Ep.101 精霊の役割
精霊の本分
ユラマガンドの一撃を受けたルーは、血を吐きながら宙を舞う。
しかし、決してやられたわけではない。
キッと目を見開き、空中で一回転して着地する。
「【精霊砲】!!」
ルーの反撃の一発がユラマガンドに向かって放たれ、ユラマガンドはすぐに後退し、回避する。
離れたのを見計らい、ルーはセティとユラマガンドの間に割り込んだ。牙を剥き出しにし、ユラマガンドに向かって威嚇する。
ユラマガンドは再び拳を握り、戦闘態勢に入る。
「止めておいた方がよろしいかと。今ので肋骨が何本か折れたはずです」
「それなら殴らないで欲しかったですよ」
少量ではあるが、ルーの口から血が流れ落ちる。
「ルー!! 私の事はいい! 早くファンかギルドマスターのところへ……!」
「ここで死ぬ訳にはいかないんでしょう?!」
ルーの言葉に、セティは言葉を止める。
「な、何故それを……」
「分かりますとも。同じ獣国の騎士なのですから」
ルーはセティと同じ様に、この戦いを生きて勝つと決めていた。
同じ覚悟を決めていると確信したのは、戦っているセティの目を見た時だ。
「私は貴方の意思を尊重します!! 漆黒の六枚翼で必要とされている貴方を!! 故に、この命を賭けます!!」
ルーの覚悟に、セティは唇を噛み締める。
「……私と同じ覚悟ならば、生きろ!!」
「ッ!!」
セティの言葉に、ルーは振り返る。
「貴殿も同じ漆黒の六枚翼の一員!! 必要とされているのは貴殿も同じなのだ!! その命を死と天秤にかけるな!! 生きろ、ルー!!!」
セティはルーを叱責し、どれだけ大事なのかを叫んだ。
ただでさえ押し潰されそうな状況なのに、そんなことを叫んでくれるのは、真に思っているからだ。
その言葉は、ルーの心に響いた。
「セティさん……」
「茶番はもういいですか?」
ユラマガンドは葉巻の煙草を吸い、煙を吐く。
「冥途の土産に仲間との会話を十分楽しませたんです。そろそろ死んで頂きます」
メリケンサックを握りこみ、セティ達に強襲する。
ルーはセティの方を向き、
「セティさん!! お願いがあります!!」
提案する。
「何だ?!」
「私の本当の名をお教えします! それを叫んで下さい!!」
「叫ぶだけでいいのか!!?」
「はい!!」
「分かった!!」
「私の本当の名は―――!!」
ルーはセティに真名を教える。
そしてセティは、ルーが教えた真名を叫んだ。
直後、ルーの身体が光り、周囲一帯を飲み込んだ。
「な、何だ!?」
ユラマガンドは思わず腕で目を隠す。
数秒、光が強く輝いた後、光が弱まり、それは姿を現した。
さっきまでルーがいた場所に、体長3mもある巨大な犬が立っていた
白と赤の毛並みをなびかせ、星の様に煌めいている。その顔立ちも美しく、人であるならば、麗人と言っても過言ではない。
巨大な犬は、セティを押し潰そうとする熊とジャガーの魔獣を睨む。
「失せよ」
魔力による衝撃波を全身から発射し、熊とジャガーの魔獣を吹き飛ばす。
吹き飛ばされた二体は壁に叩き付けられ、塵となって消えていく。
ようやく解放されたセティは、巨大な犬を見上げる。
「ルー、なのか……?」
「はい、そうです。おかげで加減無しで戦えます」
ルーはニッと笑った後、再びユラマガンドを睨む。
「申し訳ありませんが、お話している時間がありません。なにせこの姿は5分しか持ちませんので」
「……ならば、急がねばなるまいな」
セティは剣を構え、ユラマガンドに向ける。
「共に行くぞ、ルー!!」
「ええ、セティさん!」
背中を合わせる2人の傍に、ファンとラシファが合流する。
ファンは所々ナイフによる切り傷を負い、ラシファは激しい攻防による集中で、精神力を消費している状態だった。
「そっちもようやく調子が出て来たみたいっすね」
「ファン、大丈夫か?」
「何とか、でも矢が……」
「皆さん結構ギリギリの様子で」
ラシファは微笑みながら、それぞれの状況を確認する。
「このまま時間を消費するのは惜しいですね。ここは、ギルドの強みを使う時ですか」
「「「ギルドの強み?」」」
2人と1匹が首を傾げる。
ラシファはフッと笑い、答える。
「コンビネーションですよ」
お読みいただきありがとうございました。
次回は『コンビネーション』
お楽しみに
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