番外 とある後輩の話
本編には出てこないイルの後輩の話です
R2.12.4 蛇足追加しました
あ、イルさんチーっス。
お元気そうで何よりっす。
今日は、…その、いらっしゃらないんすか。ヒメさん。あ、そっす、俺らの中では「ヒメさん」なんで! 理由とかは気にしない方向でひとつ! さすがイルさん心が広いっす!
で? 今日はいない。そうっすか! よかった! いや、なんでもないっす。
あのヒメさんとつきあえるイルさんマジリスペクトっす。
つきあってない?
照れなくていいんすよ、俺らわかってますから! 死んでも邪魔しません。つか、邪魔したら今度こそ死ぬし。
あ、さーせん、余計なこといったっす。
気になる?
えー。
話していいんすかね、これ。ササメさんに確認もらっていいすか。ササメさんのプライドに係わる話なんで。
あざっす!
――あ、ササメさん。すんません、突然で。ええ、それとは別件っす。そっちはまだ様子見で。ハイ。実は、台風あった時の話って、しゃべっても大丈夫っすかね? それっす。イルさんっす。あ、いいんすか。さすがササメさん。へー。意外と隠さないんすね、ヒメさん。あ、イルさんが大物なのか……ハイ。ハイ、あざっす!
お待たせっした。
えーと、俺、順序立てんの苦手なんで思いつくまましゃべるんで。
イルさんが高3の時、でかい台風きたの覚えてますか。
あ、それそれ。
あの事件の裏側? みたいなもんっす。
あん時のイルさん、ヒメさんがそばにいるの、すっげーうざがってたじゃないすか。
俺らん中じゃ、イルさんとササメさんはマジ最強つーか、いくら美人でもあんなわけのわかんねー女につきまとわれんのは納得いかねっつーか。
すんません、特攻しました!
はやっ!! もう結末わかったんすか、すげーなイルさん!?
えー、そういわずに聞いてくださいよー!
も、すごかったんすよ? やばいってもんじゃねっす。
一応俺ら、最低限は頭使ってプランニングしたんすよ。
人目がありそうで、でも誰もこねー場所とか、台風の日も意図的に選びました。外出制限がかかる天候じゃないっすか、間違っても目撃者なんかでねーし、下手な善人が助けに来ない、これが重要だったんす。最悪のチョイス? はは…今ならわかるんすけど、あん時は誰一人知らねーつーか。
もちろん、「イルさんの前から消えろ」なーんていってねーんすよ? 具体的にペラペラしゃべって脅すやつはバカだと思ってるんで。
俺らが囲んでイルさんのことを尊敬してるっていや、女はびびって消えるじゃないすか、フツー……そっすね! ヒメさんはフツーじゃねーってあん時の俺らに教えてほしかったっす! しかもヒメさん、イルさんの後輩つったら無抵抗でホイホイついてきちゃうし! うっわ頭悪ィ女、なーんて思った過去の自分を殴りたいっす…。
ヒメさん、あん時に何したかってーと、横を向いただけっした。
目ざとい連中は、まあ、俺もですけど、警戒して同じ方向を見たんすよ。
やべえ音がして突風がきました。
目を閉じるしかないやつが。
次の瞬間、しゃれにならねー量の鉄材に殴り倒されました。や、文字通りの意味っす。
なんだっけ、確か、ロープに飛んできた重めの布がからんだとかバランスがくずれたとか。とにかく、そこで3人やられて、離れてた3人が近づこうとしたら、向かいの車道からぶっとんできた立て看が直撃して流血して、素材軽いのかわして逃げた2人は、逃げた先にトラックが突っ込んで押し倒されたブロック塀につぶされて。ハイ、これで全員動けなくなりました。
俺鈍感なんで、わりと怖いもの知らずだったんすけど、あん時は、心底ブルってました。
一部始終、見えてましたから。
イルさん、何が怖かったかわかります?
俺たち、誰も死んでないんすよ。全員、気を失えずに助けがくるまでひたすらうめいてたんす。
――地獄でした。
全員、腕、あるいは足、あるいは首以外全身、でかい怪我で動かなくなってて、恐怖にまみれて、激痛で死にそうになりながら、でも、誰も気を失えないんすよ。ヒメさんが、みてましたから。
神様にぜんぶみられてる――はは、笑っていっすよ。薬キメたバカの戯言みたいっしょ、でも、マジな意見っす。
気がついたらササメさんが立ってました。後で聞いたら、俺らがなんかやらかしてんの気づいて来てくれたんす。
で、ササメさん、ヒメさんに何か短くいって、頭を下げてました。俺らがバカなせいで、ササメさんが頭を下げたんす。死ぬほど屈辱でした。なんで、以後一切、ヒメさんには悪さしてないっす。ササメさんの顔に泥塗るわけにはいかねーし、命も惜しいんで。
でも、正直一番の理由はアレっす。
また、あの神様みたいな目でみられると思うと、ぞっとしますから。
いやあ、ホント、ヒメさんが隣にいても平然としてるイルさんかっけーっす!
閲覧、ブクマ、評価などありがとうございました。
また番外編等で見に来ていただければ嬉しいです。
以下、ホラー感ゼロな蛇足です。
実際にあった怖い話をする。
高3の時。部屋に帰ると、幼馴染が体育座りで落ち込んでいた。
完。
といったら悪友どもに怒られた。いや、十分ホラーじゃね?
「なんで、俺の部屋なのにお前がいるんだ」
「? おじさんにここで待っているよういわれた」
ぐっ、それは全面的にあのおっさんが悪い。だがしかし。
抵抗なく俺の部屋で待つなよ! あの人も部屋に勝手に入れるなよ!!
思春期なんか知ったこっちゃねーが人権は主張したい派である。あと心のセーフハウスが欲しい。
「イル、タバコくさい」
「うるせー、ほっとけ!」
「体に悪い」
「知ってて吸ってんだからいいだろ…」
「イル。吸殻をどこに捨てたの? 無断廃棄は環境にも悪い。社会的にも害悪だ」
「………」
俺の部屋なのに余計疲れるってどんな罠だ。
「お前なにしにきた? 早く用件をいえ。そして帰れ」
「用…は、……たぶん、ない」
「はあああァ? はったおすぞ、てめー」
「用はない。…イルの後輩は、私のことをニャルラトホテプかなにかだと思ってる。ちょっと、傷つく…」
「お、お前、傷つくような神経あったのか…!」
そっちにびっくりした。てっきり鋼鉄の心臓かなんかだと。
無言で体育座りを続行するヒイロ。家猫のストライキに似てる。
「ほー、つまり落ち込みにきたのか。そーかそーか、てめえのうちでやれ」
「祖父母は心配する。イルはしない」
「……クソ」
確かに俺はヒイロが落ち込んだくらいで心配などしない。
逆に、遺伝子の突然変異で至極まっとうなヒイロのじーちゃんばーちゃんは、普通に孫を心配するだろう。
うわァ。めんどくせーが、その考え方は解る。でもって、解るのがなんかすげェ嫌だ…。
「なんだっけ、ニャールトホイップ? 結局なんだそれ。女の好きなケーキか? お前、あいつらにスイーツ女だと思われてんの?」
「……………内緒」
ヒイロは茶を一杯飲んでさくっと帰った。
何しに来たのか謎すぎる。
ん? つまりホラーじゃなくてミステリーかこれ?
(幼馴染が笑顔になる理由は一生理解できそうにない彼の話)