Ep.109 冥界神・ハデス
冥界の門が開かれる
聖都から十数㎞離れた雪原
十二騎士達は、1000万の魔物達を全て倒し、雪原は魔物の屍の山で埋め尽くされていた。
「ようやく、終わったか……」
アグラヴェインは息を切らし、大量の汗を流しながら、全て倒し終えたのを確認する。
「残っているのは、一人だけの……」
残るは魔物になり切れず、自我を失ったアイシーンとメイドリッドだけだ。
その結末は、
「………………」
メイドリッドの勝利で終わった。
メイドリッドは事切れたアイシーンを見下ろしながら、苦い表情をしていた。
「……虚しいな。こんな幕切れなんてよ」
「メイドリッド……」
それを見ていたウェイガーが声を掛ける。
「気は済んだか?」
「……ああ、スッキリだ。コイツにはずっとムカついてたしな」
「そうか……」
メイドリッドのスッキリとした表情を見たウェイガーは納得し、背を向ける。
「急いで聖都へ戻るぞ。おそらくカラーが侵攻しているはずだ」
「分かってるよ。っと?」
後を追おうとしたメイドリッドは、足元が覚束ないことに気付く。というよりも、揺れている感覚が酷く、上手く歩けないのだ。
「何だ? 疲れか?」
「いや、違う。これは……」
次の瞬間、揺れは一気に大きくなり、地面を大きく揺らし始める。
思わぬ衝撃に、十二騎士全員が膝を付く。
「な、何事だし?!」
「これは、三倍マズイことになっているかもしれない……!」
動揺する面々、その中でグレースがある物に気付く。
「み、皆さん!! あれを!!」
空を指差し、そこに現れたモノに驚愕する。
アグラヴェイン達も視線を向け、ソレに目を見開いた。
「何だ、あれは……!?」
◆◆◆
キヌテ・ハーア連邦 ハナバキー
突然の揺れでパニックになる群衆。
その中でも冒険者たちは冷静に対処する。
「落ち着いて!! 皆さん安全な場所へ避難を!!」
避難誘導をしていたのは、以前オルカ達と共にサイクロプス討伐をした一番若い剣士の少年だ。
他にも、リザードマンの女性冒険者、魔術師のおじさん、弓使いの少女、片手剣の男等の面々が住民達を誘導していた。
その様子を、ウィシュットはギルドの建物の屋上から見ていた。高い所から指揮を執るためだ。
「一体何なのかしらこの揺れは……。自然災害だとしたら一大事よ……」
『組合長!! 聞こえますか!!?』
無線から聞こえてきた声の主は、ジャンパだ。
『東の空を見て下さい!! 大変な事になっています!!』
「東……?」
そう言われて見た東の空に、ソレは存在していた。
ウィシュットは思わず無線を手から落としてしまう。
「アレは、まさか……」
◆◆◆
アストゥム獣国 ミンファス
現地の服装に身を纏ったヨアンナは、北の空を見て、眉をひそめていた。
「やはりダメだったか……」
北の空に現れたソレは、ウシェス、セラスベルトゥ、ピールポティ、セバスティアン、ヘルウィンにも見えていた。
「ヨアンナ殿! アレは一体……?!!」
ウシェスが大声で問いかける。ヨアンナはソレを睨みながら答える。
「世界を転変する。災厄の神だ」
◆◆◆
ゴルニア王国 テルイア
巨大な揺れと共に、ケーナは西の空を見上げていた。
「…………これは、想定外」
ケーナも驚きを隠せずにいた。
隣にいたホルケラスもまた、顔をしかめていた。
「ああ、とんでもないことになったな」
ソレを見た2人は自然と身構え、これから起ころうとしている惨劇に備えるのだった。
◆◆◆
カラーが発動した魔術により、教会の天井が吹き飛んだ。
オルカとアージュナは衝撃に耐えるために、互いに抱き合って吹き飛ばされないようにする。
衝撃が過ぎ去った後、2人はゆっくりと目を開く。
そこで見たのは、カラーの胸元に、怪しい紫の光を放つ宝玉が収まるところだった。
「ああ……! これが、これこそが、冥界への鍵……!! どれほど待ち望んでいたことか……!」
カラーは歓喜し、宝玉を強く抱きしめる。傍にいたウルパと怪人も、嬉しそうにカラーに寄り添う。
その様子を見たアージュナは、不思議そうな顔をしていた。
「……あれが、カラーが欲していた物なのか? にしては、大した事が無いような……」
「いいえ、アージュナさん。あれはただの鍵です。真の目的は……」
オルカが言い切る前に、巨大な揺れが襲い来る。
横に大きく揺れ、まともに立てない程の揺れ方だった。
「な、何だ!!?」
「来ます、アージュナさん……!! 冥界の神が……!」
揺れと同時に、南の空に、四国同盟の中心に、ソレは現れた。
全ての都市から見える超の付く巨体を、ゆっくりと魔法陣から起こしてみせる。
漆黒に染まりし躯体、禍々しい4つの悪魔の翼、恐るべき爪を持つ4つの腕、頭部には6本の曲がりくねったおぞましい角、地獄の業火の如く燃え盛る8つの眼、三重に生えそろった鋭い歯。
その名は、冥界神・ハデス
この世全てに死をもたらす、災厄の神である。
崩壊した教会の天井からハデスの姿を見たアージュナは、その巨大過ぎる存在に、言葉が出なかった。
「な、は、あ」
口をパクパクと動かしながら、恐るべきハデスに驚きを隠せずにいる。
オルカは大量の汗を流しながら、大きく息を呑んだ。
「あれが、ハデス……」
「ええ、そうよ。あれが、私の目的の手段の一つ、ハデスの降臨」
カラーは意気揚々と語り出す。
「ハデスの冥界転変によって、私の目的がようやく果たされるの」
「……冥界にすることが、最終目標では、ないんですか……?」
オルカの問いに、カラーは微笑んで答える。
「ええ、違うわ」
「で、では、一体何を……?」
カラーは聖母の様な微笑みで、答えた。
「私の本当の目的は、死んだ我が子と再会するためよ」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『カラーの悲願』
お楽しみに
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