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令嬢リプカと六人の百合王子様。~熱愛の聖女、竜遣いの戦鬼姫、追放の無双策士にドラ●もんメカニック、太陽みたいな強ギャルに、麗しのプリンス!悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる――【魔王】のための逢瀬物語~  作者: 羽羽樹 壱理
令嬢リプカと六人の百合王子様。~悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる逢瀬物語~

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戦鬼姫へご相談・1-2

「やり方、ですか……?」


「仮にいま自国に戻っても、やれることなんて限られてるしな。敵国からも元味方からもガッチガチに監視されてるんだからよ、んな状況で何するって話だ。――冷静に考えりゃ、ここにいたほうができることは多い。だから、責任を取れ、なんだろ」


「…………? どういう意味でしょう?」


「だから、婿むこにしろ、っつってんだろ」


 その当たり前のように口にされた考えに――リプカは目を点にして、固まってしまった。


「――――。え。」


「いや『え』じゃくてよ。冷静を取り戻してたら、自ずとそういう考えになるだろ。他にどんな意味がある?」


「む、婿むこ――婿むこということは……私が――。いやクイン様が……? ど、どっちがお嫁さんで、どういったことになるの……?」


「まず落ち付け、リプカ」


 ビビに突っ込みを入れられて、僅かばかり表情に感情が取り戻されながらも、いまだ茫然として「ムコ、むこ……」と繰り返している。

 思考停止したリプカの代わりに、ビビが話を引き受けた。


「しかし話を聞くに、とても冷静であったとは思えないが」


「まあそうなんだけど――どっかで聞いたことあるんだよな、クインっつーその名前。思い出せないでアレだが、聞きゃすぐに思い出せる程度のビックネームで」


「ああ、それなら私から情報を提供できる。――クイン・オルエヴィア・ディストウォールは、オルエヴィア連合が発足した組織概念【軍隊】の、指揮官の一人だ」


「――あー、アイツか! 叩き上げで最終的に一軍を任された、行軍ぎょうぐん無双むそうをもって天与のしつを世に示した少女っつーのは」


「そうだ。叩き上げといっても、元からディストウォール領域の令嬢だけれどな。――私もあのいくさに、精密機器の貸し出しという点で関わっていたから、戦争の情報はある程度入ってきた。クインの情報はその一つだ」


「随分暴れ散らかしたらしいな。イグニュスの連中も、まあまあ手を焼いたのか、喜んでたな」


 二人の会話を聞きながら、リプカは先程とは違う意味の茫然を浮かべていた。


(そんなに凄い人だったのね……)


「んじゃあ、もう後者で確定じゃねぇか。冷静になってないワケがねえもん」


 ティアドラのあっけらかんとした断定に、リプカは肩におもしがかったように、ズシリと身を沈ませた。


「ハハ――でも皮肉だよなぁ。そのあまりに卓越たくえつした働きのせいで、ディストウォール領域は責任を擦り付けられちまったっつーんだから。さすがに同情するわ」


「え――……」


 その内実に、リプカは息を飲む音を立てた。


 あまりに卓越たくえつした働きのせいで。

 つまり――過程を無視し結果だけ見れば、クインが原因で?


 そのあまりの事情の重さに、他人事であるにも関わらず、息が詰まり背に恐ろしい悪寒が走った。


 ――すやすやと、安らかに眠るクインの寝顔を思い出す。

 その裏側に、如何いかなる何をかかえていたのだろうか……?


