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令嬢リプカと六人の百合王子様。~熱愛の聖女、竜遣いの戦鬼姫、追放の無双策士にドラ●もんメカニック、太陽みたいな強ギャルに、麗しのプリンス!悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる――【魔王】のための逢瀬物語~  作者: 羽羽樹 壱理
令嬢リプカと六人の百合王子様。~悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる逢瀬物語~

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第三十四話:レクチャー・社交術


『千里の道も歩を踏み出さねば道と成り得ない。

 己の足のみ踏み出せる一歩目。』


◇---------------------------


 せめて自分にできることを尽力したい。


 リプカはまず、客人に宛がわれた部屋のある、東棟に足を運んでいた。


(まずは、そのための準備を整えなければ……)


 いそがばまわれ。そんな格言が思い浮かぶが、あまり時間はない。


 ある一つの扉の前に立つと、リプカは胸に手を当てて、大きく深呼吸してから扉をノックした。


「はぁい!」


「――アズ様、少しお時間よろしいでしょうか?」


「お、リプカちゃん? オー、尋ねに来てくれて嬉しいよ! どぞどぞー」


 扉が開き、輝く太陽のような笑顔がリプカを迎え入れてくれた。


「お邪魔します」


 多少緊張しつつ、アズのこころよい招待を嬉しく思いながら、部屋にお邪魔する。


 部屋は特に模様替えされた様子もなく、ベッド脇には、少量の荷物が荷造りされた状態で置かれていた。

 彼女が一旦パレミアヴァルカ連合に発つのは、本日の夕方であるはずだ。


「お忙しいところにすみません」

「いいよん。――それで、どんなご用かな? どうやら急ぎの様子みたいだけど」


 椅子を勧めながらリプカの表情をうかがって、アズは察し良く、話の切り口を差し向けてくれた。


 リプカは座りながら頷き、遠回りもなく単刀直入に頼み事を伝えた。


「アズ様、私に初歩のところである、社交のすべを教えていただけませんか?」


「社交のすべ?」


 きょとんと目を丸くするアズ。

 リプカは頷いた。


「はい。クイン様がこのお屋敷にとどまることを、各々の王子方に納得していただくために、少し、交渉が必要になってくる事情があるのです。あるお方とは、クイン様滞在の了承りょうしょうを超えた重要を約束する必要もあって――そのために、社交のすべの要点を、少しでも教わりたく思い、お願いに参りました次第です」


「なるほど……。目的のために、一旦手法の獲得を踏まえることは良いことだね。――ただ……」


 アズはどうしてか、眉を下げて、言葉にできない()()を表すような、微妙な表情になった。


「それ、――必要かな……?」


「と、いうと……?」


「ん、前にも言った通り、リプカちゃんの決定にいなを唱える王子なんていないと思うし……ただ全員を集めて、普通にそこで、それを伝えるだけでもいいような……」


「……私の選択で、屋敷内にる者の安全面が損なわれる側面は否定できません」


 リプカのその声色に、アズは心内の姿勢を正した。

 それは、これまで何度か聞く機会のあった、普段の彼女からは想像つかない、揺れのない真剣な声色であったから。


「これから私がやろうとしていることは、少しでもそれに対策を打つための交渉です。暴力のは暴力を覚悟している者にしか対策できない。その交渉は、ひいてはクイン様のみならず、皆様の安全確保にも繋がる事ですから――私はそれを、物事が良い方向へ向くように……やろうと思います」


 視線を下げたリプカの瞳には、確かな意思の輝きが宿やどっていた。


 その光を見つめて――それでもアズは悩ましい表情で尚考えていたが、やがてそれも飲み下し、リプカの断固に対する答えとして相応しい、迷いを捨てた顔で頷きを返した。


「――そかっ! よし、わかった!」


 言って、アズは勢い良く立ち上がった。


「リプカちゃん、スタンダップ! レクチャーの時間ですっ!」


「は、はいっ!」


 アズは立ち上がったリプカの横隣に移動すると、リプカの体を真っ直ぐに立たせながら講義を始めた。


「いい? 前回は逢瀬おうせのためのレクチャーだったけど、今回は社交の場でのお話し。今度も、最も大切になってくるのは姿勢ですっ! はい、胸を張る!」


「はい――!」


 リプカは朝方に習ったことを活かし、クララと対面したときのことを思い出しながら、りんと胸を張った。


「うん、よろしい! ――胸を張る意識。それに加えて、社交のステージである今回大切になってくるのは、あごを引く意識です」


あご……ですか?」


「そう。それは胸を張る姿勢を取るときに、絶対に必要な重要! ――愛しい人と会うときは、胸を張って相手の顔を真っ直ぐに見つめても、柔和になった雰囲気のおかげで自然とあごが下がるものなの。だけど今回のような社交の場では、それを常々意識しなきゃいけない。もちろん胸を張ることは大事だけれど――ちょっと胸を張ってみて。そう。そしてその姿勢で、あごを引くことを意識する。下を向くのではなく、気持ちであごを引くカンジ。――そーそ! そうすることで、あからさまに胸を張っても妙には見えない。逆にそれができていないと、珍妙ちんみょうな威勢を誇示するような、無駄に気合いの入った妙な人みたいに見られちゃうから注意!」


「な、なるほど……」


「そいで、歩くときもそれを忘れないで、でも下は向かないようにする。主張をおさえたしとやかさを演出したいときはそれもアリだけど、今回のように自身が主導を握るべき場合では、むしろ主張を示すように前を向いてないといけない。そう、で、歩いて――。リプカちゃん体幹たいかんが優れてるから、足の運びはそのままで大丈夫。――うしっ、完璧!」


 リプカの姿勢を見つめながら、アズは笑顔を浮かべた。


「ちゃ、ちゃんとできてますか……?」


さまになってます! あ、鏡は見なくていいよ。それやっちゃうと、習いたての場合、動きがギクシャク固くなっちゃうから」


「そ、そうですか。難しい……」


「ちゃんとできてるよっ。――いま私から即興そっきょうで教えられることはこのくらい。人の姿勢っていうのはね、実は印象値の話において一番大切なことだから、これができていれば今は十分だと思う。あとは気後れせずに堂々とね! ガンバレ、リプカちゃんっ!」


「アズ様……ありがとう」


 リプカはアズを振り返り、感謝を表して微笑みを浮かべた。


 ――と、そのときだった。



 ギュイーンギルルルルルガキッ! ガッ、ガガガガガガガガガガッ!



 上階から突然、天井を僅かに揺らす、けたたましい機械音が響き渡ってきた。


 リプカは飛び上がったが、アズは特に驚いた様子もなく、悠々《ゆうゆう》と天井を見上げた。


「お、始まった」


「え――。い、いったい何が起こっているのでしょう……?」


「ビビちゃんがお部屋を模様替もようがえしてるの。煩くなるかもって、さっき伝えに来てくれたんだ!」


「も、模様替え……?」


 模様替えとは、室内の装飾や家具の配置などを変えることである。

 しかし響いてくるのは、破壊工作が行われているようなとどろきであった。模様替えという言葉からかけ離れたその大音量に、リプカは戸惑いを浮かべた。





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