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令嬢リプカと六人の百合王子様。~熱愛の聖女、竜遣いの戦鬼姫、追放の無双策士にドラ●もんメカニック、太陽みたいな強ギャルに、麗しのプリンス!悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる――【魔王】のための逢瀬物語~  作者: 羽羽樹 壱理
令嬢リプカと新しきエルゴール邸の日常《ハチャメチャ》編!

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ビビ・アルメアルゥの焦燥・4

「わ、私が――ですか……?」


 その頼みに、ミスティアは目を白黒させて困惑した。


 しかし、私へ『教師』として礼節の勉学を教えることができるのは、この屋敷において彼女しかいない。頼む、とせつに願うと(本当に切なる事態だ)、彼女は困惑を浮かべながらも、疑念の様々を呑み込んだ明瞭で、「分かりました」と了承してくれた。


 ありがたい。ということで、ミスティアが教鞭きょうべんをとってくれる、礼節についての基礎授業が始まった。


 年齢よりも卓越した少女といえども、人に学びを教える習得にはまだ遠い――彼女は随所で苦戦しながら、懸命に教えてくれる。

 そして私は、彼女の教授に必死でらいきながら――彼女が基礎を教授するにおいて何のところを苦戦としているのか、所々で言葉のつかえるその要因は何であるのか、そういったところを考察して、そうして、積極的に発言しながら、教師ミスティアと共に授業のぞうを形作って、前進させていく。


 後方で、セラフィが興味深げにその様子を見守る先では、ミスティアが要領を飲み込みながら授業の練度を上げていく。そう、これが、『教授』と『教師』の違い。



 教授はほどこす、己の熟練にいたったを、う者に教えることができる。

 だが、おさめる物事のいまだ熟練に至っていない者においては、『う者』に教えることは難しい。しかし未熟故にこそ――生徒と共に授業を通して成長し、共に、前進できる立場の教鞭者きょうべんしゃになれる。便宜上、うより他のことを『教えを頼む』としたとき、その教鞭きょうべんを取る者を、――教師と呼ぶ。



 未成年も真っただ中の頃から研究職にたずさわり、私もこの歳だ、人に教える機会も多々あった。その者を教える事で戦力にしなければ研究のテーマ自体が立ち行かなくなる、そんな状況をいくたびも経験していく中で学んだ、私のさとり。


 教授はだんの上で凛と言葉を発せる『熟達に到達した教え』を、教え子に届けることができる。しかしだからこそ、壇上からの言葉に限定された教授の言葉は、初歩を未だおさめない者の耳には届きにくい。


 教師は熟達の達しない者が好ましい、生徒と共に未だ前進しようという柔軟な立場を心がければ、どのように教えるのかという『壇上を降りた実地の考え』に至り、教えの中で熟達にさえ関わる細微な気付きを得ながら、『初歩を学ぶべき者』の元へ、教えの声を届けることができるだろう。


 熟達と柔軟、その前提が崩されれば、教える者が振るう教養の言葉は誰にも届かなくなる。未熟な教授の教えには読解がともなわず、壇上に固執した教師の言葉は生徒に届かない。


 つまり。

 総括そうかつすれば、初歩を学ぶ者にとって教授の声は届きにくく、初歩を学び終えた者にとって教師の授業は無駄が多すぎるということだ。ゆえに、熟達者のセラフィではなく、ミスティアから学ぶという選択。


 そのうえで、裏技を使う。

 ミスティアの学び得ようとしているところを、私も共にかいして吸収する姿勢でのぞみ、迅速に理解を進められるようつとめる。


 さきんじて立体の点を組み上げるような学習法は正道的ではない。要所を欠片として集めておく、そうして出来上がるのは、『癖が酷く不完全な立体』であるのだが……十全に物事をおさめるにおいてはマイナスにしかならない立体図でも、私にとっては十分だ。私に求められるのは、社交界で戦ってゆける完全武装の修学しゅうがくではないのだから。


 ある意味のゲストというか、マスコットキャラクターみたいな立ち位置なら、それで充分だろう。しかし、そんな不完全な学び方をおさめるつもりで教授をうのは不誠実であるようにも思える……? いや、教えを頼むにおいては場合によりけり、状況によって目指すべき完成形が多様である以上、そんなこともない。――と、私は結論付けている。どうだろうな?


 求める姿かたちが純然であるとは限らない。私の場合、イレギュラーな立ち位置に相応しければ、それでいい。十全であることに越したことはないけどな、だがまずは成果を出さねば。今回はのっぴきならないタイムリミットがある。


 ――……なんとか、きざしは見えてきたな。理解できるところもある、社交界に顔を出す私についても、おぼろげながらイメージがいてきた。断片を取得すれば立体が見えてくる、そして、あとは勉学、勉学、漬け込むように没頭する学びの時間だ――。


 ミスティアとセラフィには、きちんと礼をしないとな。

 そこらへんはアルファミーナ連合流の礼儀を見せよう、学んだところの恩徳は、忘れるべきじゃないってな。


 何をして恩義にむくいようか――なんて思考は、後回し。今は、『リプカにも負けないくらい』、その言葉を胸に、学習に没入する。……久しいな、本当の一から何かを学ぶことなんて。


 なんだか、そう。この歳になって一から何かを学ぶというのも、存外、悪くないものだった。


 奇妙に、海に揺蕩たゆたっている気分だった。

 見渡せない、はるか無限を望んでいるような、ハイな没入感がある。


 学習の意味を、ひいては人生の意味を、今一度(さと)ったような気がする。


 今この時だけは……退屈とは、無縁であった。

 勉学の意味とは、きっと、そういうことなのだろう。


 人生は素晴らしい。



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