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Ep.105 死中求活


死の中で、活性を求める



 カラーによってオルカの魔術が打ち砕かれ、状況が一転する。



「あ、う」


 オルカは【過重遅延領域】の反動で、全身に激痛が走り、膝から崩れ落ちる。


「オルカ!!?」

「これで邪魔をされる心配は無くなりました。後は貴方だけですね」


 カラーは微笑みながらアージュナに狙いを定めた。


「【深淵紋(アビスコード)暗黒(ダークネス)豪雨(ヘビーレイン)】」


 頭上に魔法陣が出現し、先ほどの【魔力弾】とは桁違いの威力の黒い弾丸が、一斉にアージュナに襲い掛かる。


「く!?」


 アージュナは咄嗟に双剣を回転させながら後退し、攻撃を防御しながら回避する。オルカの所まで戻りたかったが、広範囲に及ぶ攻撃の中ではそこまで戻る余裕は無かった。


「オルカ! しっかりするんだ!!」

「駄目だと思いますよ? あれだけ強力な魔術を使ったんですから、その反動は決して軽くない。再起不能でしょうね」

「ッ……!」


 この前のサイクロプス討伐の時、魔力回路破裂で倒れたのを思い出す。


 あの時も深刻な状態で、懸命な治療によって危機を脱した。それを考えれば、今のオルカの状態が非常に良くないのは想像に難しくない。


 アージュナはカラーの攻撃を退けながら、オルカの安否を心配する。


(オルカ、どうして無茶を……!!)


 カラーはアージュナ達が動けないのを見て、倒れているウルパに視線を向ける。


「ウルパ、こちらへ」

「は、はい……。カラー、様」


 息も絶え絶えの状態で、ゆっくりと立ち上がり、カラーの下へ近寄る。


「申し訳、ありません……。この様な、失態を……」

「喋らなくていいわ。それよりも治療を」


 カラーはウルパに手をかざし、【回復魔法】をかける。すると、ウルパの怪我がみるみるうちに治っていく。


「ありがとう、ございます」

「しばらく痛みが残るでしょうから、後ろで休んでいなさい。私が彼を片付けますから」

「はい、分かりました……」


 そう言ってウルパは、フラフラと歩いてカラーの後ろに引っ込んだ。


 カラーは再びアージュナの方へ向き直り、両手をかざした。


「さあ、ここからもっと激しくなるわよ?」


 魔力の槍で出来た魔術を発動し、アージュナに向かって打ち放つ。


「ッ!!!」


 防ぎ切れないと悟ったアージュナは、回避行動に移る。


 カラーの一方的な攻撃が、アージュナを追い詰めていく。



 ◆◆◆



 オルカは、暗い意識の中にいた。



 魔術の反動の痛みで、もはや動くことは叶わず、あるのは思考と記憶を反芻する事だけしかできない頭のみだ。


(どうしよう……、体が動かない……。まだ、アージュナさんが、戦っているのに……)


 思考をすることで、何とか意識を保ち、気絶しないようにするのが、唯一出来る事だった。


(折角役に立てると思って、無理をしたのに、これじゃあ、足を引っ張っているだけ……。酷い話……)


 カラーが見せた唯一の隙をついて、まとめて倒すチャンスを作ったと思っていたが、考えが足りず、逆にアージュナを窮地に立たせてしまう失態を犯してしまう。


 その事を後悔しながら、身体の痛みに耐える。


(ヘルウィンさんに治してもらったのに、また壊しちゃった……。合わせる顔が無いな……)


 次に思い出したのは、治療してくれたヘルウィン達だった。


 薄っすらと、ぼんやりとだが、施術中の記憶が思い出される。




「魔力回路破裂は、体内の魔力核に対して、肉体の魔力回路が細すぎて起こる症状。生まれつきの先天性の病気ですから、根本的な治療方法はありません」


 ヘルウィンは魔力回路破裂について、意識の遠くなっているオルカに話しかけていた。


「しかし、解決方法はあるかもしれません。例えば、別の魔力回路を確立する、とか」


 例えとして出したが、これは数多くの失敗があり、誰も成功していない事だ。


 培養、肉体の変換、移植等、様々な方法が試されたが、どれも成功とは言えない結果で終わった。それほどまでに難しい話なのだ。


「賢者でも方法が見いだせていない話ですから、我々でもかなり難しい話ですね。さて、与太話もここまでにして、本格的に始めましょうか」




 そんな話を、今になって思い出す。


(別の、魔力回路……)


 肉体の魔力回路が駄目なら、別の魔力回路を確立する。


(肉体、以外で……)


 魔力回路の構造、原理。


(昔読んだ、モーフェン師匠の、解剖録……)


 魔術魔法を形成する魔法陣の根本。


(それらを結ぶ、数多の情報網……)


 点と点を結ぶ、無数の線の情報達。




 オルカの中で、一つの光が生まれる。




 ◆◆◆



「ぐあ!!?」


 アージュナはカラーの攻撃によって弾き飛ばされ、地面を転がる。


 全身に怪我を負い、ボロボロの身体で這いつくばっていた。


(駄目だ、これ以上は持たない……!)

「その身一つで私の攻撃に耐え切って見せたみたいだけど、限界のようね」


 カラーは【深淵魔法】を起動し、アージュナにとどめを刺そうと構える。


「貴方を殺して、オルカさんの魔力核を頂くわ」

「すまない、オルカ……!」


 今度こそ死を覚悟するアージュナ。


 カラーの魔法が、アージュナに向かって放たれる。




「【打消し】」




 放たれた瞬間、カラーの魔法が霧散した。


「……?」


 これにはカラーも首を傾げる。


 アージュナも何が起こったのか分からず、固まっていた。


「これ以上、貴女の好きにはさせません。カラーさん」



 そう言ったのは、オルカだった。


 しっかりと両足で立ち、カラーの目の前で対峙する、オルカの姿があった。


 しかしてその姿は、先程までとは明らかに違う。


 髪は大きく広がり、まるで星雲のような虹色の煌めきを放ち、銀河のように渦巻いている。周囲には流れ星のような一筋の光がオルカを取り囲んであらゆる方向に飛び交い、全身を光で照らしていた。



 その姿を見たアージュナは、その美しさに見とれていた。


「オルカ、なのか……?」


 オルカはアージュナの方を向き、ニコリと笑みを向ける。


「アージュナさん。後は任せて下さい」


 手にケリオーンを握り、それをカラーに向ける。


「ここからは、私が相手です。どうぞ、ご覚悟を」


 決意を固め、愛する人を守るため、オルカはカラーと対峙する。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『ソラに願いを』

お楽しみに


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