Ep.10 森と採取と少年と
採集クエスト、少年との遭遇
ザン・ヘッセの森
ハナバキーから南に約30㎞の場所にある採集クエストが多い森で、オルカとアージュナは薬草『チュラシュイシード』の採集クエストへやって来ていた。
森の中は蒸し暑く、ジメジメして不快感が凄い。それでもオルカとアージュナは進んでいく。
「オルカ、大丈夫か?」
「な、何とか……。想像の5倍以上のキツイ環境です……」
杖を突きながら、森を一歩一歩確実に進んでいく。しばらく歩くと、岩がちらほらある場所に出た。
「ここら辺にチュラシュイシードが群生してる。クエストだと100g必要だから手分けして探すぞ」
「はい」
オルカとアージュナは互いの視野に入る位置で採取を始める。チュラシュイシードは特徴的な渦巻きの形をした葉をしているのですぐに見つけられる。根元を折って採取するのは根が残って後からまた生やすためだ。
高さが規定に達しているのか確認しつつ、採取した薬草を携帯用の計りで計りながら必要な分だけ取っていく。オルカの方は10分程度で集め終わった。
「アージュナさん、こっちは終わりましたよ」
「こっちも終わったところだ。ほら」
オルカに集めた薬草を見せる。規定の大きさに達している。しかし、
「アージュナさん、これとこれはチュラシュイシードではありませんよ」
「え?」
指摘された草を見て見る。
「葉の先端が赤いですよね……。これは『チュラシュイモドキ』と言われるただの雑草です。毒になりませんが薬にもなりません」
「そうだったのか……、採集クエストとか全然やってこなかったから違いが今一分かんねえや」
頭を掻きながら難しい顔をする。
「これから覚えて行きましょう……。最初の内は誰だって失敗はしますから……」
アージュナを励ましながら作業に戻る。残り少なかったのですぐに集め終わった。
「後は帰って納品だ」
「はい……」
その時、後ろの茂みから音が葉が揺れる音が聞こえた。2人は武器を構えて臨戦態勢に移る。
徐々に音が大きくなり近付いて来る。緊張感を高め、いつでも攻撃できるように待ち受ける。
そして、茂みから出て来たのは、
「…………男の子?」
ボロボロになった男の子だった。歳はおそらく10歳以下だ。
「どうしてこんなところに子供が……?」
オルカが構えを解いて近付く。少年はオルカの腰の袋に入っている薬草を見て、
「あ、あの、その薬草、分けて下さい!!」
大声でお願いしてきた。オルカとアージュナは顔を見合わせる。
「落ち着いて……。貴方の名前とどこから来たかを教えてくれる?」
「あ、僕、『ロイ』って言います。この森の近くの村に住んでます」
「ロイ君はどうして薬草が欲しいの?」
オルカが優しく聞く。アージュナは剣を握ったまま警戒を続ける。こういった手口で採取した物を奪取する輩がいるからだ。
「その、お母さんが熱を出して、でも薬を作るのに素材が足りないって薬屋のおじさんが……」
「そうなんだ……。お母さんはいつから具合が悪いの?」
「一昨日の朝から。苦しそうで、その日の昼からずっと寝ているんだけど、全然良くならないんだ」
「顔色とか、分かる?」
「いつもより白くて、目の周りは黒っぽい」
「……それってゼエゼエ言ってる?」
「うん、そう」
オルカは口を押さえながら下を向いた。
「重度の血色不良、呼吸困難、発熱、起きれない程の衰弱、この森で素材不足になる薬草、症状からして病気は…………」
ブツブツと独り言を呟き始め、杖をコツコツと突き続ける。
「え、あ、え……」
あまりの不気味さにロイは引いている。
コツン、と杖を強く突き、
「……必要なのは『カカラカナの花』と『イカンの実』。今ならまだ間に合う」
オルカはアージュナの方を見る。
「アージュナさん、付き合っていただけますか……?」
「勿論。オルカに任せるぜ」
アージュナは笑顔で承認する。
3人は探索を始め、さらに森の奥へ進んでいく。
「俺の鼻なら花と実の匂いを見つけられるはずだ。任せてくれ」
「お願いします……」
獣人は人間と比べて嗅覚が数千倍感度がいい。アージュナはスンスンと嗅ぎまわる。数分後、
「……見つけた」
木の裏に隠れたカカラカナの花を見つける。人差し指位の大きさの赤い花を根っこごと採取し、採取用の袋に入れる。
「次はイカンの実か。匂い薄いから時間がかかるかも……」
「それなら多分、大丈夫です」
オルカは一本の木に近付く。
「イカンの木は他の木と比べて苔が付きやすいんです……。だから苔の多く付いている木を探せばおのずと見つかります……」
オルカは苔の多い木を見上げ、イカンの実を見つける。アージュナが跳躍して3つほど捥ぎ取る。
「これでいいのか?」
「はい。これで『髑髏熱』の特効薬が作れます」
「髑髏熱だと?」
アージュナの眉間にシワが寄る。
髑髏熱は免疫の弱い者がなりやすい熱病だ。症状が進行すると顔が髑髏のようになっていくことからその名が付いた。致死率はそこまで高くないが、放っておけば後遺症が残る。
オルカは屈んでロイと視線を合わせる。
「ロイ君は、どの薬草がいいのか分からなくて手当たり次第に集めようとしたんだよね……?」
「うん……。冒険者が持ってる薬草なら、効くかなって……」
オルカは懐から液体の入った小瓶を取り出した。それと実と花をロイに渡す。
「これでお母さんの病気を治せる薬が作れるから、薬屋さんにちゃんと渡すんだよ」
「……うん!」
3人は一緒に森を出る。森を出てすぐの公道へ行く。
「ここからなら村に帰れるよ」
「うん、気を付けて帰るんだよ……」
ロイは村へ向かって走り出す。途中で振り返り2人に手を振る。
「ありがとうお兄ちゃん! おばさん!!」
悪意のない一撃がオルカの胸に突き刺さる。アージュナは気まずそうにオルカを見る。
「だ、大丈夫だって!! まだオルカ若いよ! スカァフなんて40だし!!」
「…………私はどうせ32歳の喪女ですよ……」
暗いオーラを漏らしながら肩を落としていた。
・・・・・
採集クエストの納品を終え、街へ帰る道中
「最後に渡したあの液体、何だったんだ?」
「あれは、魔術薬のベースになるものです。薬屋さんなら使い方は分かると思います」
「なるほどな。……そういえば、目的の物は採取できたのか?」
「あ、はい。無事に確保できました」
「いつの間に……」
オルカはクエストの時とは別の袋に手を入れる。
「これがこっちにもいて良かったです。魔術薬には必要になる物の一つなので……」
そう言って取り出したのは、
「ロクトゲオオイモムシです。この子の出す糸や体液って本当に万能なんですよ」
【一時停止】でピクリとも動けない状態の巨大な芋虫だった。
アージュナは全身に鳥肌が噴き出し、一目散に逃走した。
「え、あ、アージュナさん……?! お、置いてかないで……!」
急いでアージュナの後を追った。
彼女が喪女の理由その1:虫を平気で素手で持って可愛がる。
お読みいただきありがとうございました。
次回は『湿地に眠る魔女の薬』
お楽しみに。
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