Ep.1 解雇された喪女、旅立つ
32歳喪女、解雇されました。
「今日でクビだ。とっとと出て行け陰気女」
『オルカ・ケルケ』は本日、20年務めたギルド『黄金の暁』から解雇を言い渡された。
「ちょ、ちょっと待って下さい……! どうして、クビ何ですか……?!」
「言わなければ分からんか? お前が失態を犯したからだ」
目の前でふんぞり返っているのは『黄金の暁』のギルド長『アイシーン・アルガ』。3ヶ月前に2代目としてギルド長になった青年だ。
見た目は凛々しく緑色のショートヘアが特徴的な彼の表情はとても険しい。
「先日任せた貴族の護衛、その貴族から苦情が入った。態度が悪い、やる気がない、誠意が感じられない等々、とにかく酷い内容で我がギルドの信用を落とすものばかりだ」
「そ、それはあの人が……!」
「言い訳無用!! お前はギルドに多大な損害を与えた! それが解雇理由だ!」
書斎の机を拳で叩きオルカを黙らせる。
「そういう訳だ。分かったら明日までにギルドからとっとと出て行け。あと、損害を補填するためにお前の持っている魔導武具と魔術関係の物品は全てギルドが没収する」
「そんな……!」
「何も裸一貫で出て行けとは言ってない。普段着や所持金、証明書は持って行っても構わん。本当は全部没収したいところだがな」
アイシーンは立ち上がりオルカに背を向ける。
「これ以上言う事は無い。荷物をまとめて消え失せろ」
・・・・・
ゴルニア王国 首都 テルイア
『黄金の暁』はここ首都テルイアを拠点に活動しているトップクラスのギルドだ。オルカはそこに20年務めたベテラン魔術師で、ボサボサで目まで隠れている黒いロングヘアーに真っ黒な瞳、色白の肌、背丈は平均的。今年で32歳、『喪女』である。
荷物をまとめた彼女はギルドの寮から出て、玄関の前でお辞儀をする。
「今までお世話になりました……」
見送る者は誰もおらず、ただ一人寂しくギルドを後にする。
(ウェイガーさんやギャラヘッドさん達は遠征でいなかったから部屋にお手紙だけ残して、メイドリッド君にはアレも置いてきたけど……、やっぱりちゃんとお別れを言いたかったなあ……)
ただのとんがり帽子と黒いローブの格好で、荷物を詰め込んだキャリーバッグを引きながらトボトボと街を歩く。
(ずっと研究につぎ込んでたから手持ちは殆ど無い……。職業安定所で仕事を探さないと……)
オルカは重い足取りで職業安定所へ向かった。
・・・・・
「残念ですが、オルカさんに紹介できる仕事はありません。お引き取り下さい」
バタン、と勢いよく扉が閉められ、追い出された。
何が起きたのかよく分からないまま、オルカは扉の前で立ち尽くしていた。
「ど、どういう事……?」
呆然としていると、
「あら、オルカちゃんじゃない! どうしたのこんな所で?」
大声で声を掛けてくれたのは職業安定所のパートおばさん『サトナー』だった。ぽっちゃりして陽気な人で、オルカとは10年の付き合いになる。
「サトナーさん……! 実は……」
「ちょっと待った! ここで話すのもなんだから、カフェに行きましょう。奢るわよ」
「はい……」
カフェに入った2人は適当に注文して席で待つ。
「もしかして、門前払いされた?」
「そうなんです! どうしてあんな事をされたのか分からなくて……」
俯くと猫背のせいで更に小さくなる。サトナーは周囲を見渡し、小声で話しかける。
「(実はね、オルカちゃんの悪い噂が広がっちゃってるみたいなの。貴族を怒らせて目を付けられてるって)」
「(そんなに大事になってるんですか?!)」
「(ギルド関係は全滅していると思った方がいいわね。地方に行っても多分しつこく広めて来るわよ)」
「(そんなあ……)」
オルカは頭を抱えて今にも泣きだしそうだった。それを見たサトナーはオルカの肩に手を置き、
「オルカちゃんがそんな事はしないって言うのは私がよく分かってる。安心して」
「サトナーさん……」
味方がいるのは心強いが、テルイアでやって行くのは難しいだろう。しかも公的機関である職業安定所まで影響が出ているなら国内でやって行くのも厳しい。
オルカが再び頭を悩ませていると、
「大丈夫! 私にいい考えがあるわ!」
サトナーが満面の笑みで提案する。
「いい考え……?」
・・・・・
カフェで食事を終えた後、サトナーに連れられ総合馬車乗り場へ到着した。
総合馬車乗り場には沢山の馬車が停まっており、小型の物から大型の物まで揃っている。
「身分証明できる物は持ってるわね?」
「はい。冒険者証明書に魔術師証明書、パスポートも持ってます」
「じゃあこの馬車乗り場の前で待ってて。ちょっと用意してくるから」
そう言うとサトナーは乗り場の案内所に駆け込んで行った。オルカが一人で待っていると、
「あらあ、オルカじゃない」
1人の女性が小馬鹿にした様な物言いで近付いて来る。
スタイルが良く、周囲の男性の目を引くデザインをした魔術師の服装をした女はオルカの知り合いだった。
「『マドゥア』さん、どうしてここに……?」
「クエストの帰りよ。まさかクビにされた無能のオルカと出会えるなんて思いもしなかったわあ」
蔑むような仕草でオルカに詰め寄る。オルカは身体を逸らして距離を取る。
「万年C級な上に貴族相手にへまをしたんだからクビされて当然よねえ? ギルドの厄介者が消えてせいせいするわあ」
「き、貴族の件に関しては……」
マドゥアは何か言おうとしたオルカを睨んだ。
「言い訳なんて見苦しいわよ! もうあなたはテルイアでやっていけないんだから臭い田舎にでも消えなさい!」
そう言い残して高笑いをしながらその場を去っていた。オルカは気分が沈み、肩を落とした。
(どうして、私は何も悪い事してないのに……)
「オルカちゃん!」
そこへサトナーが戻って来る。
「これ、簡単だけど紹介状! 私の名前が入ってるから一応適用されるはずよ」
「えっと、どこ宛の紹介状ですか……?」
サトナーはニッと笑い、
「『四国同盟』の一つ、『キヌテ・ハーア連邦』よ」
四国同盟は『ゴルニア王国』、『キヌテ・ハーア連邦』、『アストゥム獣国』、『リュオンポネス聖国』の隣接した4つの国が結んだ同盟であり、共通通貨、免税、移住など様々な法律が緩和されている。国境越えもパスポート無しで通過可能だ。
「その首都『ハナバキー』の冒険者組合に私の知り合いがいるの。名前は『ウィシュット』。私より年上の女性だからすぐ分かると思うわ」
早口で説明しながらハナバキー行きの馬車へオルカを連れて行く。ハナバキー行きの馬車は20人は乗れるほど大きいが、数人しか乗っていなかった。サトナーは紹介状の入った封筒と馬車の乗車代をオルカに手渡し、手をそっと包んだ。
「大丈夫。あなたには確かな実力がある。自信を持って行きなさい」
真っ直ぐな目でオルカを見つめ、オルカは唇を噛みしめながら頷いた。
「ありがとう、ございます……!」
発車時間となり、オルカは馬車へ乗り込んだ。
「元気でね! オルカちゃん! いってらっしゃい!」
「はい! サトナーさんも、お元気で!」
互いに手を振り、別れを告げる。
こうして、オルカはテルイアを離れ、ハナバキーへと旅立った。
読んで頂きありがとうございました。
次回は『新天地、そして運命の出会い』
お楽しみに。
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