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7弾き目.無双の一歩目

二話連続投稿の二話目です。

明日も同様です。

 魔法。それはある種の奇跡だ。だが、目に見えるものだけが魔法ではない。

 それはゲームやアニメを通して知っている筈だったのに、目に見えるでかい魔法ばかりが強いと錯覚していた。


 俺は身体中に走らせていた魔力を右手に集中させる。魔力は体に漲らせているだけで身体能力が向上する。

 あの国いた頃はそれすら教えて貰ってはいないから、本当にあの国から見限られていたんだなと思う。そして俺は少しずつ、魔力を右手に集中させる。


 勿論この間も、カエルからの攻撃は俺を狙って降り注ぐ。

 魔力感知の技能、魔力を視覚する能力。魔力眼とでも言おうか。それのお陰で、先出しで避けられてはいるが魔力を操作してまだ日も浅い。


 なので溜まるまでかなり時間がかかる。


「ゲェェェェェェェコォォォォ」

「こっちの世界でも! その鳴き声かよ! あぶねっ! 」


 カエルの吐き出した緑色の溶解液。壁を利用しながら避けたが、全てを溶かすそれの飛沫が俺の服にかかる。

 ああ、めっちゃ溶けてる!


 細長い、緑色のぬめりとした触手の攻撃を避け、地面が抉れた破片を足場として使い、俺はカエルに近づいた。


 右手は熱く、魔力が集まりきったことを俺に教えてくれている。縮地と空中歩行を使い、カエルの弱点、喉の奥に狙いをつけた。


 俺の頭の中には、幼い頃に動画で見た音によってワイングラスを破壊する映像が思い浮かぶ。魔法なんてとんでもない奇跡が存在するこの世界。そして俺は、音を司る職業。外からではなく、内側から敵を殺すことが出来る唯一の活路を見出す。


 不思議と言葉がスラスラと流れるように俺の口から飛び出す。元から知っていたような、何年も言い馴染んだそんな言葉が―。


「汝を滅する力―


  世界に蔓延る音―


 その音を―


  その身に受けろ! 」


 カエルも今まで当たらなかった分の鬱憤を晴らす様に大きな口をあけ、咆哮の準備をする。だが、遅いぞノロマ。俺は目をそらさず、最後の言葉を吐き棄てた。


穿つ音の破壊(ソニード)! 」


 集めた魔力も、今までの修行も、辛い思い出も、全部込め右手の指を思いっきり弾く。


 確実に殺す一手。それだけを考えはなった文字通り懇親の一撃。鼓膜が破れたんじゃないかというぐらいの強い衝撃が俺の体を突き抜け、空間に木霊する俺の指から放たれた小気味の良い爆発音。その衝撃に耐え切れず、俺は壁に体を叩きつけられてしまう。


「がはぁ......」


 壁にめり込むようにぶち当たり、肺に残っていた空気が全て流れ出たような感覚に陥る。瞳が涙で潤いすぎてカエルが上手く見えない。まずい、倒しきれていなかったら、次は俺が殺される番だ。

 すぐさま体勢を立て直し、眼前に立つ肉塊に向けて次の一手を―。


 え、()()


 俺の前には巨大な緑色の皮膚をもち、油でヌメヌメした気持ちの悪い巨大なカエルではなく、体が半ばから破裂したような肉塊がぴくぴくとその神経を動かしている。

 俺の鼻に着く血液の匂い。そのあまりの濃さに意識が吹き飛びそうになる。下半身が支えるようにその肉塊を支えており、その塊から伸びる血管が妙に、俺に現実を見させる。

 俺が、殺し―。


「よくやった、我が弟子。」


 拍手をしながら、俺に近づく師匠。事実を認識する、現実を受け入れる前にやけに明るい師匠が現れる。


「ここまでやるとはおもわなかったよ。我が弟子。」


 胡座をかいて座っている俺に、師匠は膝を着いて頭を抱き寄せてくれた。まるで疲れた幼子を抱きしめるように、軽く頭を撫でてくれる。そんな恥ずかしい事をされているのにもかかわらず、俺は静かに泣いていた。震える肩を、震える手を、師匠は俺を抱きしめてくれた。


 初めての死を与えた経験。それを慰められる事が恥ずかしくて、でもそれが心地よくて、そんな情けない俺を、俺は感じて涙が止まらなかった。


 しばらくの間、そのまま師匠に甘えた後俺は開放された。からかわれるかとも思ったが、師匠はただ俺の横に座り、たわいもない話をする。ダメだな。かなり甘えてしまったが、これは俺が切り出す他ない。


 師匠の会話が終わるタイミングを見計らい俺は聞いた。


「師匠、俺の今の戦闘......」

「ああ、私の想像をはるかに超えたものだ。まぁやってもらいたいことはあるが、ひとまず君は手の治療を専念するといい」


 そういわれてようやく俺は気づいた。自分の右手の異変に。


「あ、痛ったあああああああああ」


 ぐちゃぐちゃにへし曲げられた俺の指達。辛うじて付いている物も見られるぐらいにはボロボロだ。戦闘後のアドレナリンなんやらで、ここまで意識が回っていなかったんだろう。俺の右手を激痛が走っている。超痛てぇ。


