまう。
「じゃ、じゃあオルカ姉さんは何かいい案あるっす……」
言葉を言い切る前に、ファンは固まってしまった。
何故なら、オルカが目を見開いて、一人でブツブツ喋っていたからだ。
「ハデスは冥界の神として存在する上位存在。そもそも死後の世界である冥界の神が死ぬという概念があるのか? 冥界で生まれ育ったのなら死という概念は皆無と考えるのが自然。だからキヌテ建国記の物語では封印されたと記録が残っている。それを成せたのは四つの宝具があったから。けどたった四つの宝具で本当に封印できていたの? カラーさんはいとも簡単に封印を解いていた。実際は違ったのでは? 封印は封印でも、かなり一時的なもの、それこそ『蓋』をするように。だとすればキヌテ・ハーア連邦はこの事を隠したくて倒したと書き換えた? ……それはそれとして、ハデスは『倒す』のではなく『封印』が妥当。その方法は…………」
早口で自分の考えを口にし、様々な仮説を立てていた。
あまりの気迫にファンは一歩下がってしまったが、気を取り直してもう一度声を掛ける。
「あ、あの、オルカ姉さん?」
「はい! 何でしょう?!!」
突然声を掛けられたかのように驚き、勢いよく振り向く。あまりの勢いにファンも一瞬驚いた。
「ね、姉さんは何かいい案があるかなって」
「あ、す、すいません……。今のところはまだ……」
「そうっすよね……」
互いに気まずい雰囲気になった時だった。
「おい、何じゃあれは? カラーの仕業か?」
現れたのは、スカァフだった。姿はいつもの槍兵の格好に戻っている。
「スカァフ。無事でしたか」
ラシファが声を掛け、スカァフに近付く。
「……バルアルは?」
一緒にいたはずのバルアルの姿が無いことに気付き、スカァフに尋ねる。スカァフは俯きながら、
「…………バルアルは、死んだ」
暗く、悲しい表情で答えた。
ラシファ達は一瞬驚き、固まった後、表情が暗くなる。
「……そうでしたか、それは……」
この知らせに、流石のラシファも微笑みを無くしてしまう。
ラシファ達は暗い雰囲気に呑まれたが、
「落ち込むな!」
スカァフがそれを消し飛ばす。
「あ奴はワシを庇って死んだ! ワシのせいで死んだ! そんなワシがこんな事を言うのはおかしいかもしれんが、落ち込む時ではない!! あ奴の死を無駄にしない為にも、カラーを仕留める!! 糾弾はその後でいくらでも受けよう!!」
己の罪を隠さず話し、ラシファ達を奮い立たせる。
「スカァフさん……」
スカァフの眼には、泣き腫らした後があった。バルアルの死に余程堪えたのは、スカァフだった。
それを察したラシファ達は、
「……責めたりなんてしませんよ」
責めなかった。
「バルアルの事は、私がよく知っています。貴女を庇ったのは、彼の意思。彼が決めたこと。私達が恨む理由がありません。ですから、糾弾するつもりは毛頭ありませんよ」
ラシファは微笑みながら、スカァフに語り掛ける。
スカァフは槍を強く握り、ラシファの言葉を噛み締めた。
「……そうか、そうか…………」
少しだけ俯いた後、顔を上げる。
「では、カラーを討ち取るぞ! あ奴はどこだ?」
「そ、それなんですが……」
オルカは恐る恐る説明をした。
カラーが目的を達成して、冥界へ行ってしまったこと。そのせいでハデスが降臨したこと。
丁寧に分かり易く、簡潔にその事を伝えた。
スカァフは頭を抱えながら、
「……全てはカラーの思惑通りにいった訳か……」
現状を飲み込んだ。
「はい、その通りです……」
「オルカが悪い訳ではない。先を読めなかったワシら年長者の責任じゃ。気負うな」
「……ありがとうございます……」
オルカが一礼した後、スカァフはハデスの方を見る。
「で、アレをどうするんじゃ? 放っておいたらまずいんじゃろ?」
「そうですね……。カラーさんの言うとおりであれば、このままだと、現世が冥界に呑まれると……」
「するとどうなる?」
「冥界になれば、全ての生命が息絶え、魂だけの世界になります。意思の無い生命は消滅し、意思のある魂だけの世界になるわけです。そうなると輪廻転生の循環が破綻しますので……」
「簡潔に」
「簡単に言えば、この世の終わりです」
「よろしい。で、あればどうにかせんとな」
スカァフは槍を握りしめ、気合を入れ直す。
「しかしどうしたもんかのお……」
「その方法を模索している所でして……」
全員が頭を悩ませ、考え込む。
「難航しているようだな」
突如、上空から声が聞こえた。
全員が声の聞こえた方を振り向くと、そこには空に浮かぶモーフェンがいた。
「も、モーフェン師匠……!」
「カラーの姑息な手で遅れた。どうやらカラーの作戦勝ちと言ったところか」
モーフェンは遠くにいるハデスの姿を見て、事態を把握した。
「は、はい。防げませんでした……」
「ここからどうするつもりだ?」
モーフェンはオルカに問いかける。
「ここまで事態が進んでしまっては、どうする事もできぬ。それでも足掻くか?」
その問いにオルカは、
「……諦めません」
力強く答えた。
「絶対に諦めません。何としてでも、ハデスをどうにかします」
オルカの眼には、まだ魂の火が灯っている。前へ進むための、確かな灯火だ。
それを見たモーフェンは、ニッと微笑んだ。
「……その言葉を聞けて安心した」
床に着地し、オルカ達に近付く。
「ならば、ハデスを冥界へ封印する。今度は確実にだ」
「え、でもさっき……」
「あれはやる気があるかどうかを聞くための方便だ」
「……さっきの言い方ですと、一度封印に立ち会ったような……」
ラシファの言葉に、モーフェンは頷く。
「左様。以前のハデス封印、この私も参加していた」
「え?」「え?」「は?!」「何!?」「え!?」
オルカ、アージュナ、ファン、セティ、ルーは驚きのあまり声が出てしまった。モーフェンはそれを無視して話を進める。
「しかしあの時は人手も魔力も足りなかった。故に完全な封印とはならず、解放しやすい状態が残ってしまった。私としては数ある失敗の中で5本指に入る失態だ」
少しだけ眉を潜めた後、話を続ける。
「しかし、今回はオルカがいる。サポートできるメンツも揃っている。これならば完全に封印することも可能であろう」
「わ、私ですか……?」
「そうだ。今回の封印の要はオルカ、お前だ。今の領域に達したオルカなら、完全にハデスを封印することができる」
モーフェンはオルカを指差し、
「いけるな?」
できるかどうか、今一度確認する。
オルカは自分の手をギュッと握りしめ、
「……はい、やります。やってみせます……!」
やれることをしっかりと伝えた。
それを聞いたモーフェンは微笑みながら、
「では、封印の方法を伝える。時間が無い。一度しか言わぬぞ」
ラシファ達に封印の方法を伝える。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『集結する絆』
お楽しみに
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