退屈な議論会・1-3
「――拝聴していたところ、三者三様、特徴のはっきりした意見でしたね」
特徴のはっきりした意見――。
視線を上げ、その表現に首を傾げた他の全員に、彼女は顔を向けた。
「アズナメルトゥ様の推察は、リプカ様とフランシス様、お二人の関係性に重きを置いた意見のように思えました」
言われて、自然に考えが向いたことであって自身でもそれに気付いていなかったのか、アズは意表を付かれた表情を浮かべた。
「リプカ様が離れていくのを嫌った、という最初の推察もそうですし、牽制という意見も、リプカ様に政治的な面倒が及ばぬように、という、フランシス様がリプカ様を思いやったという考えに基づいて導き出された推察であるように思えます」
「ま、まあ、そうカモ。――なんか、そう明確に指摘されるとハズいなっ! なんだコレ!」
頬を赤らめ、手でぱたぱたと顔を仰ぐアズに、セラは苦笑と笑顔の中間のような、柔らかな笑みを向けた。
その笑みを真正面から受け止めたアズは、苦笑を返しながら、僅かに頬の赤みを鮮明にさせた。
「――そしてビビ様の意見は、非常に端的なもので、まず真っ先に浮き彫りにさせるべき要点を述べた推察でした。議題の基礎を築いた意見であり、これは様々出た意見の中で、確実に正答を捉えている唯一と言えるでしょう」
「まあ、『空は青い』みたいな意見だけれどな」
ビビは素っ気なくそう返した。
「またティアドラ様の推察は、『試練』に重きを置いた意見でした。間接的な戦いを推測する――戦鬼の国の代表者らしい意見だとお見受けします」
「…………」
ティアドラは無言を返した後。
「お前の意見はよ?」
もう一度セラを顎でしゃくり、催促した。
「私は――」
セラはそっと視線を下げると、ぽつりと、それを言葉にした。
「『排除』だと思う」
その、不穏が含まれた推察を。
ティアドラが首を傾げる。
「排除? それはお前が『試練』と言い表した俺の推察と、どう違うんだよ」
「その二つはまったく異なります。同時に私の推察は、お三方の意見の、全ての要素を含んでいる」
「どういう意味だ?」
ビビの問い掛けに、セラは一つ間をおいてから、続きを語った。
「この中に――明らかに婚約者に相応しくない者がいる。その者を自らの意思による辞退という形で、排斥したかったのだと考えます」
「ああ、俺か」「それ、私のことカナ……?」「ああ、私か?」
三人が同時に心当たりを口にして――ティアドラが苦笑を浮かべた。
「全員その自覚があんのかよ。んだそりゃ」
「ア、アハハ……。ほら私、勘違いから遣わされたヒトだから……」
「なにせ、アルファミーナ連合の代表だからな」
三人の自覚の吐露をじっと見つめてから――セラは静かに、瞳を閉じた。
「排斥。それは見極めの要素も含み、そして……フランシス様の、リプカ様に対する思いやりの表れでもある。…………」
「ん? ――ああ、なるほどな」
ティアドラは何かに気付いたのか、独特な笑みを表情に浮かべた。
「排斥の推測におけるその対象は――お前か」
「…………」
ティアドラの指摘に、セラは言葉を返さず、瞳を瞑り続けた。
「そんな、お兄様……!」
ミスティアは顔を青くした。
その中、リプカはおずおずと、抱いた疑問を問うた。
「セラ様……あの、なぜ、ご自身が排斥を仕向けられているとお考えになったのですか……?」
その問い掛けに、一拍だけ無言を挟んで――セラは低い声色で答えた。
「……アリアメル連合の代表である私と、もし結ばれることがあれば――リプカ様に大変な苦労を背負わせることになる」
セラの答えを聞くと、誰よりも先にミスティアは、何かを主張しようと口を開いたが――結局彼女はその音を飲み込み、俯いて歯を食い縛った……。
瞼を開き、現れたセラの瞳は――光彩が失せたかのように暗かった。
「アリアメル連合の王子と結ばれれば――窮屈な女性らしさを求められる。他の国々の常識から見れば隷属と変わらぬような、狂気じみた信仰を。リプカ様のような、その人そのものが素敵であられるお方にとっては、監獄と変わらぬ環境であるかもしれない。――フランシス様が、クイン様をオルエヴィア連合に戻そうと働きかけたのは何故か? お屋敷に置くリスクという観点もあるでしょうが、それなら最初から、彼女をお屋敷には招き入れなかったはず。他に得となる事情は見えない。――クイン様は、この晩餐会のためだけに、ここに置かれていたのでは?」
暗い瞳でどこかを見つめながら、セラは言った。
「瓦解したオルエヴィア連合の代表を、無理を通してでも帰そうとしたこと、それをこの食卓の場でアピールすることで――この縁談、リプカ様を幸せにできない者は必要無しと、そう主張されたのでは?」
浅く、息を吐いて。
「私は、そう強く感じた……」
そして、話を締めくくった。
――隣で、青褪めながら俯くミスティア。無言に包まれる場。
リプカは衝撃を受けて固まっていた。コンプレックスを覗いてしまったような、罪悪感に似た気まずさがあった。
私も、性別の上では女性なのです。
言って、己の胸に手を当てさせたときの、セラの諦観に似た微笑みを思い出す――。
「…………」
沈黙が破られる気配は無いように思える。どうにかしなくてはいけないのだが、どうしていいのか分からず、リプカは俯きながら、発するべき言葉を探していたのだが――。
「――――ぷっ、ハッハッハッハ」
哄笑が、食卓に響いた。
リプカが頭を悩ましている間に、それが場の沈黙を破る契機になった。