「で、でも……! クイン様は昨晩、本当によく眠られていて……! 顔色も良く……」


「あー、そりゃ戦争が終わって気が抜けてんだな。どんな馬鹿でかい心配事があろうが、戦争から離れることができりゃあとりあえず、安心を浮かべるものなんだよ。離れた直後だけな。――戦争の記憶が魂にまでこびり付いてたら、それも叶わんけどな」


「…………」


「まあ私たちみたいな例外もいるがな。戦争が終わったあとに飲む酒がうめえんだ、これが」


 ガハハと笑うティアドラとは対照的に、リプカの心情は落ち込んでいった。


「私は、どうすれば……」


「いや受け入れるなり断るなりすればいいだろが」


「――その問題も、軽々には判断しかねます……。クイン様のお考えが、いまいち分かりませんから……」


「そんなん断固として、主導権握って黙らせりゃいいだろうが。立場の有利はあるんだから、それを活かせば面倒事にもねえだろ」


「…………」


 ティアドラのげんは正しい。

 そして、煮え切らないリプカの態度は正しくない。


 それは確かだろう。


 しかし。


 もしそうだとしても、リプカに、婚約者を上から押さえつけるような発想はなかった。……それは誰彼問わず、今まで散々やられてきたことであったから。


 わずかでも世界を信じたいという気持ちが、少女に無垢色むくいろの一つを抱かせた。


「たとえば、夢。――現実」


「あん?」


「正当解、妥当な実際。――信じる夢想。愚かさと真実。……そこに、全てを捧げる覚悟は無い。けれど」



「それでも――……」



「…………」


 抽象的なことを口漏らしたリプカの、その表情を、ティアドラは言葉の一切を瞳に飲んで、じっと見つめて観測した。

 鏡のような瞳に、少女の姿が映り込む。


「まあ、ティアドラの予想が正しいとするのなら、取るべき振舞ふるまいは二択だな」


 沈黙で場が停滞しそうになったのを見取り、ビビが口を挟んだ。


「クインのことを気にかけるつもりがあるのなら、状況が見通せない今は静観を取ったほうが良いように思う。逆に断るつもりならば、すぐにでも行動を起こしたほうがいい。そのほうが、こじれが少なく済むと思う」


 ビビの助言は的を射ているように思えた。


 リプカはしばらくじっと考えてから、一つ頷きを返した。


「そうですね。しばらくの静観――そうしようと、思います」


「ハ。甘チャン共がよぉ。――まあ俺でも静観を選ぶだろうな」


「お前言いたかっただけだろ」


「まぁいいんじゃねえの? ――これで相談事は終わりでいいか?」


「は、はい。あの、ティアドラ様、本当にありがとうございました!」


 頭を下げたリプカに、立ち上がり背を向け後ろ手を振ると、ティアドラは去っていった。


「――案外、話しやすいやつだったな。クインについての情報は奴のほうが詳しいだろうから力を借りたが、正解だったな」


「ええ、助言もくださいましたし、助かりました」


 初対面の最悪の印象を思い出しながら、リプカは頷いた。


「ビビ様も、ありがとうございました。本当に助かった」


「いいさ。――さて」


 短く礼を受け取る言葉を返すと、ビビも立ち上がった。


「そろそろ、私たちも行くか。支度したくがあるだろう」


支度したく?」


「まだ時間はあるが、もう一度ここにエレアニカ連合代表のクララが来るのだろう? 身支度を整えたほうがいいんじゃないか?」


「ああ……!」


 リプカはコクコクと頷きながら――ほおをほんのりと紅潮こうちょうさせた。


「初々《ういうい》しいな」


「か、からかわないでくださいまし……」


 二人並んで歩きながら、リプカは、友と並んで歩く今をかけがえなく思った。


 迷いは晴れていた。

 相談に乗ってもらったことを通して、道筋は確かに示された――。


(とりあえずのところ、まずは彼女の内情を知るところから始めましょう)


 恐れもない。

 未来への案じはあれ、あとは選択するしかないのだと悟り、その決心が心を晴らしたから。


 本当に良い時間を作っていただいたと、リプカは深く感謝しながら――。

 見渡して広大な空へ、まだ色彩だけが鮮やかな、のぞみたい彼方かなたの空を投影した。




 そう。

 その先に、嵐の如き()()()の空模様が迫っていることなど、知るよしもなく……。




 選び取った心。

 その決心は確かに、“静観するような悠長などなかった”という不測に目をつむれば、ベストな選択であった……。 





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