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「貴方の魔王を呼び覚ますために六人の王子が集まった。
六人の王子は貴方に、必要不可欠であるそれぞれを手渡すであろう。
貴方はそれを、各々の王子と向かい合ったそのときに受け取る。
第一王子は愛を。
第二王子は芯を。
第三王子は姿を。
第四王子は知を。
第六王子は機を。
第五王子はそれら少しずつの全てと、自信を――それぞれ、貴方に与え渡す――」
これが何の物語かと言えば、一人の少女がその運命を歩む物語であるのでしょう。
それにあたって婚約者候補として選出された六人の王子が事に深く関わってくるのですが、その本筋が恋愛騒動であったかと言われれば、それは首を傾げてしまうところ。だって、少なくとも、王子たちの六人中二人は、確実に恋愛感情とは無縁のところにいたのだから。婚約者候補なのに。
様々を経て、後々《あとあと》事情が変わってくることはあっても、それは恋愛感情からは遠い位置で感情を交わした、互いを想う繋がりであるということも、きっとある。
だから、この物語のあらましをより掘り下げて表すのなら、少女が婚約者候補の王子六人と親密に関わり、然るべき機会を通じて一人一人のその人と向かい合いながら、その度に、運命の道を拓いていく……そんな物語なのでしょう。恋愛騒動というより、ヒューマンドラマと言ったほうがよいかもしれません。その先にあるのが、どんなに残酷な結末であっても良いように――あえて、言うなら。
不穏を感じる必要は全くなく、言ってしまえば、それはドタバタコメディです。
ただ、多くの人と向き合い、その度に進んでいく物語である以上、その結末で少女が選び取る選択が、数多に分岐することは避けられない。それは誰かにとっての残酷かもしれないというお話。
あるいは残酷など無いのかもしれない。そんな可能性だって、あり得る。
歩んだ先で鏡を見た少女が、なにを選ぶのか。
それは、この道筋におけるUnknown。
一人一人と向き合い、その度に得た彩りで、世界が開かれる、そんなお話。――と、その前に。
まずはプロローグから。何事にも始まりがあり、互いのことをあまり知り得ない、手探りのような関係から物語は始まります。
事の発端は、落ちこぼれの姉の、神速の婚約破棄。
そして、帝王であることを宿命付けられた妹の躍動、その二つ。
運命開演のブザーは必要以上の音圧で非常に音喧しく、大陸中に鳴り響くことになるでしょう。
――そういえば、一つ。
婚約者候補である六人の王子は、全員、同性の女性です。
全ての事には意味がある。
とはいえ、彼女たちが集まったその事こそが意味であり、結果でした。
だからそこにはメッセージ性もないし、言ってしまえば「だからどうということもない」事なのですが――、一応のこと、それを明記しておきます。
ただ、この場合の、「だからどうということもない」という一声。
もしその文面に、反感や違和感、否定の意見を抱いた方がいれば、ぜひ少女の歩む道を、共に辿ってみてほしい。
きっと、それがどれだけ信じるに易い関係であるかを知れるから。