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Ep.11 湿地に眠る魔女の薬


目標は魔女の薬




 アージュナと採集クエストに行ってから数日が経った。



 研究用の材料を集め続け、倉庫兼研究室には沢山の素材で溢れていた。


 大体50種類の素材が集まったが、まだ足りない。黄金の暁にいた頃は200種類程あってやっと安定していた。今の状況だと各種魔術薬に必要な素材が不足しがちだ。


 追加で欲しい所だが、アージュナはしばらく遠征に出るそうなので採集クエストに行けそうにない。かと言ってオルカ単身で出るクエストも無いのでギルドの家事炊事洗濯をしながらお留守番をしている。


 オルカが1人掃除をしていると、


「オルカ姉さん」


 ファンバーファが話しかけてきた。


「ファンバーファさん、どうしましたか……?」

「さっき予定表確認したんっすけど、しばらく暇なんすか?」


 各自がどう動いているか把握するためにギルド内には予定表が張り出されている。


「ええ、そうですね。新しい装備を待つだけですね……」

「なら明日俺とクエスト行きません? 兄貴と一緒に行ってた採集クエスト」


 唐突な提案にオルカは驚いた。


「いいんですか……?」

「いいに決まってますよ。それで、行きたい場所ってあります?」

「そうですね……、それじゃあ……」



 ・・・・・



 ハナバキーから東へ40㎞の場所に『ラバチャ湿地帯』がある。


 地表が常に水浸しで湿気が多い草原で、重い装備で行けば腰まで沈む沼の様な場所もある。所々に木が生えているのも特徴の一つだ。ここには様々な生物が生息しており、採集クエストの種類が豊富なエリアだ。


 オルカとファンバーファは『マジックトード』を採取するためやって来ていた。行き帰りはラシファの魔法の絨毯を借りている。今は【異空間】で別の空間にいる。


 ファンバーファは辺りを見ながら設置された木の板の道を歩く。


「凄い湿気っすね。前に来た時より濃いっすよ……」

「今は雨季が近いみたいですから……。そのおかげでマジックトードも活発ですが……」


 周囲では網を持った冒険者がジャイアントトードや泥ナマズを捕まえようと躍起になっているのが見える。上手くいかず転んで泥だらけになっていた。


「足が上手く動かないから苦戦してますね。捕まえるべき相手はめっちゃ速く動き回ってますが」

「私たちは、ちょっと違うやり方をしましょう」


 オルカは足を止めてマジックトードが鳴いている場所を目視する。


「ちょっと遠いですが……。ここなら……」


 杖を構えて狙いを定める。


「【10連(テンタイムズ)】【麻痺(パラライズ)】」


 パチン! と何かが弾ける音が聞こえたのと同時にマジックトードがひっくり返る。一匹どころか十数体も痙攣して浮いているように見える。


「これで、よし」

「なあオルカ姉さん。【麻痺】、【一時停止(ポーズ)】、【遅延(スロウ)】って何が違うんっすか?」


 ファンバーファは唐突な質問をする。オルカは【収納】からたも網を取り出し、マジックトードを回収しながら、


「えっと、どういう意味でしょうか?」

「全部行動阻害系なのは分かるんですけど、何がどう違うのか今一分かんないっすよ。動きを止めるならどれか一つでいいような……」

「そうですね……、厳密に言えば結構違うんです。【麻痺】は対象を痺れさせて動きを悪くします。今みたいな状況で完全に動きを止めてしまうと浮かせたりできないので、炙り出しとかする時に使います……」


 回収した痙攣しているマジックトードを『収納袋』に入れながら話を進める。


「【一時停止】は完全に対象の動きを止めてしまうのですが、押したりすると止めた状態で倒れてしまいます。大きな相手にこれを使うと、倒れた際に味方を巻き込んでしまう可能性があるので小さいか同等の大きさの敵にのみ使います。【遅延】は対象の動きを遅くするので全ての動作が遅くなります。一回の消費魔力が少ないのと効果量が多いので使い勝手がいいです」


 今まで聞いた事の無い早口で一気に喋り尽くした。ファンバーファは面食らってしまった。



 彼女が喪女の理由その2:興味のある話だけめちゃめちゃ喋る。



 オルカはハッとなってファンバーファの方を見る。


「す、すいません。私ばっかり喋ってしまって……」

「いや、聞いたの俺ですし気にしないで下さい! てかめっちゃ喋れるんですね」


 ファンバーファは微笑んで聞いてくる。


「好きな事は、沢山喋れるみたいです……」

「そっか、じゃあオルカ姉さんの好きな事、沢山聞かせてよ。俺も興味あるからさ」

「……いいんですか?」


 オルカはファンバーファの顔を見る。


「いいっすよ。遠慮しなくていいですから」

「あ、ありがとうございます……」


 喋りながら納品するマジックトードを規定数集め終わった。


「んじゃ、次はオルカ姉さんの集めたい物でしたっけ?」

「はい……、『カブトタートル』です」


 カブトタートルはD級相当の魔物で、50㎝もある亀だ。普段は水の中にいるため出て来ることは滅多に無い。近付けば噛みついて来る凶暴性も兼ね備えている。全身薬にできるため需要は高く、別名『魔女の薬』とも呼ばれている。オルカはそれを狙いにここを選んだ。


