Ep.104 窮地
または、万事休す
それぞれの戦いが佳境を迎えていた頃、オルカとアージュナは、ウルパとカラーと戦っていた。
アージュナとウルパが近接戦闘でぶつかり合い、カラーがウルパへ、オルカがアージュナへ【魔力弾】による援護射撃をしている状況だ。
アージュナの双剣とウルパの短剣による剣戟は、手数の多いアージュナが優勢だが、【魔力弾】の援護は、カラーが圧倒的に優位だった。
オルカも何とか【魔力弾】で応戦してるが、慣れない射撃戦に苦労している。
(カラーさんの攻撃を相殺するのがやっと……。デバフを使おうにも隙が無い……!)
カラーの猛攻を、同じだけの【魔力弾】を出して相殺してはいるが、全て撃ち落とせている訳ではない。時々威力で負けて、アージュナに飛んで行ってしまう物もある。その時はアージュナが瞬時に躱して対応してくれている。
【魔力弾】はこれ以上出力を上げられないため、当て方を工夫する他ない。この実戦で試行錯誤を繰り返し、出来るだけ多くの【魔力弾】を撃ち落とすかが重要になってくる。
オルカは目を回しそうにしながら、必死に攻撃を続けた。
それを見ていたカラーは、クスリと笑っていた。
(まさか秒間20発もの【魔力弾】に対応してくるだなんて。あの子、やっぱり才能があるのね)
初めてであろう【魔力弾】の撃ち合いに、こうして食いついて来れるのは、才能があるとしか言いようがない。
使える魔力はほぼ互角。尽きることはないが、精神力が耐えられなくなる。それはカラーの方に分がある。
(それは彼も分かっているはず。さて、どうするのかしら)
高みの見物で攻撃を続けるカラー。それを一瞬ではあるが睨むアージュナがいた。
(あの女、余裕かましてるのか?! 腹が立つ!!)
カラーに腹を立ててはいたが、まずは目の前のウルパが問題だ。
アージュナのずば抜けた戦闘センスと身体能力で、ウルパの短剣による素早い連撃を捌き、こちらから攻撃を入れている。それでも攻撃が決まらないのは、ウルパの動きの速さがあるからだ。
ウルパの動きは暗殺者としての動きで、一つ一つが俊敏であるため、防ぐことが出来ても、捉えることが難しい。
双剣で手数の多いアージュナであっても、中々当てられないのはそのためだ。
加えて、カラーの援護射撃もあって、どうしても一手遅れそうになることがある。そのため、苦戦を強いられている状況なのだ。
(これじゃあいつまで経っても倒せない……! かと言って、オルカに無理をさせる訳にも……!)
オルカが以前見せた【過重領域】であれば、素早く動き続けるウルパも後方にいるカラーもまるごと捕らえることが可能だろう。
しかし、オルカに多大な負荷をかけてしまう。それだけは避けたかった。
(それに、ギルドマスターが前に言っていた、カラーの【色彩魔術】。その内の【色彩剥奪】を使われたら、詰む可能性がある……!)
それは、聖都へ移動中のことだった。
ラシファがメンバー全員にカラーの【色彩魔術】について話してくれた。
魔術構造や原理など、事細かに説明してくれたが、理解できていたのはオルカとバルアル、スカァフの3人だけだった。後のメンバーは、完全に理解するには知識が全く足りなかった。
特に注意すべきは【色彩剥奪】だというのだけは、しっかりと覚えている。
その【色彩剥奪】を警戒して、オルカもデバフを出し渋っている。
アージュナが悩んでいた時、カラーが溜息をついた。
「お遊びもここまでにしましょう」
そう言って手をかざし、魔法陣を発動する。
「消えなさい」
「ッ!!?」
アージュナに目掛けて、強力な魔術を発射しようとする。アージュナも避けようと動くが、その動きを先読みしてウルパが懐にしまっていた短剣を投げて封じてくる。
(まずい、このままだと直撃……!?)
咄嗟に防御態勢に入るアージュナ。重傷も覚悟したその時だった。
「【過重遅延領域】!!」
カラーとウルパに強力な【過重】と【遅延】が襲い掛かり、身動きが出来なくなる。
「これは……」
「ぐううううう!!?」
突然の出来事に戸惑う2人。それよりも驚いていたのは、アージュナの方だった。
「オルカ!!?」
アージュナがオルカの方を向くと、『ケリオーン』で魔術を使用しているオルカがいた。
息を切らしながら、魔術を行使している状況だ。
「アージュナ、さん、今のうちに、トドメを……!!」
「ッ! ああ!!」
アージュナは双剣を構え、カラー達に向かって駆け出した。
「すまない、ウルパ!!」
「ッ!!?」
アージュナは謝罪をした後、ウルパの脇腹を切り裂いた。
「ガハ!?」
ウルパは少量の吐血をして倒れ込む。アージュナはそのままカラーの下へ駆けていく。
「これで!!」
カラーの胸に剣を突き立てる。このまま刺せば心臓を貫いて、確実に致命傷を与えられる。
だが、
「甘いですね」
カラーは【過重遅延領域】を粉砕し、途中で止まっていた魔術を放つ。
「な?!」
アージュナは身を翻し、紙一重で攻撃を躱す。
「どうして、デバフが……!?」
「私が他の魔術を使用している間、【色彩剥奪】を使えないという弱点を見抜いて被せてきたのでしょうけど、少々情報が古かったようですね」
カラーは微笑みながら次の魔術の準備をする。
「今の私はその弱点を克服しています。分身には付与できませんでしたが、本体である私が使えれば、何の支障もありません」
「そんな……!!」
オルカは膝を付いて、息切れを起こす。
「オルカ!!?」
「人の事を心配している場合ですか?」
カラーはアージュナに向かって攻撃魔術を放つ。
何とか躱し続けるアージュナだが、その額には汗が出ていた。
(これは、万事休すか……!?)
お読みいただきありがとうございました。
次回は『死中求活』
お楽しみに
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