表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
令嬢リプカと六人の百合王子様。~熱愛の聖女、竜遣いの戦鬼姫、追放の無双策士にドラ●もんメカニック、太陽みたいな強ギャルに、麗しのプリンス!悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる――【魔王】のための逢瀬物語~  作者: 羽羽樹 壱理
令嬢リプカと六人の百合王子様。~悪女と蔑まれた婚約破棄から始まる逢瀬物語~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/540

それぞれの事情~フランシス~・1-2


「――と、いうような予測を、私は慮った。どうだろうか?」


「…………」


 フランシスは、僅かに沈黙したのち――。


「……貴方あなたをこの部屋に入れたことは、間違いではなかったかもね」


 それだけ、言った。


「……? どういう意味だ?」


「まさか貴方あなたに理解されるとはね。人の心が分からないものとばかり思っていたけれど」


 投げかけられた問い掛けを無視するように、フランシスは皮肉を向けた。


 ビビは首を振る。


「礼節は欠けているが、人の気持ちを推し量る心はあるつもりだ。どの口が言うんだと思われるかもしれないが」


「ほんとにね」


貴方あなたが疲れていることを知っていれば、部屋にお邪魔しようとは思わなかった。実験の音が致命的に睡眠を阻害そがいすると分かっていれば、私も寝てたよ。すまなかった」


「ふん」


 鼻から息を吐き出すと、再びごろんと、ベッドに寝転がった。


 そして仰向けの体勢のまま、彼女らしくない、少し力の籠らない声をビビに向けた。


「このことは、お姉さまには言わないで」


「どうしてだ?」


「いいから」


「――了解した。誰にも口外しないことを約束する」


 苛立ちの混じった念押しから何かを感じ取ったのか、ビビは間を置かず、物分かりのよい頷きを返した。


 しばらく部屋には、作業を再開したビビが立てる、控え目な物音だけが響いていた。


 やがて、その奇妙な静寂の中に、ぽつりと口にされた呟きが落とされた。


「姉妹というのは、仲が良いとこういうとき、大変だな。仲が良ければ良い程――尚更なおさら


「…………」


「私は、貴方たちほど仲の良い姉妹を、他に知らない」


「…………黙りなさい」


「――私は貴方あなたに個人的な頼みをしたから、借りがある。私になにかできることはあるか? 頼み事があるなら、できうる限り尽力しよう」


「…………」


 フランシス・エルゴールに個人的な借りを作る。

 そんな恐ろしい現実を自ら認めたビビに対して、フランシスは優位者の圧を向けるでもなく、視線を反らし続けた。


 ビビからは、フランシスの表情はうかがえない。フランシスは毛布を抱いて寝転がりながら沈黙している。


 ――作業音が部屋に響き続ける。


 ビビはかさず、フランシスの様子を気に掛けるでもない自然体で、返事を待っている。


「…………」


 しばらくの沈黙ののち、フランシスは――。


「……お姉さまの、力になってあげて」


 それだけ言った。


「分かった」


 ビビは明瞭な声色を返した。

 話はそれで終わった。


 再び、部屋に沈黙が訪れる。

 二人、夜更けの気だるげに、弛緩した空気を感じていた。


「……ねえ」


「うん?」


「アルファミーナ連合は、今回の戦争で面倒はなかったわけ?」


「……大変だったよ。分かってて聞いてるのか? アルファミーナ連合では意見が二つに割れた。戦争によって技術革新の飛躍が望めるという意見と、戦争によって将来、技術発展に大きな停滞が起こる、という二つの意見に」


「うわ、内部分裂しそー」


「そうでもない、徐々に戦争派の意気は消沈していった。理由は二つある。一つは戦争派の者が極端に少なかったこと。一つは、この大陸において戦争など滅多に起こり得ないという事実があったから」


「まあ、そりゃそうだ」


「先の戦争において飛躍を見せた技術が皆無だったという点も影響しているかもしれない。あくまで、元あった技術を提供していただけだった。だから戦争による技術の飛躍は、今のところはただの予想だ。――それが事実だったとしても」


「お前はどっち派なの?」


「断固、戦争参入は避けるべき派だ。そうなれば、他国への多大な技術の譲渡じょうとは避けられない。国外へ技術を渡し過ぎれば、技術権の主導が国から離れ、他国が研究に口を挟んでくる事態も起こり得るだろう。政治に巻き込まれれば、一部技術の停滞は避けられない。そんなことになれば、一部技術だけが飛躍し、それ以外はただれるぞ」


「なるほどねぇ」


「私たちはどんな何より、倫理観や政治的な理由で科学の進歩が停滞することを忌避きひする。それもあり、戦争派の意気はやがて自然消滅したよ」


「ふーん。どんな何より、ねえ。倫理法はちゃんとあるくせに」


「地獄を生み出さないための最低限はあるということだ。それにアルファミーナでは、過ぎた実験でしか結果を生み出せない者は無能とののしられるしな」


「素晴らしい美意識をお持ちですこと。あんたらも大概、奇跡みたいなバランスで成り立ってるわねぇ。現実が現実離れしている」


「まあ、もちろんクリーンなことばかりではないがな。例えば――」


「――へぇー。ああ、じゃああのときも……」


 いつの間にか、二人の間によそよそしさは消えていて。

 雑談のように、共通の話題を交わしながら――夜は更に、更けていった。


 とても疲れているから寝させろと、棘だらけの感情で愚痴っていたフランシスだったが――今ビビと会話を交わすうちに、不思議とその表情に、穏やかが表れつつあった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