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Ep.102 コンビネーション


ギルドである意義



「コンビネーション、っすか」


 ファンがラシファに聞き返す。


 ラシファは静かに頷く。


「このままですと全員ジリ貧ですからね。早々に決着を付けるにはそれしかありません」

「連携による攻撃ですか。でしたら、集団戦訓練がお役に立つかと」

「それがいいでしょう。ルーさんはそのままセティさんと合わせて下さい。こちらでフォローします」

「分かりました!」

「後はタイミングを合わせて下さい。よろしくお願いします」

「「はい!!」」

「では、行きましょう」


 ラシファは魔力で作った矢をファンに手渡し、散開する。


 再びそれぞれの敵へと走り出し、戦闘を再開する。


「おや。おや。おや。それがコンビネーションとでも言うつもりですか? 片腹痛い」


 怪人は短剣を取り出し、向かって来るファンに狙いを定める。


(狙うは喉元。これは外さない)


 空間転移でファンの喉に直接転移させようと手を動かした瞬間だった。


 魔力で作られた光弾が、怪人の持つ短剣を粉砕した。


「な?!」


 怪人は驚きつつも、すぐに後退して状況を把握する。


 光弾はファンの後ろから飛んで来ており、その発射元はラシファだった。


 ラシファはファンから反対方向に向かって走っているが、背面で光弾を発射し、怪人の武器に命中させていたのだ。


 怪人は舌打ちしながら、背中にナイフを隠して転移させようと試みる。しかし、そうすると正面から来るファンからの攻撃に備える事ができなくなる。


「これは、厄介!!」


 悪態をつきながらも、ナイフを転移させ、ファンの足を止めようとする。


「それはもう見た!!」


 ファンは走った勢いで助走をつけ、ナイフが来る前に大きく跳躍する。


 背面宙返りで怪人の頭上を飛び越え、怪人の背後に回り込む。


「おのれ……!!」

「遅いっす!!」


 振り向こうとする怪人に、ファンは矢を放つ。


 矢は同時に3本放たれ、その内2本が腕と腹に直撃する。


「う、ぐう……!!」


 怪人は距離を取ろうと、転移の魔法陣を展開する。


「それはさせない!」


 ファンは足元に刺さっているナイフを拾い上げ、怪人に向かって投擲する。怪人も懐に入れていたナイフを取り出し、投擲する。


 ナイフは互いに音を立ててぶつかり合い、回転しながら地面に落下した。


 その隙に怪人は魔法陣に入り込み、姿を消した。


(どこに隠れた……!?)



 

 ファンと怪人がぶつかり合った直後、セティとルーも、ユラマガンドと激突していた。


 ユラマガンドは葉巻を蒸かしながら、軽やかなステップでセティ達に接近する。


「ワンツー!!」


 ユラマガンドの素早く、鋭い連撃がセティに襲い掛かる。


 セティはそれを盾で防ぎ、すかさず斬撃で返す。加えて、ルーの口から吐き出される魔力の光線で煙を吹き飛ばされる。


 ユラマガンドはそれらを悠々と躱し、攻撃を入れて一度引くを繰り返す、ヒット&アウェイで攻撃を入れていく。


 ユラマガンドの拳は想像以上に重く、盾を持っているセティの手が衝撃で痺れる程強い。


 それを何度も受けていては、いくらセティでもいつかは盾を持てなくなる。


(であれば、やることは一つ!)


