Ep.108 最後の秘策《悪足搔き》
これが最後の手の内
カラーが倒れ、鮮血の海に沈んでいく。
それと同時に、オルカの【否定領域】も解除され、元の空間へと戻る。
オルカは使える魔力を使い果たし、その場でへたり込む。
「オルカ!?」
アージュナはオルカに駆け寄り、身体を支える。
「アージュナさん、ありがとうございます……」
「オルカこそ、無茶をして……。体は大丈夫なのか?」
「む、無理矢理動かしてましたので、節々が痛いです……」
オルカはニヘラと笑い、とりあえず大丈夫だとアピールした。それを見たアージュナは、少しだけホッとする。
(この様子なら一先ず大丈夫そうだな。魔力回路破裂も起こしていなさそうだし)
前の様な痣は無く、ただ疲労しているだけの様子だった。
(これもヘルウィンの治療のおかげか。後で改めて礼を言わないとな)
一度オルカをお姫様抱っこし、壁に寄りかかれる場所へ移動させる。
そして、
「カラー様! カラー様!!」
倒れているカラーと、それに寄り添うウルパに、アージュナは視線を向けた。
◆◆◆
一方で、ラシファ達はようやく【拘束する瀑樹】から解放されていた。
樹々が崩壊し、拘束が解けたのだ。
ファンは大きく伸びをして、固まった身体をほぐす。
「やっと解放されたっすね」
「ええ、全くです」
「ですねえ」
セティとルーも同感の声を上げるが、ルーの姿が見えない。
「? ルー? どこに行った?」
セティが周囲を見渡してルーを探す。先程までの巨体は無く、かと言っていつもの姿も見えない。
「ここです! ここ!」
ルーの声を頼りに視線を下に向ける。
そこには、小型犬よりも一回り小さくなったルーの姿があった。
その変貌ぶりに、ファンとセティは目を丸くする。
「る、ルー、なのか?」
「小っさ!!? どうしたんっすか?!」
「これが真名解放の代償でして……、魔力を消費した分、身体が小さくなってしまうんです。戻るには1週間以上はかかるかと……」
「……勝手が悪いですね」
「相手が悪かったと言ってください」
そんなやり取りをしている中、ラシファはカラーの遺体の前に立っていた。
カラーは確実に絶命し、力無く倒れている。
「……やはり、偽物ですか」
そうラシファが判断したのは、カラーの太腿に番号の烙印がしてあったからだ。
服の上からでは見えないが、今ならハッキリと見える。数字は『02』と書いてあった。
(こんな烙印は処刑当日には無かった。後から自分で付けるとも思えない。ならば、偽物と本体の区別を付けるために付けた可能性が高い。故に、これは偽物なのでしょう)
そう推理した後、念の為復活しない様に、偽物のカラーの遺体を魔法で焼却する。
(しかし、哀れな部下もいたものです。偽物だと知らず、命を挺してその身を犠牲にしてしまうだなんて……)
隣で倒れているであろう怪人の遺体の方に視線を向けた。
しかし、そこには何もない。
カラーの遺体と拘束してきた樹々以外、何も無かったのだ。
ラシファは何故いないのか、すぐに見当がついた。
「ッ!! しまった!」
◆◆◆
アージュナはオルカの傍にいながら、カラー達に視線を向ける。
ウルパは涙を流しながら、カラーの遺体に縋り付いていた。
それを見ていたアージュナは、
「…………もう終わりだ、ウルパ」
ウルパに話しかける。
ウルパはアージュナを憎悪の目で睨み返す。
「よくも、よくもカラー様を……!!」
「悪いとは言わない。今までやってきた所業を考えれば、討たれても仕方が無いだろう」
「黙れ!! お前は私の大切な人を殺した!! 二度もだ!! 二度も殺したんだぞ!!」
「……分かってる」
アージュナは苦い表情で答えた。
「一度目は、俺が原因だ。その事については謝りたいと思っていた。……本当に、すまなかった」
「何を今更……!!」
「今更だとは思う。けど、こうして謝りたいとずっと思っていた。それは本当だ。信じて欲しい」
アージュナの真摯な態度を感じ取ったのか、ウルパは下唇を噛んで、黙り込んだ。
「……私が、偽物だと言ったのにか……!?」