「前いたギルドだと、中々手に入らなかったので取りに行けるのはありがたいです……」

「そうなんだ。あんまりそういうの受けなかったから知らなかったや」


 しばらく移動して、カブトタートルが生息するエリアに到着する。そこには冒険者の先客がいた。


 見た感じ採集ギルドの冒険者だが手こずっているように見える。


「ああくそ! 亀のくせに素早すぎる!」

「そっち行ったぞ!」

「いででで!? 噛んできたコイツ!!」


 バシャバシャと泥を跳ね散らかしながら数人で作業しているせいでカブトタートルは暴れ回っている。これでは迂闊に取りに行けない。


「ちょっと待つ?」


 呆気に取られていたオルカにファンバーファが声をかける。


「そうですね……」


 湿気のこもる湿地帯の真ん中で2人は先客が去るのを木の板の道に座って待つことにした。


 時間は昼を超え、真上に陽が上っているにもかかわらず霧が立ち込めている。湿度を高く感じるが涼しい風が通るので不快感は無い。


 オルカはファンバーファの様子を見て、【収納】からバスケットを取り出した。


「あの、良かったらお昼、どうですか……?」


 バスケットには腹持ちのいい蒸かし芋、ハードチーズ、アーモンド、リンゴ、バケットが入っていた。


「ありがとうございます! いただきます!」


 ファンバーファは満面の笑みでバケットから食べ始める。固いパンだがファンバーファは平気で食べていく。


「んぐ、んぐ」

「あ、飲み物もありますよ……」


 更に水筒を出してコップに注ぐ。


「ありがほうごはいまふ」

「どういたしまして」


 オルカはニコっと微笑んだ。ファンバーファはその微笑みで手が止まる。


(まただ。すっげえ年上なのに、何でこんなに惹かれるんだろ……)


 オルカの顔をジッと見ながら、パンを食いちぎり、水で柔らかくして流し込む。オルカは自分を見てくるファンバーファに目を丸くした。


「あ、あの、ファンバーファさん……?」

「……ファンって呼んでください。皆そう呼んでるんで」


 互いにジッと見つめ合う。オルカは緊張で、ファンバーファは疑問と興味で動かない。


 その時だ。


「危ない!!」


 冒険者の叫びと共に、2人に向かってカブトタートルが突っ込んでくる。顔を水面から浮上させた状態で波を立てながら一気に猛進してくる。


 ファンバーファは咄嗟にオルカを庇い、蛇の肩鎧に手をかざす。


「出ろ。【バルトゥラ】」


 ファンバーファが名を唱えると、肩鎧から6匹の半透明の蛇が現れる。


 蛇たちは一斉にカブトタートルに正面から襲い掛かり嚙みついて上に持ち上げた。亀であるため手足が短いので、バタバタと抵抗するがまるで意味を成していない。


 ファンバーファはフウ、と安心して溜息をつく。そして捕まえようとしていた冒険者達を睨み。


「危ねえだろ!! もうちょっと考えて作業しろ!!」

「す、すいません!」


 捕まえようとしていた冒険者達は一斉に頭を下げて謝罪する。ファンバーファは鼻息を荒くして余った怒りを発散する。


「あ、あの、いいですか……?」


 視線を下ろすと、オルカをしっかり抱きしめていた。オルカは上目遣いで『離して下さい』と訴えかけていた。


「あ、その! すんません!!」


 勢いよく離れ距離を取る。互いに恥ずかしそうにモジモジしながら少しずつ冷静になるようつとめた。



 ・・・・・



 それから、カブトタートルを【一時停止】で動けなくして回収し、その場を後にした。今は魔法の絨毯でハナバキーへ戻っている最中だ。


 オルカは風に当たりながら、ファンバーファに抱き着かれた事を思い出していた。


(うう! 年甲斐もなく若い子に抱きしめられるなんて……、恥ずかしい!!)


 赤面しつつ忘れようと必死になる。


「オルカ姉さん」


 ファンバーファが声をかける。


「は、はい!」


 心臓を跳ねながら後ろを振り向く。


「さっきはその、いきなり抱き着いてすいませんでした」


 彼の表情はどこか申し訳なさそうに俯いていた。


「あんまり知らない男に抱き着かれるの、嫌だったでしょ? すいません……」

「あ、あの時は私を守ろうとしてくれたんですよね……? だから、気にしてません」


 オルカは二へっと笑い、ファンバーファを安心させる。ファンバーファもその笑顔を見て、フッと笑い、


「ありがとうございます。気が楽になりました」

「いえ、ファン君がそう言ってくれると、私も嬉しいです……」


 ファンバーファは顔を上げてオルカの方を見る。


「今、ファンって……」

「? そう、呼んで欲しいって……」


 オルカのさりげない気遣いに、ファンは、


「ふふ、本当にオルカ姉さんは……」


 再び笑い、気が緩んでしまった。


「は、はい?」


 強風でオルカにまで声が届かず、聞き返してしまう。


「何でもありません!」


 ファンは笑顔で返すのだった。



 




お読みいただきありがとうございました。


次回は『槍聖とやっとできた新装備』

お楽しみに。


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