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令嬢リプカと六人の百合王子様。~熱愛の聖女、竜遣いの戦鬼姫、追放の無双策士にドラ●もんメカニック、太陽みたいな強ギャルに、麗しのプリンス!悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる――【魔王】のための逢瀬物語~  作者: 羽羽樹 壱理
令嬢リプカと六人の百合王子様。~悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる逢瀬物語~

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自称天使の孫娘と七人の王子の予言・1-2

「あー、あっしゃっせ……。あー、あのー、あー……噂の占い師なんすけど、占います?」


 先程よりも幾分、心に爽やかなものが混じった苦笑が漏れる。どうやら、粗末なのは店構えだけではないらしい。

 しかしリプカは、この足りてなさに自分と似通ったものを見つけて、少しだけこの占い屋が気になり始めていた。

 もう半歩占い師に近付いて、話を向ける。


「貴方がそうなのですか? 噂に聞く占い師は、老婆の形を取った天使だっていうけれど……」


「あー……あの、婆ちゃん死にました。私が二代目です」


 リプカは噴き出してしまった。勝手に天使を殺す、恐れ知らずの占い師らしい。


「――お願いしようかしら」


「あー、あーっと……十エクスですぅ……」


「た、高いわね……」


 庶民感覚でいえば、一日贅沢な飲食いんしょくができる値段である。

 リプカは驚きながらも、なんとなく気が進み、貴族だというのに多くない持ち金から十エクスを支払った。


「ありがとうございますー。あー、あの、貴方の目を見ないと駄目なんで、ちょっと屈んでもらえます……?」


「え、ええ、はい。こ、こうかしら?」


 なにせ客用の椅子さえないので、リプカは粗末な台に手を突き、占い師のほうへ身を乗り出すようにした。


「あ、ありがとうございますぅ。…………。……………………」


 ――突然、占い師から表情が消えた。


 ただでさえ感情が気薄きはくだった顔から、人間の色さえもなくなった。


 周囲に超常の気が満ちた。――気がした。


「――――! あなた、いったい……!?」


「――ラアブ。エブルケム」


 感情が失せた能面のうめんのまま、リプカの瞳を見つめ、意味を推し量ることができない不可思議な呪文を唱え始めた。


「エブルケム。エルフォスト……エルフォスト……あー……エンジ? いやエンシェ? ――ブラウ、ブラ、ブラウケウムル。エルゴス……あー……エンシェイルは最後の句だから……えー……クラウン。ベルクト。ステラ……エル……イル……?」


「…………」


 立派なのはその能面のうめんだけだったようだ。


 その後も、ぐだぐだとそれらしい呪文を呟き続け、そして――。


「エムクト。エンシェイル。の者の未来に波乱アレ。…………。はい、結果が出ました」


 そして最後にちらとだけ水晶玉に目をやると、それだけで占い師は、占いの終わりを告げた。


 リプカは肩透かしを食らった気分で体勢を戻して、感情の色が戻っても相変わらず内心の読めない占い師の顔と向かい合った。


「そ、そう。それで、どんな未来が私を待っているのかしら……?」


「あーはい。えー、まず、貴方はこれから、六人の王子に求婚されます」


 仏頂面のまま、言葉足らずな占い結果が口にされた。


「お、王子?」


「はい。えー、でですね、貴方は七人目の王子と婚約を結びます。そして幸せになるでしょう」


「七人目? 最後に一人、誰かが名乗り出るの? それが七人目?」


「そー……です。たぶん。……これってそういうことですよね?」


「わ、私に聞かれても……」


「んー……」


 困惑するリプカに構わず、占い師は水晶玉に目を向けると、それをピンと指で弾いた。


「なんかどこかで結果が曖昧に……いや、まあ、大筋はそんな感じです」


「そ、そう……。ありがとう……」


「どういたしまして」


 占い師は律義にお返しの言葉を口にすると、ぺこりと小さく頭を下げた。


 リプカは小さくお辞儀し、すごすごと立ち去る他ない。


(……まあ、占い師だというのにフードを被ってもいないし、あの子のやる気のさまだったらこんなものか。でも、無駄遣いだったけど、不思議とちょっと気分は晴れたな)


 そう、不思議とリプカは今、悪い気分ではなかった。


(なんだか所々本物っぽくて気分が高揚したし、そんなあの子から『七人の王子が私に求婚を迫ってくる』なんて告げられたから、あの瞬間だけは、夢を見るようにドキドキした。…………。現実はどうであれ、あの瞬間だけは……少しドキドキした……)


 不思議な占い師の存在がもたらした、ちょっとした非現実感が薄れ、また暗い気持ちに逆戻りしそうになったリプカは、その暗がりから逃避するように再び占いのことを考えようとつとめた。


(……そういえば)


「そういえば、王子様たちのお名前などは、お教え願うことはできないものでしょうか?」


 振り返り、占い師のいた場所に声を掛けるも。

 ――既にそこには、何もなかった。


「え……!?」


 古ぼけた台も、綺麗な水晶も、あの若い娘の姿さえも。


 跡形もなく、何も。


「い、いったい……!?」





 ふと、路地の少し先に目を向ければ。

 古ぼけた台を体の前に抱え、「はー、今日は疲れたー」などと呟きながら歩く占い師の後ろ姿があった。


 それを見ると、ファンタジーな気分は跡形もなく消え失せてしまって、リプカはまたとぼとぼと、監獄かんごくの如き冷気漂うへと歩を進め始めたのであった。





面白いと思って頂けましたら、是非評価の程お願い致します。<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうしよう…ニヤニヤが止まらない…というか噂のおばあちゃん死んだのか笑笑
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