「そうだったとしても、お前の怒りは正当な物だ。だから謝りたい。それが、俺に出来る唯一の事だ」
ウルパは俯き、音が出るほど拳を強く握り、ワナワナと震えていた。
「…………そうだったな、お前は、そういう奴だった……」
「ウルパ……」
「しかし! カラー様を殺した罪は許さない!! 今の私にとってカラー様が全てだ!! 例えどんな大義名分があろうとも、それを奪った事は絶対に許さない!!」
ウルパの叫びが、部屋全体に響き渡る。
アージュナはウルパの険しい表情を見て、説得は叶わないと分かり、悲しい表情になる。もうあの頃の様に笑顔で語り合う関係には戻れないと悟った。
「そう。そう。そう。許してはなりません。我々の計画を邪魔する者を」
刹那、何も無い場所から声が響き渡る。
アージュナは聞き覚えのある声に反応し、咄嗟に剣を構えた。
「この声は……!」
カラーの傍に魔法陣が展開され、そこから一人の人物が現れる。
怪人だ。
胸に大きな傷が付いているが、平然とした様子で歩いている。
「到着が遅れて申し訳ありません。少々準備に手間取りまして」
「何を悠長な! カラー様が死んだのに……!」
「そのカラー様なのですがね」
怪人が背後に視線を向けた。
背後にある魔法陣から、もう一人姿を現わす。
「ご苦労様です。怪人、ウルパ」
そこにいたのは、目もくらむような美女だった。
どこに行っても美女と言われても良い顔立ち、紫色の瞳に緑色の淡い口紅を付けた唇、女性にしては背が高く、月の光をバックに煌く銀色でくるぶしまである長髪がなびいている。
服はどこかミスマッチしている女神の様な布一枚を折った服に黒のローブを羽織っている。
何より、背中に8枚の翼が生えている。赤、青、緑、茶色、黄色、紫、白、黒とカラフルな色合いをしている。
カラーだ。
突然現れたもう一人のカラーに、オルカとアージュナの背筋が凍り付く。
ウルパは目を丸くして驚き、遺体の方と立っている方を交互に見ていた。
「え、は、え???」
「ごめんなさいウルパ。その私は偽物なの。本当の本物は私」
微笑みながらそう告げると、ウルパは安堵の涙を流す。
「生きて、生きてらっしゃったのですね……! 本当に、本当に良かった……!」
「もう泣かないでウルパ。その涙は再会まで取っておくのよ」
宥めるカラーに、アージュナは剣を構えたまま、
「再会? どういうことだ?」
疑問を投げかける。
カラーはゆっくりとアージュナ達の方を向く。
「その言葉通りよ。これから私達は世界を転変させる」
そう言って懐から取り出したのは4つの秘宝、『大罪の眼』『龍の宝珠』『天の剣』そして『光の錫杖』だった。
「どうしても貴女の魔力核が必要だったけれども、貴女のおかげでその必要も無いわ、オルカさん」
「それは、どういう……?」
「こういう事です」
怪人が会話に割って入り、怪人の周囲に大量の光が発生する。さっきオルカがやってみせた、魔力回路の形成だ。
オルカはそれを見て驚愕する。
「そんな、見様見真似で……?!」
「ええ。ええ。ええ。構造さえわかれば意外と出来る物ですね。おかげでこんな物まで作れました」
そう言って掌で作ったのは、魔力の塊、魔力核だ。
「貴女の物を真似して作ったので、95%そっくりな魔力核が出来ました。残り5%足りませんが、十分です」
「そんな……!」
自分のせいで敵に技術を渡してしまったことに、肩を落としてしまうオルカ。
アージュナはオルカが倒れないように支えた。
怪人はそんな2人を無視して、カラーに魔力核を差し出す。
「どうぞ、カラー様」
「流石、2人分の魔術師を混ぜて造った人造人間であるだけあるわね。素晴らしいは、怪人」
カラーは魔力核を受け取り、魔法陣を展開する。
4つの秘宝と魔力核を天に浮かせ、魔術を起動させた。
「さあ、始めましょう。ハデスの復活、冥界の開門を」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『冥界神・ハデス』
お楽しみに
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