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第四話:雲蒸竜変


『チャンスは同じだけしか巡ってこないにしろ、運命は露骨をすることがあります。』


◇---------------------------


 あの、何もかもが陳腐であるにも関わらず、奇妙な印象を振り撒いていた占い師がリプカへ告げた行く末は、少なくとも、直近を見通した未来ではなかったようだ。


 勘当騒ぎが起こった、その三日後のことである。

 勘当などというミクロな悲惨のにならない惨劇さんげき、あるいは六人の王子に迫られ色恋に湧く余裕など彼方かなたへ消し飛ぶ凶報が、その日、オルフェア領域に広まった。



 戦争である。



 発端は、祈りの国エレアニカ連合と、帝国の国オルエヴィア連合との小競り合いであった。

 その争いの余波が、オルフェア領域を抱える、中立の国ウィザ連合に飛び火したのだ。


 領域とは、つまり一国一城。貴族はいくつかのお家が集まり、所有する領土を管轄、支配する。それが領域。――それがこの大陸の、貴族のかた


 そして領域は必ず、一つの国に属している。国とはつまり身の寄せ合い、領域同士が結ぶ連合を意味する。


 オルフェア領域で言えば、その一帯はオルフェア家、エルゴール家、ノクターンメル家、ヴェルズ家、ギーラルイス家、ロアー家、そして今は無きエイルムメイティル家が管轄する領地であり、アウディベル領域やラクリマ領域が同じく属する、ウィザ連合に属している。


 そのウィザ連合のはし、エレアニカ連合と隣接りんせつするフォローライン領域において、祈りの国エレアニカ連合との争いに向け領地拡大を目指す、オルエヴィア連合が宣戦布告の宣言をおこなったとの知らせが入ったのだ。


「これは好機」


 ウィザ連合は、中立の国といえば聞こえはいいが、内実ないじつは平和的な貿易交渉のみで存続を続けている、軍事力に関しては圧倒的な弱小を自覚する寄り合いである。

 故に、オルエヴィア連合の宣戦布告に皆が戸惑う中――その報告に対し不敵に、獰猛どうもうな笑みを浮かべ、瞳に煌々《こうこう》とした光をともして瞬時に腰を上げた者がいた。フランシス・エルゴールである。


 オルフェア領域は、代表家名こそオルフェア家であるものの、フランシスが十一の若さで手腕を振い始めたその瞬間から、オルフェア家主導の力関係は崩れ去り、実質エルゴール家――フランシスを代表とする傀儡かいらい領域へと姿を変えていた。


 そして今ついに、その手に握った天分てんぶんの指揮を彼女の力量に見合うスケールで、存分にるう機会が訪れたのである。


「ここが名の上げどころ。オルフェア領域に腰を下ろす()()よ、各々存分に働き、私の手腕に尽くせ。さすれば子子孫孫まで、永劫にとみ腰置こしおく歴史の勝者となろう」


 フランシス・エルゴールの名が大陸中に響き渡る、運命の大活劇だいかつげきが幕を上げた。


 最初はただの、領域の代表存在。

 しかし()()()のオルエヴィア連合を打破だはすべく、周辺領域を妖狐ようこのようにたぶらかし、魔法のような順路を辿たどって、――気付いてみれば、誰もが見上げる天上に立っていた。誰が為の【誰】が座した運命は誰も止められない、指揮の力は日に日に大きくなる。


 果ては周辺国に、道を現人神あらひとがみもかくやという巧妙こうみょうな呼び掛けをおこない、見るに結束は膨れ上がる。


 勝負はそこで決していた。

 祈りの国エレアニカ連合、技巧の国アルファミーナ連合、原油の国パレミアヴァルカ連合、水源の国アリアメル連合、そして戦鬼せんきの国イグニュス連合までをも巻き込み、まるでウィザ連合が先導であるかのように躍動した結果、オルエヴィア連合を蹂躙じゅうりんした。


 フランシス・エルゴールが悪を討った。


 祈りの国エレアニカ連合が特に、ウィザ国の働きに御礼おんれいの意を示したこともあり、その名声は正当な正義として広まりを見せた。


 ――約束通りの栄光のとみがもたらされた。もはやオルフェア領域に属する家々の誰もが、エルゴール家に真実の忠誠を誓い、指揮の全てを彼女へ開け渡すだろう。エルゴール家にげんあらげて得られる利など何一つない。


 どころか、フランシスはもはや、国政にさえ口を出せる立場にある。領域の支配と比べればスケール違いの話ではあるが、事実、領域の集まりでしかないはずの不揃いの一個に、頂点に供えられた王座から口を出せる立場にある……。


 フランシス・エルゴール。

 ことの全てを()()()()()()()()()絶対の権力を手にした――歴史に【鬼女きじょ】と呼ばれた少女である。





 ――そんな、フランシス・エルゴールの活躍の裏で。


 実はその姉、リプカ・エルゴールもまた、戦いの分かれ目を栄光に導く活躍を残していた。


 フランシスと比べるとあまりに目立たない、スケール違いの活躍ではあったが、しかし確かに局所において彼女は奮闘ふんとうし、歴史を変える輝かしい成果を上げていたのだ。


 何をしても駄目と言われ続け、『出来損ない』と呼ばれ続けた彼女のことを正面から馬鹿にする人間は、その日を境に、ごく一部の身内を除けば、一人としていなくなった。


 そしてそれこそが、あの日奇妙な占い師が告げた、曖昧模糊な試練の未来へと繋がる、運命の扉を開く鍵の布石であったのだ。



 そう、六人の王子は現れる。


 



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