 慌てふためく俺の姿を師匠は笑いながら眺めていた。先程の優しい姿はどこへやら。


「あれ程の格上の存在を一撃で屠ったんだ。それぐらいの代償で済んで良かったじゃないか」


 手のひらをくるくると回しながら、話す師匠。確かに相手のレベルは500オーバーだ。ゲームでいえばとんでもないチートでも使わん限り、倒せないレベルの差。


 確かに右手の損傷で済むならそれにこしたことは、痛たたたた。理屈でわかっても痛みには抗えない。とりあえず師匠に助けを求めるとしよう。


「師匠―。」

「答えはノーだ、我が弟子。自分で治したまえ」


 この師匠は心をよむ魔法でも使っているのだろうか?あるなら後で教えてもらおう。


「我が弟子自己治癒に必要な物は。」

「魔力です。」

「そうだ。だが、今の君は魔力が殆ど無い。魔力の回復手段は?」

「自然に周りのマナが集まってきます。」

「正解だ。失った魔力は時間が経てば勝手に魔力が溜まるようにできている。それこそ空の瓶に注がれるようにね」


 ここまでの話は国でもしたし、ここに来てからも師匠とメイドのサリアさんのおかげで得られた。

 新陳代謝が上がれば上がるほど、魔力は吸収されていく。若者は回復しやすく、年配の人とかは回復が遅いように、でも今更そんな当たり前のことを師匠はなんで俺に質問してくるのだろう。


「そして君には様々な追加技能の中で魔力吸収というものがある。これは純粋に周りの魔力を吸収していくという代物だ」


 師匠の説明を受けて俺はそれかなりのチート級じゃないか?なんて思う。魔力吸収し放題で、魔法連発し放題って、とんでもないな魔物。

 よくこれで人間側は魔物と戦ってたな。


 俺は目を閉じて集中する。周りの魔力を感じながら、自分の体の中の魔力も薄く感じる。空になった瓶とはよく言ったものだ。わかりやすい。さすが可愛い、賢い、師匠ーチカだ。


「魔力吸収」


 その言葉を放った途端、急に魔力の流れが代わった。周りに漂い、たまに俺の体に入っていた魔力が、急に俺に集まりだした。魔力で体が満たされていく感覚。若干気持ちいいかもしれない。


 それと同時に、右手に魔力が集まって、自動的にボロボロの指を修復し始める。ひしゃげた指が真っ直ぐになり、粉砕されていた骨が元通りになる。皮1枚と言った具合の指もちゃんとくっ付いてくれたみたいでなんともまぁありがたい。


 その後、失った魔力もついでに回復する為に暫くそのままでいた。まぁこんなんでいいだろ。体も万全、魔力も満ちてるし、完全回復と言っても。


 俺はゆっくりと目を開け、師匠の方にぃぃぃ、あれぇ?


 急に世界が回り初め、自分が座っていることすらわからず、地面に体が伸びてしまう。立とうとするが、目眩が酷すぎて俺が今どこにいるのかもわからない。なんだこれぇぇ?


「魔力酔いだよ、我が弟子。魔力を急に吸収するとそうなる。まぁ時間が経てば治るさ」


 そんな師匠の言葉も何度も俺の頭の中で、反響して気持ちが悪くなって吐いてしまう。俺この世界に来て何回吐いてるんだろ。

 そんな様子を見ながら笑っている師匠の声と背中を摩ってくれる感覚に俺は身を委ねるしかできなかつた。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 俺は今、師匠の部屋に、師匠と共にいる。ここの生活も一ヶ月ほど経過しているが、初めての出来事だ。


 淡い橙の光が優しく部屋を照らしているアンティークを基調とした部屋。

 俺がいつも修行する場所とはかけ離れている印象を受けるほど、この部屋は落ち着いている。年季を感じる古時計の音が、心地よくこの部屋に反響する。渋い色のソファーや綺麗な紋様の絨毯。そんな部屋で、白のベッドの上で俺は子猫のように縮こまっていた。


「どうした我が弟子? 嫌に静かではないかぁ?」


 分かってて言っているからタチが悪い。絶対に悪戯な笑みを浮かべながら、俺の反応を伺っている。俺がここまでオドオドするのには勿論それだけの理由がある。

 可愛い可愛いそりゃ可愛い俺の師匠と部屋に二人きりと言うだけで心臓が口から家出しそうなんだが、その師匠のかっ、格好が...!


「ほれほれ、どうした我が弟子。もっと私のネグリジェを見てくれないと、客感的な感想が聞けないではないか?」


 淡い色のネグリジェをこれでもかと見せつけながら、師匠は俺の反応を存分に楽しんでいる。


「と、とても素敵です。」

「手で前を隠されて言われてもね。まぁいいだろう。ここに来て貰ったのは、君をからかう事もそうだが」

「それも目的なんですね」

「当たり前だろう。まぁそれと、君のギルドカードの変化について、それと、うん。私の話でも少ししようかと思ってね。」


 アンティークのランプに照らされる師匠の横顔があまりにも儚くて、綺麗で、ずっと見つめていたいと思った。すぐに師匠と目が合って、二人で少し笑いあってから俺たちは俺のギルドカードを見ることにした。





ネグリジェを検索しましたが、よく分からなかったです。

ネグリジェのイントネーションが好き。

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