 セティは盾で防ぐだけではなく、剣でも弾こうと、剣を振るう。


 それを見たユラマガンドは、ニヤリと笑った。


「それを、待っていました!!」


 振りかかる剣にタイミングで、メリケンサックを付けた拳を叩き付ける。


 ガキィン!!! という音を立てて、セティの持っていた剣が弾き飛ばされる。


「な!?」

「私の打撃力を甘く見ましたね」


 ユラマガンドはルーの射線上にセティが入る様に、セティの懐に入る。


「終わりです」


 【死の十字架】を叩き込もうと打撃を入れる態勢に入った。これが決まれば、間違いなくセティの死は免れない。


 しかし、セティは諦めてはいない。


「ぬうううん!!」


 身体を捻じり、盾の側面でユラマガンドの頭を全力で叩く。


「ぐう?!」


 予想外の攻撃に、思わず態勢を崩すが、咄嗟に足を開いて踏ん張り、すぐに立て直す。


「騎士とは思えない戦い方だ!!」

「神父の貴様に言われたくはない!!」


 もう一撃入れようとするセティの攻撃が来る前に、ユラマガンドはセティの右側に避けた。


 ガラ空きになっている懐を見つけたユラマガンドは、すぐさま左の拳を構える。


「もらった!!」

「ぐ!!?」


 次の一撃は確実に受けてしまう。それを確信したセティ。


 ルーはすぐに攻撃を入れようとするが、足元に近い場所にいるため、位置が悪く、攻撃が出来ない。


 完璧に入ると誰もが思った一撃が放たれる。



 その一撃に、一矢が撃ち込まれた。



 矢はユラマガンドの左の二の腕を貫通し、胸部にまで突き刺さる。貫通したため、ユラマガンドの攻撃は完全に停止させられた。


 この一撃は、先ほど怪人に放たれた3射の内の一射。ファンはここに向けてわざと一射を怪人から外したのだ。


「ば、かな……!? こんな偶然が……!!」

「いいタイミングだ。ファン」


 セティはもう一度盾を大きく振りかぶり、ユラマガンドに向けて振り下ろそうとする。


 ユラマガンドはセティの表情を見て、これが偶然ではなく、必然であると悟った。


(このような、連携があるとは……!!)

「うおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 セティの雄叫びと共に、ユラマガンドの顔面に盾による一撃が叩き込まれる。


