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Ep.107 【否定領域】


それは全てを【否定】する



 オルカが展開した【否定領域】は、部屋全体を別空間に作り上げた。



 夜空の様な漆黒に包まれ、星の様な魔力の煌めきが周囲に散らばっている。更には銀河や星雲の様な怪しい光の集合体も周囲を舞い、どこが床でどこが壁なのか分からなくなるほど、空間の奥行きが曖昧になっていた。


 ウルパとアージュナは突然の出来事に慌てふためき、カラーは思わず翼を広げて浮いていた。


 オルカは周囲に煌めきを纏いながら、カラーに視線を向け続けている。


「驚きましたか? これが私の極地、【否定領域】です」


 堂々とした態度で、オルカはカラーに手をかざす。


「ここからは私の独壇場です。どうか、ご覚悟を」


 カラーは手を何度か握り、魔力の感触を確かめる。何も異常が無い事が分かると、優しく微笑んだ。


「……確かに空間を制圧されたのは驚いたけど、それがどうしたというのかしら? 私はまだ魔法を使えるわよ?」


 そう言うと、カラーはオルカに向けて手をかざし、攻撃魔法を発動する。最も速度の速い攻撃魔法だ。


「【高速魔弾】」


 音速に匹敵するその一撃は、オルカに向かって放たれる。


 攻撃力は【魔力弾】の半分以下だが、速度は目で追えるものではない。当たれば軽い怪我で終わってしまうが、今のオルカになら十分なダメージになる。そう考えて放った一撃だった。


 しかし、


「無駄ですよ」


 オルカに直撃する前に、【高速魔弾】は霧散した。


 まるで泡が空中で弾ける様に消え去り、何事も無かったかのように消滅したのだ。


 カラーは焦ることなく次の手を打つ。


(やはり完全無詠唱の【打消し】。ある程度の魔法も魔術も打ち消される。ならば)


 再びオルカに手をかざし、


「【色彩剥奪】」


 魔術を封じる術を使う。


(目に見えないこれならば、反応なんてできない)

「それも効きません」


 オルカの目の前で、バチン! という音を上げて、【色彩剥奪】が消滅する。


「な、ん」


 これにはカラーも動揺を隠せない。


 目に見えていない攻撃を、目前で阻止されれば、驚くのも無理はないだろう。


 カラーは臆することなく、更なる一手を繰り出す。


(規模の小さい魔力の攻撃が駄目ならば……)


 手を天にかざし、膨大な魔力の魔法を形成する。空間が(ひず)み、虹色の光が生まれる。


「【虹の氾濫】」


 あらゆる属性の魔法攻撃がオルカに襲い掛かった。回避不能な自然の猛威が、オルカを飲み込もうと押し寄せる。


 これにはアージュナも危険だと察する。


「オルカ!!」


 思わず叫ぶアージュナ。


 しかしオルカは微動だにしない。


「大丈夫ですアージュナさん。ここは私が食い止めますから」



 そう言った瞬間、【虹の氾濫】が消滅する。



 大災害が跡形も無く消え去り、何事も無かったかのように、オルカの広げた空間だけが残り続けていた。


 カラーは目を見開いて驚愕し、一歩後退する。


「そんな、【打消し】は、構造を理解出来ていて、尚且つ一定の魔力量を超えていない魔法や魔術のみにしか効かないはず……」


 オルカは目を細め、軽く息を吐く。


「すみませんカラーさん。これは【打消し】ではありません」

「何ですって?」

「【打消し】ではなく、構造そのものを分解、消滅させているんです」

「ッ!!?」


 発動した魔法や魔術を、分解、消滅するという芸当は不可能だ。


 それは燃えている松明を、燃える前の松明本体へ戻すようなものだからだ。一度発動したモノは、決して分解できるはずが無い。


(どうやって分解と消滅を? 一体どうやって?)


 カラーは頭を回転させ、どうやってそうしているのかを考える。


 そんな暇は、オルカは与えない。


「【神聖魔法(ホーリーマジック)拡散波動(スターダスト)】」


 手を横に振ると、幾つもの光の粒が宙を舞い、カラーに襲い掛かる。


「く!?」


 カラーは咄嗟に構え、【多重防御魔法】を展開するが、すぐに崩壊する。


(ならば、物理で……!)


 【収納】から宝具の盾を取り出し、急いで身を守る。


 構えた盾に光の粒が接触した瞬間、光が炸裂し、爆発が起こった。


 それは光の粒の数だけ起こり、幾重にもカラーに襲い掛かる。


「ぐう?!!」

「カラー様!!?」


 ウルパが叫び、飛び出そうとするが、アージュナに斬られた傷が痛み、未だに動けずにいた。


 カラーは何とか全ての攻撃を受けきり、無傷でやり過ごす。その代わり、盾はボロボロになり、使い物にならなくなる。


(これほどまでの威力、一体どれだけの魔力を有しているの……?)


 カラーは不敵な笑みを浮かべ、新たに二本の剣を【収納】から取り出す。


「物理ならば、魔法も魔術も関係無いわね!」


 大きく剣を振りかぶり、オルカに突撃する。


 【身体強化】で底上げした肉体ならば、オルカに重傷を負わせるのも容易だ。


(魔力核さえ取れればいいのだから、後はどうなっても構わない。例え四肢を切り落としてでも奪う!)


 オルカに向かって、二本の剣が振り下ろされる。



 しかし、その剣は届かない。



 アージュナの双剣が、カラーの剣を防いだからだ。


 

「貴方は……!」

「やらせない! オルカは俺が守る!!」


 アージュナは全力で双剣を振り切り、カラーの剣を弾き飛ばす。カラーの剣は宙を舞い、カラーの両腕が大きく天に向く。


 懐がガラ空きになったカラー。アージュナはその隙を、好機を決して逃さない。


 双剣を突きの態勢に構え直し、心臓のある胸に狙いを定める。そして、一気に突きを放った。


 カラーは【防御魔法】を使う事が叶わないと分かっている。ならば、【収納】から防御に使える武器や防具を、アージュナとの間に出現させる。これで少しだけ時間を稼げると踏んでいた。


 しかし、アージュナの突きはそれらの僅かな隙間を通り抜け、軌道を修正しながらカラーまで伸びていく。


 この一瞬でその隙間を見抜いたのは、アージュナの身体能力あっての技だ。


 これ以上に打つ手が無くなったカラーは、


「……見事ね」


 ほんの一瞬微笑み、オルカとアージュナを称賛する。


 そして、アージュナの一撃がカラーの胸を貫き、背中まで貫通する。


 カラーは血を吐き、前のめりに倒れ込み始めた。


「が、は……!」


 確実に貫いたのを確信したアージュナは、剣を引き抜き、数歩下がる。


 カラーは胸から鮮血を噴き出しながら、【否定領域】の床に、倒れた。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『最後の秘策《悪足搔き》』

お楽しみに


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