第二百九十一話:そうして見据えられた、セラフィ……そしてレイチェルの、晴れ渡った思い・1-1
人間の有効能力においては個々人で持ち得る才が異なるゆえに、社会概念の真髄を考える時には、一概に誰が優れるといったことはない。
また――本来、有効能力とは数多の経験則が有効に働く歳の関係の無いことである、といった、人の能力とは普遍的に抱く常識では測れないという警句の真意を、妹という存在が隣にあると痛感する。
幅ったい言い方だが、赤子からこの手で育てたはずの子が、私が持ち得ない有効能力を、いつ備えたのか、存分に発揮して私を助けてくれる。本当に、いつ備えたのか……この世の不可思議のように思ったものだ。
それは、多くは意外な形で発揮してくれるものだが……今回のことは特に、意表を突く形のお助けであった。
「ミスティア、なんだい、それは?」
私たち姉妹に割り当てられた客室、他家の天井であるにも関わらず、ともすれば自室よりもゆとりとくつろぎに浸かれる、デザインの最高峰が表現された部屋の、隅っこで、テーブルにノートを広げて、ミスティアはなにやら熱心に書き込んでいた。
何気なく声をかけたつもりであったのだが。
「あわわわわ」
ミスティアは泡を食って、私が近くにいるわけでもなかったのだが、ノートを腕で隠すようにした。
……これは、何かを企んでいるな。
「どうしたんだい……?」
「い、いえ、なんでも、お兄様。少し……私的なことをノートに纏めていただけです」
嘘はつかないが、ニュアンスは暈かす。彼女のいつもの言い方に、ふむ、と考える。私を驚かすための悪巧みではなさそうだが……。
「悪かった、気にしないことにするよ」
「いえ、はい、でも、これは今、必要なことに思える思索ですので……そうですね、そっとしてもらえると、有難いです」
「分かった、私は本でも読んでいる」
さて、今回はなんだろうか?
気にしながら、ビビ嬢から借りたアルファミーナ連合の書籍を手に取った。