 正面から入ったその一撃は、ユラマガンドの顔面を砕き、加えていた葉巻を遠くへ弾き飛ばした。


「がは!!?」


 鼻血を出しながらふらつくユラマガンド。今の状態なら、妨害する煙も、恐るべき拳も無い。


「今だルー!!」

「これ終わりです!!!」


 ルーは大きく口を開け、ユラマガンドに狙いを定めた。



「【精霊大砲】!!!」



 今までにない大量の魔力の炎を凄まじい勢いで口から放射し、ユラマガンドを焼き尽くす。


 ユラマガンドは燃やされながらも、どこか穏やかな表情だった。


「すまない皆、また、会おう……」


 それだけ言い残し、ユラマガンドは灰となって消えて行った。


 それを見届けたセティは、胸に手を当てる。


「ユラマガンド、とんでもない強敵だった……」




 一方で、ラシファとカラーの打ち合いは、その激しさを増していた。


 カラーの全ての攻撃を相殺していたラシファも、そろそろ限界が来ていた。それに気付かないカラーではない。


「あともう一押しかしら? ここまで呆気ないと寂しいものね」


 にこやかに微笑みカラーに対し、ラシファも微笑み返す。


「いえ、こちらの粘り勝ちです」

「あら、それはどういう―――」


 カラーが聞き返そうとしたその時だった。


「【精霊大砲】!!!」


 カラーに向かって熱線が放射され、強襲する。


「ッ」


 カラーは咄嗟に手を伸ばし、【色彩剥奪】を使用しようとする。


「ここです!!」


 その意識の一瞬の隙を見たラシファは、攻撃を相殺しながらカラーに向かって駆け出す。


 そして、奥の手である魔法を起動する。


「【深淵紋(アビスコード)神槍(ブレイクルーン)】!!!」


 片手から黒い槍を生み出し、カラーに向かって突き立てる。



 この魔法ならば、あらゆる防御魔法も貫ける。それは既に実証済み。そして、確実に心臓を貫ける位置を捕らえた。


 これでカラーを倒せる。ラシファはそう確信していた。


 しかし、その一撃は届くことはない。



 何故なら、怪人が身を挺してその一撃を受けたからだ。



「がふ!!」


 胸を貫いたため、怪人は勢いよく吐血する。


「なん、ですって……?!」


 怪人が突如現れたことよりも、その身を挺したことが驚きだった。


「何故、貴方は……?!」

「やれ、やれ、やれ。決まって、います。惚れた、女性に、命を、賭けるのは、当然、でしょう?」


 息も絶え絶えの状態でも、怪人は口を休めない怪人。そして、血塗れの手で、ラシファに掴みかかる。


「カラー様!!」


 【精霊大砲】の【色彩剥奪】を終えたカラーに、怪人は叫ぶ。カラーはそれに答える様に、魔法を放つ準備を整える。


 ラシファは咄嗟に怪人を振り払おうとするが、しっかりと掴まれ、離すことができない。


「ギルマス!! 頭下げて!!」


 ファンの声に気付いたラシファは咄嗟に頭を下げる。


 直後、ファンの放った矢が怪人の眉間に直撃する。


 確実に絶命する一撃を受けた怪人は、ゆっくりと後ろへ倒れていく。


 倒れていく怪人の後ろから、カラーがゆっくりと姿を現す。その手には、完成した魔法があった。


「【降り注ぐ虹】」


 炎、氷、嵐、岩、樹、聖、深淵。全ての属性の魔法攻撃がラシファに襲い掛かる。


 これだけの上位魔法の攻撃は相殺しきれない。咄嗟に【防御魔法】を使おうと試みるが、【色彩剥奪】で無効にされるのが目に見えている。


 このまま行けば、万事休す。命の保証はない。


(となれば、お願いするしかありませんか)


 残る一手は、彼に頼る事だった。


「セティさん!」

「任されました!!」


 呼ぶよりも早く駆けつけてきたセティが間に割り込み、盾を構えて防御態勢に入る。


「【標的集中】!!」


 全ての攻撃を盾で受け止め、ラシファへの直撃を防ぐ。


 だが、盾は軋みだし、長くは持ちそうにない。


「姑息ですね。それでどうしようと言うのですか?」

「こうするんです」


 ラシファはセティを飛び越え、カラーに向かって飛び掛かる。その手には、セティの剣が握られていた。


 カラーはすぐに【防御魔法】を多重展開し、攻撃を防ごうとする。


 それでもラシファは構わず剣を突き立てた。


 剣に魔力を注ぎ込み、切れ味と攻撃力を上げて【防御魔法】の盾に突き刺してみせる。


「お忘れですかカラー、実体のある物の方が強固であると!!」


 剣は【防御魔法】を突き抜け始め、一つ、二つと砕いていく。


 ラシファは魔力で出来た翼を広げ加速し、三つ、四つと更に貫いていく。


「…………私の、負けね」


 カラーは穏やかな表情で微笑んだ。


 ラシファは【防御魔法】を超え、カラーの胸に剣を突き刺した。肉と骨を断ち、心臓を貫通し、身体そのものを突き抜けた。


 カラーは小さく吐血し、【降り注ぐ虹】も消滅する。


 そして、静かに絶命した。


 それを見届けたラシファ達は、大きく息を吐いて心を落ち着かせる。


「……決着ですね」


 そう安堵したのも束の間だった。


 カラーの身体から突如、巨大な黒い木が生えだし、一気に部屋を侵食する。


「これは、【拘束する瀑樹】!?」


 【拘束する瀑樹】は、その名の通り周囲一帯を樹で覆い尽くし、行動を著しく制限する魔法だ。


 3人と1匹は回避する暇も無く、樹の大海に飲み込まれてしまった。


 

 部屋一杯に侵食した樹により、ラシファ達は身動きが取れなくなってしまった。


「皆さん、無事ですか?」


 ラシファが全員に声を掛ける。


「こっちは大丈夫っす!」

「こちらも大丈夫です」

「い、一応大丈夫です……」


 ファン、セティ、ルーはそれぞれ返事をして、無事であることを伝える。


 全員無事だったことに安堵するラシファ。それと同時に、嫌な推測を立ててしまった。


(この魔術を死に際で放ったということは、自分が死んでも時間稼ぎが必要なことがあったということ。となれば、あのカラーは、偽物……)


 しかし、偽物というにはあまりにも本物に近かった。それは扱っていた魔法魔術を見れば分かる。


(であるならば、アレは……)


 嫌な想像をしたが、これ以上は確かめようがないので、一旦置いておくことにした。


 まずは、この樹の大海からの脱出を試みることから始めるのだった。






お読みいただきありがとうございました。


次回は『教皇と星』

お楽しみに


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