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Ep.103 教皇と星


星の内海と繋がる教皇



 各地で激戦が繰り広げられる少し前、教皇ヨアンナは一人湯浴みをしていた。



 聖都を一望できる浴場で湯につかり、身体を暖めている。


「…………そろそろ姿を現わしたらどうだ?」


 独り言のように呟くと、浴場の外から、ゆっくりと降りてくる影が現れた。


 その影の正体は、カラーだ。


 カラーは微笑みながら、


「入浴中失礼します教皇猊下。どうしても火急の用がありましたので」


 湯の上を歩いてヨアンナに近付く。


 ヨアンナは湯につかりながら、目の前に立つカラーを見上げる。


「不敬である。が、元八天騎士として余のために働いていた功績に免じて、許す」

「ありがとうございます」


 何気ない会話をしているが、2人の間にはとてつもない魔力のぶつかり合いが発生し、風景が歪んでいた。


 残り4歩まで近付いたカラーはそこで足を止め、ヨアンナを見下ろす。


「ここまで無防備ですと、逆にやりづらいですね」

「何を言うか。そこから入った時点で背後を狙っていたのは明白であろう」

「流石教皇猊下、そこまで分かっておいででしたか」

「……世辞はよい。本題を申せ」


 ヨアンナはカラーを睨みつける。


 カラーは微笑んだまま、真意を口にする。


「あの子は貴女の代用。本来であれば、貴女の魔力核が必要なのです。ですので、あわよくば、貴女の核を奪えればと思いまして」


 それを聞いたヨアンナは、溜息をついた。


「骨の髄まで理解させたと思っておったが、懲りてないようだな。よろしい、もう一度完膚なきまで分からせてやろう」

「そう来ると思っていました」


 両者の魔力が最高値まで高まり、周囲に恐ろしいまでの重圧が発生する。


 小物は粉砕し、床と壁にはひびが入り、湯はボコボコと泡立ち始める。


 ヨアンナは生まれたままの姿で立ち上がり、カラーと対峙する。


「しかしカラーよ、いつからそんなに嘘が下手になった?」

「嘘、とおっしゃいますと?」

「其方、カラーではあるが、カラーではない。いわゆる複製であろう」


 カラーはピクリと肩を震わせた。それを見たヨアンナは、そのまま言葉を続ける。


「余にばれないと思ったか? 己の肉体を切り分け、増殖し、新たな自分を作り出す外法。そんな歪な存在を、余が見定められないとでも?」

「…………」


 矢継ぎ早に話すヨアンナに、沈黙するカラー。


 ヨアンナが次に発音しようとした瞬間、カラーがヨアンナに手をかざす。


 手から【魔力弾】が発射されるが、ヨアンナに届く前に霧散する。


 ヨアンナは当たるはずだった場所を、軽く手で払う。


「無駄だ。余の魔力量は圧倒的である。故に、自然の盾となり、その程度の攻撃は通用しない」

「知っています。ですが、次はどうでしょう?」


 カラーの掌から再び【魔力弾】が形成される。今度は回転する三角柱の形となって、ヨアンナに襲い掛かる。


 しかし、硬い鉱物に当たったような音を上げて、【魔力弾】はヨアンナの身体から弾かれる。


 ヨアンナは小さく溜息をつく。


「どうした? これで終わりか?」

「いえ、ここからです」


 今度は禍々しい剣を出現させ、ヨアンナの胸に突き立てる。


 だが、これもまた貫くことなく、ガキン!! という音を上げて弾かれる。


「ほう、『悪魔の剣』か。ゴルニア王国に所蔵されていたのを持って来たみたいだが、これも余には効かんぞ」

「では、他のでも試してみましょう」


 カラーは『収納』から多種多様な武器を取り出し、次々とヨアンナに突き刺していく。


 しかし、どれもヨアンナの身体を傷付けることは叶わず、それどころか折れる物が出てくる始末だった。


 数十分にも及ぶ攻撃は、短剣を最後に終了した。


 全ての攻撃を受けたヨアンナの身体には一切の傷がつくことはなく、美しい絹の様な肌は依然変わりなかった。


 カラーは目を見開き、頬に汗を流す。


 ヨアンナは湯船に落ちた武器達を見渡した。


「『龍の刀』『女神の聖剣』『ドワーフの斧』。どれもいい宝具だが、余には意味の無い物だったな」

「……無敵ですか? 教皇猊下は……」

「余は星と繋がっている。この星で生まれたモノ全てが余の一部。故に、一切届くことはない」

「無茶苦茶ですね……」


 打つ手が無くなったカラーは、覚悟を決めたのか、小さく息を吐いて肩を下ろす。


「以前は魔法も魔術も効かなかったので、今度は手を変えて宝具で攻めてみましたが、無駄だったようですね」

「理解したか。では、今までの不敬を―――」



「死をもって償うといい」



 ヨアンナが目を見開いた瞬間、カラーの心臓が止まる。


 膨大な魔力を操作し、カラーの肉体に干渉した上で、心臓を無理矢理止めたのだ。


「か、は」


 小さく息を吐き出した後、カラーは湯の中に落下する。


 まるで眠る様に倒れ、そのまま息を引き取った。


 それを見ていたヨアンナは、背を向けて浴場から出る。


「よくもまあ、ここまでやるものだ」


 カラーの執念に感心しながら、その場を後にしようとする。


 その時、カラーの身体から光が発せられ、魔法陣が溢れ出す。


 咄嗟に反応したヨアンナだったが、対処するには時間が数秒足りなかった。




 気付くと、そこは熱波が降り注ぐ城の一室だった。


「ここは……」


 ヨアンナが振り向くと、そこには腰を抜かして座り込んでいる女性がいた。


 アストゥム獣国第二王女『セラスベルトゥ・アサラス・ファリア』だ。


「えっと、貴女は、誰でしょうか……?」


 腰を抜かすセラスベルトゥを見たヨアンナは、少し長めの溜息をついた。


「物理的に距離を取られたか。これは時間がかかりそうだ」





お読みいただきありがとうございました。


次回は『窮地』

お楽しみに


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